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第6章
6-08大福
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いずみのイメージ力は頑固なほど伸びなかった。
何か原因があるんじゃないかと湧に言われて、ルイーナはそれとなく大介に聞いてみた。
「子供の頃は破天荒なほど、形に囚われることなく修行の中で自分なりに工夫をしていたんだけどなぁ」
「破天荒? それはどういうことですか?」
「修行は事故を防ぐために、厳密な手順で進められるんだ。決して一足飛びに難しい修行は行わないルールだ」
「いずみはそのルールに従っていなかったと?」
「いや、逆なんだ。順序はきちんと守っていた。ただ、他の門下生より型を覚えるのが異常に早かった」
「? それはどういう?」
ルール通りに型を覚えているのに、何が破天荒なんだろう…、ルイーナが首を傾げると大介が説明を続けた。
「型は必要な力を効果的に得られるように組まれている。だから極論すると“無駄な”動きも含まれている」
「あ、いずみは必要な動きだけを行って?」
「そういうことだ。基本の型、初級の型、中級の型と進んでいくごとに無駄な動きも多くなってしまう。いずみは直感で、必要な動きのみを次のレベルの型に組み込んで行くんだ」
「それって、術式を高度化して行く時にショートカットするようなものですね」
「実際にお務めの時も怪異に対峙した時、誰よりも高速詠唱していた。そして無駄なく退治していた」
「すごい。あ、だからさっきの“うに”も…」
「たぶんそういうことだろうな。イメージするという行程を必要ないと思っているんだろう。短絡的に粘土の形が変わればいい、と考えているんだろう」
「なるほど。よくわかりました。それなら何故イメージが必要なのか、包み隠さず話したほうがいいでしょうね」
「そうだな。ルイーナ、俺たちはもう一蓮托生だ。全て話してもらえないだろうか?」
大介はルイーナが何かを恐れるあまり、抽象的な説明しかできないことを感じていた。
「… 大介さん…。でも…」
「大丈夫だ。俺がフォローする…、なんて俺じゃ役に立たないけどね」
「そ、そんなことありません。あちらでどれだけ勇気付けられたか…、そのおかげで本来の任務を遂行する勇気ができたんです。大介さんのおかげです」
感極まって、ルイーナは大介の胸に顔を押し当てた。
4人は特訓に集中してる体で、敢えて気づかないふりをしていた。
(主観時間で)3時間ほど休憩を取った後、再び6人は講習室に集まった。
「これから皆さんに3次元と6次元、そしてそれより高次元の違いをお話しします。と、言っても実際に私が行かれたのは9次元までですので、それ以上の高次元については他のものからの話になります」
正面モニター前の壇上から、ルイーナが講師じみた口調で宣った。
「ルイーナ。その前に一つ聞いていいかな?」
湧が手を上げて質問する。
「なんでしょうか?」
「3次元と6次元については了解した。でも9次元やそれ以上の高次元を知る必要があるのか? と、思って…」
「そうですね。ただ、最低限覚えておく必要があることだけですので、それほど気にしなくても結構です」
「そうなのか…わかった。話の腰を折ってごめん」
湧は軽くお辞儀をして着席する。
ルイーナの解説により、3次元と6次元の大きな違いを説明される。
それは、“空間”というのがかなり曖昧なものだということだった。
3次元においても“物体”の位置エネルギーや質量により、強引な連続性を保っているだけで、1mm先には位相の異なる別空間が存在していることが多々有るらしい。
「皆さんにマスターして欲しいのは、あくまで3次元世界において、この6次元を利用した戦術なのです」
「と言うと?」
代表して湧が問いた。
「3次元世界での動作と視覚操作、そして瞬間移動です」
