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『霧の淡雪』増殖編
やはり年齢差が出るのは仕方がないのかもしれない
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お庭番にはいくつかの部署がある。
有名なところでは潜入調査。
要人警護。
そして火付けと火消し。
火付けとは文字通り紛争を起こし煽る者。
火消しとはその逆。
大事にならないよう火種を消してまわる。
そんな彼らをどう扱うか。
それが主の腕の見せ所というものである。
そして現在、その手腕を目いっぱい振るっているのは二人の少女だ。
「とりあえず『霧の淡雪』が皇太子妃候補にという噂は消えたわね」
「ええ。某公爵が二十歳以上も年下のお嫁さんをもらうって噂の方がインパクトあるもの」
「・・・エリカ、よかったのかしら。年齢差を考えてご家族だけのお式とか白い結婚とかいうお話も聞こえてきた気がするのだけれど。実は内緒ではなかったのかしら」
なに言ってるのと、エリカは人差し指をチッチッと揺らす。
「おめでたい話じゃない。慶事はみんなでお祝いしなくちゃ。おめでとうって言われて嫌な気がする人はまずいないわよ」
「それはどうかしら」
「某公爵としか書いてないから問題ないわよ。それと火付けのほうはだけど」
そちらのほうにはもう一つの噂を流してもらっている。
『採集』の出来る街専の冒険者が減っているというものだ。
外壁の外に出なければならない『採集』は、基本討伐の出来る護衛が必要になる。
もちろん、その分依頼料は割高になってしまう。
そこで新人冒険者か、低位の魔物ならなんとか倒せるというそこそこの腕前だけれどこれ以上の成長は見込めないという中堅どころの出番になる。
だが最低限の討伐の出来る街専はそれほど多くない。
そしてその半分以上が女性冒険者だ。
それがこのところの皇太子妃選出に乗っかって、次々と寿引退してしまった。
その結果として『採集』が間に合わず、薬草等とともに薬の在庫が減り値段が落ちつかないことになっている。
「別に値段が高騰してるとか言ってないもんね。これをどう受け取るかはあちらの自由」
「そうね。あの方がどれくらいの情報網を持っているかわからないけれど、たまにしかここに来ないのであれば、それほど詳しい伝手は持ってはいないはずよ。世間話くらいのお相手ではね。それに商業ギルドでは医薬関係の詳しいお話しは流れにくいですものね」
エリカの作戦はこうだ。
商人であれば別の街から薬草等を持ちこんで高く売りつけようとするだろう。
だがそれには現在の詳しい納入状況と薬の値段を知る必要がある。
自称商人のヤハマンは衣類系を取り扱っていると言っていた。
この話にはのってはこれないはずだ。
なんといっても販路がない。
そもそも商人というのも別のお仕事の隠れ蓑だ。
実際商いをしているわけではない。
いや、後ろめたい商売はしているけれど。
だから彼の耳には『困っている』という噂が届けばいい。
そこからはエリカとアンナの演技力にかかっている。
「ひっかかるかしらね、エリカ」
「そこはひっかかってもらわなくっちゃ。季節的にそろそろ動かないと危ないし」
社交シーズンが終われば一気に冬が来る。
攫われたままの人達を移動させるなら、ここ一週間が勝負だろう。
各部署との打ち合わせも済んでいる。
後は二人が動くだけだ。
「なのに、ファーもライも何で動かないのよぉ ! 」
「このままだと私たち、本当に候補辞退してしまうわよ ! 」
計画始動を皇太子たちの動きに合わせる予定なのに、あの二人はウンともスンとも動かない。
少女たちは男どもの決断力の無さにイライラしていた。
「冗談じゃないわよ。好意っぽいものばかりばらまいて、じゃあ本当はどう思ってるのかとか核心的なことは口にしないし、ファーったら不完全燃焼のまま婚約になだれ込めって言うの? 」
