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転校生
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その女子は厳しい顔つきで、上目遣いに俺を睨みつける。
目には涙をためているが、必死にこらえている。
その様子にくじけそうになるが、それでも俺は冷徹に言わなければならない。
「本当に里琉のことが好きなのか?」
しかし、言い終える前にその女子は叫び出した。
「このニブチンっ! いい加減に気付いたらどうなのよっ!!」
(あれ? 俺が怒ってたはずなんだけど…俺が怒られてるの? なんで?)
この逆ギレしてる女子は梶山由美といい、3ヶ月前に都内から転校してきたクラスメートだ。
明るくて元気が良いため、すぐにクラスの人気者となった。
そんな彼女が1ヶ月前に俺に、
「里琉くんと付き合いたいの。協力して…」
と相談してきた。
里琉とは俺の親友で女子にモテモテの、いわゆるイケメンなのだが、本人はあまり女子との1対1の付き合いを望まず、みんなでワイワイする方が好きなのだ。
だから付き合いたいと言われても、里琉がそう簡単に応じるはずもなく…。
とにかく里琉の興味のあるものや好きな話題で、会話が続くように協力することにした。
最初から1対1の付き合いは無理だろうから…ね。
俺は里琉とよく遊びに行く、ゲーセンやショップに由美ちゃんを案内することから始めた。
「これ最近入ったんだけど、ライドタイプでは俺も里琉も結構気に入ってるんだ」
と言って、ボブスレーゲームを教える。
「すっごいのね。本物みたいどうやって遊ぶの?」
「本物は床に座るらしいんだけど、これはベンチのようなシートを跨いで前後に座るんだ。前の人がハンドルを操作して、後ろの人は左右のバーを握って身体を傾ける。ハンドル操作と体重移動のタイミングが合わないと、失速したり転倒したり、最悪コースアウトするんだ」
真っ黒いボディにはあの映画のタイトルが大きく描かれていて、臨場感を誘う。
大きさはさすがに3分の2くらいの大きさだが、それでも充分に大きい。
「やってみたい、やってみたい、やってみたい」
由美ちゃんは目を輝かせて3連発でせがむ。
「い、今ぁ? 一人じゃ無理だよ?」
「もちろんあなたも一緒にだよぉ」
と言って、さっさと乗り込んでしまった。
(まあ、しょうがないか…)
深く考えもせずに俺も由美ちゃんの後ろに乗り込んだ。
両足で由美ちゃんを挟むように座る。後席のバーは前席の両側にあるから、後ろから抱くような形になってしまう。
(あ、なんかヤバイ。こんなに女子と近づいたの初めてだ)
意識しないように心を落ち着かせて、ゲームをスタートさせる。
目の前の大スクリーンには徐々に加速するコースが映し出されている。
最初のカーブが近づき…、
「あ、由美ちゃん一度外側にハンドル切ってっ!」
…
…
<ズガガガガガガガガガっ!>
…
遅かった。
カーブのバンクに合わせて、画面がグルグルと回転し、転倒。
そりは右に左に大きく揺さぶられてから静止した。
「ありゃりゃ。難しいのねこれ」
「そうなんだよ。一度バンクの頂点に向かうようにしてから、できる限り直線的にコーナーを抜けるように坂を下りるんだ」
「へぇ」
「だから二人の呼吸が合わないと、すぐにバランスを崩して今みたいにゴロゴロって…」
「なるほど。よぉ~し、もう一回!」
コースアウトしてないので、このゲームでは2回まで転倒が許される。
もちろん時間を競うので、1回でも転倒すれば上位入賞は無理だけどね。
由美ちゃんはバレエをやっていたらしいので、バランス感覚は素晴らしかった。
コーナーでのハンドルさばきは神懸かり、体重移動のタイミングもずば抜けていた。
今度は俺もゲームに集中することができた。
「あ~楽しかったぁ~、こういうタイプのゲームって今までやったことなかったから新鮮~」
などと大満足のようだ。
これなら里琉も楽しくゲームできるだろう。
そのあとはショップ巡り…なのだが…。
いいのかな? 大丈夫かな?
何しろ由美ちゃんを連れて行ったのは、アニメ・ゲーム関連のショップなのだ。
実は俺も里琉もアニヲタでありゲーヲタだ。
クラスメートの中にはヲタを毛嫌いする女子も少なからずいる。
それもあって、里琉は女子と心を開いて話をすることがないのだ。
俺は最初から女子に相手にされてないから、気にしたことはないけどね。
イケメンはつらいねぇ~と、里琉とアニゲー話をするたびに思っていた。
そもそも俺が里琉と仲良くなったきっかけが、アニメの話だったなぁ。
「ここわ天国ですかっ!」
あれ? 由美ちゃんテンション高い。
…
もしかして、同業者?
