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第三話
トイレの花奈ちゃん
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花子が死んだ。自殺だった。どうやら夜の学校に忍び込み屋上から飛び降りたようだ。翌朝、朝練で校舎周りを走っていた陸上部によって発見された。屋上には遺書が残されており、花子はある生徒からのいじめが原因で自殺したらしい。
そして花子が死んだ年からある噂が囁かれるようになった。三階のトイレの三番目の個室に花子の幽霊が現れるというものだ。というのも、その個室は花子が弁当を食べる為に使っていた場所だった。花子はいじめっ子を強く恨んでおり、地縛霊となって現世に残り、その人物へ復讐をしようとしているのではないかと。その噂から三階のトイレを使う生徒はいなくなったが、彼女への供養として毎日のように交代制でトイレ掃除が行われている。彼女が成仏できるように。
というのが、数年前からアップデートされた聖姫百合女学園に伝わるトイレの花子さんの噂だった。トイレの扉をノックすると花子さんから返事が返ってくるらしいが、試してみた生徒はこれまで一人もいなかった。
「てかアップデートって……」
「時代は移ろいゆくからね。噂も時代によって変わっていくね」
「そういうもの?」
逢沢このはと十六夜楓は、花子さんの話をしていた。
「花子さんって、日本で一番有名な話ですよね? おかっぱの女の子の。一度会ってみたいです」
川島ミアも会話に入ってくる。
「オカルト倶楽部としては花子さんの噂も検証しないとね。早速今夜とかどう?」
「いいですね! 早速小林先生に話をしに行きましょう!」
このはとミアが意気揚々と部室から出て行く中、
「本物を見てまた尻餅をつかなきゃいいけど」とボソッと呟く楓だった。
今夜。
「まさかまた夜の学校に集まるなんてな」
昇降口。ふわぁ、と欠伸をしながら小林が言う。
「欠伸をしている場合ですか。早く花子さんに会いに行きますよ」
「でも大丈夫なの? 川島って本物苦手なんだよね? 花子さんが本当にいたとして、また驚いて尻餅つかない?」
歩き出すミアの背中に小林が声をかけると、その足をピタッと止めた。
「何でそんなこと言うんですか? でも今回は大丈夫だと思います。皆いますから」
「あの時も皆いたよ?」
「今は霊の気配は感じないよ。噂はただの噂だったって可能性もあるね」
「ですって小林先生。行きましょう」
「え、めちゃめちゃ無視するじゃん」
四人は噂のトイレに向かって歩き出す。
歩き出してから三階に着いた時だった。このはは背中にゾクッと悪寒が走るのを感じた。この階には人間ではない何者かが確かにいるのだ。
その者の気配は例のトイレに着いてから、更に強く感じるようになった。先程はよく分からなかったが、どうやら何者かは誰かに話しかけている。だが、話しかけられている方の気配は感じない。ということは、人間と霊が一緒の空間にいるのか? この密室空間に? そんなことがあり得る? 神経を霊に集中させていると、復讐という単語が聞こえてきた。断言はできないが、怨霊といった類だろうか。
「皆、トイレの中から強い気配を感じる。しかも、人が一緒にいるみたい。とにかくゆづき君の時のような優しい霊じゃないの。離れずに固まって動こう」
このはの言葉に、三人は小林の後ろに隠れノックをするよう促す。
小林が扉をノックすると、中から「はあい♪」と声が返ってきた。何やら楽しそうな声だ。扉を開けてみると、そこには誰もいなかった。
「所詮はただの噂だった。帰ろう」と楓が呟き、ミアがホッと胸を撫で下ろした時だった。トイレから二本の腕が伸び、四人はトイレに引きずり込まれてしまった。
トイレの底。
目を覚ますと、辺り一面真っ暗だった。
「お前ら大丈夫か? 無事なら俺の傍に集まって。離れないで」
「うん、ありがとう。あたし達は大丈夫だけど、まさかトイレの底はこうなっていたなんて」
「皆さん、あちらに明かりが見えます」
ミアが指を差す方を見ると、そこには確かに明るい空間が一箇所だけあった。その場所には二人の少女がいる。四人はそこに向かって歩き出した。近寄ると、二人共女学園の制服を着ていることが分かった。片方の生徒の制服には血が所々に付いていた。生徒がこんな所で何をしているのだろう。このは達がそう思っていると、小林が驚きながら声を上げた。