「こちらの作戦は陛下を通して知らせてあるのだから、何かしらのリアクションはあると思ったのに、なんでライったら全然動かないのかしら。ここはどんな抜け道を使ってでも私に会いにくるところでしょう」
まったく若者らしく無謀な行動をして欲しい物だと老成した少女たちがイライラを隠せない。
「まあ、モーリスさんとセシリアさんには手助けしてくれるように頼んでおいたから、そろそろ動いてくれると思うわ、エリカ」
「そうね。でもどのタイミングで仕掛けてもらえるか。待てるのは今日明日までよ、アンナ。それ以上かけると救出作戦に支障が出るわ」
頼むから、頼むからそろそろ男らしいところを見せて欲しい。
そういえばこの世界の神様って誰だっけと、二人は信心の浅さを露呈しながら祈るのだった。
◎
「お二人とも少年のようなお心をお持ちですな」
「・・・モーリス、それ、褒めてないよな」
「とんでもございません。心からの賛辞でございますよ」
筆頭専属執事に揶揄されてる皇太子二人は、このところ皇太子府と皇太子宮の往復運動に励んでいる。
皇太子としてではなく、冒険者のファーとライとして少女たちに会う。
そう決めたのは良いが、監視がきつくて逃げるに逃げられないのだ。
「昨日で再来週の分までの仕事を終わらせた。時間はたっぷりあるはずなんだけどなあ」
「近頃はお庭番も返事がありません。誰が、なぜ邪魔をしているのか」
なんとなく心当たりはあるのだが、彼女たちにはそこまでの権限はないはずだ。
皇室メンバーでもなければ役人でもない。
命令権のない彼女たちに何かできるわけがないのだ。
にも関わらず、この状況にあの二人の影が見え隠れして仕方がない。
「私としては早くご伴侶をお決めいただきたいところでございますよ。そしてそろそろ私を故郷に帰らせてくださいませ」
もう再就職先も決まって田舎で静かに余生を送りたいのですよと、まだ五十過ぎたばかりだというのに年寄りじみたことを言う執事に、皇太子たちがお前は父陛下より若いだろうと突っ込むのはお約束。
「まあ、そうしてやりたいところだがなあ。ここから街へ出る手段がみつからないんだ」
「一刻も早くアンナに会って謝罪をしたいんですが、あちこち侍女たちが見張を立てていて以前のように外出もできません」
せっかく冒険者装束に着替えたのに、今日もここで無駄な時間を過ごさなくてはいけないのか。
二人は思うようにいかない現状に大きなため息をつく。
そんな主たちを見飽きた執事は、仕方がないと一枚の紙と鍵をを差し出した。
「なんだ、これは ? 」
「王都外への秘密の抜け道でございますよ」
「なに ?! 」
モーリスに見せられたのは、いざというときの脱出口とその経路だった。
万が一クーデターや外国の勢力に王城を押えられた時、皇族方を安全に避難させることが出来るように作られたもので、代々の筆頭執事にだけ伝えられてきたという。
「後任の者もまだ知りませんし、必要に迫られなければ皇族の方にもお知らせしません。秘中の秘でございますれば、お二人とも口外無用でお願いいたします」
お二人がこれほど切羽詰まっておられなければお教えはいたしませんでしたという執事は、出来の悪い子ほどかわいいと言いたげに優しい笑顔を浮かべている。
「・・・モーリス。お前、実は良い奴だったんだな」
「おや、やっとお気づきいただけましたか。お傍に仕えてなごうございますのに」
執事モーリスはタペストリーの一枚をめくると、その裏の壁を静かに押した。
すると何もなかった場所に一人が通れるくらいの穴が現れた。
「城壁の外まで一本道になっております。出入り口には必ずカギをかけてくださいませ」
「感謝する、モーリス」
「侍女長の目もございますから、お早いお帰りをお願い致します」
うやうやしく頭を下げるモーリスに感謝しつつ、皇太子たちはその穴をくぐる。
閉まった壁の向こうからカチッと施錠する音がする。
石畳を走る音が段々小さくなっていく。
「行かれましたか」
タペストリーを丁寧に元の様に戻したところで、侍女長が現れた。