などと考えていたら、
「私、アニメや家庭用のゲームが好きなんだけど…、女子の間ではスマホゲームですら入れ込むと“キモい”ってレッテルを貼られるの。ましてアニメの話なんかよほど気が合う仲間同士でも話ができないのよ」
「え? そうなの? 俺なんか最初から女子にキモいヲタと蔑視されてるから、もう気にもしてないけどね。あはは」
「女子ってひどいよね。すぐ他人を見下して、優越感を得ようとするんだもん。好きなものは好きなんだから、自分で理解できないんなら放っといてくれればいいのに…」
なんか怒りを含む声音で呟いた。
「あ~、でも俺も教室などで里琉と話してる時は、アニゲーの話はしないようにしてるかな?」
「どうして?」
「今、由美ちゃんが言ったように、里琉までアニゲーヲタに見られたら、何言われるかわからないもんね」
そう言った俺を由美ちゃんは一瞬マジマジと見つめたが、俺が彼女の視線に気づいて顔を向けると、ハッとしたように視線を店内に向けた。
「私は友達にアニヲタがいなかったからアニメの話はできなかったし、バレエ教室でも誰がプリマをやるとか、あの人は絶対にプリマになれないよねとか、中傷ばかりなの」
「…」
「だからこんなアニメの宝庫は存在は知ってたけど、来たことがなかったの」
「え? でも都内ならどこにでもあるんじゃないのメイトとか穴とか…」
「そんなところにいたのを見られたら、即座にゴミ扱いよ…」
「それは厳しいね。じゃあ今日くらいは存分に楽しむといいよ。誰かに見られたら俺に無理やり連れて行かれたとか言っとけばいいし…」
「そんな…、そ、そうね。まだこの辺りのお店知らないから、本屋を教えてもらったとか言っておくわ」
ー?ー
あれ? 今一瞬… 気のせいか(笑)
しかし…
「あ、あのさ。2階の右奥のコーナーに行きたいんだけど…、いいかな?」
「うん。いいんじゃ… …え”?」
そこはなんと俺たちには未開の地であった。
「す、好きなの? …BL?」
「…う、うん。少しだけ…」
「とわいえ、おれといっしょじゃ、いろいろまづくない?」
漢字が思い出せません。あまりの衝撃で!
今日いろいろと驚かされたが、これが一番の衝撃だった。
ーく、腐ってる!ー
「あ~、あなたもそんな目で見るんだぁ~。ショックだなぁ。さっき好きなものは…とか言ってたくせに」
「ごめんごめん。そんな意味じゃないんだ。というか、ジャンルが違うけどディープな理解者が現れたことにある種の衝撃が隠せません」
「最後の方、全く感情が感じられないんですけど…」
そんな風に不満そうに呻くものの、由美ちゃんの表情にはとても親近感を覚えた。
「はいはい見に行きましょう。さあさあ行きましょう」
一切の感情を捨て、BLコーナーに潜入した。
さすがに女子ばかり。
こんなに腐ってる女子がいるんだ! と別の意味で感動した。
しかし、何故かカップルもチラホラ。
どういうことだ?
しかもそのカップルは意外と身長が…って、男同志じゃないかよっ!
こんな世界があったなんて…
…?…
何故か熱い視線を感じる。
「すっごい量ね。どれ買ったらいいか分かんない」
と、由美ちゃんが言った途端に、
(なんだ女か…)
と残念そうな声が聞こえた。
え? 俺たちもBLだと思われてたの?
どう見ても由美ちゃんは女にしか見えないでしょ?
まあ確かに由美ちゃんは女子にしては長身なのかもしれないけど、それでも160センチだよ?
