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第12章

12-02奇襲

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 「お前の得意技は何だ?」
  湧似の泉、改め“せん”は半眼でいずみに問うた。
 「得意…わざ? え~と、殴る、蹴る? かな?」
 「は? お前、方術師じゃないのか?」
 呆れを通り越して“せん”は口を半開きしたまま固まった。
 「あ、あれ? どうしたのよ?」
 いずみは自分の発言の異常さに全く気づいていない。
 思えば時間遡行の前は、フラッパーズスーツでの戦闘で肉弾戦のような戦い方が多かった。
 それ以前は曲がりなりにも“九字”を斬り、悪霊や怪異に気を叩きつけて“除霊”してきた。
 方術を基本にしてはきたが、いずみのお務めはあくまで“除霊師”だった。
 つまり、人外である。
 得意技と言われても、拳や脚に気をまとわせていただけだったのだ。
 言うなれば“パンチ”や“キック”というのはウソではない。
 が、導尊の手下とはいえ、陰陽師はただの人間だ。いずみが本気で戦えるか皆不安だった。

 パラレルワールドとはいえ、今のいずみにとってはここが現実世界である。
 相手はいずみの都合などに関係なく、本気で殺しにくるだろう。
 この世界で命を落としたら元の世界で目を覚ます…などと都合のいいことにはならない。
 ここで死んだら元の世界には戻れず、そのまま行方不明者となってしまうだろう。
 そんなことは時間遡行する前に、大介から耳にタコができるほどしつこく教え込まれていた。
 で、やぅ”ぁいのだ。
 今いずみは命の危機に直面している。
 いや、命そのものではなく“尊厳”というべきか?
 「何でよっ! どうして私の方術が効かないのよぉーっ!」
 「お前、使えねーなぁ~、わかってたけど…」
 いずみを睨めつける“せん”の視線が痛い。
 「い…せん! 実際、彼女の方術が使えないとなったら作戦を変更しなくてはならないですよ!」
 自分で提案した坂戸もつい、言い直すほどまだ馴染んでいない呼称に苦労しつつ、作戦の中止か変更を提案する。
 襲撃は今夜。
 その前にそれぞれの戦力を確認すべく、中庭で模擬戦を開始したばかりだった。
 「ああ~、くそっ! お前、もしかすると力の原点を理解してないんだろっ!」
 “せん”は苛立たしげに、よくわからないことを言い出した。
 「へ? 原点? 理解?」
 「やっぱりそうか。お前今まで無自覚に力使ってたんだろ!」
 いきなりそんなことを聞かれても、いずみには心あたりがない。
 そもそも方術というのは、心身を鍛えて強く念じれば使えるものだと考えていた。
 しかし、改めて考えてみると、何もないところから力が発生するのはおかしい。
 「…え? 無自覚? だってそれは私の“気”の力じゃないの?」
 いずみは思ってもいなかった問いかけに混乱した。
 「“気”? 気ってなんだよ。というかお前、正気か?」
 せんは呆れつつも、いずみが方術の基礎原理すら理解してなかった事実を察知した。
 「坂戸…こいつに…方術の基礎原理を教えてやってくれ、俺じゃ無理だ」
 「…そ、そうですね。解りました」
 坂戸はいずみをテラスにあるベンチに座らせ、深呼吸をした。
 「いずみさん。方術とはどんなものかご存知ですか?」
 「どんな…もの? “気”を練り上げて人外に叩きつける… かな?」
 「叩きつけるのは何でしょうか?」
 「う~ん。エネルギーの塊・・・なのかなぁ?」
 眉間に皺を寄せて考えながら答えるいずみ。
 思えば自分がどのような経緯で力を得ていたのか、今まで真剣に考えたことはなかった。
 「私たちが行使している方術とは、次元を超えたエネルギーの一種です。これは物質世界にも干渉できるものですが、それには触媒が必要なのです」
 「触媒? それはどういうものなの?」
 「説明しにくいのですが、例えば人間を例に挙げると、非物質エネルギーは精神体、いわゆる霊体です。物質は肉体でその間を結ぶ触媒と言えるのが幽体です」
 「霊体は非物質エネルギーなの? でも私の世界では霊体は約25gの重さがあると言われてるけど…」
 「それは霊体ではありません。我々の世界ではその重さは“幽体“の物質側の重さだと判明してます」
