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第11章
11-09名前
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窓には鍵がかかっていた。
…
しかも軟禁状態なので、鍵は外からしか開けられない。
…当たり前だった。
「なんなのよ! 開かないじゃないっ!」
あまりにも当たり前のことをいずみは忘れていた。
自分は囚われていたのだと。
扱いがかなり改善されたとは言え、未だに不審者には変わりなかったのだ。
いずみは験力使いとはいえ、験力で壁抜けみたいな超能力は当然使えない。
「? 使えない? 試したことなかっただけで、できるかも! だってここは異世界だもん!」
都合のいい理由で、まず自分の認識を書き換えようとする。
こういうところがいずみの長所だろう。
まず丹田(へそのあたり)に意識を集中して、“気”を練り込む。
次に自分自身の認識(常識)を否定し、壁を抜けるイメージを強烈に植え付ける。
最後にこれから通り抜ける壁を睨み、その向こう側の風景を見通す。
いずみの頭の中に外の風景が鮮明に描かれる。
「よしっ!」
そう言って勢いよく壁に突進した。
『ゴイィィィィィィィィ~ん!!』
いずみの身体が一部だけ壁にめり込んだ。
「い、いったぁ~~~~いッ!」
洋風建築の壁は想像以上に厚く、上半分は漆喰のためにいずみの上半身の形に大陥没。
下半分は木製パネルが砕けていたが、基礎のコンクリートにはヒビ一つ入っていなかった。
「無駄に頑丈な造りねっ! さすが洋風建築だわっ!」
負け惜しみを喚きつつ、身体に着いた破片をはたき落すいずみだった。
要するに壁抜けではなく、本来のバカ力で突き破ろうとしたに過ぎない。
しかし、強固な建物はいずみの上を行く耐久性だっただけだ。
『今の音はなんだ? 奴らの攻撃か?』
轟音を聞きつけ、廊下に人が群がってきたのが分かった。
扉が勢いよく開け放たれ、湧似の男が飛び込んできた。
「貴様っ! 何をしたっ?」
もはやいずみが元凶であることは微塵も疑っていない。
「何で私って決めつけてるのよっ!」
と、抗議するものの、その後ろにある人型の壁の傷が全てを物語っている。
「お前、逃げ出そうとしたな。しかし、結界に気付かないで壁を破壊しようとしただろ」
「け、結界ぃ? あなた結界を知ってるの? てか、使えるの?」
今度はいずみが驚いた。
「あ、当たり前だろ。俺たち験力使いの基本だろう? ?というかお前も験力が使えるのか?」
「あ。」
失言だった。自分の正体に関わる事柄は一切口外するなと言われていたのに…。
早くもボロを出してしまった。
「そうよ! だから何?」
開き直りにも程があるセリフで虚勢をはる。
湧似の男は複雑な表情のまましばらくいずみを見つめていた。
やがて大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
「お前も未来から来た。そうだな?」
「はい? 何それ?」
いずみは顎が外れたような表情でポカンとした。
「…。くそっ! 時間の無駄だ。いいかよく聞けよ。俺たちも未来からこの時代に転移してきたんだ」
「へ? ええっー!?」
「ただ、お前は俺たちとは別の未来世界から来たようだ」
「え? まあ確かに私の知ってる湧はあんたみたいに偉そうなことは言わないわ」
多少虚飾をしているが、まぁいずみ的には湧はそういう感じらしい。
「何を言ってる? なんとなくお前の知っている男に似ているらしいことには気づいていたが…」
「逆にあんたが湧に似てるのが私には腹が立ってるんですけど!」
「その男はお前の恋人なのか? 趣味が悪い!」
「は、ハァァァァ?? 湧の顔でそんなこと言われると… …」
いずみの言葉が途切れ、鼻の穴が膨らみ…。
「ヤダァァァァァ!」
突然泣き出してしまった。
余程、心に耐えきれない感情の嵐が吹き荒れたのだろう。
目の前の男は湧ではないと理解してるものの、湧に拒絶されたみたいで耐えきれなかった。
「お、おい。悪かった。俺が意地悪だったよっ! ごめん」
… … …。
この男もいずみには弱いらしい。
「いいかよく聞けよ? 俺たちは2030年のEDO CITYから来たんだ」
