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80話

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 うつ伏せで枕にうずくまりチラッ、チラッ。

 最側から視線を感じる。少しぷっくりしていて不機嫌を纏っている。

 食わないのかと言っているようだ。

 このまま食べなければ、食べかけだから汚いと誤解される。
 かと言って食べれば間接キス。

 そのことを言えば意識してると思われる。

 選択肢はあってないようなもの。ルートは一つ。
 導かれるように一つしかない。

 妖精さんの言うことが正しい。


 ──もうどうにでもなれ!

 パクッ。もぐもぐ。
 味なんかわからない。わかるわけがない……最側の、味?

 ば、バカヤロウ!! 意識するな。落ち着くんだ。


 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ。

 じーーーー。
 最側から視線を感じる。あっ、目があった。
 ニコッと笑いシュタッ! ベッドから起き上がった。

 そして、スッとティーカップを寄せてきた。なにこれ?

「アップルティーも少し残ってますよー!」
「ぶはっっ」

 やばい噎せた。「がはっごほっ」

「わーわー!! どうしたんですか先輩?!」

 どうしたんですかじゃないだろ!! おまえの飲みかけの紅茶を飲めと? これ以上追い詰めないでくれ!!

 もう限界だ。プランは破棄。なるようになれ!!


「なぁ、最側。これもそれもお前の食べかけで飲みかけなんだよ。わかってるのか?」
「あーー! やっぱり汚いって事ですかー?!」

「んなわけねーだろ。だってほら、間接……キスだろこれ」

 数秒キョトンとしたかと思えば次第に頬が赤くなり……あれ、最側?

「あー、あ……やっぱりわたしが食べます返してくださいっ」
「いや、それはもう俺の食べかけだからな」
「あっ、じゃあやっぱり先輩が!」

 俺が食べたら振り出しだろうが……最側、落ち着け!

「いや、元はおまえの食べかけだから……」
「あっ、なら、わたし……あああーもう!」

 まずいな……収拾がつかない。
 やってしまった……。感情を抑えられなかった。

 アップルティーの甘い罠に……うんそうだ。これはアップルティーが悪い。全部アップルティーのせいだ!!

 …………。

『妖精さん、戻ろう』
『結果オーライじゃ! むしろ良い方向にことが進んだ。続行じゃ!!』

 妖精さんはノリノリだ。

 今のこの状況は良いのか。まったくわからない。
 


「うーー! わかってて食べちゃうとか……せんぱいは卑猥です!」

 プイッとそっぽ向いちゃったけど、怒ってるわけではなさそう。

「仕方なくだ。仕方なく食べたんだよ。お前の食べかけを汚いと思ってるとか……誤解されたままは嫌だからな。バイト仲間だし」

「やっぱり先輩はズルいです。バイト仲間って言って誤魔化すなんて」


 おいおいおいおいおい!!!!
 それをお前が言うのかよ!!!

 ──バイト仲間ってなんなんですか?! ほんとに!!

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