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第3章

3-08_30時間のアリバイ?

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 大介がしばらくの間、時間をくれたからというわけではないが、いずみはこの貴重な時間をさくらとの対話に充てるつもりだった。
 〈さて、さくらさん。知ってることを全て話してもらいましょうか?〉
 【へ? なんのこと?】
 全くもって身に覚えがありません。というジェスチャーとともにいずみの前に姿を現した。
 〈隠しても無駄よ。ルイーナのこと調べてたんでしょ?〉
 【やっぱ、いずみには隠し事できないよねぇ~】
 〈何言ってんの。これ見よがしにアピールしてて…〉
 最初は、自分の姿が見えてるんじゃないか? とか言っておきながら、ある時点からは全く関与しないていを装っていた。
 さくらの性格上、中途半端なところでは絶対にやめたりしない。
 ルイーナのことは調査中で報告すべき情報がないことため、さくらが口にしないのだといずみは気づいていたのだ。
 【じゃあ、率直に言うね】
 〈うん〉
 【あの人、人間じゃないわ…】
 〈は?〉
 【具体的には人ではない『何か』ということ】
 〈じゃなかったら…何?〉
 【それが判らないの。ただ、悪意とか邪気とかは感じないから、敵ではないと思う…】
 〈…思う? さくららしくない言い方ね〉
 眉間にしわを寄せて、さくらを睨みつける。
 【そうは言っても、それ以上は思考できないんだもん。仕方ないでしょ?】
 本当に『困惑してるんだぞ』という難しい顔で涙目になってる。
 フレンズとなってから、さくらは逆に感情表現が豊かになった。
 生前(?)という言い方はしたくないいずみだが、確かに肉体を有していた頃のさくらは、ポーカーフェイスのごとく、人前ではあまり感情を表に出さなかった。
 〈ごめん、ごめん。別に嫌味を言ってるつもりはないの。ただ、さくらが考えられないって状況が何か不思議だったから…〉
 鼻をすするような仕草の後、さくらは不満そうではあるが、表情を和らげた。
 〈それで、ルイーナのことで判ったことは?〉
 【ごく普通の女の子? としか思えない…んだけど、歳は絶対に16歳じゃないと思う】
 〈え~と、サバ読んでるってこと?〉
 【なのかなぁ? 何か自信なくなってきた…。あ!ただ…】
 急に自信満々の顔つきでさくらは続けた。
 【特撮戦隊ヒーローは本当に好きみたい。どうかするといずみ以上に興奮してたよ】
 〈ほっとけっ!〉
 昨日の様子でそのことは十二分に理解した。あの娘は『ガチ』だと…。
 〈でもまあ、それならあの娘は悪者じゃないわ。正義のヒーローに憧れてるんだもんね〉
 【また始まった。特撮ヒーロー番組オタクに悪人はいないってぇ?】
 呆れたような顔でいずみを肘で突いた。
 〈さくらだって同じじゃない。アニメオタクに悪人はいないんでしょ? それにオタクじゃないから。『ファン』だからね〉
 【私だってオタクじゃないわヨォ。正しいアニメファンです!】
 さくらが言う『正しい』とは、アニメファンを自称して不正に動画をネットにアップしてる『悪性』と区別している。
 不正に作品を無料で放出することは、アニメ業界の衰退というより破壊を招く行為だ。
 TVで放映されているものも、決して無料で放送できているのではない。
 提供会社が対価を払って放映している。その代わりにCMなどを視聴してもらうというシステムなのだ。
 企業が正しい収入を得られないと、提供することができなくなる。
 その先にはPAY TVなど、視聴者が自ら高額な金額を払わなければ、番組制作そのものができなくなるのだ。
 よって、『正義感で』などという言い訳で、不法アップする輩は『アニメ番組バスター』でしかないのだ。
 いずみは放映後発売されたDVDは極力購入することにしている。
 お務めで得た収入は半分以上がDVDやキャラクターグッズに変わっていた。
 そのため、自信を持って友達に貸すことができるのだが…、特撮ヒーロー番組ファンであることがばれるので、今まで一度も貸したことがなかったのだ。
 ルイーナのあの歓喜した様子を見ていれば、彼女は本当に特撮ヒーロー番組が好きなのだと信じられた。
 だからそれ以上に、この混沌とした気持ちのやり場に困っていたのだった。
 〈せめてルイーナのメアドでも聞いておけばよかった…〉
 それが唯一の後悔だった。

