70 / 158
第5章
5-08搾取
しおりを挟む
いずみが放ったのは“気”を凝縮した手刀で、物理攻撃の一種だ。
“真空切り”とか“かまいたち”と同類のものだが、威力は絶大で広範囲に対応できる。
一閃とまではいかなかったが、数回で庭木や壁の一部を粉砕した。
「え? なにこれ? まるで金庫本体みたいな…」
一部が崩れた壁の中からは、黒い金属の板が見えていた。
「やっぱりね。予想はしてたよ」
湧は残っていた外壁を指弾で撃ち落としながら言った。
「あれだけの防御をしているんだから簡単にはいかないと思ってたけどね」
「でもこれじゃあ破壊は難しいんじゃないか?」
後ろで大介が半ば諦めたように言う。
「でも、もう時間がありません。ここから入るしかないでしょう」
そう言うと、湧は金属の壁に手をついた。
「ニブルヘイム…」
小さな声で氷の国の名を唱える。
一拍おいて、金属の壁が内側から盛り上がるように歪みだした。
「湧、それって…」
「いずみが気付いた通り、内部にコンクリートが使われているから、そこに水分子を押し込んで凍らせたんだ」
「やっぱり…」
かなり盛り上がってきたところで、湧は壁から離れて坂戸たちに合図した。
「坂戸さん、お願いします」
「あ、ああ。任せておけっ! 初美っ! 行くぞ!」
「はい!」
坂戸と初美は両手を高く上げ、術式を唱える。
大技の場合、精神集中のために稀に大げさなポーズをとる場合がある。
二人の手のひらから炎が噴出し、その炎を壁に投げつけるように勢いよく前に突き出した。
4つの火の玉が盛り上がった壁に命中する。
まるで生きているかの如く、炎は壁に貼り付いて燃え上がる。
「すごい! 鉄が燃えてるみたい」
「あれは二人の思念で、炎をあの場所に固定しているんだ」
湧は優しい顔でいずみに説明してくれる。
「あ、それって私たちが水を操るのと同じことなの?」
「うん。そして…」
<ピュゥゥゥゥゥゥゥ~>
そこまで言いかけた時、壁に亀裂が入って蒸気が噴き出した。
「え? なんで?」
「さっき水分子とコンクリートを分解して、氷で鉄板を膨らませたでしょ。その後急激な熱で気化した水が内部を粉々に破壊したんだよ」
湧の作戦は内側から崩壊させることだったらしい。
「そして、これでぶち壊すっ! いずみも指弾を打ち込んでくれ!」
「はい!」
二人は次々と氷や水の指弾を壁に打ち込んだ。
<グァララララーッ>
鉄の壁はボロボロの岩のように崩れて、人が悠々と通れる穴が開いた。
辺りには水蒸気の靄が立ちこめているが、クリーチャーらしき反応はなかった。
「よし! 行くぞ。壁には触るなよ! 大やけどするぞ」
大介が指示すると、湧を先頭に穴を通って中の階段に入る。
どんな仕組みなのかは不明だが、壁全体がぼんやり光っているので足元が不安になることはない。
湧の父親は普通の人間なので、暗いと危ないからだろうと思われる。
「灯りがあるだけでも大助かりだな。だが油断はするなよ」
後ろから大介が注意する。
普段なら黙ってフォローするが、今回は湧も突っ走りがちなので気が気で無いようだ。
「わかってるわよぉ~」
湧に代わっていずみが答えた。
階段はかなり長く地下深く続いていた。
地下5階くらいまで降りると、急に広い空間の踊り場に出た。
「湧、ここって…」
「ああ、学校の地下とそっくりだ」
「いよいよ近づいてきたわけだな」
大介も緊張した声音で呟く。
「階段と違って照明が乏しいからよく見えませんが…」
「判ってる。かなり濃密な瘴気が溜まっている気をつけろ!」
ルイーナの言葉も引き継いで、大介が警告した。
その言葉が終わるか終わらないうちに、階段の下の方で何かが蠢きだした。
「うげっ、物質化し始めたみたい」
いずみが心底嫌そうに呻いた。
「もう時間がありません。私が一掃しますから、そのまま奥の扉まで進んでください」
ルイーナが再び弓を手にして、床に向かって構える。
「判った。行くぞみんな」
何か言いたそうな湧を抑えて、大介が階段を駆け下り出した。
<ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!>
その横をルイーナの放った矢が追い越してゆく。
<ジュジュジュ!>
物質化しかけていたクリーチャーが蒸発してゆく。