「まったくお嬢様方もお甘い。追いかけて欲しければそう仰ればよいものを」
「モーリスさん、それはお相手にご自分で気づいて欲しいという娘心ですわよ」
若い娘さんの気持ちは解りかねますという執事に、侍女長はコロコロと笑って殿方には無理ですわと答える。
「ですが、秘密の出入り口を教えてまで会いたいとは、近頃の娘さんはなかなか情熱的ですな」
「殿下方が煮え切らないからですわ。お嬢様方の方がよっぽど大人でいらっしゃる。ご自分が皇太子妃候補であることもしっかりご理解された上で、逃げださずに殿下方ときちんと向き合おうとされておいでですもの」
妃殿下候補の二人からは、今後のことについて自分たちだけで話し合いたい、王城内ではどうしても誰かが控えているから、できれば城下町でと懇願された。
侍女たちが一丸となって皇太子撲滅運動をしている今、まともに顔を合わせることもできずにいる。
だがどちらかが皇太子妃となるからには、色々とはっきりさせておかなければならないことも多い。
選ばれました、はい喜んでというわけにはいかないのが人間というものである。
特にあの二人はいろいろ思うところがあるらしい。
「夜遊びも女遊びもしない、傍から見れば真面目で誠実な殿方なのですが、女性の心の機微についてはお教えできませんでしたわね」
「本来であれば騎士養成学校でもご婦人への対応は課題に入っていたはずですが、担任があの方では・・・」
現在急ピッチでその辺りの教育が勧められているが、正直なところ焼石に水といったところだ。
「妃殿下決定となれば我らはお役御免。悠々自適な老後を送ることができるはずですが、なかなかそこまでもう一波乱ありそうですな、セシリア侍女長」
「本当に。誘拐事件と並行してそちらも蹴りをつけてしまおうなんて、本当に得難い人材ですわね、お二人とも」
さてさて、十も違う少女たちの思惑にヘタレ皇子たちは気づくのだろうか。
そして死の商人ヤハマンはどう動くか。
なによりこの先甘々の状況は訪れるのか。
老人というにはまだ若い二人は、迷走している皇太子たちの恋心が幸せに繫がっていることを祈るしかなかった。
有名なところでは潜入調査。
要人警護。
そして火付けと火消し。
火付けとは文字通り紛争を起こし煽る者。
火消しとはその逆。
大事にならないよう火種を消してまわる。
そんな彼らをどう扱うか。
それが主の腕の見せ所というものである。
そして現在、その手腕を目いっぱい振るっているのは二人の少女だ。
「とりあえず『霧の淡雪』が皇太子妃候補にという噂は消えたわね」
「ええ。某公爵が二十歳以上も年下のお嫁さんをもらうって噂の方がインパクトあるもの」
「・・・エリカ、よかったのかしら。年齢差を考えてご家族だけのお式とか白い結婚とかいうお話も聞こえてきた気がするのだけれど。実は内緒ではなかったのかしら」
なに言ってるのと、エリカは人差し指をチッチッと揺らす。
「おめでたい話じゃない。慶事はみんなでお祝いしなくちゃ。おめでとうって言われて嫌な気がする人はまずいないわよ」
「それはどうかしら」
「某公爵としか書いてないから問題ないわよ。それと火付けのほうはだけど」
そちらのほうにはもう一つの噂を流してもらっている。
『採集』の出来る街専の冒険者が減っているというものだ。
外壁の外に出なければならない『採集』は、基本討伐の出来る護衛が必要になる。
もちろん、その分依頼料は割高になってしまう。
そこで新人冒険者か、低位の魔物ならなんとか倒せるというそこそこの腕前だけれどこれ以上の成長は見込めないという中堅どころの出番になる。
だが最低限の討伐の出来る街専はそれほど多くない。
そしてその半分以上が女性冒険者だ。
それがこのところの皇太子妃選出に乗っかって、次々と寿引退してしまった。
その結果として『採集』が間に合わず、薬草等とともに薬の在庫が減り値段が落ちつかないことになっている。
「別に値段が高騰してるとか言ってないもんね。これをどう受け取るかはあちらの自由」