「EDO CITY? 何それ?」
まだ目尻に涙を溜めたまま睨み返すいずみ。
とにかく、いずみが落ち着くまで待ってくれたにも関わらず、態度は硬化したままだ。
「いいから聞いてろ。俺たちの世界はエネルギー資源が枯渇して、異次元からエネルギーを搾取し始めた」
「リーダー、それは…」
隣にいた参謀格の男に袖を引かれた。
「いい。こいつも同じような理由で転移してきたんだろうからな」
「同じ理由? じゃああんたたちも導尊を退治しに?」
「どうそん? なんだそれは?」
湧似の男の表情はとても惚けている雰囲気ではない。
本当に知らないらしい、といずみは直感した。
と、同時に自分たちの世界の情報を教えていいものか悩んだ、
「その男? がどういうものかはわからないが、そいつはソウルコンバーターに関わっているのか?」
「リーダーぁ!」
さっきの男は我慢できずに横槍を入れる。
「ソウルコンバーターを知ってるの?」
いずみは男の横槍に構わず、湧似の男に詰め寄った。
「ああ、あの悪魔のマシンによって、俺たちの世界は滅亡寸前だ」
「悪魔のマシン? ソウルコンバーターが?」
「お前たちの世界では違うのか? なんなんだあのマシンはっ! 知ってることを全て話せ!」
余程憎んでいるのだろう。湧似の男の拳が血が噴き出しそうなくらい硬く握られている。
いずみはそれを見て、この男たちを信用してもいいと思った。
「話は長くなるけど…いい?」
「もちろんだ。どんな些細なことでもいい、全て教えてくれ」
「分かったわ」
と、言いつつも何から話していいのか見当がつかない。
いずみだってソウルコンバーターに精通してる訳じゃないのだ。
「あ、そうか。まずソウルコンバーターは、湧のお父さんが開発した新しいエネルギープラントだって言ってた」
「湧? お前の彼氏のか?」
「あ、あれ? あなたの名前は“如月 湧”じゃないの?」
「何! 如月? あいつら…、別世界でもロクなことしてないな」
湧似の男は“湧”という名前じゃないことに、少し安堵したものの、その言い方に違和感を感じた。
「あいつら? ロクなこと? あなたの世界では何があったの? 教えて」
「あまり時間がないと言ったろう。詳しく話してる時間はないんだ。でもこれだけは伝えた方がいいだろう」
そう言って本当に簡単な説明をする。
それによると、この男の世界では化石燃料は枯渇し、原子力発電もメンテナンスの問題から燃料となるウランの精製ができなくなってしまった。
電力は一部の支配層のみの利用に制限され、一般層や貧困層は自家発電もしくは廃油のランプ等を使っていた。
そんな時に突如現れたのが“ソウルコンバーター”だった。
当初は自家発電装置として販売されていたが、燃料は空気中から自動収集、メンテナンスフリー、一般層でも無理なく購入できる安価な売価設定で、大ヒットした。
従来の電力システムより設置等のインフラ整備が安易な上、単独で稼動できるために設置場所を選ばないことも手伝って、一般層や貧困層の方が電力事情は良好になる。
逆に従来のインフラを牛耳っていた富裕層の不評を買い、使用禁止の法令を発布したが反発する勢力との全面抗争に発展してしまう。
不思議なことに、ソウルコンバーターの富裕層への販売は行われなかった。
販売ルートがどうなっているのか誰も知らないが、ある日突然、有志による設置が行われる。
言い方を変えれば、突然出現するという感じだった。
ソウルコンバーターは供給ユニットのコンセントにプラグを差し込むだけ。
大きさは5トンコンテナ1個分なので、ちょっとした空き地にも置かれていた。
「何よそれ? 私たちの世界のソウルコンバーターとは大きさが違いすぎるわ」
「大きさ? 大きいのか?」
「う~ん大体トラック4台分? 私が見たのは大きなコンテナが4つ並んでたわ」
いずみの通う築地川高校の地下にあったものだ。
それ以外には見ていないから、それが大きいのか小さいのかは判断できない。
でも5トンコンテナというものまで小さくはなかった気がする。
「なんか変だな? それが異次元からのエネルギー収集に使われていたのか?」
「異次元からっていうのは後から知ったんだけど…、あ、そか、最初は大気中のエーテルとかいうのを収集してエネルギーに変換とか言ってたっけ」
