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第9章

9-05転生

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 「それで…、話は振り出しに戻るけどベータはどこにいるのか? って問題だけど…」
 ルイーナは一同の顔を見回しながら呟いた。
 「今までの調査から、宿主の死によって乖離したアルフ(ベータ)はどこかの次元に移り、次に融合する相手を時空を超えて決めているようです。だから追跡は不可能だと思ってました」
 「ん? 思って…ました?」
 ルイーナの言い方に大介が違和感を覚える。
 「大介さん。そこなんです。もし仮にYOUから乖離したベータが全くの別の時空の宿主と融合したとすると、今までYOUの身辺で起こっていた不可解な事象はどうして発生していたんでしょうか?」
 「? どういう意味だ?」
 「ルイーナのいう不可解な事象って、怪異のこと?」
 いずみの胸にも何か引っかかった。
 ルイーナは黙って頷く。
 「なら私たちが相手にしてきた怪異は? あれもベータの仕業?」
 「いいえ、いずみたち水無月家が対峙してきたのはベータとは関係ない怪異です」
 「へ? …?…」
 いずみは複雑な表情でルイーナを凝視した。
 「何かおかしなこと言いましたか?」
 「何で留学生のルイーナがそんなこと知ってるのかな? って思って。だってルイーナが日本に来た時よりずっと前のことだよ?」
 「「「あ」」」
 3人が同時に気づく。
 「いずみ…、まだルイーナが普通の留学生として来日してきたと思ってるのか?」
 さすがに湧も呆れた様子でいずみに聞いた。
 「え? 普通じゃないの? ルイーナ…」
 「今まで一緒にいて気づかなかったのかよ! ルイーナが普通じゃないって!」
 「何かその言い方、トゲどころか刀でグサグサ刺されてるようなダメージがあるんですが!」
 すかさずルイーナが湧に抗議する。
 「あ~、確かに普通の女子高生じゃないよね?」
 「いずみぃ~? あなたも充分普通じゃないですけど?」
 「ちょっと待て! 論点はそこじゃないぃ! ルイーナが自分で言ってただろ? 日本に来てから過去や未来に時間遡行したって! つまり築地川高校に留学生として入学するずっと前から、ルイーナは日本にいたってことだよ」
 湧は途中でチャチャが入らないように、一気にまくしたてた。
 「…、… ! おおっ! そういうことかぁ!」
 やっといずみも理解したらしい。
 ホッとため息をついて、ルイーナは話を再開する。

 「でもルイーナの言い方だと、ベータは俺の身近にいるってことか?」
 「身近というかYOUに関係のある人だと思うんです。なんとなく…」
 ルイーナらしくない尻つぼみの返事だった。
 「? 関係? どこのどいつよそれって! 湧ぅ!!」
 「お、落ち着けいずみっ! 俺だって知らないよっ!」
 「いずみっ! やきもち焼かないでくださいっ!」
 「第一なんでルイーナにそんなことが分かるんだよ? 今までにもそんな事例があったのか?」
 湧はいずみを抑えながらルイーナに抗議する。
 現在アルフと融合中の如月博士でさえ、アルフとの意思の疎通はほぼ出来ないというのに、その宿主が死亡した後にどこに行くのかなど知り得るはずがないのだから。
 「それが落とし穴なのだと思います。宿主がアルフと直接的な意思の疎通ができないとしても、アルフから見た宿主は理解できるんじゃないでしょうか?」
 「え? どういうこと?」
 いずみはまたルイーナが妙なことを言い出したと思った。
 「考えてみればアルフが人間と融合したがっているのは明白です。なぜでしょうか? それはアルフには何らかの目的があって、人間に融合する必要があるからじゃないでしょうか?」
 「目的? それが人体練成?」
 「それはまだ分かりませんが、アルファブラッドという特殊な能力を有する血液に変化させたり、如月博士だけでなくエネルギー関連の研究者との融合事例が無視できないほどの比率を占めています」
 「エネルギー関連と言ってもそれは近代のこと。産業革命以前は魔術や錬金術として、人知を超えた能力者を指している」
 大介がルイーナを補足するように告げた。
 「ああ、それが人体練成なの?」
 いずみはやっとルイーナが言いたいことを少しだけ理解できた。
 「アルフが人間のことを理解していなければ、融合そのものができないと思います。そう考えると初めて親子という血縁関係の二人に、同時融合したというのは絶対に何か意味があると考えられます」
 「そか。今までは全く別の場所の見知らぬ人に転生? してたもんね」
 いずみが何気なく口にした言葉に一同は驚きを覚えた。