「そうね。あの方がどれくらいの情報網を持っているかわからないけれど、たまにしかここに来ないのであれば、それほど詳しい伝手は持ってはいないはずよ。世間話くらいのお相手ではね。それに商業ギルドでは医薬関係の詳しいお話しは流れにくいですものね」
エリカの作戦はこうだ。
商人であれば別の街から薬草等を持ちこんで高く売りつけようとするだろう。
だがそれには現在の詳しい納入状況と薬の値段を知る必要がある。
自称商人のヤハマンは衣類系を取り扱っていると言っていた。
この話にはのってはこれないはずだ。
なんといっても販路がない。
そもそも商人というのも別のお仕事の隠れ蓑だ。
実際商いをしているわけではない。
いや、後ろめたい商売はしているけれど。
だから彼の耳には『困っている』という噂が届けばいい。
そこからはエリカとアンナの演技力にかかっている。
「ひっかかるかしらね、エリカ」
「そこはひっかかってもらわなくっちゃ。季節的にそろそろ動かないと危ないし」
社交シーズンが終われば一気に冬が来る。
攫われたままの人達を移動させるなら、ここ一週間が勝負だろう。
各部署との打ち合わせも済んでいる。
後は二人が動くだけだ。
「なのに、ファーもライも何で動かないのよぉ ! 」
「このままだと私たち、本当に候補辞退してしまうわよ ! 」
計画始動を皇太子たちの動きに合わせる予定なのに、あの二人はウンともスンとも動かない。
少女たちは男どもの決断力の無さにイライラしていた。
「冗談じゃないわよ。好意っぽいものばかりばらまいて、じゃあ本当はどう思ってるのかとか核心的なことは口にしないし、ファーったら不完全燃焼のまま婚約になだれ込めって言うの? 」
「こちらの作戦は陛下を通して知らせてあるのだから、何かしらのリアクションはあると思ったのに、なんでライったら全然動かないのかしら。ここはどんな抜け道を使ってでも私に会いにくるところでしょう」
まったく若者らしく無謀な行動をして欲しい物だと老成した少女たちがイライラを隠せない。
「まあ、モーリスさんとセシリアさんには手助けしてくれるように頼んでおいたから、そろそろ動いてくれると思うわ、エリカ」
「そうね。でもどのタイミングで仕掛けてもらえるか。待てるのは今日明日までよ、アンナ。それ以上かけると救出作戦に支障が出るわ」
頼むから、頼むからそろそろ男らしいところを見せて欲しい。
そういえばこの世界の神様って誰だっけと、二人は信心の浅さを露呈しながら祈るのだった。
◎
「お二人とも少年のようなお心をお持ちですな」
「・・・モーリス、それ、褒めてないよな」
「とんでもございません。心からの賛辞でございますよ」
筆頭専属執事に揶揄されてる皇太子二人は、このところ皇太子府と皇太子宮の往復運動に励んでいる。
皇太子としてではなく、冒険者のファーとライとして少女たちに会う。
そう決めたのは良いが、監視がきつくて逃げるに逃げられないのだ。
「昨日で再来週の分までの仕事を終わらせた。時間はたっぷりあるはずなんだけどなあ」
「近頃はお庭番も返事がありません。誰が、なぜ邪魔をしているのか」
なんとなく心当たりはあるのだが、彼女たちにはそこまでの権限はないはずだ。
皇室メンバーでもなければ役人でもない。
命令権のない彼女たちに何かできるわけがないのだ。
にも関わらず、この状況にあの二人の影が見え隠れして仕方がない。
「私としては早くご伴侶をお決めいただきたいところでございますよ。そしてそろそろ私を故郷に帰らせてくださいませ」
もう再就職先も決まって田舎で静かに余生を送りたいのですよと、まだ五十過ぎたばかりだというのに年寄りじみたことを言う執事に、皇太子たちがお前は父陛下より若いだろうと突っ込むのはお約束。
「まあ、そうしてやりたいところだがなあ。ここから街へ出る手段がみつからないんだ」
「一刻も早くアンナに会って謝罪をしたいんですが、あちこち侍女たちが見張を立てていて以前のように外出もできません」