「エーテル? なんだそれ? オゾンのことか?」
「よく分からないけど、空中の物質を回収してエネルギーに変換するってことらしいわ」
「はぁ、お前たちもか…、で、それを信じてるわけじゃないんだろ?」
男は何かを理解したように表情を緩めて言った。
「後で知ったことだけど、ソウルコンバーターは多次元のエネルギーを搾取してたようね」
「だからさっき俺が言った時に驚かなかったんだな。…で、そのエネルギー源は何か知ってるんだろ?」
「…。ええ。」
いずみは逡巡した。ルイーナの世界の思念体を搾取して、エネルギー化したわけではないと分かってはいるものの、その原料については不気味な印象が拭えない。
「悪意。その世界の悪霊のような思念らしいわ」
「え? 俺たちの世界では、6次元以上の世界から思念体…いわゆるその世界の生命体を強引にエネルギー化したものだと…」
「な! あなたたちの世界だったの? 6次元人を無差別に殺していたのはっ!」
いずみの怒りは一気に最高潮に達した。
ルイーナの家族・友人・知人を殺したのがこの男の世界だと思い込んだ。
「ち、違う! 俺たちじゃない! 陰陽師どもだ!」
「おんみょうじぃ? あれ?」
「な、なんだよ? 陰陽師がどうかしたのか?」
男は怪訝な表情で聞き返す。
「う~ん。これは話してもいいのかなぁ? 実は私が西暦2028年から来たのは、陰陽師の強硬派の撲滅なの」
「強硬派? 陰陽師に穏健派も強硬派もないだろう? 奴らは世界の全てを牛耳ろうとしているんだ。俺たちは手遅れにならないようこの時代にやってきた」
「ということは、あなたたちの敵は陰陽師なの?」
「さっきからそう言ってるだろ?」
「私たちの世界の陰陽寮は、明治時代に廃止解散させられて、残党が悪事に落ちたの」
最後の陰陽頭、土御門晴雄が明治2(1869)年に薨じたのを機に翌年廃止された。
ほとんどの陰陽師は、私的陰陽師として占いや厄払い等の祭事を生業にしたが、廃止を不満に思った一部の過激派閥は集団を組み、闇の稼業組織に発展した。
いずみの世界の明治時代に蔓延った組織は、導尊が首謀者だと判明している。
その導尊の討伐がいずみの使命なのだ。
が!
「明治? なんだそれ?」
湧似の男は呆れた声で聞き返した。
「なんだ? って、元号よ元号。今は明治6年よね?」
「元号は慶応だぞ? そのあと開国を機に元号は廃止され、西暦に統一された」
「? はい? 明治とか大正とか昭和、平成、令和は?」
「だからなんだよそれ?」
「リーダー、キリがないから先に進めましょう」
呆れ顔で突っ込む参謀格の男。
「そ、そうだな。ん? ちょっと待った。元号が変わって、『明治』とか言ってたな。なんで変わったんだ? 元号が変わるのは余程のことがあった時だけだ」
「私もよく知らないけど、確か『禁門の変』とか社会情勢によるものだということだけど。一番は開国により、西洋諸国との貿易に対応するためだと聞いたけど…」
「禁門の変だと? それは陰陽師による強権発動事変のことか?」
参謀格の男に視線を向けて問う。
「で、しょうな。やはり世界の分裂はこの時代が原因のようです」
「ではこのまま作戦を遂行しよう。ところで君はどうする? お姫様?」
皮肉を込めていずみに話を向けた。
「お? 姫様? 私の名前は…、あ!あなたの名前を聞いてないわ。まずあなたから名乗るべきじゃない?」
いずみは少し怒りを込めてやり返した。
「これはまた強気な。ま、仕方ないか。俺の名は『水無月泉』この時代の陰陽師を討伐するために結成された『八咫烏』のリーダーだ」
「へ? 今なんて言ったの?」
いずみは聞き捨てならない単語を聞いたような気がして、思わず聞き返した。
「覚えが悪いな。だから未来世界を破滅に導く、この時代の陰陽師をとう…」
「そこじゃないわよ! 名前! あなたの名前を聞いてるのっ!」
「なんだ聞き漏らしたのか? 水無月泉だ」
「な、なんですってぇ~! それっ! 私の名前じゃないっ!」
「え? 何言ってんだ?」
水無月泉はいずみを不審な目つきで睨む。
「意味わかんない。なんで私の名前っていうか、同姓同名?」
いずみは頭を抱えて叫び続けた。
<続く>
…