「なんだってぇ!! そんなことができるのかっ?」
「なんかSFチックな話よね…それ」
興奮する湧とは対照的に、いずみは懐疑的だった。機嫌は直ったものの何を信じていいのか解らなくなっていた。
他の3人はとっくに理解を諦めて、いずみたちのやりとりを傍観していた。
「あ、あのさ…ルイーナ? あんた3次元で特撮戦隊ばりの戦闘チームでも作る気?」
いずみがずっと抱いていた疑念をぶちまけた。
「え? そうですよ」
「そうですよ…って」
呆れて返す言葉がないとはこのことだ。
いずみは途方に暮れ、湧にアイコンタクトで救援を求める。
が、
「スッゲェ~~!! リアルで必殺技とか使えるのか?」
目を輝かせて少年のように叫ぶ湧には、全く届いていなかった。
「ルイーナぁ~! あんたまさかそれが目的で3次元に来たんじゃないでしょうねぇ」
「そんなわけないですよぉ~、スーパーチームを作ろうと考えたのはYOUやいずみに出会ってからです。それまでは本当にただの“純粋な特撮ヒーローファン”でしかありませんでしたよぉ」
必死に言い訳を繰り出すルイーナ。
ただ、どこか言葉が軽いのが気になったが、そんなことで時間を浪費したくないから、いずみは先を続けた。
「で、実際にどうする気?」
「今やっている特訓でイメージ力を強化すれば、3次元と6次元の違いがある程度理解できるはずです。次に時の摂理を理解していただきます」
「時の摂理?」
「3次元では、時は過去から未来への一方向にしか流れていないとされています」
ルイーナはモニターに過去・現在・未来と書かれた横線を表示して、過去の部分をポインターで指し示した。
「現在からこの部分に行くことはできると思いますか?」
「過ぎた時間に戻るのは無理でしょ」
いずみが即答する。
「行かれたとしても、今の“現在”に帰ってくるのは無理だと思う」
湧が妙な返答をした。
「え? どうして?」
いずみは時間遡行が出来ないと言いつつ、同じ“現在”に戻れないという湧の回答に不信を抱く。
「OH! YOUの答えは100点満点です」
しかしルイーナは、湧が予想以上の完璧な答えを返したことに驚いた。
「どういうこと?」
いずみは納得できない。そもそも過去に戻れるということ自体がファンタジーでしかない。
「時間という長さのあるもので考えると、理解しにくいのですが、アニメやビデオのように“時“という長さのない“コマ”もしくは“フレーム”と考えてください」
「アニメ? ビデオ? 時間ってそんな風に分解できるの?」
「ふふふっ。いずみ、今自分で答えに辿り着いてますよ。長さのある“時”は時間というのです。そして、“時”は長さのない、その一瞬です」
ルイーナはモニターにアニメ制作で使われている、フレームごとの動画をずらして表示させた。
「この一画像が“時”です。そして1秒間に30コマ(*)(厳密には29.97コマ)を順に表示することによって、絵が動いているように見せているのです」
(*実際には同じ絵を2・3枚ずつ、表示することが多い)
「あ、それは知ってる。でも仮に過去に行かれたとして、どうして同じ“現在”に戻れないの?」
「それは因果律の問題です」
「因果律? なにそれ?」
「すべての事象には必ず原因があって、原因がない場合はある事象は起こらないということです」
ルイーナは哲学的な説明を行うが、いずみの疑問には堪えきれなかった。
代わりに湧が解説を始めた。
「いずみ、例えば今ここに大福があって、今まさにいずみが食べようとしてるとする」
「へ? なんのこと?」
「いいから聞いてくれ、俺が少し時間を遡って、その大福を先に食べてしまったら、今ここのいずみは大福を食べることができないだろ?」
「そりゃそうだ。大福は既にないんだもんね」
「そう。その通り。大福は俺が先に食べたのだから、いずみが食べることはできない。
