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第4章

4-04司令基地

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 翌日の午後、湧は目覚めた。
 昨日の不調が嘘のように、頭も、身体も軽かった。
 湧の隣には相変わらずコクーンが鎮座している。
 湧はそっと手を触れてみた。
 意外に暖かい。多分30度くらいだろう。
 湧が触れたところが少し赤くなっている。
 まるでいずみが照れているような印象を受けた。

 「YOU起きましたね。今日からはどんどん働いていただきますよぉ!」
 「あ、おはよう。って、もう2時近くじゃないか」
 「時刻など気にしないでください。YOUは誰よりも大変な仕事をしてきたのです。これからは少しぐらい楽をしても、誰も文句を言いませんよ」
 「誰かに言われて、とかじゃなくて、俺が嫌なんだよ。いずみが戻ってくるまでは精一杯頑張らなくちゃ」
 ルイーナは困惑顔で、隣にいた大介に助言を求めた。
 「如月君、今は本当に君の力を温存していて欲しいんだ」
 「大介さんまで…、とにかく現状の把握を最優先で行いたいんです」
 「そう言うと思ったけどね。ルイーナの話は全面的に信用していい。その上でこれからの対策を話し合おうじゃないか」
 大介に連れられて行ったのは、SF映画や特撮ヒーロー番組の司令室のような部屋だった。
 壁にはあらゆる情報が表示され、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の応用で、ガラスのパーテーションにも都内各所のMAPが表示されていた。
 「すごい。こんな場所があったなんて…」
 「そりゃそうだろう。ルイーナのおかげで設置されたばかりなんだよ」
 …
 …
 …
 多分、数秒は間抜けな顔を晒していたと思う。
 湧はハッ!と気付いて、ルイーナに詰め寄る。
 「こ、これ全部本物? 一体、君は何なんだよ?」
 ルイーナは目をパチクリさせて答えた。
 「昨日のお話覚えてませんか? 私は合衆国の…」
 「そんなことはどうでもいい!」
 湧はルイーナの返事を遮って、興奮気味に首を巡らせた。
 「こんな設備を本当に、しかもこんな短時間で準備できるなんて…、普通の留学生には無理だよ!」
 「いえいえ、だから普通の留学生じゃないってばよぉ!」
 そういえば、ルイーナは日本のアニメにも精通していたのだった。
 「で、これは何を表示してるの?」

 …

 …

 …

 「き、如月君。ここまで引っ張っておいて、その質問?」
 大介やルイーナはズッコケた。
 「地図はわかるんですけど、この様々な色が何を表してるのか…、あれ?」
 「解ったようだね」
 それはつい最近まで湧たちが戦った場所が、特に広く赤くなっていたのだ。
 「もしかして、ソウルコンバーターの設置場所?」
 「近いけど違います。ソウルコンバーター自体はさほど問題ないのです」
 「というと? 怪異の出現回数とか?」
 「怪異とはモンスターと考えてよろしいですか? ならばほとんど正解です」
 ルイーナはふざけているわけではないらしく、何かを思案しながら答えているようだ。
 「大介さん。以前、見せていただいた怪異の出現図はまだありますか?」
 「ああ、八丁堀商店街の事案の時のやつだね。あの時、君も現場にいたんだろう?」
 「気づかれてましたか。お恥ずかしい…」
 「何を言う。君のおかげで、いずみの暴走を止められたんだ。助かったよ」
 大介が作成した分布図をルイーナの図に重ねて表示する。
 すると…

 「全く同じだ。やっぱり…」
 湧は何かを確信したような口調で納得した。
 「やっぱりとは? 何か知ってるのですか?」
 ここまで調査を進めてきたルイーナも行き詰っていたらしい。
 期待を込めて、湧の返事を待っていた。
 「以前から気にはなっていたんですが、こことここ、そしてここ、さらにここも…」
 湧は次々とマークした。
 「何か関連性があると思いませんか?」
 湧が示した場所は、築地市場の近く、勝鬨橋東側、八丁堀商店街、そして築地川公園だった。
 「地脈…か?」
 大介は静かに言う。
 「そうです。俺が独自に調べた時は、浮遊霊の出現ポイントとしてですが、後でソウルコンバーターにも関わりがあるように思えました」
 「でも微妙にズレてるなあ」
 「そこです。仮説ですが…、もしソウルコンバーターと怪異が敵対してるなら、同じ場所ではなく近くに出現してるのではないか? と…」
 「なるほど…。ルイーナ、どう思う?」
 「その考え方で間違いないと思います。…あの…」
 ルイーナがひどく怯えた様な口調で、続けた。
 「私のお話を聞いていただけますか? と言うより、聞いていただかないと、今後の対処に影響があると思いますので…」
 「「わかった」」

