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57話
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ついに終わった。エントリーシートを郵送した訳でもなければ、電話すらかけていない。普通に客として訪れ、夕飯と洒落込んでいただけだ。
なのに、次回から研修がスタートする。俺はもうこの店のクルーなのだ。
色々あったけど、バイトが決まるって嬉しいな。高待遇だし!
「あと15分か」と唐突に独り言をこぼす店長。
「悪いんだが、帰るのは少し待ってくれ」
「構いませんが、何かあるのでしょうか?」
「まぁな。適当にくつろいでていいから」
そう言い残し店長は部屋を後にした。
ガチャンッ!
と、思ったらすぐに戻って来た。
「気が利かなくて申し訳ない」
何故か笑顔で謝る店長。「はいこれ」と続け、小さなおもちゃのような鍵を渡された。
「あの、これは?」
ニコッと笑いロッカーを指差した。唖然とする俺にそれ以上、声を掛ける事はなく店長さんは部屋から出て行った。
乙女のロッカーの鍵か。
まったく……この人は……。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ガチャンッ
店長が戻って来た。手にはSサイズのジュースを持っている。
「悪いね。仮にも仕事中だからずっと一緒には居られないんだよ」
何故か隣に座り、ジュースを俺の前に置く。今度はカップルプレイですか? ネタが尽きない人だな。
「喉乾いただろう? 遠慮はいらんぞ」
でも、なんだかんだいい人だよなぁ。
頭を下げいただきますとジュースを飲んだ。オレンジジュースだぁー!
「わたしの飲みかけで悪いね」
「ぶっふぉっ」
驚きのあまり吹き出してしまった。
「あーあー。君らしくもない。嘘だと言うのに」
こ、この野郎……。
店長は立ち上がりロッカーからタオルを持ってきた。
あれ、俺が持ってる鍵はスペアなのかな?
「君なら目の色一つ変えないかと思ったんだが」
吹き出してしまったジュースをぽんぽんぽんと拭いてくれた。……やっぱり良い人なんだよなぁ。
「あの、この鍵は返します」
「ん? 君のロッカーの鍵だぞ? 無くさないようにな」
「君の?」
「そう。いちごちゃんのロッカー。場所は後で教えるから」
店長は当たり前のように答えた。
ロッカーの鍵と言う意味を込めて、この部屋のロッカーを指差したのだろう。
そんな馬鹿な。絶対わざとやっただろ?!
…………。
「まさかとは思うが、わたしのロッカーの鍵を渡されたとでも思ったのか?」
「いえ、思ってません」
「なぁんだ。つまらん」
はい。わざとでした。
この店で上手くやっていけるか不安になってきたよ……。
◆◇◆◇◆◇◆◇
トントンッ。ガチャンッ。
「お疲れ様でーす。言われた通り来ましたよーー」
「お疲れー最側! まぁ、そこに座りなさい」
店長は立ち上がり、前のソファーに座るよう指示をした。
と言うか、さいかわ? どっかで聞いた事あるな。
「なんですかぁ? いちゃいちゃしてた感じですかぁ?」
「それは秘密。なっ、いちごちゃん?」
店長やめてっ、誤解を招くような言い方しないで!! ……でも、確かに言えるような事ではない。
「えっ、いちごちゃん?! うっわ。先輩だったとは」
全力の蔑んだ目、いただきました。
でも思い出した。このムカつく声、口調。おまえかぁぁ!!
何故か、最側が俺の下半身を見つめている。なに?
「これってぇ、事案発生してるじゃないですかぁ……」
あ、ズボン濡れてる。さっきジュース零したんだ。
待て、そんな蔑んだ目で俺をみるな。最側これは誤解なんだ。
どうしよう、やばいかも。
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