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第27話 控訴趣意書
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それから間もなく、神野の元にKG法律事務所から約束の書類及び控訴趣意書が届いた。先ずは、Ko弁護人の控訴趣意書を手にとった。
その内容は次のようなものだった。
第1 控訴理由ー事実誤認
1 原判決は、被告人の控訴事実記載の犯行を認定したが、被告人には故意がなく無罪である。原判決には明らかに判決に影響を及ぼす事実誤認がある。
よって、原判決は破棄されるべきである。
2 本件においては、被告人は偶然ではあるものの自身の手が被害者の臀部に触れてしまったことは認めているのであるから、故意の有無が主な争点である。
しかしながら、原判決は判決文において、被害者や目撃者の供述の信用性を肯定はするものの、最終的に、どのような証拠に基づいて故意を推認し、故意を認定したのかについての記述が全くない。
また、判決文の「被告人の供述について」の記載内容については、本件の争点との関係において、文章の意味が不明と言わざるを得ない。
以上の事から、原判決では故意を認定した判断過程が不明であるが、控訴事実記載の事実を認定して有罪としている以上、故意があったとの判断をしているのであろうから、以下では原審記録に現れた証拠によっては故意が認定できない事を述べる。
第2 故意についての事実誤認
1 被害者供述の信用性
被害者は公判廷において、前屈をしている時に、被告人が右手で臀部の付け根あたりから真ん中あたりを触った旨を供述した。また、被害者は、被告人が触ったのは偶然ではない旨を供述した。そして、原判決は、被害者の供述の信用性を肯定した。
しかしながら、被害者のこれらの供述は信用できない。まず、被害者は、触られた部位について、臀部の真ん中あたりまで触られたというが、その時被害者は前屈をしており被告人の手の動きを直接見ていたわけではないのであるから、被告人の手が動いた位置を把握する事は困難だったといえる。
また、本件の後、警察に届け出るという事態になっているのであるから、自身が被害に遭ったと思い込む事によって、記憶が不正確になっている可能性も否定できない。
よって、被害者のこの供述は信用できない。
また、被告人が触れたのは偶然ではない旨の証言についても、被害者の証言によっても、被告人の手が触れていたのは1秒未満なのであり、更に上記の通り被害者が直接被告人の動作を見ていなかったのであるから、被告人が触れた事が偶然か否かは被害者が判断できないはずである。
よって、被告人が触れたのは偶然ではないという旨の被害者の証言は、推測を述べているにすぎず、信用性がない。
以上の通り、被害者による、前屈をしている時に、被告人が右手で臀部の付け根あたりから真ん中あたりを触った旨の供述や被告人が触ったのは偶然ではない旨の供述は信用できない。原判決は、被害者証言について、供述態度が「むしろ控えめな印象を与えるものであって不自然さはなく」等と述べ、抽象的な理由付けによって信用性を肯定しており妥当ではない。
2 目撃者供述の信用性
目撃者は、被告人が右手を被害者臀部にあてながら臀部の丸みの上の部分から臀部と太ももの付け根のあたりにかけて上下に動かしていた様子を鏡越しに確認した旨や鏡越しに確認した後に近くまで移動して同様に触っている様子を直接確認した旨を証言するが、これらの証言も信用できない。
まず、目撃者が鏡越しに見ていたとする位置から鏡までは12.3メートルもの距離があり、正確に見る事が困難である事は明らかである。よって、信用できない。
また、目撃者の証言は被害者の証言と、触り方や触った回数、時間において明らかな齟齬がある。即ち、目撃者は、被告人が右手を被害者の臀部にあてながら臀部の丸みの上の部分から臀部と太ももの付け根のあたりにかけて上下に動かしていたと証言するが、被害者は、被告人の右手が下から上に向かって動いたと証言しており明らかな齟齬がある。また、目撃者の証言を前提とするのであれば、被告人の右手は被害者の臀部に少なくとも4秒から5秒以上触れていたか、あるいは2回触れたことになるが、これは、被害者による、触られた時間は1秒未満であった、触られたのは1回だけであった旨の証言と明らかに矛盾する。この事は目撃者の証言が不正確であり信用できない事の現れであると言える。
原判決はこれらの齟齬について重視せず、安易に証言の信用性を肯定しており極めて不当である。
又、目撃者は被告人を退会させる為に、虚偽供述をさせる可能性がある。即ち、被告人はKスポーツジムに対して苦情を申し入れたことがあったところ、Kジム側が被告人をクレーマーとみなし、退会させるために、目撃者に虚偽の供述をさせた可能性がある。