 「私は合衆国のマサチューセッツ州アーカムというところで育ちました」
 「アーカム?」
 「ち、ちょっと待って! アーカムって、クトゥルフ神話に出てくる架空の都市じゃないか?」
 湧がズッコケながら応えた。
 「さすがにYOUです。一般的にはセーレムという町がモデルになった架空の街と言われています。が、それは半分正解で半分は隠匿された事実なのです」
 「隠匿? 本当は違うってこと?」
 「どういうことなのかな?」

 ルイーナの話によると、他者が興味本位でアーカムを荒らさないように、そしてアーカムの伝統を守るために、現実世界から隔離したという。
 そこは3次元世界と異なり、大宇宙との連携を保つため6次元以上の高次元世界となっているらしい。

 「だからクトゥルフ神話には、宇宙とか異世界とか、それまでの神話とは趣が全くことなっていたのか」
 「YOUは詳しいんですね。神話とかに興味があるのですか?」
 「興味とかじゃないんだけど、怪異対策に色々文献を漁ったからね」
 「文献? 聖書や法典のようなものですか?」
 「そこまで一つの宗教に偏ったものじゃないけど…神話や法話について調べたんだ」
 「それで何かわかりましたか? 違いのようなものが」
 「他の神話は唯一神や悪魔など、人間の信仰を主軸に置いてるからね。クトゥルフ神話の悪魔のように、人間など関係ないスケールで星ごと破壊する神って逆に新鮮だった(笑)」
 「ははは、でもそれは笑えないことなのよ」
 ルイーナは力なく笑った。
 「YOUは高次元世界の存在を信じることができますか?」
 「正直に言うとピンとこないんだ。ただ、有紀やさくらさんが時空を超えた存在というので、そういう世界があるだろうとは思ってる」
 「そう! まさにそこです。今のお二人の記憶はどこにあるのでしょうか? 考えたことはありますか?」
 「いや、でも霊体に記憶されるんじゃないかな?」
 湧は自信なさげに答えるが、それでは今まで湧が成仏させた霊にも記憶があったのだろうか?
 地縛霊はもとより、浮遊霊も身体から離脱した時点で、記憶が固着する。
 つまり死んだ時点までの記憶しかないのだ。
 しかし、有紀やさくらの記憶はどんどん更新されているではないか。
 「YOUの答えだと幽霊や怪異との会話も可能になると思います。でも実際には幽霊は記憶できませんよね?」
 「ああ、そうか。だから二人の記憶は、高次元世界にあるって言いたいのか?」
 「たぶん6次元より上だと思います。この世界の縦、横、奥行き、時間に加えて、光、重力を加えた世界です」
 「光? 重力? それが上の世界の因子なの?」
 「まだこの世界での実証は成されてませんけどね…」
 「ルイーナ…君は一体…」
 湧は今すぐにでもルイーナの全てを知りたい衝動にかられた。
 「私のことはいずれきちんとお話しします。ところでアーカムですが、今お話しした6次元に存在するのです。場所はセーレムと同一地点です」
 「同一地点? セーレムの地下とかっていう意味?」
 「違います。全くの同一地点です。アーカムの住人はエリア内ならどこからでも出入り自由です」
 「す、すごいね。それ。完璧な要塞じゃないか」
 出入りの方法はたぶん教えてもらえないだろう。でもゲートや転送手段を用いて出入りするより、確実に他者の侵入を防げる。
 「そして、そこを舞台にしたクトゥルフ神話を創作したラヴクラフトこそ、高次元世界からの来訪者らしいのです」
 「は? 異世界人ン?」
 「正確にはラヴクラフトの人格なのではないかと思われます。つまりこの世界の人間である本来のラヴクラフトに憑依したのではないでしょうか?」
 「ああ、そういうことか…」
 湧は納得した。しかしその湧の返事を聞いたルイーナが驚いた。
 「なんで納得できるんですか? YOUは…他にそういう人を…ご存知ですね?」
 「確かなことは解らない。でも以前、古文書に不思議な名前を見つけて、宗主にお話ししたら、宗主が持っていた本にも同じ名前があった。しかも俺と宗主の本に書かれていた時代は300年ほどの隔たりがあった」
 初めていずみの家に来た頃のことだ。
 けれど、それからまだ半年しか経っていないとは、湧には信じられなかった。
 「その名前って?」
 「ある夫、もしくはアルフ。しかも古文書なのに書かれていた内容が最新の宇宙の情報と同じだった」
 「アルフ! 私たちはまさにそのアルフを調べているのです」
 ルイーナは興奮気味に湧にしがみついた。
 「その古文書、ぜひ見せてください。文書が残っていることはほとんどなかったのです」
 「あ、うん。あとで宗主に話してみるよ。今は両方とも宗主に保管してもらってるんだ」
 「ああ、ありがとう! やっぱり日本に来て良かったぁ~」
 ルイーナは大きな成果が得られると喜んだ。
 そんな無邪気な笑顔が湧には新鮮だった。
    <続く>
 
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