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1章、人が生きる世こそ地獄ではないか
30話、血と誇りと嘘
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叔父上が負けただと!?
あの叔父上が? 勇猛で鳴るレーヴァンツェーンが?
そんな馬鹿な。
約束が違うではないか、俺がローゼリア伯となる夢はどうなるのだ。
事ここに至りては、もはやレーヴァンツェーンすら風前の灯ではないか。
敗北したにも拘わらず、全てを放り捨て叔父上は寝室へ籠ったままと聞く。
そして嫡子であるアウグスト殿は現在治療中で、表立って出てきていない。
どいつもこいつも正気か?
呆けているのか?
それとも金銀や財宝などの、私財を持ち出す事に必死なのだろうか。
もう間もなくあの兄がやってくるぞ?
甘くひ弱でしかない、優しさだけが取り柄のあの男が。
なぜか……別人のように大きくなってしまった兄が……。
どうにかせねばこの家は滅んでしまう。
そしてそれは俺の夢が潰えるのと同じなのだ。
動きの無い叔父上に苛立ちを覚えた俺は、叔父上の尻を叩くべく寝所へ向け駆けた。もう本当に時間が無いのだ。
「ア、アルザス様、この先は行ってはなりません」
「馬鹿か貴様? 敵がもう間もなくやってくるのだぞ? そんな事を言っている場合か!」
「し、しかし」
奴等衛兵もどうすれば良いのかわからんのだろう。
通すなと命令を受けてはいるが、逼迫したこの状況に迷いが見て取れた。
◆◆
視線が溶けるように交じり合い、互いの唇を激しく求めあう。
心は互いを知っており、この2人に言葉はもはや不要だった。
この女を、この女が産んだ子を、我より高きところへ置いてやりたかったのだ。
だが、もうそれは敵わない。
おそらく、近いうちに死が2人を別つだろう。
心の空隙を埋めるように、またお互いが傷を舐めあうように求め、求められ、喰らいあう。
肉体はリズムを奏で、愛の歌を歌う。
女の指先が男の背に爪を立て、男の腕が女の頭を抱えた時。
わずかに時は止まり、世界は彼らだけのものとなった。
「あぁ、あぁ兄さま」
「ゾフィー」
器は愛で満たされ、2人の魂が一つとなった時、運命の審判が下される。
愛し慰め合う2人をよそに、扉は強く無作法に開け放たれた。
そして1人の男が現れる。
その男は、やがて二人を別つであろう、死を賜るあの長子ではなく。
愛しい女が産んだ子だった。
◆◆
「叔父上、寝室でいつまで休んでいる気ですか!」
苛立ちを隠しもせず、ドアを強く開け放ち押し通る。
もう後が無いのだ、後の叱責なぞ知った事か。
「もう間もなく敵が……」
女? こんな時に女と睦み合っているのか?
「こんな時に女など!」
な、なんだこれは?
まるで愛し合う男女のような、そんな姿の2人に思わず狼狽してしまう。
ただの男女であれば狼狽などせん。
そこにいた女は我が母なのだ……。
「は、母上?」
「──これは一体……」
もしや、我が母を無理やり手籠めにしたのか?
鞘から剣を抜き放ち、剣先を叔父へ向け問い質す。
「き、貴様! 我が母を無理やり襲ったのか? そうであれば許さんぞ」
「──たとえ叔父上でもだ」
叔父上を眼光鋭く睨む。
ローゼリア側妃である我が母を無理やり手籠めにするなぞ言語道断。
決して許すわけにはいかん。ま、まして兄妹でなぞ……。
「クッククク」「ワハハハ」
「何がおかしい、笑うな!」
この男、負けて気でも触れたのか?
いまの話のどこに笑えるところがある。
笑う事を辞めた男は、眼光鋭くアルザスを睨み逆に問い返す。
「では父なら良いのか? ええアルザスよ」
「お、叔父上、あなたは一体何を言っている? 何の話をしているのだ」
この男はいま、父ならば良いのか? と言ったか?
叔父上が父?
ではフランツ・フォン・ローゼリアは?
俺の何だ? 俺の父ではないのか?