「すごい! あっという間に消えちゃった」
矢は徐々に広間の奥に向けて放たれ、靄のような濃い瘴気の中に道を作ってゆく。
湧たちが扉に辿り着いたのを確認して、ルイーナはレイピアに持ち替えて追いついてきた。
「あと5分! このまま突っ込みますっ!」
鋭い気迫を込めてレイピアを突き出すルイーナ。
<ガガガガガガガガ>
連続突きで最後の扉をぶち破る。
「ヒエッ! ルイーナ、人が違う~」
いずみが思わず後退りするほど、ルイーナの“気”は激しかった。
しかし、扉の向こうを覗いた瞬間、その理由が判った。
「「な、なんだこれはっ!」」
湧も大介も扉の奥にあるものを目にして、驚愕の表情で硬直した。
坂戸と初美が不審に思って覗くと、目を見開いたままその場で硬直した。
大介の動きも何か様子がおかしいと思って、いずみが声をかけようとしたが同じように硬直していた。
「大介さん。YOUありがとう。ここから先は私の仕事です」
「ルイーナ? 何を言って…」
湧が言い終わる前に、ルイーナの姿は忽然と消えた。
いや、消えたように感じただけだった。
部屋の中に入っていったルイーナの姿は、まるで高速撮影された画像のように幾重にも重なっている。
扉が破られた途端に、この広間ごと時間の流れが遅くなったようだ。
「湧、これってよく言う“マイクロセコンド”?」
「いや、俺たちは実際に通常の数百倍で動いているんだと思う。ルイーナに至っては数千倍…もしくは、止まった時間の中を動いているんだろう」
「なんか濃紺の世界で形が見えるのが不思議だね」
「今俺たちが見ているのは、可視光線による物体の形ではなく、概念としての形なんだろう」
物体は可視光線が反射して、その形や色の情報が確認できる。
しかし、完全にとは行かないまでも時間が止まった状態では、光も止まるために物体を認識することはできない。
今、二人が見て(感じて)いるのは、光によらない物質そのものの概念なのだ。
そのため色の情報や実際の形とは違って見えている。
「でも、ルイーナは? なぜルイーナは“尾”を引くように残像を残して動いているの?」
「俺たちが認識できる移動速度の限界なんだろう。それ以上でルイーナは動けているんだよ。きっと」
「ルイーナって…なに?」
いずみがドストライクな質問をぶつけてきた。
「俺よりいずみの方が詳しいんじゃないか?」
「単なる特撮ヒーローオタじゃないとは思ってたんだけどね…それ以外は何も知らなかったり…」
「どちらにしても、ルイーナがやってることを邪魔されないように援護しよう」
「判った! 頑張る」
クリーチャーそのものはいないが、妙なエネルギーの塊がルイーナの行動を阻止しようとしている。
湧といずみは一つ一つ丁寧に指弾で撃ち落としていった。
むやみに動いてルイーナの進路を妨げないように注意してるが、いかんせん急に違う場所に現れると避けようがない。
と、思うのは早計だった。
ルイーナの方が遥かに早い速度で動いているので、進路上に二人がいても難なく避けている。
「ルイーナから見ると私たちって…邪魔してるだけ?」
口を尖らせながらいずみがグチった。
《そんなことないです。むしろ私の援護をしてくれるだけ助かってます》
「へ? ルイーナの声が頭の中に!」
「ああ、俺にも聞こえた。すごい能力だよね」
二人は感心しつつも、現実の時間ではこの周辺500mが消滅するまで、3分しかなかったことを思い出す。
「いずみ、時間になったらこの周囲は完全に破壊させるんだ。今からじゃもう退避は不可能だろう」
「そんなこと…判ってるわ。でもこの得体の知れないものは何としてでも破壊しなくちゃいけないものね」
《破壊とはちょっと違います。オリジナルのソウルコンバーターがどのような作用をしているのか、それを調べているんです》
「え? 普通のと違うの?」
《全く違いました。これは…とても恐ろしい、使い方を誤ったらこの世界どころか、全ての次元を含む宇宙そのものが崩壊します》
「げ。そこまで?」
《私の本当の任務は、ソウルコンバーターのオリジナルを見つけ出して、その機能を調べ、無力化することです》
「アメリカではそこまで知っていたのか?」
湧が驚愕する。何しろソウルコンバーターといえば、まったく新しい無公害エネルギープラントとして全世界で600万台も稼働しているのだ。