この点からも、目撃者の供述は信用できない。
3 被告人の捜査段階の自白について
被告人は捜査段階において、故意について自白しているが、この自白は信用できない。
被告人は警察官に対して故意を否定していたが、警察官は納得せず、取り調べが長時間に及んだ為、被告人は疲れ果てていた。又、被告人は、供述は訂正できると警察官から言われた。これらの事情があった為、被告人は、「訂正できるならいい」等と思い、実際は故意がなかったにも拘わらず故意を認めてしまった。
よって、この自白は信用できない。
4 小括
以上の通り、被害者や目撃者の証言は信用できないのであるから、被害者が言うように臀部の真ん中を触ったという事実を認定できないし、目撃者が言うように臀部から太ももの付け根にかけて上下に触っていたという事実も認定できない。
その結果、被告人が故意に臀部を触った事を推認させるような事実を証拠上認定できないのであり、故意を裏付ける証拠はないといえる。
又、被告人の自白は信用できない。
よって、被告人に故意はなかったといえる。
本件は、被告人が述べる通り、偶然被告人の右手が触れてしまったものである。
5 まとめ
以上の通り、被告人に故意はなかったのであるから、被告人は無罪である。被告人に故意がある事を前提として控訴事実記載の事実を認定した原判決は明らかな事実誤認がある。
第2の2でも述べたが、原判決は、証人の証言の齟齬について重視せず、安易に信用性を肯定しているが、まさに有罪ありきの判決であり、「疑わしきは被告人の利益に」の大原則に真っ向から反する判決である。更に、第1でも述べた通り、本件の争点である故意の有無についての判断過程が示されないまま有罪とされている。このような判決が許されてよいはずがない。
原判決には、重大な事実の誤認があり、判決に影響を及ぼすべきことは明らかである。よって、速やかに破棄されなければならない。
以上
神野はこの後、各証人尋問調書、被告人供述調書、判決文を一通り読み終えた。これらは改めてじっくり読み返す事にして、控訴趣意書の返事を急がねばならない。
奈穂のいくつかの偽証や簡易裁判所では審議されてない事もあったが、一番肝心な「原告と目撃者の証言の不一致」については厳しくついてくれていたのと「疑わしきは被告人の利益に」を強調してくれていたのでまずまず納得できた。
KG法律事務所にはその旨連絡を入れた。
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その内容は次のようなものだった。
第1 控訴理由ー事実誤認
1 原判決は、被告人の控訴事実記載の犯行を認定したが、被告人には故意がなく無罪である。原判決には明らかに判決に影響を及ぼす事実誤認がある。
よって、原判決は破棄されるべきである。
2 本件においては、被告人は偶然ではあるものの自身の手が被害者の臀部に触れてしまったことは認めているのであるから、故意の有無が主な争点である。
しかしながら、原判決は判決文において、被害者や目撃者の供述の信用性を肯定はするものの、最終的に、どのような証拠に基づいて故意を推認し、故意を認定したのかについての記述が全くない。
また、判決文の「被告人の供述について」の記載内容については、本件の争点との関係において、文章の意味が不明と言わざるを得ない。
以上の事から、原判決では故意を認定した判断過程が不明であるが、控訴事実記載の事実を認定して有罪としている以上、故意があったとの判断をしているのであろうから、以下では原審記録に現れた証拠によっては故意が認定できない事を述べる。
第2 故意についての事実誤認
1 被害者供述の信用性
被害者は公判廷において、前屈をしている時に、被告人が右手で臀部の付け根あたりから真ん中あたりを触った旨を供述した。また、被害者は、被告人が触ったのは偶然ではない旨を供述した。そして、原判決は、被害者の供述の信用性を肯定した。
しかしながら、被害者のこれらの供述は信用できない。まず、被害者は、触られた部位について、臀部の真ん中あたりまで触られたというが、その時被害者は前屈をしており被告人の手の動きを直接見ていたわけではないのであるから、被告人の手が動いた位置を把握する事は困難だったといえる。
また、本件の後、警察に届け出るという事態になっているのであるから、自身が被害に遭ったと思い込む事によって、記憶が不正確になっている可能性も否定できない。
よって、被害者のこの供述は信用できない。
また、被告人が触れたのは偶然ではない旨の証言についても、被害者の証言によっても、被告人の手が触れていたのは1秒未満なのであり、更に上記の通り被害者が直接被告人の動作を見ていなかったのであるから、被告人が触れた事が偶然か否かは被害者が判断できないはずである。
よって、被告人が触れたのは偶然ではないという旨の被害者の証言は、推測を述べているにすぎず、信用性がない。
以上の通り、被害者による、前屈をしている時に、被告人が右手で臀部の付け根あたりから真ん中あたりを触った旨の供述や被告人が触ったのは偶然ではない旨の供述は信用できない。原判決は、被害者証言について、供述態度が「むしろ控えめな印象を与えるものであって不自然さはなく」等と述べ、抽象的な理由付けによって信用性を肯定しており妥当ではない。
2 目撃者供述の信用性
目撃者は、被告人が右手を被害者臀部にあてながら臀部の丸みの上の部分から臀部と太ももの付け根のあたりにかけて上下に動かしていた様子を鏡越しに確認した旨や鏡越しに確認した後に近くまで移動して同様に触っている様子を直接確認した旨を証言するが、これらの証言も信用できない。
まず、目撃者が鏡越しに見ていたとする位置から鏡までは12.3メートルもの距離があり、正確に見る事が困難である事は明らかである。よって、信用できない。
また、目撃者の証言は被害者の証言と、触り方や触った回数、時間において明らかな齟齬がある。即ち、目撃者は、被告人が右手を被害者の臀部にあてながら臀部の丸みの上の部分から臀部と太ももの付け根のあたりにかけて上下に動かしていたと証言するが、被害者は、被告人の右手が下から上に向かって動いたと証言しており明らかな齟齬がある。また、目撃者の証言を前提とするのであれば、被告人の右手は被害者の臀部に少なくとも4秒から5秒以上触れていたか、あるいは2回触れたことになるが、これは、被害者による、触られた時間は1秒未満であった、触られたのは1回だけであった旨の証言と明らかに矛盾する。この事は目撃者の証言が不正確であり信用できない事の現れであると言える。
原判決はこれらの齟齬について重視せず、安易に証言の信用性を肯定しており極めて不当である。
又、目撃者は被告人を退会させる為に、虚偽供述をさせる可能性がある。即ち、被告人はKスポーツジムに対して苦情を申し入れたことがあったところ、Kジム側が被告人をクレーマーとみなし、退会させるために、目撃者に虚偽の供述をさせた可能性がある。
この点からも、目撃者の供述は信用できない。
3 被告人の捜査段階の自白について
被告人は捜査段階において、故意について自白しているが、この自白は信用できない。
被告人は警察官に対して故意を否定していたが、警察官は納得せず、取り調べが長時間に及んだ為、被告人は疲れ果てていた。又、被告人は、供述は訂正できると警察官から言われた。これらの事情があった為、被告人は、「訂正できるならいい」等と思い、実際は故意がなかったにも拘わらず故意を認めてしまった。
よって、この自白は信用できない。
4 小括
以上の通り、被害者や目撃者の証言は信用できないのであるから、被害者が言うように臀部の真ん中を触ったという事実を認定できないし、目撃者が言うように臀部から太ももの付け根にかけて上下に触っていたという事実も認定できない。
その結果、被告人が故意に臀部を触った事を推認させるような事実を証拠上認定できないのであり、故意を裏付ける証拠はないといえる。
又、被告人の自白は信用できない。
よって、被告人に故意はなかったといえる。
本件は、被告人が述べる通り、偶然被告人の右手が触れてしまったものである。
5 まとめ
以上の通り、被告人に故意はなかったのであるから、被告人は無罪である。被告人に故意がある事を前提として控訴事実記載の事実を認定した原判決は明らかな事実誤認がある。
第2の2でも述べたが、原判決は、証人の証言の齟齬について重視せず、安易に信用性を肯定しているが、まさに有罪ありきの判決であり、「疑わしきは被告人の利益に」の大原則に真っ向から反する判決である。更に、第1でも述べた通り、本件の争点である故意の有無についての判断過程が示されないまま有罪とされている。このような判決が許されてよいはずがない。
原判決には、重大な事実の誤認があり、判決に影響を及ぼすべきことは明らかである。よって、速やかに破棄されなければならない。
以上
神野はこの後、各証人尋問調書、被告人供述調書、判決文を一通り読み終えた。これらは改めてじっくり読み返す事にして、控訴趣意書の返事を急がねばならない。
奈穂のいくつかの偽証や簡易裁判所では審議されてない事もあったが、一番肝心な「原告と目撃者の証言の不一致」については厳しくついてくれていたのと「疑わしきは被告人の利益に」を強調してくれていたのでまずまず納得できた。
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