「馬鹿らしい、俺の父はローゼリア伯のフランツだ。苦し紛れにつまらん嘘を吐きやがって」
剣身を空に晒したまま寝台へ向け1歩、また1歩近づいて行く。
「その頭へ血がすぐ登るところが、儂とそっくりだと思わんか? 剛健で短気な所が、我がレーヴァンツェーンの血脈である証よ」
「な……」
奴が吐きし台詞に、寝台へ進めていた歩がぴたりと止まる。
幼き頃から何度か考えた事がある。
父フランツも、兄アレクスも、正妻であるマリアも含めローゼリア家中のものは総じて穏やかで優しく、大人しい気質だった。
家中に置いて気が短いのは自分だけで、でもそれは母上に似たのだとばかり……。
ローゼリアの家族に対して心中深くで燻り続けていた感情が、ぴたりと凪いだ。
こ、こいつが俺の本当の父なのか?
妙に納得出来てしまう自分がいた。
だが、しかし!
兄妹で姦通するなど正気の沙汰ではない。
旧王家、先のローゼンクランツ王国に祖を連ねし誇り高き我が身が。
ローゼリア伯爵家の次子である誉れある我が血が。
全部嘘だと言うのか?
栄光ある血族のはずが、それは実は誤りで、真なるは異常なる性愛の結果だと??
妙に凪いだ後、沸き起こるはマグマのような激憤。
これは、断じて許せるものではない。
「母上……、違うなら否定されよ」
「──さぁ、早く」
「……」
「ア、アルザス、ごめ、」
「おい」「謝るな、否定しろ」
母の隣で男が偉そうに喋っているが聞こえない。
うるさい黙れ、喚くな。
おい、お前。
なぜ否定しない。
認めるという事か? おい!!
俺の全てがガラガラと音を立てて崩れ始める。
そもそもローゼリアを継ぐ資格なぞ無かったと。
俺に高貴な血など流れていなかっと。
滑稽ではないか、何もかもが嘘だったのだ。
汚らわしいこの阿呆どもがッ! 貴様らのせいでッ!
「あっ……」
母だった女を剣が貫いていた。
俺は母だったモノを刺していた。 後悔? するはずがないではないか。
「****、******! *******」
うるさいな、この男は。
クズが。
汚らわしい畜生が。
俺を向いて喋るな。
ドスッ、ザシュ、ガッ、ガゴッ
奴が動かなくなるまで、刺して刺して、刺しまくってやったわ。
「クククク、アーハッハッハ」
全てが嘘偽りだった。
もうどうでもいい、だが許せぬ存在が1人いる。
俺が欲しかった血を、俺が手に入れるはずだった家を。
気が付けば優秀な家臣を得たアイツを……。
聞けば近頃、帝国でも屈指の美女を配下に迎えたと言うではないか。
なぜアイツばかり恵まれる? あぁ? 教えてくれよ。
アイツだけは意地でも殺す。 意地でもな。
「クク、ハハハハハ」
◆◆
帝国歴202年5月7日
レーヴァンツェーンとの決戦を快勝したローゼリア軍は、その歩みを敵領都レムシュタットへ向けて進めていた。前日の決戦で思いのほか多くの投降兵が加わってしまい、それらの対応に追われ出発がやや遅れてしまったのだ。
レーヴァンツェーン領都レムシュタット。
レーヴァンツェーン家はローゼリアが領を有する半島の北部に領を有しており、領都レムシュタットは鎌に例えるならば刃の根元にあたる部分へ位置している。
半島の北部という土地柄ゆえか、人口はそう多く無く。
山間部も多いことから穀物の収穫高も高くはない。
はたから見れば裕福とは言えない状況に映るだろうが、かの領は山間部より多量の恵石が産出され、恵石の取引によって財政は潤っていた。
恵石の産みだす利が、少領では維持しえない程の武を経済的に支え、武門の拠って立つところとなっていたのだ。
ローゼリアには敵が多く、後ろに控える真なる敵はあまりにも強大である。
ツェツィーリアが幼少を過ごしていた平穏なるローゼンヌ領、そこを突如襲ったあの動乱。そして我が家を襲った一連の悲劇。
その全てに帝国摂政であるゲーベンドルフ公爵の関与が疑われていた。
だが公爵が有する領地はあまりに広大で、肥沃だった。
現在戦線を開いている大公が破れ、万が一その勢力が奴に吸収されてしまえば万事休す、もはや抗うことすら困難になる。帝家でさえ危うい。
そんな公爵家に対抗するためにはレムシュタット奪取は必須と言えた。
収穫高も、人的資源も、経済力も全て完敗では話にならん。
その全てを公爵家と戦える水準まで、底上げして行かねばならぬのだ。
心底頭の痛い問題であった。
ふぅ、出来るだけ民に被害が及ばぬよう、可能な限りレムシュタットを無傷で手に入れなければならぬな……。