しかも軟禁状態なので、鍵は外からしか開けられない。
…当たり前だった。
「なんなのよ! 開かないじゃないっ!」
あまりにも当たり前のことをいずみは忘れていた。
自分は囚われていたのだと。
扱いがかなり改善されたとは言え、未だに不審者には変わりなかったのだ。
いずみは験力使いとはいえ、験力で壁抜けみたいな超能力は当然使えない。
「? 使えない? 試したことなかっただけで、できるかも! だってここは異世界だもん!」
都合のいい理由で、まず自分の認識を書き換えようとする。
こういうところがいずみの長所だろう。
まず丹田(へそのあたり)に意識を集中して、“気”を練り込む。
次に自分自身の認識(常識)を否定し、壁を抜けるイメージを強烈に植え付ける。
最後にこれから通り抜ける壁を睨み、その向こう側の風景を見通す。
いずみの頭の中に外の風景が鮮明に描かれる。
「よしっ!」
そう言って勢いよく壁に突進した。
『ゴイィィィィィィィィ~ん!!』
いずみの身体が一部だけ壁にめり込んだ。
「い、いったぁ~~~~いッ!」
洋風建築の壁は想像以上に厚く、上半分は漆喰のためにいずみの上半身の形に大陥没。
下半分は木製パネルが砕けていたが、基礎のコンクリートにはヒビ一つ入っていなかった。
「無駄に頑丈な造りねっ! さすが洋風建築だわっ!」
負け惜しみを喚きつつ、身体に着いた破片をはたき落すいずみだった。
要するに壁抜けではなく、本来のバカ力で突き破ろうとしたに過ぎない。
しかし、強固な建物はいずみの上を行く耐久性だっただけだ。
『今の音はなんだ? 奴らの攻撃か?』
轟音を聞きつけ、廊下に人が群がってきたのが分かった。
扉が勢いよく開け放たれ、湧似の男が飛び込んできた。
「貴様っ! 何をしたっ?」
もはやいずみが元凶であることは微塵も疑っていない。
「何で私って決めつけてるのよっ!」
と、抗議するものの、その後ろにある人型の壁の傷が全てを物語っている。
「お前、逃げ出そうとしたな。しかし、結界に気付かないで壁を破壊しようとしただろ」
「け、結界ぃ? あなた結界を知ってるの? てか、使えるの?」
今度はいずみが驚いた。
「あ、当たり前だろ。俺たち験力使いの基本だろう? ?というかお前も験力が使えるのか?」
「あ。」
失言だった。自分の正体に関わる事柄は一切口外するなと言われていたのに…。
早くもボロを出してしまった。
「そうよ! だから何?」
開き直りにも程があるセリフで虚勢をはる。
湧似の男は複雑な表情のまましばらくいずみを見つめていた。
やがて大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
「お前も未来から来た。そうだな?」
「はい? 何それ?」
いずみは顎が外れたような表情でポカンとした。
「…。くそっ! 時間の無駄だ。いいかよく聞けよ。俺たちも未来からこの時代に転移してきたんだ」
「へ? ええっー!?」
「ただ、お前は俺たちとは別の未来世界から来たようだ」
「え? まあ確かに私の知ってる湧はあんたみたいに偉そうなことは言わないわ」
多少虚飾をしているが、まぁいずみ的には湧はそういう感じらしい。
「何を言ってる? なんとなくお前の知っている男に似ているらしいことには気づいていたが…」
「逆にあんたが湧に似てるのが私には腹が立ってるんですけど!」
「その男はお前の恋人なのか? 趣味が悪い!」
「は、ハァァァァ?? 湧の顔でそんなこと言われると… …」
いずみの言葉が途切れ、鼻の穴が膨らみ…。
「ヤダァァァァァ!」
突然泣き出してしまった。
余程、心に耐えきれない感情の嵐が吹き荒れたのだろう。
目の前の男は湧ではないと理解してるものの、湧に拒絶されたみたいで耐えきれなかった。
「お、おい。悪かった。俺が意地悪だったよっ! ごめん」
… … …。
この男もいずみには弱いらしい。
「いいかよく聞けよ? 俺たちは2030年のEDO CITYから来たんだ」
「EDO CITY? 何それ?」
まだ目尻に涙を溜めたまま睨み返すいずみ。
とにかく、いずみが落ち着くまで待ってくれたにも関わらず、態度は硬化したままだ。
「いいから聞いてろ。俺たちの世界はエネルギー資源が枯渇して、異次元からエネルギーを搾取し始めた」