 翌日は警察の対応により、学校周辺からマスコミは排除されていた。
 凶悪な事件が起こったものの、それでも生徒たちは努めて明るく登校してきた。
 「あ~やっぱり来てないかぁ」
 教室にルイーナの姿を認められないことにいずみは落胆した。
 「本当に心配になってきたわ」
 初美がいずみの独り言を聞き留めて近づいてくる。
 「まだ連絡ないの?」
 「うん、先生も知らないって言ってたわ」
 その時、予鈴が鳴り、みんなが席に着いた。

 <ガラッ!>

 教室内が静かになったその一瞬、扉が開いてルイーナがよろめきながら入ってきた。
 「ルイーナ!!」
 いずみが叫ぶと、弱々しくルイーナが微笑み返した。
 「は、はい…おはよ…ございます。皆…さん」
 その顔は憔悴しきっていて、目の下にはクマがクッキリと浮かんでいる。
 髪も一昨日の光るようなエメラルドから、少しくすんだ苔のように光沢がない。
 しかもボサボサで寝癖というより、爆発したようにまとまりがない。
 「ど、どうしたの? その格好は?」
 ゲームキャラで言えばHPが真っ赤っかの状態らしい。
 「まさか、事件に巻き込まれてたとか?」
 「事件? 何ですか? それ」
 ルイーナはキョトンとした顔で聞き返す。
 「一昨日おとといの事件よ! 知らないのっ?」
 初美が呆れたように叫んだ。
 「犯人がまだ捕まってないし、ルイーナは連絡ないままお休みしてるから、事件に巻き込まれた可能性もあるんじゃないかって心配してたのよ!」
 いずみが引き継いで説明した。
 「…?」
 全く聞き覚えがありません。という顔で、ルイーナは頭の上にでっかい“?”を浮かべた。
 これが演技なら相当の強者だ。
 「じ、じゃあなんで昨日無断欠席したのよっ!」
 パニクりながらも初美が核心をついた。
 「はう? 委員長さん? あ~連絡しなかったのは私のミスです。ごめんなさい」
 素直にペコリと頭を下げた。
 「へ?」
 口をパクパクして二の句が継げない初美は、『何とかしてよっ!』という顔でいずみに助けを求めた。
 「いずみさん。DVDありがとうございました。『武闘戦隊キアイジャー』確かに素晴らしいです」
 「げっ!」
 「武闘戦隊キアイジャー? なにそれ?」
 「ああ、なんかのTV番組じゃない?」
 クラスメートがヒソヒソ話してる。
 いずみは咄嗟にルイーナの口を塞ごうとしたが遅かった。
 「さすがに第2期が作られるほどの完成度ですね。特撮戦隊ヒーロー番組の中でも群を抜いてます」
 「あ、やっぱり。如月がよく戦隊ゴッコしてるTV番組だよ」
 「じゃあ、いずみもやっぱり特撮ヒーロー番組ファンなのね」
 「うげっ!」
 「水無月さんって、そっちだったんだ」
 「キャ!」
 クラスメートの視線はルイーナから徐々にいずみに移っていった。
 『武闘戦隊キアイジャー! アイキレッド推参!!』
 その時、湧が叫びソーシャルアクションを踊った。
 「おお! やっぱり! 如月ってうまいねぇ」
 オタバレはとっくにしていたのだが、改めて晒されるといずみの精神状態がヤバイと気づいた湧が助け舟を出してくれた。
 「ルイーナっ! 学校ではその話、やめてっ!」
 「なんでですか? とっても素敵な話題じゃないですか」
 ルイーナは全く悪気がなく、むしろ湧以外のクラスメートもノリノリだと思っているようだ。
 「水無月ぃ! 何も隠すことないぞぉ! もうみんな知ってるんだからさ」
 <グシャっ!>
 よく湧と特撮ヒーローゴッコに興じている赤塚が、いずみをなだめたつもりだったが、次の瞬間には床にひれ伏していた。
 いずみはルイーナの手をとって、廊下に引っ張り出した。
 「とにかく! 昨日は何してたのよっ!」
 「いずみさんにお借りしたDVD観てました…けど?」
 「けど? けどって…まさか12巻全部?」
 「いえ、第2期の3巻も観ましたよ?」
 当たり前じゃないですか? と言いたげな表情だ。
 「え? でも15巻って言ったら本編だけでも30時間くらいかかるよ?」