などと由美ちゃんの擁護をするようにブツブツ呟いていた俺は、突然恐ろしい考えに囚われた。
「あ、あのさ由美ちゃん? もしかすると由美ちゃんの脳内では俺と里琉のカップリングとか…ない…よね?」
「ゴチです。最初にいただきました」
「… … や、やめて、それだけはやめて」
「ええっー? いいじゃない素敵だよぉ」
「腐女子黙れっ!」
俺の中で、由美ちゃんの清純なイメージが跡形もなく吹っ飛んだ。
それからも週末ごとに里琉の好きそうな映画や由美ちゃんが好きだというアニメ映画、里琉が話していたSF映画などを二人で観に出かけた。
そして、そろそろ里琉のことも大分判っただろうと思って、今日の放課後…つまり今だ、由美ちゃんを屋上の踊り場に呼び出したのだ。
ー俺は今まで、里琉と由美ちゃんが上手く付き合って行けるように…愚直にそれだけを願っていたー
それなのに、由美ちゃんの反応がすこぶる鈍い。
しびれを切らせて、とうとう俺から切り出した。
「本当に里琉のことが好きなのか?」
俺がその言葉を言い終える前に、由美ちゃんは校内中に響く音量で叫んだ。
「このニブチンっ! いい加減に気付いたらどうなのよっ!!」
… … へ?
俺が怒っていたはずなんだけど、それ以上の剣幕で由美ちゃんが…
ー キレた ぁ? ー
なんで? 俺の怒りは霧散した。
それどころか由美ちゃんの言ってる意味が全く理解できない。
何も言わない俺が余計にイラついたのか、さらに続ける。
「私はあなたが好きなのっ!」
「え? …だ、だって由美ちゃんは里琉と付き合いたいって…」
「そ、それは…、あなたは女子と付き合う気が全くないって聞いたから…、モテるはずないからイタズラに決まってるって言い張るから…」
「俺が女子に好かれるわけないじゃん。俺キモヲタだよ?」
確かに女子に人気のある里琉と違って、俺は未だに女の子を好きになったこともない。しかも里琉を見てると、好きなものを我慢してまで女の子と好きあう気になれないのだ。
別に持てないことへの反動ではなく、単に(リアルの)女子に興味を持てなかっただけだ。
しかも俺に近づいてくる女子は全員が里琉狙いだから、手紙のデリバリーやことづてなど何度もこなしてさえいた。
里琉は里琉で、
『男とか女とか、好きとか嫌いとか、そんなもの抜きにして気軽に話ができる方がいいんだけど…ね。だからお前が居てくれて助かるよ…』
とか宣う。
まあ俺も恋愛ってまだ分かんないから、確かに楽しく話ができる方がいいんだよな。
「あなたがキモヲタなら、私だって腐女子よ! 本心から楽しめる話はあなたとしかできないの」
「本心から?」
(あ、ヤバい。ツボった。女の子にそんな風に言われたの初めてだよ)
胸の中から熱いものがこみ上げてきた。
確かに由美ちゃんとは、アニメやゲーム、その他にも飾らずに楽しく話をして、気付けばアッと言う間に時間が経っていたことも多かった。
俺もこのひと月は女子というより由美ちゃんとして、付き合ってきたなぁ。
ー付き合ってきたー
ああ、そうか。女の子と付き合うってこういうことなのか…。
とってもシックリと心の中に収まった。
「お、俺も…、楽しかった。由美ちゃんと一緒だと確かに心から楽しめた」
「う、うん」
途端に由美ちゃんの瞳から大粒の涙がこぼれだした。
「俺、女の子と付き合うって、ファッションやリア充だと思ってた。俺には縁がない世界だと思ってた。俺にはアニメやゲームがあれば充分だと思ってた」
「私もあなたに会うまでは、同じだったのよ。でも付き合いがあるから、本当に好きなものを好きとは言えずに、心を封印して、私を演じてきたの」
「由美ちゃんに『里琉と付き合いたい』って言われた時も、またいつもの女子と同じだと思っていた。だから由美ちゃんとも縁はないと思ってた。でも…アニメやBLの話題を楽しそうに話している由美ちゃんを知って、女子にもこんな女の子がいるんだってショックを受けた」
「転校してきて、また前のように私を演じようとしていたの。でも…教室でも女子にキモヲタとバカにされても、大好きなアニメやゲームの話題を楽しそうに話しているあなたを見た時、私はショックを受けたの」
「『好きなものを好きと言って何が悪い』」
俺たちは見つめ合い、笑いあった。
お互いに最初から素直に話をすれば、こんな回り道をしなくて済んだのかもしれない。
いや、姑息な手段とはいえ、由美ちゃんが里琉をダシにしてまで、俺に近づいてくれなければ、本心から理解しあうことはできなかっただろう。
俺はキモヲタのままで、由美ちゃんは腐女子のままでいいんだ。
それをお互いが理解し合っていればそれだけで充分なのだ。
だって恋愛ってテストとは違って、皆それぞれの形があるのだから…。
ーー<こうして俺たちの恋が始まった>ーー
<恋愛未満 第2話 転校生 終わり>
目には涙をためているが、必死にこらえている。
その様子にくじけそうになるが、それでも俺は冷徹に言わなければならない。
「本当に里琉のことが好きなのか?」
しかし、言い終える前にその女子は叫び出した。
「このニブチンっ! いい加減に気付いたらどうなのよっ!!」
(あれ? 俺が怒ってたはずなんだけど…俺が怒られてるの? なんで?)