そのオリジナルが恐ろしい機能を持っていると言っても、誰も信用しないだろう。
湧でさえ、父親が開発した怪しい装置ぐらいにしか考えていなかったのだ。
《アメリカではありません。アーカムを含む6次元世界での話です》
「え? どういうこと?」
いずみが不思議そうに問い返す。
《ソウルコンバーターは高次元からのエネルギーを“エーテル”と称して、この世界の電力に変換しています。しかし、その高次元のエネルギーというのは…》
ルイーナが二人の前に立ち止まった。
その表情は苦渋に満ちたもので、痛々しい。
「…」
「…まさか…」
《YOUの予想通りです。6次元の住民たちです…》
「な! そんなっ! どういうこと??」
《6次元の住民は、物質的な肉体と精神体を持つ最高位の存在で、それ以上の次元では肉体などの物質は存在できません》
「物質でなければどういう形をしてるの?」
いずみには想像ができない世界だと思った。
いや、既にそういう存在を二人知っているのだが…。
《全てエネルギーとして存在しています。ただし、そのエネルギー体はこの3次元には全く干渉できません》
「? どうして?」
《認識そのものが全く違うのです。この世界で、生まれながらにしての視覚障害者が色を認識できないのと同じようなものです》
「なるほど。でもどうして6次元の人をエネルギー化するの?」
《それが不明なのです。ただ、この世界ではエネルギー開発のために、核エネルギーなどを利用して蒸気を起こして電力を得ます。でも核エネルギーそのものを電力化することはまだできません》
「うん。エネルギー転換効率は60%くらいだって言ってるけど、それはタービンを回した後の排熱まで利用した場合で、元の核エネルギーのうち40%は損失しているらしいからね」
「え~、そんなに効率悪いの?」
「それでも火力発電よりははるかに効率いいんだよ」
《ソウルコンバーターはエネルギー資源枯渇の心配もなく、“エーテル”と称する原料をほぼ100%電力に転換できます》
「でもさ、その“エーテル”って6次元の人なんでしょ? どうやってこの世界に連れてくるの?」
《連れてはきません。3次元世界でソウルコンバーターを稼働させると、6次元世界にランダムにアクセスして、エネルギー…あなたたちの言葉を使うと“霊体”と“幽体”のみを搾取します》
「え? じゃあ、肉体…は?」
眉間に皺を寄せていずみが呟いた。
答えを得るつもりはなかった。それはいずみもよく知っている状態だからだ。
《会話をしている時、街を歩いてる時、寝ている時、突然“物”になるんです》
「ひ、ひどい…。でもなんで? なんでそこまでしてエネルギーを…」
「この3次元が化石燃料に頼ってきたことへの報いかもしれない…」
湧が静かに呟いた。
「何かの目的のために、アルフは膨大なエネルギーを必要としていたのかもしれない。しかし、この3次元ではエネルギー開発が遅れていて到底足りない。そこで高次元のエネルギーを利用しようと考えたのだろう」
《YOUの推論通りだと思います。アーカムでも最初は理由が解らず、突然死の原因を調査しました。そこで次元を超えて流出していることが判明したのです》
「でも、600万台ものソウルコンバーターで高次元の人をエネルギー化したら、すぐに6次元の住民は絶滅しない?」
《それがよく解らなかったのです。でも今まで調べた結果、高次元からの搾取は頻繁に行われていたわけではないようです》
「? どういうこと?」
「! もしかすると、この世界の霊体や幽体を?」
《その通りです。通常はその思念や怨念などの強い思念体を取り込んでいたようです》
「ゴーストバスター? 的な?」
《そこまで相手を特定してくれればいいのですが…エネルギー体なら見境なく搾取するでしょう。だから…、さくらさんや有紀さんも対象になります》
「あ! そうかっ!」
《そんなことはもう止めさせなければなりません》
「その通りだ。こんな呪われた機械は存在してはいけない!」
湧が怒りをあらわにした。
《もう少しで、調査が終わります。二人は外の3人を守っていてください》
「「わかった(うん)」」
いずみと湧は扉の外で硬直している3人の側に戻って行く。
その様子を見届けてルイーナは再び加速した。
<続く>