 「…へ? 物質側? ってどういう意味?」
 「あったま悪いなぁ、霊体は非物質世界で肉体は物質世界だから、両方をつなぐ幽体は半分非物質だってことだろ?」
 「何よっ! あんたこそ解ってんの?」
 「せん。横から口を挟まないでください。いずみさんが混乱するでしょう」
 呆れて、坂戸はせんを窘めた。
 「つまりこの3次元世界と他の次元を跨いでるってことです。といっても、この3次元世界のエネルギー体の全てが解明されてる訳じゃありませんけどね。いずみさんの世界ではどの程度改名されてましたか?」
 「え~と。10%ぐらいかな?」
 ※実際には2023年時点では、5%以下しか解明されていない※
 「すごい! 我々の世界というか、私たちのEDO CITYでは電力が使えなかったため、方術を駆使しても宇宙の全エネルギーの8%しか解明できませんでした」
 「やっぱり電力があると効率がいいんだろうな」
 せんが不満そうに呟いた。
 「?どういうこと? 何か電力と関係があるの?」
 「そりゃそうだろ。まず分析が詳細にできるし、記録や研究結果の比較がしやすいんだろ?」
 「あれ? あなたたちの世界にはパソコンってないの?」
 「パソコン? 何だそれ?」
 せんは大真面目な表情で聞き返した。
 「いずみさん。我々の世界は国外との交流がほとんどなく、照明やラジオしか電気製品はありません。海外では色々高度な電気製品があるようですが、EDO CITYに密輸したところで使うことができないのです」
 「ええっ! じゃあTVとかも?」
 「テレビというのは、テレビジョンっていう映像を映す機械のことか? 聞いたことはあるぞ」
 せんが口を挟んできた。
 「せん。話が逸れるから…」
 坂戸が半眼で睨む。
 「おお。ごめん」
 「さて、さっきお話しした物質の解明ですが、瞑想して高次元とのコンタクトで大宇宙の構造を感じます」
 「大宇宙? 構造… あの曼荼羅みたいなところ? かなぁ…」
 『「なにっ!?」』
 いずみが無意識に呟いた一言で、せんと坂戸が目を見開いて驚く。
 「お、おま。あれを観たのか?」
 せんが覗き込むようにいずみに顔を近づけた。
 「わわ、ち、近い、近い! 宇宙空間に無数に並んでる玉を見ただけよっ!」
 「げ! 見ただけって、お前それでどうした?」
 「う~ん。夢みたいな感じだったから良く覚えてないんだけど…、一つ一つの玉の中に人影が見えて、動いてた?」
 「さ、坂戸。大数宇宙だよな、それ」
 「そうですね。だから彼女は私たちの前に現れたんじゃないでしょうか?」
 「な、何よ。 ?大数宇宙? なにそれ?」
 「あれを観て宇宙の真理を理解できていないって、逆にすごいな」
 「確かに。でもそれなら方術がどういうものか解らないのも頷けます」
 「そうだな」
 「おい~。なんかバカにされてない? 私」
 我慢できずにいずみが怒鳴り出す。
 「そんなことはないですよ」
 坂戸が棒読みセリフで答えた。
 「とにかく。あの玉の一つ一つが独立した宇宙です。じゃあそれをあなたはどこで見てたんでしょうか?」
 「どこ? 宇宙空間じゃないの?」
 「ではどこの宇宙ですか?」
 坂戸はとにかく少しずつでもいずみの理解を深めようと苦心した。
 「だから、う…。あれ?玉が宇宙なら私がいた玉は? あれれ? 玉の中からは外が見えない?」
 「ですね。我々は宇宙が集まった空間を“大数宇宙”と呼んでます。大数宇宙の中にある各個別の宇宙は物質以外のエネルギーなら出入りできます」
 「物質以外? 思念や精神体は行き来できるの?」
 「思念は精神体の一部ですよ。光や時間などの物質由来のエネルギーはゲートを越えられません」
 「ゲート?」
 物質世界は物質の基となる元素がひしめき合っている。
 そこには純粋なエネルギーが安定して存在できる余裕がないと言われている。
 エネルギー自体に物質的空間は必要なく、多次元とも繋がっていれば自在に行き来できる。
 それが“ゲート”だ。
 つまり物質に影響されないエネルギーは、いつでもどこでも多次元への行き来、もしくはエネルギーの抽出ができるという。
 「それが方術?」
 坂戸の説明はいずみでも理解できる内容だった。
 「方術はそのエネルギーをこの物質世界で具象化する力なのです」
 「ってことは、今私が方術を使えないのは…」