「リーダー、それは…」
隣にいた参謀格の男に袖を引かれた。
「いい。こいつも同じような理由で転移してきたんだろうからな」
「同じ理由? じゃああんたたちも導尊を退治しに?」
「どうそん? なんだそれは?」
湧似の男の表情はとても惚けている雰囲気ではない。
本当に知らないらしい、といずみは直感した。
と、同時に自分たちの世界の情報を教えていいものか悩んだ、
「その男? がどういうものかはわからないが、そいつはソウルコンバーターに関わっているのか?」
「リーダーぁ!」
さっきの男は我慢できずに横槍を入れる。
「ソウルコンバーターを知ってるの?」
いずみは男の横槍に構わず、湧似の男に詰め寄った。
「ああ、あの悪魔のマシンによって、俺たちの世界は滅亡寸前だ」
「悪魔のマシン? ソウルコンバーターが?」
「お前たちの世界では違うのか? なんなんだあのマシンはっ! 知ってることを全て話せ!」
余程憎んでいるのだろう。湧似の男の拳が血が噴き出しそうなくらい硬く握られている。
いずみはそれを見て、この男たちを信用してもいいと思った。
「話は長くなるけど…いい?」
「もちろんだ。どんな些細なことでもいい、全て教えてくれ」
「分かったわ」
と、言いつつも何から話していいのか見当がつかない。
いずみだってソウルコンバーターに精通してる訳じゃないのだ。
「あ、そうか。まずソウルコンバーターは、湧のお父さんが開発した新しいエネルギープラントだって言ってた」
「湧? お前の彼氏のか?」
「あ、あれ? あなたの名前は“如月 湧”じゃないの?」
「何! 如月? あいつら…、別世界でもロクなことしてないな」
湧似の男は“湧”という名前じゃないことに、少し安堵したものの、その言い方に違和感を感じた。
「あいつら? ロクなこと? あなたの世界では何があったの? 教えて」
「あまり時間がないと言ったろう。詳しく話してる時間はないんだ。でもこれだけは伝えた方がいいだろう」
そう言って本当に簡単な説明をする。
それによると、この男の世界では化石燃料は枯渇し、原子力発電もメンテナンスの問題から燃料となるウランの精製ができなくなってしまった。
電力は一部の支配層のみの利用に制限され、一般層や貧困層は自家発電もしくは廃油のランプ等を使っていた。
そんな時に突如現れたのが“ソウルコンバーター”だった。
当初は自家発電装置として販売されていたが、燃料は空気中から自動収集、メンテナンスフリー、一般層でも無理なく購入できる安価な売価設定で、大ヒットした。
従来の電力システムより設置等のインフラ整備が安易な上、単独で稼動できるために設置場所を選ばないことも手伝って、一般層や貧困層の方が電力事情は良好になる。
逆に従来のインフラを牛耳っていた富裕層の不評を買い、使用禁止の法令を発布したが反発する勢力との全面抗争に発展してしまう。
不思議なことに、ソウルコンバーターの富裕層への販売は行われなかった。
販売ルートがどうなっているのか誰も知らないが、ある日突然、有志による設置が行われる。
言い方を変えれば、突然出現するという感じだった。
ソウルコンバーターは供給ユニットのコンセントにプラグを差し込むだけ。
大きさは5トンコンテナ1個分なので、ちょっとした空き地にも置かれていた。
「何よそれ? 私たちの世界のソウルコンバーターとは大きさが違いすぎるわ」
「大きさ? 大きいのか?」
「う~ん大体トラック4台分? 私が見たのは大きなコンテナが4つ並んでたわ」
いずみの通う築地川高校の地下にあったものだ。
それ以外には見ていないから、それが大きいのか小さいのかは判断できない。
でも5トンコンテナというものまで小さくはなかった気がする。
「なんか変だな? それが異次元からのエネルギー収集に使われていたのか?」
「異次元からっていうのは後から知ったんだけど…、あ、そか、最初は大気中のエーテルとかいうのを収集してエネルギーに変換とか言ってたっけ」
「エーテル? なんだそれ? オゾンのことか?」
「よく分からないけど、空中の物質を回収してエネルギーに変換するってことらしいわ」
「はぁ、お前たちもか…、で、それを信じてるわけじゃないんだろ?」
男は何かを理解したように表情を緩めて言った。