“真空切り”とか“かまいたち”と同類のものだが、威力は絶大で広範囲に対応できる。
一閃とまではいかなかったが、数回で庭木や壁の一部を粉砕した。
「え? なにこれ? まるで金庫本体みたいな…」
一部が崩れた壁の中からは、黒い金属の板が見えていた。
「やっぱりね。予想はしてたよ」
湧は残っていた外壁を指弾で撃ち落としながら言った。
「あれだけの防御をしているんだから簡単にはいかないと思ってたけどね」
「でもこれじゃあ破壊は難しいんじゃないか?」
後ろで大介が半ば諦めたように言う。
「でも、もう時間がありません。ここから入るしかないでしょう」
そう言うと、湧は金属の壁に手をついた。
「ニブルヘイム…」
小さな声で氷の国の名を唱える。
一拍おいて、金属の壁が内側から盛り上がるように歪みだした。
「湧、それって…」
「いずみが気付いた通り、内部にコンクリートが使われているから、そこに水分子を押し込んで凍らせたんだ」
「やっぱり…」
かなり盛り上がってきたところで、湧は壁から離れて坂戸たちに合図した。
「坂戸さん、お願いします」
「あ、ああ。任せておけっ! 初美っ! 行くぞ!」
「はい!」
坂戸と初美は両手を高く上げ、術式を唱える。
大技の場合、精神集中のために稀に大げさなポーズをとる場合がある。
二人の手のひらから炎が噴出し、その炎を壁に投げつけるように勢いよく前に突き出した。
4つの火の玉が盛り上がった壁に命中する。
まるで生きているかの如く、炎は壁に貼り付いて燃え上がる。
「すごい! 鉄が燃えてるみたい」
「あれは二人の思念で、炎をあの場所に固定しているんだ」
湧は優しい顔でいずみに説明してくれる。
「あ、それって私たちが水を操るのと同じことなの?」
「うん。そして…」
<ピュゥゥゥゥゥゥゥ~>
そこまで言いかけた時、壁に亀裂が入って蒸気が噴き出した。
「え? なんで?」
「さっき水分子とコンクリートを分解して、氷で鉄板を膨らませたでしょ。その後急激な熱で気化した水が内部を粉々に破壊したんだよ」
湧の作戦は内側から崩壊させることだったらしい。
「そして、これでぶち壊すっ! いずみも指弾を打ち込んでくれ!」
「はい!」
二人は次々と氷や水の指弾を壁に打ち込んだ。
<グァララララーッ>
鉄の壁はボロボロの岩のように崩れて、人が悠々と通れる穴が開いた。
辺りには水蒸気の靄が立ちこめているが、クリーチャーらしき反応はなかった。
「よし! 行くぞ。壁には触るなよ! 大やけどするぞ」
大介が指示すると、湧を先頭に穴を通って中の階段に入る。
どんな仕組みなのかは不明だが、壁全体がぼんやり光っているので足元が不安になることはない。
湧の父親は普通の人間なので、暗いと危ないからだろうと思われる。
「灯りがあるだけでも大助かりだな。だが油断はするなよ」
後ろから大介が注意する。
普段なら黙ってフォローするが、今回は湧も突っ走りがちなので気が気で無いようだ。
「わかってるわよぉ~」
湧に代わっていずみが答えた。
階段はかなり長く地下深く続いていた。
地下5階くらいまで降りると、急に広い空間の踊り場に出た。
「湧、ここって…」
「ああ、学校の地下とそっくりだ」
「いよいよ近づいてきたわけだな」
大介も緊張した声音で呟く。
「階段と違って照明が乏しいからよく見えませんが…」
「判ってる。かなり濃密な瘴気が溜まっている気をつけろ!」
ルイーナの言葉も引き継いで、大介が警告した。
その言葉が終わるか終わらないうちに、階段の下の方で何かが蠢きだした。
「うげっ、物質化し始めたみたい」
いずみが心底嫌そうに呻いた。
「もう時間がありません。私が一掃しますから、そのまま奥の扉まで進んでください」
ルイーナが再び弓を手にして、床に向かって構える。
「判った。行くぞみんな」
何か言いたそうな湧を抑えて、大介が階段を駆け下り出した。
<ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!>
その横をルイーナの放った矢が追い越してゆく。
<ジュジュジュ!>
物質化しかけていたクリーチャーが蒸発してゆく。
「すごい! あっという間に消えちゃった」
矢は徐々に広間の奥に向けて放たれ、靄のような濃い瘴気の中に道を作ってゆく。