 “転生”

 確かにアルフにとっては宿主を変えることは転生に等しいことだ。
 何しろ宿主が死亡しない限り次の融合はできないのだから…。

 なら…。

 「じゃあ私たち人間は? この身体が死んでしまったら、そこで全てが無に帰るの? 少なくとも私と湧は身体が死んでる間も意識は生きてたよ?」
 「私の身体も同じです。6次元で肉体の使用限界が訪れたら新しい身体を作って…」
 ルイーナは途中で何かに気付いたように、顔を伏せて口を閉ざしてしまった。
 「ルイーナ? どうかした?」
 いずみが心配そうにルイーナの顔を覗き込む。
 「そ、そんな… そんなことって…」
 顔面蒼白で汗を流しながら震えている。
 「アルフって…、でも、そんなことをわざわざ…」
 大介はそっとルイーナの肩に手をかけた。
 その温もりにすがるように、ルイーナは大介の手に自分の手を重ねる。

 「もしかすると…、これは私の推測…というより思いつきに近いのですが…」
 ルイーナが自信なさげに呟いた。
 「何よぉ、ここまで騒いでおいて今更。さっさと言ってみて」
 いずみはイラつきながらルイーナに催促する。
 「…アルフって、高次元の精神生命体…つまり思念体だということが今までの調査で判明しています。でも高次元の世界がどういうものなのかは、私にも皆目見当がつきませんでした」
 「私は6次元でさえよく分からないわよ」
 ルイーナはその6次元の人間だ。でも、分からないと言いつつもルイーナといずみたちはこうして交流している。
 それはルイーナが3次元のことを理解し、言葉などのコミュニケーションを習得したからだ。
 「それなら何百年…、いえ…アルフにとっては時間は意味がないので、融合した人間の数で考えた方がいいでしょう。何百人という人間と融合しておきながら、3次元のことを理解できないのはかえって不自然ではないでしょうか?」
 「あ、そか。しかも他の次元や星にも簡単に行けるはずなのに、ずっとこの地球上にいるもんね」
 「そこなんです! アルフはこの3次元、しかもこの地球に興味を持っていたのではないかと思えるんです」
 「じゃあ私たちにイメージしか見せないのは…」
 「私たちを試しているんじゃないでしょうか?」
 如月博士の発言に我が意を得たりとばかりにルイーナは言った。
 「それは私たちの知能を…ひいては文化レベルを確認してるという意味ですか?」
 如月博士にも何か心当たりがあるのだろう。
 アルフが観せるイメージを正確に理解できると、その次のステップに進むらしい。
 「たぶん3次元の時間的制約などによって、アルフの伝えようとする事柄はブロックされていたのではないでしょうか? 私がこの3次元にやって来た時も、6次元では常識的な事柄でも伝えることができませんでした」
 「できなかった? それはどういうことですか?」
 如月博士にはまだ説明していないから、因果律によるプロテクトについては解説が必要だろう。
 ルイーナは話を中断して、博士に説明を始めた。
 「でもさ、何百年も昔の世界で、今の日本の話をしても誰も全く理解することって…」
 「まず無理だろうな。それどころか変人扱いされること必至だね」
 いずみの言葉を湧が引き継いだ。

 「あ! そういうことかっ! だからアルフは会話ではなくイメージでっ!」
 いきなり如月博士が叫ぶ。余程想像を絶する説明だったらしい。
 「因果律なんて机上の空論だと思っていた。理解できないのは考えが足りないからだと思っていた」
 父親である如月博士が驚く姿を見て、湧は困ったような表情で口元が少し緩んだ。
 「あ、湧が笑った!」
 すかさずいずみが見抜く。こういう時のいずみは本当に察しがいい。良過ぎると湧はさらに苦笑いした。