 「分かりますか? あなたの世界とは異なるエネルギーなのでしょう。ならばこの世界でのエネルギー源を意識する必要があるのです」
 「へ?」
 「普段は何を思って方術を駆使してますか?」
 「う~ん。怪異の除霊? かな?」
 いずみはお務めの間は特に力を意識したことがなかった。
 それは人が無意識に見る。歩く。話すといった極当たり前の行いと同じだからだ。
 「なら、目に見えるもの以外の思念を感じてください。多分悪意があれば、あなたならすぐにわかるでしょう」
 「悪意…、あ、そうか。人そのものではなくて、その人の意識…思念体を感じるのね」
 「そういうことです。我々は人そのものは仮の姿でしか…まやかしだと考えてます」
 物質自体は思念を持たない。物質に思念が宿ることで、動物や植物などの“生物”となるのだ。
 その物質と思念を紐付けるのが“幽体”だ。
 「あ、怪異ってのはその思念に悪意があって、物質や幽体に憑依した状態なのかな?」
 「まあ、憑依しなくても悪意が影響を及ぼすこともありますが…」
 「その最たるものが“導尊”というわけだ。奴は必要な時以外人に憑依しないから、討伐が困難だった」
 せんが忌々しそうに呟いた。
 「その導尊が比較的長い期間、ある人物に憑依…というより、融合していたのがこの時代の今晩からなのです」
 坂戸は真剣な表情で続ける。
 「その人物が今晩二条城で降臨の儀式を行います。一度融合してしまうと、その人物が死なない限り分離できないらしいのです」
 「え? それって…」
 アルフと同じ…と言おうとして、いずみは二人がアルフの話題をしていなかったことに気づいた。
 「(この世界にはアルフがいないのかな?)」
 「どうかしましたか?」
 坂戸が怪訝な顔で聞く。
 「あ、なんでもない。で、!今晩? 作戦ってまさか!」
 「何言ってる。さっきから作戦は今晩、二条城を奇襲するって言ってるだろ?」
 せんが呆れ顔で答えた。
 「奇襲ってどうするの? 導尊を討伐するの?」
 「討伐し、拘束する。ただし陰陽師頭と融合してからだ」
 「あ、そうか。殺しちゃったら思念体になって逃げられちゃうもんね」
 「そういうことだ。ただし捕縛するのはとても難しい」
 「儀式の参会者がいるから? そっちは始末してもいいんだよね?」
 いずみの軽い口調にせんも坂戸も驚く。
 「お前、人殺しの経験あるのか?」
 「人殺し? そんなのあるわけないじゃん」
 「え?」
 「今始末って言っただろ? それって殺すってことじゃないのか?」
 坂戸もせんもいずみの“始末”の意味を誤解していた。
 「やだなぁ、無力化つまり気を喪わせればいいんでしょ?」
 「あ~、びっくりした。お前意外と大胆だな。参会者というより儀式のための召喚士はただの人間だ。その命を奪えば、理由はどうあれ…お前も“魔”に落ちるぞ」
 「そんなこと分かってるわ。方術が験力を原動力としてるのも、“魔力”では負のエネルギーだからでしょ?」
 「その通りです。魔術、魔法は元をただせば呪い…つまり日本では“呪”を原動力とする陰陽師の技なのです」
 「あ! そうか。だからうちでは言霊を大事にしてきたんだ!」
 「うち? お前のうちって修験道の関係か?」
 「ううん。うちは神社だよ。大砲塚神社って言って…」
 「なんだと! もしかすると水無月ってお前も水無月家の?」
 「あれ? うちのこと知ってるの?」
 「いずみさん。知ってるもなにも…せんの、リーダーの実家ですよ」
 せんは頭を抱えてうずくまっていた。
 「あ。そうか」いずみは再び同じセリフを口にした。
 「なら、水無月家宗主はやはり…水無月兼成…なんだな」
 「うん。おじいちゃんだよ。それがどうしたの?」
 「い、いや。なんでもない。気にするな」
 「ん? 変なの…」
 「それより、失敗は許されない。お前も最低限の方術が使えるようになっておけよ」
 せんは言い捨てるようにいずみに言い、屋敷の中に入っていった。
 「何よ、偉そうに」
 「まあまあ、いずみさんは少しでも感覚を取り戻しておいてください」
 そう言って困ったような表情で、坂戸も屋敷に入っていった。
 今晩の作戦開始まであと5時間となった。
    <続く>
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