「後で知ったことだけど、ソウルコンバーターは多次元のエネルギーを搾取してたようね」
「だからさっき俺が言った時に驚かなかったんだな。…で、そのエネルギー源は何か知ってるんだろ?」
「…。ええ。」
いずみは逡巡した。ルイーナの世界の思念体を搾取して、エネルギー化したわけではないと分かってはいるものの、その原料については不気味な印象が拭えない。
「悪意。その世界の悪霊のような思念らしいわ」
「え? 俺たちの世界では、6次元以上の世界から思念体…いわゆるその世界の生命体を強引にエネルギー化したものだと…」
「な! あなたたちの世界だったの? 6次元人を無差別に殺していたのはっ!」
いずみの怒りは一気に最高潮に達した。
ルイーナの家族・友人・知人を殺したのがこの男の世界だと思い込んだ。
「ち、違う! 俺たちじゃない! 陰陽師どもだ!」
「おんみょうじぃ? あれ?」
「な、なんだよ? 陰陽師がどうかしたのか?」
男は怪訝な表情で聞き返す。
「う~ん。これは話してもいいのかなぁ? 実は私が西暦2028年から来たのは、陰陽師の強硬派の撲滅なの」
「強硬派? 陰陽師に穏健派も強硬派もないだろう? 奴らは世界の全てを牛耳ろうとしているんだ。俺たちは手遅れにならないようこの時代にやってきた」
「ということは、あなたたちの敵は陰陽師なの?」
「さっきからそう言ってるだろ?」
「私たちの世界の陰陽寮は、明治時代に廃止解散させられて、残党が悪事に落ちたの」
最後の陰陽頭、土御門晴雄が明治2(1869)年に薨じたのを機に翌年廃止された。
ほとんどの陰陽師は、私的陰陽師として占いや厄払い等の祭事を生業にしたが、廃止を不満に思った一部の過激派閥は集団を組み、闇の稼業組織に発展した。
いずみの世界の明治時代に蔓延った組織は、導尊が首謀者だと判明している。
その導尊の討伐がいずみの使命なのだ。
が!
「明治? なんだそれ?」
湧似の男は呆れた声で聞き返した。
「なんだ? って、元号よ元号。今は明治6年よね?」
「元号は慶応だぞ? そのあと開国を機に元号は廃止され、西暦に統一された」
「? はい? 明治とか大正とか昭和、平成、令和は?」
「だからなんだよそれ?」
「リーダー、キリがないから先に進めましょう」
呆れ顔で突っ込む参謀格の男。
「そ、そうだな。ん? ちょっと待った。元号が変わって、『明治』とか言ってたな。なんで変わったんだ? 元号が変わるのは余程のことがあった時だけだ」
「私もよく知らないけど、確か『禁門の変』とか社会情勢によるものだということだけど。一番は開国により、西洋諸国との貿易に対応するためだと聞いたけど…」
「禁門の変だと? それは陰陽師による強権発動事変のことか?」
参謀格の男に視線を向けて問う。
「で、しょうな。やはり世界の分裂はこの時代が原因のようです」
「ではこのまま作戦を遂行しよう。ところで君はどうする? お姫様?」
皮肉を込めていずみに話を向けた。
「お? 姫様? 私の名前は…、あ!あなたの名前を聞いてないわ。まずあなたから名乗るべきじゃない?」
いずみは少し怒りを込めてやり返した。
「これはまた強気な。ま、仕方ないか。俺の名は『水無月泉』この時代の陰陽師を討伐するために結成された『八咫烏』のリーダーだ」
「へ? 今なんて言ったの?」
いずみは聞き捨てならない単語を聞いたような気がして、思わず聞き返した。
「覚えが悪いな。だから未来世界を破滅に導く、この時代の陰陽師をとう…」
「そこじゃないわよ! 名前! あなたの名前を聞いてるのっ!」
「なんだ聞き漏らしたのか? 水無月泉だ」
「な、なんですってぇ~! それっ! 私の名前じゃないっ!」
「え? 何言ってんだ?」
水無月泉はいずみを不審な目つきで睨む。
「意味わかんない。なんで私の名前っていうか、同姓同名?」
いずみは頭を抱えて叫び続けた。
<続く>
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嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
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