 「そこで話がまた元に戻りますが…、ベータは何らかの目的があったにも関わらず、YOUが死亡して乖離してしまったためにYOUの身近な人と融合したのではないかと思ったのです」
 「でもそれは何の確証もないことだろう? 仮にその通りだったら、一体誰に“転生”したんだろう?」
 大介が否定とも肯定とも取れない曖昧な返事を返す。
 「YOUの身近な人で、突然優れた能力を発揮した人から探してみたらどうでしょう?」
 「え? そうは言っても俺の身近って…」
 全く心当たりが思いつかない。
 湧の叔父は確かに身体的能力が優れていて、湧の知る限りはその叔父以上に優れた能力者はいない。
 そもそも親戚との交流はほとんど皆無で、唯一叔父だけが湧の家にこまめにやってきてくれた程度だ。
 「湧の叔父さんって、水無月家にいた神代直哉さんだよね?」
 「ああ、生き返った俺を育てるために表社会に戻って、会社を立ち上げたらしい。俺はまだ6歳で、しかも事件直後だったからはっきり覚えてないけど、毎日たくさんの人が来ていた覚えがあるんだ」
 「あ、会社の人たち?」
 「ああ、そうだと思う。あ、その中にはあの流一星さんもいたよ。かっこよかったなぁ」
 「えっ~!! いいなあ。流さんも水無月の人だったけど、私が知ってるのはスーツアクターとしてまだ売れる前だったんだよね。かっこいい人だったけど…あんまり強い印象がなかったんだ」
 「叔父さんが社長をやってるYAC(八重洲アクションクラブ)で、新しいシリーズの戦隊物企画した時に大抜擢されたんだよ」
 流一星は湧の叔父、神代直哉が代表取締役社長を務めるスタントマン(現在ではスーツアクターと呼ばれることが多い)の派遣業務を行っている。
 特撮映画やテレビの撮影において、火薬の取り扱いが厳しくなり、爆発や危険なアクションシーンの多くがCG化された。
 当初はグリーンバックでのアクションにCG画像を合成していたが、さすがに迫力に欠ける。
 しかしYACは単なる合成ではなく、マーカーを取り付けたスーツを着て、全てのアクションをCG化した。
 さらにスーツアクター本人が劇中のキャストを行うため、変身前との違和感がない。
 その中でも流一星はカリスマ的スーツアクターとなった。
 「そういえば初めていずみの部屋に行った時、流さんのサインがあったけどあれはいつもらったの?」
 「ああ、あれは流さんがうちの神社(大砲塚神社)に年始祈願に来た時、おじい…宗主のところにも挨拶に来て、その時に無理言って書いてもらったの」
 「へえ、イベント以外ではサインを書かないことで有名な流さんが…ねぇ」
 湧にはその時のいずみが懇願するシーンが想像できた。きっとそのあとで宗主に厳しく怒られたことだろう。
 「でもさ、昔の特撮ヒーロー戦隊のアクションシーンは、確かに爆発以外のアクションはあまり迫力なかったね」
 「逆にいえばアクションで迫力が出せないシーンを爆発で補っていたような気がするんだけど…ははは」
 いずみと湧がいつの間にか本来の話題から逸脱していたため、他の4人は黙って二人の話を聞いていた。
 「え? あ、ごめんなさい。つい…」
 いずみが渋い顔で謝ろうとすると…、
 「いえ、続けてください。というより、その流一星さんていうのは…あの流さんですか? キアイジャーの…」
 「うん。そうだよ? 湧の叔父さんがやってるYACのスタースーツアクターの…」
 いずみは不思議そうな顔で答えた。
 そういえばルイーナも少なからずオタクだったことを思い出す。
 ところが、ルイーナは興味というより、恐怖に慄くような表情をしていた。
 「? ルイーナ? どうしたの? 怖い顔して…」
 「いた! ベータだ!」
 「え? 流さんが?」
 大介もいずみと同じような表情でルイーナに問いかけようとしたが…。
 「…そうか…! あれは…」
 愕然とした。
 大介は流一星にまとわりついていた怪異の正体に、この時初めて気づいてしまった。
 “クリーチャー”
 まだ中学生だった大介は、直接流一星と会話したことはなかった。
 道場の裏手に歩いて行った流の後をクリーチャーがついて行くのを、シェアハウスの入り口階段から見てしまった。
 てっきり怪異が流を襲うと思い、慌てて駆けつけたが流もクリーチャーもいなかった。
 「じゃあ、本当に流さんが? ベータ? なの?」
 「まだ決まったわけではありませんが、流さんの経歴を考えるとまず間違いないと思われます」
 ルイーナは静かに告げた。
 ルイーナも流一星の大ファンなのだ。辛いのはいずみにも痛いほどわかった。
 いずみは今後どうしていいのか…途方に暮れた。
    <続く>
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