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42話
しおりを挟む矛盾を抱えたまま、この場にいる。
今の、今まで気が付かなかった。
水面を反射し幻想的に映し出される夜景が、俺を嘲笑っているように見えてくる。
同じ景色なのに、さっきまでとは全く違う。
俺は彼女に嘘をつきすぎている。
嘘から始まったのだから当然だ。
絶対に言えない事が多過ぎる。
好きだと自覚してからはあえて、気にしないようにしてた。
その事を忘れていた。救いようのない阿呆だ。
〝腹を割って話す〟事など、出来るわけがないんだ。
『リク、あまり考え込むな。情報収集が目的じゃ。もっと気楽にいこう!』
…………。
目を背けてきた事へと導いてくれる。
妖精さん、君はどこまで見えているんだ?
カチッ。お父さんがタバコに火をつけた。その姿はどこか寂しげだ。
「リクくん。君はいつ娘を好きになった?」
俺は目を逸らしてしまった。唐突に放たれたその言葉はあまりにも重すぎる。
「悪かったね。少し順を追って話そうか」
うなずく事も出来ない。ただ、下を向いていた。
『バカリクが。タイムリープし放題だと言ったじゃろ? 何を馬鹿真面目になっとるんじゃ』
ごもっともだ。この場をセッティングする為にタイムリープをしまくった。でも、今は違う。
一人の男として、腹を割って話をするこの人に嘘はつきたくない。
──そんな事は無理だと、わかっているのに。
「リクくんの事は去年の夏くらいかなぁ、だいぶ前から知っているんだよ」
俺はまたしても言葉を失った。
妖精さんはふむふむと言った様子だ。
〝答え合わせ〟
妖精さんはどこまで読んでいるのだろう。一人、驚く俺がとても空虚に思えてしかたがない。
「職業柄と言うか、そういう性分でね。君の家庭の事情も知っている。勝手に調べた事を、許してくれ」
もはや、話がぶっ飛び過ぎてて意味がわからない。
『こんな時間まで連れ回して、親への連絡は? の一言も無かったからのう。予想の範疇じゃぞ』
驚く俺を見かねてか、妖精さんは余裕を見せてくれた。
しかし、俺は言葉が思い浮かばない。
無言のまま話は進む。俺を取り残し、話は続く。
「正直、どこまで話していいのかは決めかねている。腹を割るとは言ったが、娘が知られたくない事もあるだろうからね」
『ばっかもーーん! 全部話してしまえ!! ほれほれ!!』
ハイテンションで俺を元気づけようとしてくれているのだろうか。妖精さんありがとう……。
──俺は下を向いたまま。さらに話は続いた。
「妻を通して聞いてるだけだからね。誤解があるかもしれない。しかし、男だからわかるんだよ。リクくん、君は他に好きな人がいるね? いや〝いた〟かな。今日の君を見る限り、娘を本気で好きなのはわかったからね」
ここで俺はようやく顔を上げた。今なんて言った? 驚きを隠す余裕など無かった。
そんな俺を見たからか、お父さんは二本目のタバコに火をつけた。チェーンスモーク。
火が付いた事を確認すると一本目のタバコを携帯灰皿に収めた。その手は少し震えていた。
『……。二見ちゃんはリクが秋月ちゃんを好きな事、知っているかもしれん。やばいのう』
──あぁ。そういう事か。繋がった。昼間の違和感。
俺は今すぐにでもちほに会いたいと思った。きっと不安だったに違いない。不安を解消させてあげたい。
しかし、簡単な事ではない。
秋月さんの事も好きだ。嘘をつく以外の選択肢が思い浮かばない。
俺はこれから先、いくつ嘘を重ねるのだろうか。
──自分がいかにクズな人間か、思い知った。
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