さらに、いずみが食べようとしたその大福を、俺が時間遡行して先に食べようとする“俺”自身もその場にはいないよな。何しろその時点では大福は存在していないんだから」
いずみは中空を見上げるように視線を上げ、“あっ”と呟いた。
「そか、過去が変わったから、全く同じ“今”はありえない。そういうこと?」
「そうそう。今のは大福という小さなモノの変化でしかなかったけど、それでも時間遡行する前の“現在”に、俺は帰ってくることができないんだよ」
「同じように、時間遡行した場合は因果律の問題上、同じ“時”に帰ってくることはできません。必ず過去につながる“現在”にしか戻れないのです」
ルイーナが補足する。
「じゃあ、こうしてる時に過去が書き換えられたら、私たちはどうなるの?」
「どうにもなりませんよ。書き換えられた過去からの“現在”は、別の世界でしかありません」
「え? じゃあ過去を変えることはできないってこと?」
「そうです。今この“現在”は不変です。ただ、この先はいくらでも変わってしまう可能性があります」
「う~、どういうことよ?」
いずみはさらに混乱した様子で、頭を抱えた。
「さっきの大福の例えが良かったので、お借りしますね。例えば1分後にいずみのお母様がお店(コンビニ)から大福を持ってきたとします。でも1時間後に食べようとして、置いておいたら、YOUが30分後に時間遡行して、お母様が持ってこようとしていた大福を先に買い占めてしまった。お母様は1分後に大福の代わりに団子を持ってくる未来に変化してしまう可能性もあるわけです」
「…湧の意地悪っ!」
いずみは湧を睨みつけて、肘鉄を入れた。
「イテッ! 例え話だろ、本当に食ったわけじゃないんだよ」
「ソコですか? 本題は改変された過去によって、未来を変化させることは可能だと言いたんですが… わかります?」
ルイーナは今日何度目かの深いため息をついた。
「そして、それは6次元でも同じなんです」
「え? じゃあここでも過去に遡ることはできないってこと?」
湧が意外そうな顔で聞いた。
「まさにそこなんです!」
ルイーナは我が意をえたりとばかりに明るく叫んだ。
「6次元では過去に戻ることも、同じ現在に戻ることもできます。ただし因果律によって、過去に戻る前の現在に戻るためには、過去に戻った事実は消滅させなくてはならないんです」
「事実を消滅? 過去に戻ったことをなかったことにするってこと?」
「そうです。過去に戻った記憶がある以上、そして過去で行ったことの全ての記憶を消去しないと、正確に元の“現在”には戻れません」
「記憶を消すって簡単に言うけど、そんな簡単にできるのか?」
「だからそれをイメージ力で上書きするんです」
「へ?」
「過去に行って、現在を変えるならそれは不要よね?」
いきなりいずみが割り込んだ。
「そうですね。でも過去に行ったら二度と“同じ現在”に戻ってくることはできませんよ?」
「それじゃあダメなの?」
「過去に行く目的が現在の“改変”なら、問題は…まあ思い通りの改変ができるかどうかを問わなければ、ないでしょう」
「だけど…う~ん。なんかおかしい…」
いずみは喉に何か詰まったような不快感を覚えて、眉間にしわを寄せた。
「ははは、いずみが感じてる違和感は、つまりこういうことだよ」
湧が愉快そうに笑う。
「過去に戻った記憶も記録も消して、現在に戻ってきたってことは、そもそも過去に行く必要があったのかってことだよ」
「あ~~~、そうだよ。行く必要ないじゃん!」
「二人とも大正解です」
ルイーナはニコニコ笑って拍手した。
「ということは、過去改変っていわゆる“現在”を変えるってことじゃん!」
「その通りです。6次元を使って、過去に(時間遡行した時刻にも)戻ることで、不利な戦況も変更できる可能性が高くなります」
「だから…特撮ヒーロー番組ばりのチームを作るってことになるのね」
「特撮ヒーロー番組…ではなく、スーパーヒーローチームです」
ルイーナはドヤ顔で胸を張って宣言した。
「おおおおおおおっ! これは萌える!」