 「ええ、ですから今朝5時頃に観終わりました」
 ルイーナはすごくいい笑顔で断言した。
 「…ずっと、一気に観てたの? 15巻も?」
 「そうですよ? あ、特典映像はまだ観てないので、もう少し貸していただけますか?」
 「もちろんそれはいいけど、そうじゃなくて…」
 何かを聞こうと思っていたはずなのに、驚きのあまり思い出せない。
 その時、教室から初美が出てきた。
 「一昨日の夜、11時頃新大橋通りを歩いてたよね? あれは?」
 「あ、そうだ。私はルイーナを地下鉄の八丁堀駅まで送って行ったのよね? でもあなたの家は佃大橋のところじゃない。何で全く逆の方に送らせたのよ!」
 二人の質問に惚けたように首を傾げていたが…、
 「あ~分かりました。いずみさんと委員長さんが聞きたいことって…。あの日私はいずみさんから借りたDVDを地下鉄の駅のコインロッカーに預けたんです」
 「『は?』」
 二人はハモったが、余計なことは言わずに続きを待った。
 「そのまま秋葉原にDVDプレーヤーを買いに行って、帰りは家までタクシーに乗って行きました」
 「秋葉原? DVD…買いに行った?」
 「そです。DVDプレイヤーの設定に時間がかかって、終わったのが午後10時すぎでした。それから駅までDVD取りに行ったのです。多分委員長が私を見かけたのは、その時だったんじゃないでしょうか?」
 「ああ、確かに大きな紙袋持ってたわね」
 「だから、事件のこととか全然知りませんでした」
 ルイーナはあっけらかんと言い切った。
 「だから…じゃないでしょ! もしかすると、その後ずっとDVD観てたってこと?」
 「はい」
 言い切った。
 「昨日は学校に連絡もしないで?」
 「いいえ、朝したんですけど、話し中で繋がりませんでした。その後は、ごめんなさい夢中になってて、忘れてました」
 「ああ、確かに昨日の朝は職員室の電話がパンク状態だったわ」
 初美は担任の板橋から指示をもらうために、ずっと職員室の前にいたのだ。
 「じゃあ、まとめると…私の家から直接秋葉原にDVDプレイヤー買いに行って、タクシーで帰ったから、DVDプレイヤーの設定が終わってから、駅のロッカーに私が貸したDVDを取りに行った…と?」
 「はい。そです」
 「その後、30時間ぶっ通しでDVD観てたので、昨日は学校を休んだ…で、いいの?」
 「あ、結局DVDプレイヤーじゃなくて、BDレコーダーにしたんですけど」
 「そんなことはどうでもいい! 学校に連絡つかないんだったら、なんで私に連絡しなかったのよ!」
 「あ、そうですね(汗) 気づきませんでした」
 <ガクッ>
 いずみは身体中の力が一気に抜けた。
 「無断欠席したら、みんなが心配するとは思わなかったの?」
 「その点については、弁解の余地がありません。申し訳ございませんでした」
 拍子抜けだ。あまりに素直に非を認められるとかえってやりづらい。
 何しろ今までは、いずみの周りには往生際の悪い奴しかいなかったのだ。
 「初美ぃ~、今後は注意しなさいってことで、いいかな?」
 「…う~ん。そだね。ありがとういずみ助かったわ」
 とりあえずルイーナの問題はこれで解決となった。
 「ただし、後で先生のところにはちゃんと無断欠席の謝罪に行くわよ。いい? ルイーナ?」
 「! あ! 初美ぃ~その時、DVD観てたっていうのは内緒にして! お願い。体調不良で休もうと電話したけど繋がらなかったってことにしてくれない?」
 「…」
 初美は白い目でいずみを見返した。
 「それは無理でしょ」
 「嘘はいけません。それにいずみさんに責任はありません。悪いのは私なので、正直に謝罪いたします」
 いずみは絶望感から顔をひくつかせた。
 確かにウソはダメだった。いろいろな意味でも。
 いずみは後々、板橋から呼び出される覚悟を決めたのだった。
    <続く>
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