せっかく冒険者装束に着替えたのに、今日もここで無駄な時間を過ごさなくてはいけないのか。
二人は思うようにいかない現状に大きなため息をつく。
そんな主たちを見飽きた執事は、仕方がないと一枚の紙と鍵をを差し出した。
「なんだ、これは ? 」
「王都外への秘密の抜け道でございますよ」
「なに ?! 」
モーリスに見せられたのは、いざというときの脱出口とその経路だった。
万が一クーデターや外国の勢力に王城を押えられた時、皇族方を安全に避難させることが出来るように作られたもので、代々の筆頭執事にだけ伝えられてきたという。
「後任の者もまだ知りませんし、必要に迫られなければ皇族の方にもお知らせしません。秘中の秘でございますれば、お二人とも口外無用でお願いいたします」
お二人がこれほど切羽詰まっておられなければお教えはいたしませんでしたという執事は、出来の悪い子ほどかわいいと言いたげに優しい笑顔を浮かべている。
「・・・モーリス。お前、実は良い奴だったんだな」
「おや、やっとお気づきいただけましたか。お傍に仕えてなごうございますのに」
執事モーリスはタペストリーの一枚をめくると、その裏の壁を静かに押した。
すると何もなかった場所に一人が通れるくらいの穴が現れた。
「城壁の外まで一本道になっております。出入り口には必ずカギをかけてくださいませ」
「感謝する、モーリス」
「侍女長の目もございますから、お早いお帰りをお願い致します」
うやうやしく頭を下げるモーリスに感謝しつつ、皇太子たちはその穴をくぐる。
閉まった壁の向こうからカチッと施錠する音がする。
石畳を走る音が段々小さくなっていく。
「行かれましたか」
タペストリーを丁寧に元の様に戻したところで、侍女長が現れた。
「まったくお嬢様方もお甘い。追いかけて欲しければそう仰ればよいものを」
「モーリスさん、それはお相手にご自分で気づいて欲しいという娘心ですわよ」
若い娘さんの気持ちは解りかねますという執事に、侍女長はコロコロと笑って殿方には無理ですわと答える。
「ですが、秘密の出入り口を教えてまで会いたいとは、近頃の娘さんはなかなか情熱的ですな」
「殿下方が煮え切らないからですわ。お嬢様方の方がよっぽど大人でいらっしゃる。ご自分が皇太子妃候補であることもしっかりご理解された上で、逃げださずに殿下方ときちんと向き合おうとされておいでですもの」
妃殿下候補の二人からは、今後のことについて自分たちだけで話し合いたい、王城内ではどうしても誰かが控えているから、できれば城下町でと懇願された。
侍女たちが一丸となって皇太子撲滅運動をしている今、まともに顔を合わせることもできずにいる。
だがどちらかが皇太子妃となるからには、色々とはっきりさせておかなければならないことも多い。
選ばれました、はい喜んでというわけにはいかないのが人間というものである。
特にあの二人はいろいろ思うところがあるらしい。
「夜遊びも女遊びもしない、傍から見れば真面目で誠実な殿方なのですが、女性の心の機微についてはお教えできませんでしたわね」
「本来であれば騎士養成学校でもご婦人への対応は課題に入っていたはずですが、担任があの方では・・・」
現在急ピッチでその辺りの教育が勧められているが、正直なところ焼石に水といったところだ。
「妃殿下決定となれば我らはお役御免。悠々自適な老後を送ることができるはずですが、なかなかそこまでもう一波乱ありそうですな、セシリア侍女長」
「本当に。誘拐事件と並行してそちらも蹴りをつけてしまおうなんて、本当に得難い人材ですわね、お二人とも」
さてさて、十も違う少女たちの思惑にヘタレ皇子たちは気づくのだろうか。
そして死の商人ヤハマンはどう動くか。
なによりこの先甘々の状況は訪れるのか。
老人というにはまだ若い二人は、迷走している皇太子たちの恋心が幸せに繫がっていることを祈るしかなかった。
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