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第6章

6-05召喚

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 「アルフの目的等については、後ほど詳しくお話いたします。まずは現状についてのご説明をさせてください」
 かしこまった口調でルイーナは仕切り直した。
 「そうそう、それよそれ! ここはいったいどこなのよっ!」
 いずみは思い出したように、ルイーナに噛み付いた。
 「まあまあ、それをこれから説明してくれるんだから…どうどうどう」
 宥めるように肩を叩きながら、いずみを下がらせる湧。
 そんな二人をみんなは生暖かく見つめていた。
 「皆さんが一番知りたいのは、ここがどこか? ということだと思います。さっきも少しお話ししましたが、ここはアーカムという場所なのです」
 『アーカム?』
 5人は揃って復唱した。
 「それって、ルイーナが暮らしてたっていう…6次元世界よね?」
 誰よりも先にいずみが続けた。
 「そうです。ただ、皆さんが想像しているものとはかなり違うと思います」
 「っていうか、さっきも言ったけど…3次元と全く変わらないと思うんだが…」
 大介が疑わしげに異を唱える。
 「その通りです。何故なら3次元と同じ設定にしてあるからです」
 「設定?」
 「大介さん。お気づきと思いますが、この部屋の外は異空間になっています」
 湧が不安そうに口を挟んだ。
 「それでか…、周りの気が複雑すぎて、船酔いみたいに気分が悪かったんだ」
 「お二人の不安はよくわかります。実は6次元世界というのは、3次元世界で言われているようなパラダイスでは決してありません」
 ルイーナはコントローラーを操作して、壁に埋め込まれているスクリーンに3つの線が交差する図形を表示した。
 「この図形は3次元を表すものですが、縦が”z軸”、斜めが“x軸”と“y軸”です。3次元の物体は全て、この3方向の数値で表されるのですが、ここに大きな誤解が生じています」
 「誤解?」
 大介が思わず呟いた。
 「3次元の物質は全てこの交点から“+(プラス)”方向への数値でしか存在できません」
 「空間を示す数値なら“ー(マイナス)”方向もありうると思うが…」
 「相対的な数値ではそうなります。でも“ー(マイナス)”5センチの箱や長さが“ー(マイナス)5mの乗用車というものは存在できません」
 「え? ああ、確かに…」
 大介は少し困った表情で返答した。
 「何故かというと、マイナス数値は属性が異なるからなのです。“0(ゼロ)”点を跨いで反対側へは行かれないのです」
 「ふむ…確かに…しかし、それが?」
 「3次元にもここと同じように別の空間が重なっているということです」
 「なるほど、そういうことが言いたかったのか?」
 急に湧が会話に参加してきた。
 「6次元世界は、その重なっている別属性の空間に行き来できるっていいたいんだろ?」
 「OH! さすがはYOUです!!」
 ルイーナはさっきの図に“t(時間)”・“b(光)”・“g(重力)”と追加した。
 「3次元に“時間”と“光”と“重力”の3要素を加えることによって、6次元が形成されています」
 「それはどの軸に加わるんだ?」
 湧が素朴に疑問を口にする。
 「どの軸にも乗算されます。例えば縦に“t”x“b”x“g”を加えれば、横にも高さにも同じものを加えるのです」
 「それぞれは明確な関連付けができるのかな?」
 大介も想像しにくいらしい。
 「それぞれの空間がどんなものかは、無限に存在するために一概に関連づけることはできないでしょう。ただ、大きさや時間や光による視覚的なものは千差万別なので、6次元って言っても定義づけることは難しいと思います」
 「そういうものなのか…」
 まだ何か考え込んでいる大介に変わって、湧が返事をした。
 「話が逸れてしまいましたが、なぜ皆さんをここに召喚したかを説明させてください」
 「召喚? 何か異世界魔法ものRPGみたい」
 いずみが場の雰囲気を和(なご)やかにするつもりでおどけた。
 ルイーナは一瞬、いずみに笑顔を返したが、すぐに真顔に戻って静かに語り出した。
 「ところが、次元を超越するにあたって、一般的な3次元の人間では亜空間に入った途端に身体が崩壊…もしくは爆散してしまうのです」
 「え? どうして?」
 ルイーナの言い方だと爆散しなかった自分たちは特殊なのか? といずみは思った。
 まあ、確かに験力を駆使したり、霊体などが見えるというのは特殊かもしれない。
 「私が事前にお配りしたプロテインは、一般人には本当にただのプロテインでしかありません。しかしアルファブラッド保有者が服用すると、血液中に溶け込み増殖して、全身くまなく行き渡ります。そして亜空間に入ると体外に湧出して、身体を保護するべく高性能なバリアとなります」
 「あ~! やっぱりあのゲロはあんたの仕業だったんかぁ~い!」
 突然いずみが吠えた。
 「ゲロいうなっ!」
 湧はそんないずみを冷めた目で睨みながら注意する。