日が天の頂きより照らす頃、我々はレムシュタットへ到着する。
ローゼリア軍がその陣容をレムシュタットに晒し、南門前に整然と整列し始めるとレムシュタットの重厚な門が突如開かれた。
1人の人物が武器も持たずに、我が陣へ向け緩やかに駆けてくるではないか。
「閣下、御目通りをお許し頂き誠にありがとうございます。レーヴァンツェーンにて政務官をしておりますリンハルトと申します」
「政務官? 失礼だが政務官と?」
「はい、政務官がこの場に一体何用と思われるのも無理はありません」
「位が低すぎるのは承知しております」
「いや、失礼した。状況的に武官が来ると思っていたのだ。他意は無い、許されよ」
「して何用で参られた?」
恭しく一礼をし、男は語り始める。
「レーヴァンツェーンが閣下と閣下のご家族、そしてローゼリアの皆様に行った悪逆非道な行いの数々は決して許されるものではありません。ですが、恥を忍んでお願いにあがりました」
「此度の戦いから一連の策謀にかけて、民は全く関係ありません。罪なき
者への厳罰や略奪が及ばぬようにして頂きたいのです」
我がローゼリア軍へ単身乗り込み。
領主たる私へ、罪なき者に罰が及ばぬよう、そして軍には略奪や狼藉の一切を行わぬようにと懇願するリンハルトというこの男。レーヴァンツェーンにもこのような男はいるのだな。
[リンハルト・リンデン、男、24歳]
[LV12、統74+3、武56、政81、知82、魅82]
「もし閣下がお願いを聞いてくださるのであれば、レムシュタットは直ちに城門を開け、閣下へ降伏いたします。」
これには思わず、我が側近達もざわついてしまう。
予想外の内容だったからだ。
「何? 降伏すると? ヘルマンや嫡子は承知しているのか?」
「納得する奴らとは思えんが」
「ヘルマン様は亡くなられました」
「何と」
「お約束をお守り頂けるとあらば、もはや反対するものはおりません」
なんと言うことだ……。
仇敵ヘルマンが死んだ?
私に討たれる前に?
あの叔父上が? 勇猛で鳴るレーヴァンツェーンが?
そんな馬鹿な。
約束が違うではないか、俺がローゼリア伯となる夢はどうなるのだ。
事ここに至りては、もはやレーヴァンツェーンすら風前の灯ではないか。
敗北したにも拘わらず、全てを放り捨て叔父上は寝室へ籠ったままと聞く。
そして嫡子であるアウグスト殿は現在治療中で、表立って出てきていない。
どいつもこいつも正気か?
呆けているのか?
それとも金銀や財宝などの、私財を持ち出す事に必死なのだろうか。
もう間もなくあの兄がやってくるぞ?
甘くひ弱でしかない、優しさだけが取り柄のあの男が。
なぜか……別人のように大きくなってしまった兄が……。
どうにかせねばこの家は滅んでしまう。
そしてそれは俺の夢が潰えるのと同じなのだ。
動きの無い叔父上に苛立ちを覚えた俺は、叔父上の尻を叩くべく寝所へ向け駆けた。もう本当に時間が無いのだ。
「ア、アルザス様、この先は行ってはなりません」
「馬鹿か貴様? 敵がもう間もなくやってくるのだぞ? そんな事を言っている場合か!」
「し、しかし」
奴等衛兵もどうすれば良いのかわからんのだろう。
通すなと命令を受けてはいるが、逼迫したこの状況に迷いが見て取れた。
◆◆
視線が溶けるように交じり合い、互いの唇を激しく求めあう。
心は互いを知っており、この2人に言葉はもはや不要だった。
この女を、この女が産んだ子を、我より高きところへ置いてやりたかったのだ。
だが、もうそれは敵わない。
おそらく、近いうちに死が2人を別つだろう。
心の空隙を埋めるように、またお互いが傷を舐めあうように求め、求められ、喰らいあう。
肉体はリズムを奏で、愛の歌を歌う。
女の指先が男の背に爪を立て、男の腕が女の頭を抱えた時。
わずかに時は止まり、世界は彼らだけのものとなった。
「あぁ、あぁ兄さま」
「ゾフィー」
器は愛で満たされ、2人の魂が一つとなった時、運命の審判が下される。
愛し慰め合う2人をよそに、扉は強く無作法に開け放たれた。
そして1人の男が現れる。
その男は、やがて二人を別つであろう、死を賜るあの長子ではなく。
愛しい女が産んだ子だった。
◆◆
「叔父上、寝室でいつまで休んでいる気ですか!」
苛立ちを隠しもせず、ドアを強く開け放ち押し通る。
もう後が無いのだ、後の叱責なぞ知った事か。
「もう間もなく敵が……」
女? こんな時に女と睦み合っているのか?
