個性の中の無個性

高円寺 椿

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個性の中の無個性

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 現代社会に溢れている、個性という言葉そして、個性的だと呼ばれる人々しかしそれは本当にその人自身がやりたくてやっているものなのだろか?

 
 私の場合は違う、個性という中の無個性になるためにやっている、大抵分類される、たまにぶっ飛んだ人もいるがその方が稀だ。

 自己主張をしないと生きていけない世界、個性がないと忘れられてしまう、そんな恐怖に苛まれ私も今日もキャラを作り個性を出す。

  大学生の私にとって個性を出す行為としては髪型、服装、持ち物、行動だろうか?

 髪型、服装、持ち物ならまだ個性を出しても話しのネタにもなるしいいだろうしかし、行動というのは一歩間違えればただの変人と認識されてしまう、それは問題なのだ。

 私は現代社会の個性の中の無個性でいたいのだ、サイレントマジョリティで居たいのだ。

 そんな私でも、自己を確立した個性的な人には興味を抱く、彼もそんな1人だった。

 あれは確か2年のまだ肌寒い春だっけ、大学の中庭で1人目立つ男性がいた、彼は派手な柄のシャツにロングカーディガンで黒スキニーを履いていた。
  彼の個性はそれだけではない、髪型も個性的だったのだ、ゆるいパーマのかかったマッシュボブで明るいミルクティーの色してたっけ。

 しかも、アシメの前髪が鬱陶しのかしきりにいじっているのが印象的だった。

 次に見かけたのは、レポートさえ出せば良い講義に気まぐれで出た時だ、彼の服装はやっぱり、個性的だ。
 楽器の絵が入ったシャツにチノパン、猫の尻尾のようなものがついたスニーカーだった、髪型は前回と変わってない。

  彼もこの講義を受けていると分かると自然と私もしっかりと講義に出るようになった、友人には変わったと言われるが、彼のことを話すと“恋かね”と茶化された。

 二年の後期ゼミが始まった、私は第1希望が通りやりたかったことがやれるとテンション高くドアを開けるとそこには彼がいた。

 そこでやっと彼の名を知る、加賀 紅葉 (かが もみじ)だそうだ。
 名前は案外普通だった。

 そっから彼とはゼミや講義前などに話すようになった。
 たわいもない話だが、彼と話す時間はあっという間に過ぎていく。
そんな、たわいもない時間が卒業まで続くと思っていたんだ。

 彼の変化に気づいたのは、服装がだんだん普通の大学生が着ているような無個性な物に変わってきた頃だろうか、それとも無難な茶髪にナチュラルなショートの髪型に変わった頃だろうか?
 きっと違う、三年の夏、滅多に女性話さない彼が流行の服装で髪型でナチュラルな化粧をした女性と楽しそうに話しているのを見た瞬間だ。

 そこで私は、彼の変化だけでなくもっと厄介なものにも気づいてしまった、彼への恋心だ。
 まだ、引き返せると自分に言い聞かせて彼と話す回数を減らし、勉強とバイト、女友達と遊んで予定をぎっしり詰め込み彼のことを頭の隅に追いやった。

 そうこうしているうちに、彼は私に合わせたい人がいるといい、ちょうど今いるからとかなんとか言って例の流行で埋め尽くされた彼女を紹介された、そして三年の春から付き合い出したとも言ってたっけ、その場では、おめでとうって言った気がするけど内心パニックで上手に笑えてたかわかんないし、気がついた時には友達の家で泣いてたっけ。

 それも、いつかはきっと思い出に変わると言い聞かせてその日は友達と飲み明かした。
 

 そして、いつかまた私は誰かに恋をするだろうそれはきっと彼に似た個性的な人だろか?それとも個性の中の無個性な一般的な人だろうか?どちらにせよ、次はハッピーエンドがいいなと青空を見ながら呟いた。

 
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