 「だって…だって! 私、本当に辛かったんだよぉ~、湧にゲロぶっかけたって…もう生きていられないくらい落ち込んだんだからぁ!!」
 「それは嬉しいが…ゲロっていうなぁ!」
 少し顔を赤らめながらも冷めた目で抗議する。
 「え? 嬉しいの? 私のゲロがっ??」
 「だからゲロって…」
 「いい加減にしろっ! 二人ともっ!!」
 とうとう大介がキレた。
 「ルイーナの話を聞け!!」
 「なはは…え~と、それで…」
 困ったように取り繕うルイーナ。
 「あ、そうそう。3次元での皆さんが生活している空間は、どのくらいの力が常時かかっていると思いますか?」
 「力? 常時って? 大気圧のこと?」
 いずみがマトモに返答したので、皆一瞬放心してしまった。
 「な、何よ?」
 いずみが唇を尖らせて拗ねる。
 「まあまあ皆さん…、実は1㎡あたり10トンもの力がかかっているのです」
 「10トン? そんなに?」
 答えたいずみですら知らなかったらしい。
 「と言っても、空気の層ですから全体的にかかっているので、普段はあまり意識していないと思います。登山や飛行機で高所に行けば、空気が薄くなり大気圧も下がるので実感できると思います」
 「なるほど…でもそれが?」
 大介が先を促す。
 「人の身体はその圧力に抗って、内部から同じ力で押し返しているのです。そして、それこそが亜空間ゲートを通る際の一番の問題点になるのです」
 「あ! そうか。そういうことかっ!」
 大介と同時に湧も気づいた。
 「つまり、亜空間ゲートの先にあるものが3次元と同じ環境とは限らないということです」
 「? え~と…」
 いずみにはまだ理解できないらしい。
 「亜空間ゲートの先は気圧というか、そもそも人間が生存するための空気自体があることが奇跡なんだよ」
 湧が補足するように話す。
 「空気自体がなければ窒息するし、気圧がなければ人間は内部からの圧力で身体が破裂してしまうかもしれない。逆に圧力が高ければ一瞬で押しつぶされてしまう…ということだよ」
 「げ、そういうことなのね?」
 やっといずみにも実感できたようだ。
 実際、あの空間は上も下もなく目眩がして、頭痛がひどくて、身体が引き裂かれそうな痛みも感じた。
 「プロテインは身体中の汗腺からも吹き出しますので、素早く全身を覆うバリアが形成されます。そして圧力や温度を生存できる環境に維持するのです」
 「でも呼吸は? 全然苦しくなかったけど?」
 「もちろん肺の内部も満たされますが、プロテイン自体が酸素等を供給してくれるので、窒息することはありません」
 「へえ、凄いのね。でも亜空間ゲートに入ってからずいぶん時間がかかったけど、その間はどうして平気だったの?」
 「ああ、確かにバリアに包まれるまで10分くらいかかったよね?」
 湧も同じ疑問を抱いていたらしい。
 「あ、それは誤解なんです。亜空間ゲートに入った瞬間から時間の経過はありません」
 「え? じゃあ私たちが感じてたあの時間は?」
 「それは主観なんです。実際に亜空間ゲートを通り、亜空間に入るまでは一瞬でしかありません」
 「一瞬?」
 いずみは納得できずに眉間にシワを寄せながら反復した。
 「3次元から見れば、対象物が亜空間ゲートに入った瞬間に消滅します。が、入った対象物から見れば亜空間に入るまでに、相応の時間経過を感じるのです」
 「? よくわかんないけど…、立場によって時間の流れが違って見える…ってこと?」
 「そうです」
 「…そ、そうなんだ。で、でもさ。身体全部を覆うバリアって、コクーンみたいだね」
 理解を諦めたいずみは話題を変えようと、思いつくままに口にする。
 「そりゃそうですよ。アルファブラッドの能力の一部を転用してるのですから。ただ、あくまで簡易型のバリアなので、コクーンのような修復するまでの機能はありません」
 「そうなんだ。…ん? …あれ? ちょっと待ってよ! 3次元での時間経過と切り離されたってことは…、私たちが今度3次元に戻った時、一体どれくらいの月日が経ってるのォ?」
 「あ、確かにっ!」
 湧も慌ててルイーナに問う。
 それには少し困った様子で笑顔を返すルイーナ。
 「心配しないでください。ここでは時間も光も重力も任意にコントロールできるとお話しした通りに、3次元に戻る時はきちんと同じ時刻に戻れますから」
 「そ、そなの? ヨカッタァ~」
 「それよりも皆さんには、その3要素を自在に扱えるようになっていただくことこそがここに召喚した本当の目的なんです」
 「… … へ?」
 「今までのように3次元内での敵ではなく、高次元からのモンスターも対処しなくてはならなくなります」
 「高次元からのモンスター??」
 これには大介を含む5人が驚きの声をあげた。
 「そのために皆さんにはこのアーカムでしばらくの間、特訓をしていただきます」
 「と、特訓ん??」
 ルイーナは満面の笑顔で5人にぶちまけた。
 いずみは唖然として、目を見開いた。
    <続く>
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