湧のキラキラ輝く笑顔を横目で見て、いずみは深いため息をついた。
<続く>
何か原因があるんじゃないかと湧に言われて、ルイーナはそれとなく大介に聞いてみた。
「子供の頃は破天荒なほど、形に囚われることなく修行の中で自分なりに工夫をしていたんだけどなぁ」
「破天荒? それはどういうことですか?」
「修行は事故を防ぐために、厳密な手順で進められるんだ。決して一足飛びに難しい修行は行わないルールだ」
「いずみはそのルールに従っていなかったと?」
「いや、逆なんだ。順序はきちんと守っていた。ただ、他の門下生より型を覚えるのが異常に早かった」
「? それはどういう?」
ルール通りに型を覚えているのに、何が破天荒なんだろう…、ルイーナが首を傾げると大介が説明を続けた。
「型は必要な力を効果的に得られるように組まれている。だから極論すると“無駄な”動きも含まれている」
「あ、いずみは必要な動きだけを行って?」
「そういうことだ。基本の型、初級の型、中級の型と進んでいくごとに無駄な動きも多くなってしまう。いずみは直感で、必要な動きのみを次のレベルの型に組み込んで行くんだ」
「それって、術式を高度化して行く時にショートカットするようなものですね」
「実際にお務めの時も怪異に対峙した時、誰よりも高速詠唱していた。そして無駄なく退治していた」
「すごい。あ、だからさっきの“うに”も…」
「たぶんそういうことだろうな。イメージするという行程を必要ないと思っているんだろう。短絡的に粘土の形が変わればいい、と考えているんだろう」
「なるほど。よくわかりました。それなら何故イメージが必要なのか、包み隠さず話したほうがいいでしょうね」
「そうだな。ルイーナ、俺たちはもう一蓮托生だ。全て話してもらえないだろうか?」
大介はルイーナが何かを恐れるあまり、抽象的な説明しかできないことを感じていた。
「… 大介さん…。でも…」
「大丈夫だ。俺がフォローする…、なんて俺じゃ役に立たないけどね」
「そ、そんなことありません。あちらでどれだけ勇気付けられたか…、そのおかげで本来の任務を遂行する勇気ができたんです。大介さんのおかげです」
感極まって、ルイーナは大介の胸に顔を押し当てた。
4人は特訓に集中してる体で、敢えて気づかないふりをしていた。
(主観時間で)3時間ほど休憩を取った後、再び6人は講習室に集まった。
「これから皆さんに3次元と6次元、そしてそれより高次元の違いをお話しします。と、言っても実際に私が行かれたのは9次元までですので、それ以上の高次元については他のものからの話になります」
正面モニター前の壇上から、ルイーナが講師じみた口調で宣った。
「ルイーナ。その前に一つ聞いていいかな?」
湧が手を上げて質問する。
「なんでしょうか?」
「3次元と6次元については了解した。でも9次元やそれ以上の高次元を知る必要があるのか? と、思って…」
「そうですね。ただ、最低限覚えておく必要があることだけですので、それほど気にしなくても結構です」
「そうなのか…わかった。話の腰を折ってごめん」
湧は軽くお辞儀をして着席する。
ルイーナの解説により、3次元と6次元の大きな違いを説明される。
それは、“空間”というのがかなり曖昧なものだということだった。
3次元においても“物体”の位置エネルギーや質量により、強引な連続性を保っているだけで、1mm先には位相の異なる別空間が存在していることが多々有るらしい。
「皆さんにマスターして欲しいのは、あくまで3次元世界において、この6次元を利用した戦術なのです」
「と言うと?」
代表して湧が問いた。
「3次元世界での動作と視覚操作、そして瞬間移動です」
「なんだってぇ!! そんなことができるのかっ?」
「なんかSFチックな話よね…それ」
興奮する湧とは対照的に、いずみは懐疑的だった。機嫌は直ったものの何を信じていいのか解らなくなっていた。