湧たちが扉に辿り着いたのを確認して、ルイーナはレイピアに持ち替えて追いついてきた。
「あと5分! このまま突っ込みますっ!」
鋭い気迫を込めてレイピアを突き出すルイーナ。
<ガガガガガガガガ>
連続突きで最後の扉をぶち破る。
「ヒエッ! ルイーナ、人が違う~」
いずみが思わず後退りするほど、ルイーナの“気”は激しかった。
しかし、扉の向こうを覗いた瞬間、その理由が判った。
「「な、なんだこれはっ!」」
湧も大介も扉の奥にあるものを目にして、驚愕の表情で硬直した。
坂戸と初美が不審に思って覗くと、目を見開いたままその場で硬直した。
大介の動きも何か様子がおかしいと思って、いずみが声をかけようとしたが同じように硬直していた。
「大介さん。YOUありがとう。ここから先は私の仕事です」
「ルイーナ? 何を言って…」
湧が言い終わる前に、ルイーナの姿は忽然と消えた。
いや、消えたように感じただけだった。
部屋の中に入っていったルイーナの姿は、まるで高速撮影された画像のように幾重にも重なっている。
扉が破られた途端に、この広間ごと時間の流れが遅くなったようだ。
「湧、これってよく言う“マイクロセコンド”?」
「いや、俺たちは実際に通常の数百倍で動いているんだと思う。ルイーナに至っては数千倍…もしくは、止まった時間の中を動いているんだろう」
「なんか濃紺の世界で形が見えるのが不思議だね」
「今俺たちが見ているのは、可視光線による物体の形ではなく、概念としての形なんだろう」
物体は可視光線が反射して、その形や色の情報が確認できる。
しかし、完全にとは行かないまでも時間が止まった状態では、光も止まるために物体を認識することはできない。
今、二人が見て(感じて)いるのは、光によらない物質そのものの概念なのだ。
そのため色の情報や実際の形とは違って見えている。
「でも、ルイーナは? なぜルイーナは“尾”を引くように残像を残して動いているの?」
「俺たちが認識できる移動速度の限界なんだろう。それ以上でルイーナは動けているんだよ。きっと」
「ルイーナって…なに?」
いずみがドストライクな質問をぶつけてきた。
「俺よりいずみの方が詳しいんじゃないか?」
「単なる特撮ヒーローオタじゃないとは思ってたんだけどね…それ以外は何も知らなかったり…」
「どちらにしても、ルイーナがやってることを邪魔されないように援護しよう」
「判った! 頑張る」
クリーチャーそのものはいないが、妙なエネルギーの塊がルイーナの行動を阻止しようとしている。
湧といずみは一つ一つ丁寧に指弾で撃ち落としていった。
むやみに動いてルイーナの進路を妨げないように注意してるが、いかんせん急に違う場所に現れると避けようがない。
と、思うのは早計だった。
ルイーナの方が遥かに早い速度で動いているので、進路上に二人がいても難なく避けている。
「ルイーナから見ると私たちって…邪魔してるだけ?」
口を尖らせながらいずみがグチった。
《そんなことないです。むしろ私の援護をしてくれるだけ助かってます》
「へ? ルイーナの声が頭の中に!」
「ああ、俺にも聞こえた。すごい能力だよね」
二人は感心しつつも、現実の時間ではこの周辺500mが消滅するまで、3分しかなかったことを思い出す。
「いずみ、時間になったらこの周囲は完全に破壊させるんだ。今からじゃもう退避は不可能だろう」
「そんなこと…判ってるわ。でもこの得体の知れないものは何としてでも破壊しなくちゃいけないものね」
《破壊とはちょっと違います。オリジナルのソウルコンバーターがどのような作用をしているのか、それを調べているんです》
「え? 普通のと違うの?」
《全く違いました。これは…とても恐ろしい、使い方を誤ったらこの世界どころか、全ての次元を含む宇宙そのものが崩壊します》
「げ。そこまで?」
《私の本当の任務は、ソウルコンバーターのオリジナルを見つけ出して、その機能を調べ、無力化することです》
「アメリカではそこまで知っていたのか?」
湧が驚愕する。何しろソウルコンバーターといえば、まったく新しい無公害エネルギープラントとして全世界で600万台も稼働しているのだ。
そのオリジナルが恐ろしい機能を持っていると言っても、誰も信用しないだろう。