この逆ギレしてる女子は梶山由美といい、3ヶ月前に都内から転校してきたクラスメートだ。
明るくて元気が良いため、すぐにクラスの人気者となった。
そんな彼女が1ヶ月前に俺に、
「里琉くんと付き合いたいの。協力して…」
と相談してきた。
里琉とは俺の親友で女子にモテモテの、いわゆるイケメンなのだが、本人はあまり女子との1対1の付き合いを望まず、みんなでワイワイする方が好きなのだ。
だから付き合いたいと言われても、里琉がそう簡単に応じるはずもなく…。
とにかく里琉の興味のあるものや好きな話題で、会話が続くように協力することにした。
最初から1対1の付き合いは無理だろうから…ね。
俺は里琉とよく遊びに行く、ゲーセンやショップに由美ちゃんを案内することから始めた。
「これ最近入ったんだけど、ライドタイプでは俺も里琉も結構気に入ってるんだ」
と言って、ボブスレーゲームを教える。
「すっごいのね。本物みたいどうやって遊ぶの?」
「本物は床に座るらしいんだけど、これはベンチのようなシートを跨いで前後に座るんだ。前の人がハンドルを操作して、後ろの人は左右のバーを握って身体を傾ける。ハンドル操作と体重移動のタイミングが合わないと、失速したり転倒したり、最悪コースアウトするんだ」
真っ黒いボディにはあの映画のタイトルが大きく描かれていて、臨場感を誘う。
大きさはさすがに3分の2くらいの大きさだが、それでも充分に大きい。
「やってみたい、やってみたい、やってみたい」
由美ちゃんは目を輝かせて3連発でせがむ。
「い、今ぁ? 一人じゃ無理だよ?」
「もちろんあなたも一緒にだよぉ」
と言って、さっさと乗り込んでしまった。
(まあ、しょうがないか…)
深く考えもせずに俺も由美ちゃんの後ろに乗り込んだ。
両足で由美ちゃんを挟むように座る。後席のバーは前席の両側にあるから、後ろから抱くような形になってしまう。
(あ、なんかヤバイ。こんなに女子と近づいたの初めてだ)
意識しないように心を落ち着かせて、ゲームをスタートさせる。
目の前の大スクリーンには徐々に加速するコースが映し出されている。
最初のカーブが近づき…、
「あ、由美ちゃん一度外側にハンドル切ってっ!」
…
…
<ズガガガガガガガガガっ!>
…
遅かった。
カーブのバンクに合わせて、画面がグルグルと回転し、転倒。
そりは右に左に大きく揺さぶられてから静止した。
「ありゃりゃ。難しいのねこれ」
「そうなんだよ。一度バンクの頂点に向かうようにしてから、できる限り直線的にコーナーを抜けるように坂を下りるんだ」
「へぇ」
「だから二人の呼吸が合わないと、すぐにバランスを崩して今みたいにゴロゴロって…」
「なるほど。よぉ~し、もう一回!」
コースアウトしてないので、このゲームでは2回まで転倒が許される。
もちろん時間を競うので、1回でも転倒すれば上位入賞は無理だけどね。
由美ちゃんはバレエをやっていたらしいので、バランス感覚は素晴らしかった。
コーナーでのハンドルさばきは神懸かり、体重移動のタイミングもずば抜けていた。
今度は俺もゲームに集中することができた。
「あ~楽しかったぁ~、こういうタイプのゲームって今までやったことなかったから新鮮~」
などと大満足のようだ。
これなら里琉も楽しくゲームできるだろう。
そのあとはショップ巡り…なのだが…。
いいのかな? 大丈夫かな?
何しろ由美ちゃんを連れて行ったのは、アニメ・ゲーム関連のショップなのだ。
実は俺も里琉もアニヲタでありゲーヲタだ。
クラスメートの中にはヲタを毛嫌いする女子も少なからずいる。
それもあって、里琉は女子と心を開いて話をすることがないのだ。
俺は最初から女子に相手にされてないから、気にしたことはないけどね。
イケメンはつらいねぇ~と、里琉とアニゲー話をするたびに思っていた。
そもそも俺が里琉と仲良くなったきっかけが、アニメの話だったなぁ。
「ここわ天国ですかっ!」
あれ? 由美ちゃんテンション高い。
…
もしかして、同業者?
などと考えていたら、
「私、アニメや家庭用のゲームが好きなんだけど…、女子の間ではスマホゲームですら入れ込むと“キモい”ってレッテルを貼られるの。ましてアニメの話なんかよほど気が合う仲間同士でも話ができないのよ」
「え? そうなの? 俺なんか最初から女子にキモいヲタと蔑視されてるから、もう気にもしてないけどね。あはは」
「女子ってひどいよね。すぐ他人を見下して、優越感を得ようとするんだもん。好きなものは好きなんだから、自分で理解できないんなら放っといてくれればいいのに…」
なんか怒りを含む声音で呟いた。
「あ~、でも俺も教室などで里琉と話してる時は、アニゲーの話はしないようにしてるかな?」
「どうして?」
「今、由美ちゃんが言ったように、里琉までアニゲーヲタに見られたら、何言われるかわからないもんね」
そう言った俺を由美ちゃんは一瞬マジマジと見つめたが、俺が彼女の視線に気づいて顔を向けると、ハッとしたように視線を店内に向けた。
「私は友達にアニヲタがいなかったからアニメの話はできなかったし、バレエ教室でも誰がプリマをやるとか、あの人は絶対にプリマになれないよねとか、中傷ばかりなの」
「…」
「だからこんなアニメの宝庫は存在は知ってたけど、来たことがなかったの」
「え? でも都内ならどこにでもあるんじゃないのメイトとか穴とか…」
「そんなところにいたのを見られたら、即座にゴミ扱いよ…」
「それは厳しいね。じゃあ今日くらいは存分に楽しむといいよ。誰かに見られたら俺に無理やり連れて行かれたとか言っとけばいいし…」
「そんな…、そ、そうね。まだこの辺りのお店知らないから、本屋を教えてもらったとか言っておくわ」
ー?ー
あれ? 今一瞬… 気のせいか(笑)
しかし…
「あ、あのさ。2階の右奥のコーナーに行きたいんだけど…、いいかな?」
「うん。いいんじゃ… …え”?」
そこはなんと俺たちには未開の地であった。
「す、好きなの? …BL?」
「…う、うん。少しだけ…」
「とわいえ、おれといっしょじゃ、いろいろまづくない?」
漢字が思い出せません。あまりの衝撃で!
今日いろいろと驚かされたが、これが一番の衝撃だった。
ーく、腐ってる!ー
「あ~、あなたもそんな目で見るんだぁ~。ショックだなぁ。さっき好きなものは…とか言ってたくせに」
「ごめんごめん。そんな意味じゃないんだ。というか、ジャンルが違うけどディープな理解者が現れたことにある種の衝撃が隠せません」
「最後の方、全く感情が感じられないんですけど…」
そんな風に不満そうに呻くものの、由美ちゃんの表情にはとても親近感を覚えた。
「はいはい見に行きましょう。さあさあ行きましょう」
一切の感情を捨て、BLコーナーに潜入した。
さすがに女子ばかり。
こんなに腐ってる女子がいるんだ! と別の意味で感動した。
しかし、何故かカップルもチラホラ。
どういうことだ?
しかもそのカップルは意外と身長が…って、男同志じゃないかよっ!
こんな世界があったなんて…
…?…
何故か熱い視線を感じる。
「すっごい量ね。どれ買ったらいいか分かんない」
と、由美ちゃんが言った途端に、
(なんだ女か…)
と残念そうな声が聞こえた。
え? 俺たちもBLだと思われてたの?
どう見ても由美ちゃんは女にしか見えないでしょ?
まあ確かに由美ちゃんは女子にしては長身なのかもしれないけど、それでも160センチだよ?