他の3人はとっくに理解を諦めて、いずみたちのやりとりを傍観していた。
「あ、あのさ…ルイーナ? あんた3次元で特撮戦隊ばりの戦闘チームでも作る気?」
いずみがずっと抱いていた疑念をぶちまけた。
「え? そうですよ」
「そうですよ…って」
呆れて返す言葉がないとはこのことだ。
いずみは途方に暮れ、湧にアイコンタクトで救援を求める。
が、
「スッゲェ~~!! リアルで必殺技とか使えるのか?」
目を輝かせて少年のように叫ぶ湧には、全く届いていなかった。
「ルイーナぁ~! あんたまさかそれが目的で3次元に来たんじゃないでしょうねぇ」
「そんなわけないですよぉ~、スーパーチームを作ろうと考えたのはYOUやいずみに出会ってからです。それまでは本当にただの“純粋な特撮ヒーローファン”でしかありませんでしたよぉ」
必死に言い訳を繰り出すルイーナ。
ただ、どこか言葉が軽いのが気になったが、そんなことで時間を浪費したくないから、いずみは先を続けた。
「で、実際にどうする気?」
「今やっている特訓でイメージ力を強化すれば、3次元と6次元の違いがある程度理解できるはずです。次に時の摂理を理解していただきます」
「時の摂理?」
「3次元では、時は過去から未来への一方向にしか流れていないとされています」
ルイーナはモニターに過去・現在・未来と書かれた横線を表示して、過去の部分をポインターで指し示した。
「現在からこの部分に行くことはできると思いますか?」
「過ぎた時間に戻るのは無理でしょ」
いずみが即答する。
「行かれたとしても、今の“現在”に帰ってくるのは無理だと思う」
湧が妙な返答をした。
「え? どうして?」
いずみは時間遡行が出来ないと言いつつ、同じ“現在”に戻れないという湧の回答に不信を抱く。
「OH! YOUの答えは100点満点です」
しかしルイーナは、湧が予想以上の完璧な答えを返したことに驚いた。
「どういうこと?」
いずみは納得できない。そもそも過去に戻れるということ自体がファンタジーでしかない。
「時間という長さのあるもので考えると、理解しにくいのですが、アニメやビデオのように“時“という長さのない“コマ”もしくは“フレーム”と考えてください」
「アニメ? ビデオ? 時間ってそんな風に分解できるの?」
「ふふふっ。いずみ、今自分で答えに辿り着いてますよ。長さのある“時”は時間というのです。そして、“時”は長さのない、その一瞬です」
ルイーナはモニターにアニメ制作で使われている、フレームごとの動画をずらして表示させた。
「この一画像が“時”です。そして1秒間に30コマ(*)(厳密には29.97コマ)を順に表示することによって、絵が動いているように見せているのです」
(*実際には同じ絵を2・3枚ずつ、表示することが多い)
「あ、それは知ってる。でも仮に過去に行かれたとして、どうして同じ“現在”に戻れないの?」
「それは因果律の問題です」
「因果律? なにそれ?」
「すべての事象には必ず原因があって、原因がない場合はある事象は起こらないということです」
ルイーナは哲学的な説明を行うが、いずみの疑問には堪えきれなかった。
代わりに湧が解説を始めた。
「いずみ、例えば今ここに大福があって、今まさにいずみが食べようとしてるとする」
「へ? なんのこと?」
「いいから聞いてくれ、俺が少し時間を遡って、その大福を先に食べてしまったら、今ここのいずみは大福を食べることができないだろ?」
「そりゃそうだ。大福は既にないんだもんね」
「そう。その通り。大福は俺が先に食べたのだから、いずみが食べることはできない。
さらに、いずみが食べようとしたその大福を、俺が時間遡行して先に食べようとする“俺”自身もその場にはいないよな。何しろその時点では大福は存在していないんだから」
いずみは中空を見上げるように視線を上げ、“あっ”と呟いた。
「そか、過去が変わったから、全く同じ“今”はありえない。そういうこと?」