湧でさえ、父親が開発した怪しい装置ぐらいにしか考えていなかったのだ。
《アメリカではありません。アーカムを含む6次元世界での話です》
「え? どういうこと?」
いずみが不思議そうに問い返す。
《ソウルコンバーターは高次元からのエネルギーを“エーテル”と称して、この世界の電力に変換しています。しかし、その高次元のエネルギーというのは…》
ルイーナが二人の前に立ち止まった。
その表情は苦渋に満ちたもので、痛々しい。
「…」
「…まさか…」
《YOUの予想通りです。6次元の住民たちです…》
「な! そんなっ! どういうこと??」
《6次元の住民は、物質的な肉体と精神体を持つ最高位の存在で、それ以上の次元では肉体などの物質は存在できません》
「物質でなければどういう形をしてるの?」
いずみには想像ができない世界だと思った。
いや、既にそういう存在を二人知っているのだが…。
《全てエネルギーとして存在しています。ただし、そのエネルギー体はこの3次元には全く干渉できません》
「? どうして?」
《認識そのものが全く違うのです。この世界で、生まれながらにしての視覚障害者が色を認識できないのと同じようなものです》
「なるほど。でもどうして6次元の人をエネルギー化するの?」
《それが不明なのです。ただ、この世界ではエネルギー開発のために、核エネルギーなどを利用して蒸気を起こして電力を得ます。でも核エネルギーそのものを電力化することはまだできません》
「うん。エネルギー転換効率は60%くらいだって言ってるけど、それはタービンを回した後の排熱まで利用した場合で、元の核エネルギーのうち40%は損失しているらしいからね」
「え~、そんなに効率悪いの?」
「それでも火力発電よりははるかに効率いいんだよ」
《ソウルコンバーターはエネルギー資源枯渇の心配もなく、“エーテル”と称する原料をほぼ100%電力に転換できます》
「でもさ、その“エーテル”って6次元の人なんでしょ? どうやってこの世界に連れてくるの?」
《連れてはきません。3次元世界でソウルコンバーターを稼働させると、6次元世界にランダムにアクセスして、エネルギー…あなたたちの言葉を使うと“霊体”と“幽体”のみを搾取します》
「え? じゃあ、肉体…は?」
眉間に皺を寄せていずみが呟いた。
答えを得るつもりはなかった。それはいずみもよく知っている状態だからだ。
《会話をしている時、街を歩いてる時、寝ている時、突然“物”になるんです》
「ひ、ひどい…。でもなんで? なんでそこまでしてエネルギーを…」
「この3次元が化石燃料に頼ってきたことへの報いかもしれない…」
湧が静かに呟いた。
「何かの目的のために、アルフは膨大なエネルギーを必要としていたのかもしれない。しかし、この3次元ではエネルギー開発が遅れていて到底足りない。そこで高次元のエネルギーを利用しようと考えたのだろう」
《YOUの推論通りだと思います。アーカムでも最初は理由が解らず、突然死の原因を調査しました。そこで次元を超えて流出していることが判明したのです》
「でも、600万台ものソウルコンバーターで高次元の人をエネルギー化したら、すぐに6次元の住民は絶滅しない?」
《それがよく解らなかったのです。でも今まで調べた結果、高次元からの搾取は頻繁に行われていたわけではないようです》
「? どういうこと?」
「! もしかすると、この世界の霊体や幽体を?」
《その通りです。通常はその思念や怨念などの強い思念体を取り込んでいたようです》
「ゴーストバスター? 的な?」
《そこまで相手を特定してくれればいいのですが…エネルギー体なら見境なく搾取するでしょう。だから…、さくらさんや有紀さんも対象になります》
「あ! そうかっ!」
《そんなことはもう止めさせなければなりません》
「その通りだ。こんな呪われた機械は存在してはいけない!」
湧が怒りをあらわにした。
《もう少しで、調査が終わります。二人は外の3人を守っていてください》
「「わかった(うん)」」
いずみと湧は扉の外で硬直している3人の側に戻って行く。
その様子を見届けてルイーナは再び加速した。
<続く>
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる