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脱走、逃亡、すたこらトンズラ
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ファーは差し出された封筒の中身を何度も確認する。
「皇太子妃候補として・・・ ? これは正式な書状じゃないか。しっかり宗秩省総裁のサインと封蝋がある。なのになんでこんなところに隠れ住んでいるんだ ?」
「家事能力も審査の対象になるって言われたわ。隠れているのは落選した時に噂になったらかわいそうだからって」
二人の答えにファーは頭を抱えて唸る。
ライも面倒くさいことになったという顔をしている。
「それで、昨日の連中のこともあるんだけど、あたしたち、見限られたんじゃないかと思うのよ」
「見限られた ?」
「多分、先生たちは先週で解雇されてる。食事を運んでくれた侍女さんたちは、あたしたちが不合格になったって言われてるかな。下手すると彼女たちも首になっているかも。口封じに」
アンナが続ける。
「だって落第ならそう言って家に返せば済むことだもの。何らかの理由で邪魔になったから表に出てこられたら困るのよ。昨日の人たちは私たちを捕まえにきたの。でもあなたたちがいてそれが出来なかった。今日先生と食材が来なかったことで、疑問を持った私たちがここを出て会いに行ったらどうなるか。そうなる前にもう一度捕まえに来るはずよ。そしてその手紙も含めて、証拠隠滅を図るはず」
「ごめん、もっと詳しく話したいけど、時間がないわ。とにかく手伝って」
「わかった。何をしたらいい ?」
◎
「教師の控室にあった書類は全部持った」
「机やタンスの引き出しは空にして開けたままにしてある。後は何をすればいい ?」
「後は、逃げるだけよ」
「エリカ、来たわっ ! 昨日のより多い。急ぎましょう !」
少女たちは冒険者を地下室へと導く。
「こりゃ、すごいな。なんだ、この汚さは」
「タンスの中は空、裏口開けといた、食材は避難済み、証拠書類確保。よし、GOっ !」
棚の左側をグっと押す。
「「 隠し通路 ?! 」」
その時ドンドンッと玄関を荒々しく叩く音がした。
「行きましょう」
エリカが通路の灯をつける。
アンナは二人を通路の奥に押し込み、棚の中身が崩れ落ちないよう静かに入り口を閉め鍵をかける。
「アンナ、早く」
「ファー、ライ、しっかり捕まっていてね。行くわよ、エリカ」
冒険者二人をトロッコの箱の中に放り込んで、少女二人は逃避行を始めた。
◎
「隊長、もぬけの殻です !」
「屋内には食器や生活用品のみ。衣類も食料もありません」
「確保するよう言われた書類の類が見つかりません。何も残っていません」
王宮内の建物を不法占拠している少女たちを捕えるだけの簡単な任務だった。
昨日は庭園管理部お雇いの冒険者の邪魔で実行できなかった。
その件については宗秩省から厳しいお叱りがあった。
我らと冒険者とどちらを信じるのかと。
庭園管理部に問い合わせれば、この件に関しては外部の者は不干渉をと門前払いされた。
空っぽの家。
鍵のかかっていない裏口。
昨日のうちに確保しておけば・・・。
「俺は宗秩省に報告に行く。全員どこかに隠れていないか探せ。まだ王城内にいるはずだ。ただし目立たないように。いいな」
重なる失態。
とにかく急いで次の指示を受けなければ。
バタバタと部下たちが走り去る。
警備隊分隊長は宗秩省総裁執務室に急いだ。
◎
トロッコは気持ちの良いスピードで進む。
ところどころに分岐点があり、少女たちが壁のスイッチを切り替えて方向を変えていく。
「こんな地下通路があるなんて、知っていたか、ライ」
「知っているわけがない。ファーこそ知らなかったのかい」
「抜け道くらいはあるだろうと思っていたけど、こんな縦横無尽に張り巡らされているとは思わなかった。よく見つけたな、こんなところを」
坊やたちと違ってこちらは知識量が普通じゃないから、とは言えないのでお掃除をしていたら偶然見つけたと言っておく。
「で、ここはどこに繋がってるんだ ?」
「王都内、どこでも。貴族街も城下町も、あと城壁の向こうにもね。とにかくあちらこちらに出口があるのよ」
地図を作るのに苦労したわぁとエリカが笑う。
「ちょっと、エリカ。しっかり切り替えてよ。一度間違えると元に戻るの大変なんだから」
「だーいじょーぶー。ちゃんと見てる。ほら。最後の切り替えポイントよ」
トロッコは左にカーブを切り、しばらくすると徐々にスピードが落ちていき、一枚の扉の前で止まった。
「皆様、本日はトロッコ列車にご乗車いただきありがとうございました。当機はただいま目的地に到着いたしました。本日の天気は晴れ、気温は少し高めの二十八度。時刻は十四時二十分でございます。お出口は360度お好みの場所にございます。お忘れ物などございませんよう今一度お荷物をお確かめ下さい。本日の乗務員はシルヴィアンナとエリカノーマ。皆様のまたのご利用をお待ち申し上げております」
「なんだ、そりゃ」
「気にしないで。アンナが珍しく遊んでるだけだから」
箱から大きなバックを取り出して線路わきの階段を上がる。扉を開けると同時に線路の灯が消える。
「面白い仕掛けだな。これで隠し扉から灯が漏れることはないわけだ」
「分岐で主線から外れた時点で消えるの。絶対漏れないわ」
扉の向こうにも階段が続いている。
四人は緩やかなそれをゆっくり上がっていく。
「なあ、俺たちが訪ねていったときにいなかったのはもしかして・・・」
「うん、地下通路の探検していたの。だってやることないんだもん」
「いまでは王都内ならどこへでもいけるわよ。まさか夜逃げに使うとは思わなかったけど」
危なかったわねと少女たちは笑う。
「ところで、この階段はどこに通じているんだ ? まさか大広場の真ん中ってわけじゃないだろう」
「もちろん。王宮からの追手が一番来にくいところよ。そこにいれば、まず捕まらないわよ」
階段を上り終えてまた扉を開けると小さい部屋に行き当たる。
「目をつぶっていてね。眩しくなるから」
アンナがそう言ってその突き当りの扉を開ける。
目の前が真っ白になる。
そのまぶしさになれると、目の前には草原が広がっていた。
「ここは王都の外。城壁の下よ。大丈夫 ? 歩ける ?」
冒険者たちはキョロキョロと周りを眺める。
ここは城壁のどのあたりだろう。
少女たちはどんどん先に行く。
しばらく城壁沿いに歩くと、遠くに杉の木が一本立っているのが見えてきた。
それが目印なのか、エリカが近くの城壁の壁をツイっと押す。
するとそこにぽっかりと扉が開いた。
「入って。すぐ閉めないと」
言われるままに入ると先ほど同様の部屋がある。
アンナが反対方向の扉を開けると、そこは静かな街並みが広がっていた。
「お疲れ様。脱出成功よ」
◎
「逃げられただと ?」
「ただいま全力で行方を捜しております。どの門も通った痕跡がありませんから、まだ王宮内に隠れているものと思われます」
宗秩省総裁は苦虫を嚙み潰したように顔をゆがめる。
なぜ気が付いた。
いや。溺れる船からネズミは逃げると言う。
単に身の危険を感じただけだろう。
しかし、一体どこへ ?
時間はない。
早く探し出して始末しなければ。
同時にあの衛兵たちも。
総裁はギリリと唇を噛んだ。
「皇太子妃候補として・・・ ? これは正式な書状じゃないか。しっかり宗秩省総裁のサインと封蝋がある。なのになんでこんなところに隠れ住んでいるんだ ?」
「家事能力も審査の対象になるって言われたわ。隠れているのは落選した時に噂になったらかわいそうだからって」
二人の答えにファーは頭を抱えて唸る。
ライも面倒くさいことになったという顔をしている。
「それで、昨日の連中のこともあるんだけど、あたしたち、見限られたんじゃないかと思うのよ」
「見限られた ?」
「多分、先生たちは先週で解雇されてる。食事を運んでくれた侍女さんたちは、あたしたちが不合格になったって言われてるかな。下手すると彼女たちも首になっているかも。口封じに」
アンナが続ける。
「だって落第ならそう言って家に返せば済むことだもの。何らかの理由で邪魔になったから表に出てこられたら困るのよ。昨日の人たちは私たちを捕まえにきたの。でもあなたたちがいてそれが出来なかった。今日先生と食材が来なかったことで、疑問を持った私たちがここを出て会いに行ったらどうなるか。そうなる前にもう一度捕まえに来るはずよ。そしてその手紙も含めて、証拠隠滅を図るはず」
「ごめん、もっと詳しく話したいけど、時間がないわ。とにかく手伝って」
「わかった。何をしたらいい ?」
◎
「教師の控室にあった書類は全部持った」
「机やタンスの引き出しは空にして開けたままにしてある。後は何をすればいい ?」
「後は、逃げるだけよ」
「エリカ、来たわっ ! 昨日のより多い。急ぎましょう !」
少女たちは冒険者を地下室へと導く。
「こりゃ、すごいな。なんだ、この汚さは」
「タンスの中は空、裏口開けといた、食材は避難済み、証拠書類確保。よし、GOっ !」
棚の左側をグっと押す。
「「 隠し通路 ?! 」」
その時ドンドンッと玄関を荒々しく叩く音がした。
「行きましょう」
エリカが通路の灯をつける。
アンナは二人を通路の奥に押し込み、棚の中身が崩れ落ちないよう静かに入り口を閉め鍵をかける。
「アンナ、早く」
「ファー、ライ、しっかり捕まっていてね。行くわよ、エリカ」
冒険者二人をトロッコの箱の中に放り込んで、少女二人は逃避行を始めた。
◎
「隊長、もぬけの殻です !」
「屋内には食器や生活用品のみ。衣類も食料もありません」
「確保するよう言われた書類の類が見つかりません。何も残っていません」
王宮内の建物を不法占拠している少女たちを捕えるだけの簡単な任務だった。
昨日は庭園管理部お雇いの冒険者の邪魔で実行できなかった。
その件については宗秩省から厳しいお叱りがあった。
我らと冒険者とどちらを信じるのかと。
庭園管理部に問い合わせれば、この件に関しては外部の者は不干渉をと門前払いされた。
空っぽの家。
鍵のかかっていない裏口。
昨日のうちに確保しておけば・・・。
「俺は宗秩省に報告に行く。全員どこかに隠れていないか探せ。まだ王城内にいるはずだ。ただし目立たないように。いいな」
重なる失態。
とにかく急いで次の指示を受けなければ。
バタバタと部下たちが走り去る。
警備隊分隊長は宗秩省総裁執務室に急いだ。
◎
トロッコは気持ちの良いスピードで進む。
ところどころに分岐点があり、少女たちが壁のスイッチを切り替えて方向を変えていく。
「こんな地下通路があるなんて、知っていたか、ライ」
「知っているわけがない。ファーこそ知らなかったのかい」
「抜け道くらいはあるだろうと思っていたけど、こんな縦横無尽に張り巡らされているとは思わなかった。よく見つけたな、こんなところを」
坊やたちと違ってこちらは知識量が普通じゃないから、とは言えないのでお掃除をしていたら偶然見つけたと言っておく。
「で、ここはどこに繋がってるんだ ?」
「王都内、どこでも。貴族街も城下町も、あと城壁の向こうにもね。とにかくあちらこちらに出口があるのよ」
地図を作るのに苦労したわぁとエリカが笑う。
「ちょっと、エリカ。しっかり切り替えてよ。一度間違えると元に戻るの大変なんだから」
「だーいじょーぶー。ちゃんと見てる。ほら。最後の切り替えポイントよ」
トロッコは左にカーブを切り、しばらくすると徐々にスピードが落ちていき、一枚の扉の前で止まった。
「皆様、本日はトロッコ列車にご乗車いただきありがとうございました。当機はただいま目的地に到着いたしました。本日の天気は晴れ、気温は少し高めの二十八度。時刻は十四時二十分でございます。お出口は360度お好みの場所にございます。お忘れ物などございませんよう今一度お荷物をお確かめ下さい。本日の乗務員はシルヴィアンナとエリカノーマ。皆様のまたのご利用をお待ち申し上げております」
「なんだ、そりゃ」
「気にしないで。アンナが珍しく遊んでるだけだから」
箱から大きなバックを取り出して線路わきの階段を上がる。扉を開けると同時に線路の灯が消える。
「面白い仕掛けだな。これで隠し扉から灯が漏れることはないわけだ」
「分岐で主線から外れた時点で消えるの。絶対漏れないわ」
扉の向こうにも階段が続いている。
四人は緩やかなそれをゆっくり上がっていく。
「なあ、俺たちが訪ねていったときにいなかったのはもしかして・・・」
「うん、地下通路の探検していたの。だってやることないんだもん」
「いまでは王都内ならどこへでもいけるわよ。まさか夜逃げに使うとは思わなかったけど」
危なかったわねと少女たちは笑う。
「ところで、この階段はどこに通じているんだ ? まさか大広場の真ん中ってわけじゃないだろう」
「もちろん。王宮からの追手が一番来にくいところよ。そこにいれば、まず捕まらないわよ」
階段を上り終えてまた扉を開けると小さい部屋に行き当たる。
「目をつぶっていてね。眩しくなるから」
アンナがそう言ってその突き当りの扉を開ける。
目の前が真っ白になる。
そのまぶしさになれると、目の前には草原が広がっていた。
「ここは王都の外。城壁の下よ。大丈夫 ? 歩ける ?」
冒険者たちはキョロキョロと周りを眺める。
ここは城壁のどのあたりだろう。
少女たちはどんどん先に行く。
しばらく城壁沿いに歩くと、遠くに杉の木が一本立っているのが見えてきた。
それが目印なのか、エリカが近くの城壁の壁をツイっと押す。
するとそこにぽっかりと扉が開いた。
「入って。すぐ閉めないと」
言われるままに入ると先ほど同様の部屋がある。
アンナが反対方向の扉を開けると、そこは静かな街並みが広がっていた。
「お疲れ様。脱出成功よ」
◎
「逃げられただと ?」
「ただいま全力で行方を捜しております。どの門も通った痕跡がありませんから、まだ王宮内に隠れているものと思われます」
宗秩省総裁は苦虫を嚙み潰したように顔をゆがめる。
なぜ気が付いた。
いや。溺れる船からネズミは逃げると言う。
単に身の危険を感じただけだろう。
しかし、一体どこへ ?
時間はない。
早く探し出して始末しなければ。
同時にあの衛兵たちも。
総裁はギリリと唇を噛んだ。
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