「こんな時に女など!」
な、なんだこれは?
まるで愛し合う男女のような、そんな姿の2人に思わず狼狽してしまう。
ただの男女であれば狼狽などせん。
そこにいた女は我が母なのだ……。
「は、母上?」
「──これは一体……」
もしや、我が母を無理やり手籠めにしたのか?
鞘から剣を抜き放ち、剣先を叔父へ向け問い質す。
「き、貴様! 我が母を無理やり襲ったのか? そうであれば許さんぞ」
「──たとえ叔父上でもだ」
叔父上を眼光鋭く睨む。
ローゼリア側妃である我が母を無理やり手籠めにするなぞ言語道断。
決して許すわけにはいかん。ま、まして兄妹でなぞ……。
「クッククク」「ワハハハ」
「何がおかしい、笑うな!」
この男、負けて気でも触れたのか?
いまの話のどこに笑えるところがある。
笑う事を辞めた男は、眼光鋭くアルザスを睨み逆に問い返す。
「では父なら良いのか? ええアルザスよ」
「お、叔父上、あなたは一体何を言っている? 何の話をしているのだ」
この男はいま、父ならば良いのか? と言ったか?
叔父上が父?
ではフランツ・フォン・ローゼリアは?
俺の何だ? 俺の父ではないのか?
「馬鹿らしい、俺の父はローゼリア伯のフランツだ。苦し紛れにつまらん嘘を吐きやがって」
剣身を空に晒したまま寝台へ向け1歩、また1歩近づいて行く。
「その頭へ血がすぐ登るところが、儂とそっくりだと思わんか? 剛健で短気な所が、我がレーヴァンツェーンの血脈である証よ」
「な……」
奴が吐きし台詞に、寝台へ進めていた歩がぴたりと止まる。
幼き頃から何度か考えた事がある。
父フランツも、兄アレクスも、正妻であるマリアも含めローゼリア家中のものは総じて穏やかで優しく、大人しい気質だった。
家中に置いて気が短いのは自分だけで、でもそれは母上に似たのだとばかり……。
ローゼリアの家族に対して心中深くで燻り続けていた感情が、ぴたりと凪いだ。
こ、こいつが俺の本当の父なのか?
妙に納得出来てしまう自分がいた。
だが、しかし!
兄妹で姦通するなど正気の沙汰ではない。
旧王家、先のローゼンクランツ王国に祖を連ねし誇り高き我が身が。
ローゼリア伯爵家の次子である誉れある我が血が。
全部嘘だと言うのか?
栄光ある血族のはずが、それは実は誤りで、真なるは異常なる性愛の結果だと??
妙に凪いだ後、沸き起こるはマグマのような激憤。
これは、断じて許せるものではない。
「母上……、違うなら否定されよ」
「──さぁ、早く」
「……」
「ア、アルザス、ごめ、」
「おい」「謝るな、否定しろ」
母の隣で男が偉そうに喋っているが聞こえない。
うるさい黙れ、喚くな。
おい、お前。
なぜ否定しない。
認めるという事か? おい!!
俺の全てがガラガラと音を立てて崩れ始める。
そもそもローゼリアを継ぐ資格なぞ無かったと。
俺に高貴な血など流れていなかっと。
滑稽ではないか、何もかもが嘘だったのだ。
汚らわしいこの阿呆どもがッ! 貴様らのせいでッ!
