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ねこセンサー

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猫の遅すぎる反抗期

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親にとっての「いい子」ほど、危ういものはない、そう思う。

聞き分けのいい子。勉強のできる子。気遣いのできる子。

あの子は優しくて、ちゃんと勉強もするし、手伝いもしてくれて。


ちょっと待て  
その子はホントに 
いい子かな


親に遠慮して、親の望む子を演じていないか?その子が泣くのをいつ見たか?猫の毛皮を二枚か三枚、かぶっていないか?

親が、子供を無意識にでも、抑圧していないか?親に心配かけさせまいと、隠し事をしてないか?

反抗期、ありましたか?


おそらく自分達にはなかった。昔から空気を読み、静かに暮らしてきたせいか、感情を押さえ込むようになった。姉もそうだろう。彼女の周りの評価は、いつだって「真面目な女の子」だったから。真面目だからクラス委員なんかよくやっていた。人から頼まれたら断れない。真面目に、頼まれたことをこなす人だった。

それゆえ、気がついてしまった。

母がパートに出るようになった。夫婦でお話し合いという名の喧嘩を経て、教育費が足りないと気づいたらしい。職を経て、デパ地下に勤めるようになった。

父は、きっかりと時間を過ごさねば気がすまない人だ。同じ時間に帰り、同じように食事し、風呂に入り、寝る。

そのサイクルを乱されることをことのほか嫌った。

母のパート終了は六時半。それから支度してからは父の希望する七時の晩酌に間に合わない。

何時からか、私や姉が台所にたつようになった。帰宅したら家事をして、買い物をして夕飯を作り、父に先に食べさせて母の帰りを待ち、みんなで夕飯をとる。そんなサイクルができた。

姉が受験生であるときは私が一年夕飯を担当し、逆に私が受験生の時は姉がほとんどを担当した。自然に分担したように思う。

私と姉は、この頃には兄弟というより、いづらい家庭で協力してやりくりする、戦友のようだった。

その頃、姉は言っていた。
「お母さんは私が養うから、あんたは自由にいきればいいよ」

…姉ちゃんの、嘘つき。
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