「そうそう。今のは大福という小さなモノの変化でしかなかったけど、それでも時間遡行する前の“現在”に、俺は帰ってくることができないんだよ」
「同じように、時間遡行した場合は因果律の問題上、同じ“時”に帰ってくることはできません。必ず過去につながる“現在”にしか戻れないのです」
ルイーナが補足する。
「じゃあ、こうしてる時に過去が書き換えられたら、私たちはどうなるの?」
「どうにもなりませんよ。書き換えられた過去からの“現在”は、別の世界でしかありません」
「え? じゃあ過去を変えることはできないってこと?」
「そうです。今この“現在”は不変です。ただ、この先はいくらでも変わってしまう可能性があります」
「う~、どういうことよ?」
いずみはさらに混乱した様子で、頭を抱えた。
「さっきの大福の例えが良かったので、お借りしますね。例えば1分後にいずみのお母様がお店(コンビニ)から大福を持ってきたとします。でも1時間後に食べようとして、置いておいたら、YOUが30分後に時間遡行して、お母様が持ってこようとしていた大福を先に買い占めてしまった。お母様は1分後に大福の代わりに団子を持ってくる未来に変化してしまう可能性もあるわけです」
「…湧の意地悪っ!」
いずみは湧を睨みつけて、肘鉄を入れた。
「イテッ! 例え話だろ、本当に食ったわけじゃないんだよ」
「ソコですか? 本題は改変された過去によって、未来を変化させることは可能だと言いたんですが… わかります?」
ルイーナは今日何度目かの深いため息をついた。
「そして、それは6次元でも同じなんです」
「え? じゃあここでも過去に遡ることはできないってこと?」
湧が意外そうな顔で聞いた。
「まさにそこなんです!」
ルイーナは我が意をえたりとばかりに明るく叫んだ。
「6次元では過去に戻ることも、同じ現在に戻ることもできます。ただし因果律によって、過去に戻る前の現在に戻るためには、過去に戻った事実は消滅させなくてはならないんです」
「事実を消滅? 過去に戻ったことをなかったことにするってこと?」
「そうです。過去に戻った記憶がある以上、そして過去で行ったことの全ての記憶を消去しないと、正確に元の“現在”には戻れません」
「記憶を消すって簡単に言うけど、そんな簡単にできるのか?」
「だからそれをイメージ力で上書きするんです」
「へ?」
「過去に行って、現在を変えるならそれは不要よね?」
いきなりいずみが割り込んだ。
「そうですね。でも過去に行ったら二度と“同じ現在”に戻ってくることはできませんよ?」
「それじゃあダメなの?」
「過去に行く目的が現在の“改変”なら、問題は…まあ思い通りの改変ができるかどうかを問わなければ、ないでしょう」
「だけど…う~ん。なんかおかしい…」
いずみは喉に何か詰まったような不快感を覚えて、眉間にしわを寄せた。
「ははは、いずみが感じてる違和感は、つまりこういうことだよ」
湧が愉快そうに笑う。
「過去に戻った記憶も記録も消して、現在に戻ってきたってことは、そもそも過去に行く必要があったのかってことだよ」
「あ~~~、そうだよ。行く必要ないじゃん!」
「二人とも大正解です」
ルイーナはニコニコ笑って拍手した。
「ということは、過去改変っていわゆる“現在”を変えるってことじゃん!」
「その通りです。6次元を使って、過去に(時間遡行した時刻にも)戻ることで、不利な戦況も変更できる可能性が高くなります」
「だから…特撮ヒーロー番組ばりのチームを作るってことになるのね」
「特撮ヒーロー番組…ではなく、スーパーヒーローチームです」
ルイーナはドヤ顔で胸を張って宣言した。
「おおおおおおおっ! これは萌える!」
湧のキラキラ輝く笑顔を横目で見て、いずみは深いため息をついた。
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