「あっ……」
母だった女を剣が貫いていた。
俺は母だったモノを刺していた。 後悔? するはずがないではないか。
「****、******! *******」
うるさいな、この男は。
クズが。
汚らわしい畜生が。
俺を向いて喋るな。
ドスッ、ザシュ、ガッ、ガゴッ
奴が動かなくなるまで、刺して刺して、刺しまくってやったわ。
「クククク、アーハッハッハ」
全てが嘘偽りだった。
もうどうでもいい、だが許せぬ存在が1人いる。
俺が欲しかった血を、俺が手に入れるはずだった家を。
気が付けば優秀な家臣を得たアイツを……。
聞けば近頃、帝国でも屈指の美女を配下に迎えたと言うではないか。
なぜアイツばかり恵まれる? あぁ? 教えてくれよ。
アイツだけは意地でも殺す。 意地でもな。
「クク、ハハハハハ」
◆◆
帝国歴202年5月7日
レーヴァンツェーンとの決戦を快勝したローゼリア軍は、その歩みを敵領都レムシュタットへ向けて進めていた。前日の決戦で思いのほか多くの投降兵が加わってしまい、それらの対応に追われ出発がやや遅れてしまったのだ。
レーヴァンツェーン領都レムシュタット。
レーヴァンツェーン家はローゼリアが領を有する半島の北部に領を有しており、領都レムシュタットは鎌に例えるならば刃の根元にあたる部分へ位置している。
半島の北部という土地柄ゆえか、人口はそう多く無く。
山間部も多いことから穀物の収穫高も高くはない。
はたから見れば裕福とは言えない状況に映るだろうが、かの領は山間部より多量の恵石が産出され、恵石の取引によって財政は潤っていた。
恵石の産みだす利が、少領では維持しえない程の武を経済的に支え、武門の拠って立つところとなっていたのだ。
ローゼリアには敵が多く、後ろに控える真なる敵はあまりにも強大である。
ツェツィーリアが幼少を過ごしていた平穏なるローゼンヌ領、そこを突如襲ったあの動乱。そして我が家を襲った一連の悲劇。
その全てに帝国摂政であるゲーベンドルフ公爵の関与が疑われていた。
だが公爵が有する領地はあまりに広大で、肥沃だった。
現在戦線を開いている大公が破れ、万が一その勢力が奴に吸収されてしまえば万事休す、もはや抗うことすら困難になる。帝家でさえ危うい。
そんな公爵家に対抗するためにはレムシュタット奪取は必須と言えた。
収穫高も、人的資源も、経済力も全て完敗では話にならん。
その全てを公爵家と戦える水準まで、底上げして行かねばならぬのだ。
心底頭の痛い問題であった。
ふぅ、出来るだけ民に被害が及ばぬよう、可能な限りレムシュタットを無傷で手に入れなければならぬな……。
日が天の頂きより照らす頃、我々はレムシュタットへ到着する。
ローゼリア軍がその陣容をレムシュタットに晒し、南門前に整然と整列し始めるとレムシュタットの重厚な門が突如開かれた。
1人の人物が武器も持たずに、我が陣へ向け緩やかに駆けてくるではないか。
「閣下、御目通りをお許し頂き誠にありがとうございます。レーヴァンツェーンにて政務官をしておりますリンハルトと申します」
「政務官? 失礼だが政務官と?」
「はい、政務官がこの場に一体何用と思われるのも無理はありません」
「位が低すぎるのは承知しております」
「いや、失礼した。状況的に武官が来ると思っていたのだ。他意は無い、許されよ」
「して何用で参られた?」
恭しく一礼をし、男は語り始める。
「レーヴァンツェーンが閣下と閣下のご家族、そしてローゼリアの皆様に行った悪逆非道な行いの数々は決して許されるものではありません。ですが、恥を忍んでお願いにあがりました」
「此度の戦いから一連の策謀にかけて、民は全く関係ありません。罪なき
者への厳罰や略奪が及ばぬようにして頂きたいのです」
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「もし閣下がお願いを聞いてくださるのであれば、レムシュタットは直ちに城門を開け、閣下へ降伏いたします。」
これには思わず、我が側近達もざわついてしまう。
予想外の内容だったからだ。
「何? 降伏すると? ヘルマンや嫡子は承知しているのか?」
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「お約束をお守り頂けるとあらば、もはや反対するものはおりません」
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