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30話

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『タイムリープはしないからな! バカリクが! 今回はお勉強じゃ!』
『大丈夫。自分でいた種だ』
『ほう。言うようになったのう』

 少し調子に乗り過ぎた。周りを見る。当たり前の事が出来ていなかったんだ。

 さて、どうするか。パパさんに、いやお父さんに謝るしかない……だろう。

 
「ごめんね。ちほちゃん。でもそういうのはまだ早いんじゃないかなぁ」
「パパには関係ないでしょ。何も言わないって約束したじゃん!」
「で、でもねぇ……」
「嘘つき!!」
「とりあえずシートベルトをしよっか……」

 よく見たらお父さんの服装、可愛らしいクマのTシャツじゃないか! 見た目に反して優しいパッパなのかな。意外と気は小さそうだし。なんだよ。ビビって損したな。

「あの、お父さん!」
「おい、小僧。死にてぇのか? 誰がお父さんじゃ?」
「ごめんなさい……。すみません……」
 忘れてた。小僧と言われドヤされたじゃないか……。何やってんだよ俺……。


『ぶふぉ! うける』



「パパ!! だめでしょ?」
「あ、ごめんねぇちほちゃん」

 娘に甘いだけか。なんだよこのテンプレ……これから俺はどうなってしまうんだ。あっ、シートベルト!

「ちほ、シートベルトしないと。離れようか」
「やだ。やだやだ! 離れたくない!」
 あー、もう可愛いな。でもダメだ。

「おい、小僧? うちの娘とシートベルトどっちが大切なんじゃ? 舐めてっとシバくぞ?」
 もの凄い形相。これはガチのやつだ。ガーゴイルなんかじゃない。魔王サタンだ……。

「もちろんちほさんです!」
「そうか。ならええんじゃ」

 なんなのこれ……。ほんと、どうなっちゃってるの……。

「おい、小僧。早くシートベルトしろや」
 もう意味わかんない……。俺は静かにうなずいた。


「あー、もうパパ無理。りっくんにそういう態度取るなら、二度と口聞かないから」
「違うんだよちほちゃん。俺と八ノ瀬やのせ君は男同士だから。冗談みたいなもんさ。なっ八ノ瀬くん?」
 こちらを見てくる。顔は笑っているが目は笑ってない。

 目の圧力。NOと言ったら確実に死ぬ。

「はい。わかってます!」

「そうなの? りっくん?」
 ちほはきょとんとした様子で聞いてくる。

 違うに決まってるだろ……。でもお父さんからの圧力が……。

「そうだよ。男同士だからね」
「へ~」
 半信半疑のご様子だ。俺とお父さんを交互に見て、うんうんと、何故かうなずく。

「良かったぁ! 仲良しって事だね!!」

 なんでそーなるの!? いや、でも可愛いよ。ちほがそう思ったのならそれが正解だ。異論はない。



 苦難を乗り越え、無事にシートベルトを着用し、車は発信した。

 何処に向かっているのだろうか。一瞬だけ会えれば良いと言ってた気がするのだが……。勘違いだったかな。


「りっくん♡」
 笑顔で手を伸ばしてくる。手を握ろうという事だろうか。

「えへへ~♡」
 
 後部座席に座り、互いに手を伸ばし握り合う。ギュッギュッとしては笑うちほ。俺もギュッギュッとやり返す。
 二度目ともなればお手の物だ。



 ──うつ伏せに寝転がり頬をつき、俺とちほが握り合う手を妖精さんが眺めていた。少し不安そうに。

『大丈夫だよ。わかってるから』
『ならええ』


 ──今はちほと居たい。ただ、それだけなんだ。
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