などと由美ちゃんの擁護をするようにブツブツ呟いていた俺は、突然恐ろしい考えに囚われた。
「あ、あのさ由美ちゃん? もしかすると由美ちゃんの脳内では俺と里琉のカップリングとか…ない…よね?」
「ゴチです。最初にいただきました」
「… … や、やめて、それだけはやめて」
「ええっー? いいじゃない素敵だよぉ」
「腐女子黙れっ!」
俺の中で、由美ちゃんの清純なイメージが跡形もなく吹っ飛んだ。
それからも週末ごとに里琉の好きそうな映画や由美ちゃんが好きだというアニメ映画、里琉が話していたSF映画などを二人で観に出かけた。
そして、そろそろ里琉のことも大分判っただろうと思って、今日の放課後…つまり今だ、由美ちゃんを屋上の踊り場に呼び出したのだ。
ー俺は今まで、里琉と由美ちゃんが上手く付き合って行けるように…愚直にそれだけを願っていたー
それなのに、由美ちゃんの反応がすこぶる鈍い。
しびれを切らせて、とうとう俺から切り出した。
「本当に里琉のことが好きなのか?」
俺がその言葉を言い終える前に、由美ちゃんは校内中に響く音量で叫んだ。
「このニブチンっ! いい加減に気付いたらどうなのよっ!!」
… … へ?
俺が怒っていたはずなんだけど、それ以上の剣幕で由美ちゃんが…
ー キレた ぁ? ー
なんで? 俺の怒りは霧散した。
それどころか由美ちゃんの言ってる意味が全く理解できない。
何も言わない俺が余計にイラついたのか、さらに続ける。
「私はあなたが好きなのっ!」
「え? …だ、だって由美ちゃんは里琉と付き合いたいって…」
「そ、それは…、あなたは女子と付き合う気が全くないって聞いたから…、モテるはずないからイタズラに決まってるって言い張るから…」
「俺が女子に好かれるわけないじゃん。俺キモヲタだよ?」
確かに女子に人気のある里琉と違って、俺は未だに女の子を好きになったこともない。しかも里琉を見てると、好きなものを我慢してまで女の子と好きあう気になれないのだ。
別に持てないことへの反動ではなく、単に(リアルの)女子に興味を持てなかっただけだ。
しかも俺に近づいてくる女子は全員が里琉狙いだから、手紙のデリバリーやことづてなど何度もこなしてさえいた。
里琉は里琉で、
『男とか女とか、好きとか嫌いとか、そんなもの抜きにして気軽に話ができる方がいいんだけど…ね。だからお前が居てくれて助かるよ…』
とか宣う。
まあ俺も恋愛ってまだ分かんないから、確かに楽しく話ができる方がいいんだよな。
「あなたがキモヲタなら、私だって腐女子よ! 本心から楽しめる話はあなたとしかできないの」
「本心から?」
(あ、ヤバい。ツボった。女の子にそんな風に言われたの初めてだよ)
胸の中から熱いものがこみ上げてきた。
確かに由美ちゃんとは、アニメやゲーム、その他にも飾らずに楽しく話をして、気付けばアッと言う間に時間が経っていたことも多かった。
俺もこのひと月は女子というより由美ちゃんとして、付き合ってきたなぁ。
ー付き合ってきたー
ああ、そうか。女の子と付き合うってこういうことなのか…。
とってもシックリと心の中に収まった。
「お、俺も…、楽しかった。由美ちゃんと一緒だと確かに心から楽しめた」
「う、うん」
途端に由美ちゃんの瞳から大粒の涙がこぼれだした。
「俺、女の子と付き合うって、ファッションやリア充だと思ってた。俺には縁がない世界だと思ってた。俺にはアニメやゲームがあれば充分だと思ってた」
「私もあなたに会うまでは、同じだったのよ。でも付き合いがあるから、本当に好きなものを好きとは言えずに、心を封印して、私を演じてきたの」
「由美ちゃんに『里琉と付き合いたい』って言われた時も、またいつもの女子と同じだと思っていた。だから由美ちゃんとも縁はないと思ってた。でも…アニメやBLの話題を楽しそうに話している由美ちゃんを知って、女子にもこんな女の子がいるんだってショックを受けた」
「転校してきて、また前のように私を演じようとしていたの。でも…教室でも女子にキモヲタとバカにされても、大好きなアニメやゲームの話題を楽しそうに話しているあなたを見た時、私はショックを受けたの」
「『好きなものを好きと言って何が悪い』」
俺たちは見つめ合い、笑いあった。
お互いに最初から素直に話をすれば、こんな回り道をしなくて済んだのかもしれない。
いや、姑息な手段とはいえ、由美ちゃんが里琉をダシにしてまで、俺に近づいてくれなければ、本心から理解しあうことはできなかっただろう。
俺はキモヲタのままで、由美ちゃんは腐女子のままでいいんだ。
それをお互いが理解し合っていればそれだけで充分なのだ。
だって恋愛ってテストとは違って、皆それぞれの形があるのだから…。
ーー<こうして俺たちの恋が始まった>ーー
<恋愛未満 第2話 転校生 終わり>
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