「都築じゃないか。どうしてこんな所にいるんだ?」
「都築って、真由華さんが探していた妹の真由子さん?」
「分かんないよ。いきなりこんな所に連れてこられて。早く助けて。家に帰りたい……」
「近付いて顔を見たら思い出したよ。お前、泉花奈だよね? でも数年前に自殺したはずじゃ……。もしかして、トイレの花子さんの噂は本当で、その正体はお前だったってことか」
「噂? その話は知らないけど、あたしは確かに屋上から飛び降りて自殺した。でも、あたしは死んだのにあいつはのうのうと生きているのが赦せなくて、気付いたらトイレにいたの。あいつはもう卒業してこの学校にはいなかったけど、代わりにこの子が入学してきた。顔が似てたからすぐに姉妹だって分かったよ。だからこの子をトイレに連れ込んであいつへの復讐として痛めつけていたの。あんたには本当に申し訳ないと思ってる。でもあいつがあたしにやったことに比べたら優しくしてあげてる方だよ」
花奈は真由子の頭を撫でながら優しく言う。だが、真由子の体は震えており、今にも泣き出しそうだった。
「だからって妹に危害を加えていい理由にはならない。早く解放してやれ」
普段は優しい小林だが、この時ばかりは厳しい口調になっていた。
「じゃあ真由華を呼んできてよ。そしたらこの子は解放してあげる。じゃ、また明日ね」
四人はトイレの扉の前に立っていた。いつからこの中に人が閉じ込められていたのかと考えると、とても恐ろしかった。
「真由華さんに真由子さんが見つかったことを教えてあげたいけど……」
「花奈さん、絶対真由華さんに危害を加える」
「まあ、都築に何かしそうになったら俺達で守ればいいんじゃないかな」
「いいじゃないですか、花奈さんに何かされても」
ミアから発せられた言葉は意外なものだった。
「仮に花奈さんが真由華さんに危害を加えたって、それは真由華さんの自業自得です。自分がしたことは自分に返ってくる。それが世の理なんです」
「それは確かにミアの言う通りなんだけど……」
「明日、早速真由華さんに連絡しますよ」
こんなに熱くなるミアは初めてだ。過去に何かあったのだろうか。気になったが、三人は人の過去は詮索しないようにした。
翌日。
真由華に連絡すると、彼女は嬉しそうに声を弾ませ喜んでいた。夜学校に集まることを伝えると、最初は戸惑っていたが妹に会えるとあって了承した。このはと楓は内心真由華に危害が及ぶことを危惧して真由華を呼ぶことに反対していたが、無関係の妹が巻き込まれ続けるのも嫌だったので、渋々彼女を花奈の元に連れて行くことにした。
夜。
四人が昇降口で待っていると、真由華が遅れてやってきた。
「遅れてごめんなさい。で、真由子はどこ?」
「こっちです」とミアが促す。真由華、そしてこのは、楓、小林とミアの後に続いた。
「ここです」
三階のトイレに着くと、ミアは三番目の扉を指差す。
「トイレ? 馬鹿にしてるの? こんな所に真由子がいるはずがない。貴女達のこと信じてたのに。もう帰る」
真由華が怒って帰ろうとした時、ミアが扉をノックし花奈が返事をする。そして扉を開けると、二本の腕が五人を引きずり込んだ。
トイレの底。
真由華は目を覚まし、一箇所だけ明るい空間を見つめる。目が慣れたのか二人いる少女のうち一人が妹の真由子であると気付くと、駆け出し真由子に抱きついた。
「真由子! 心配したんだから!」
「お姉ちゃん。怖かったよ……。お姉ちゃん! 後ろ!」
真由華が後ろを振り返ると同時に小林が「都築!」と声を上げ、真由華の体を覆うようにして庇う。すると、カッターを振り上げていた花奈は勢いのままに振り下ろし、そのまま小林を切り裂いた。
「……っ!」
小林は声にならない悲鳴をあげる。彼の腕からは血が流れていた。
「先生!」
このはと楓は花奈の手からカッターを奪い取り、そのまま花奈を抑える。
「ちょっと先生、それにあんた達も。何するの? 皆真由華の味方をするの? あの時もそうだった。誰もあたしの味方をしてくれる人なんていなかった」
花奈は今にも泣き出しそうな声で叫ぶ。
「それに、あの時はやり返す勇気がなかった。報復が怖かったから。でも今は違う。死んで色々どうでも良くなったからかな。勇気が湧いてくるの。だからどいてよ!」
花奈は今出せる最大の力でこのはと楓を引き剥がす。そしてカッターを再び手に取ると、真由華目掛けて走り出した。
「やめろ泉!」
小林が叫んだ瞬間だった。立ち上がった真由華の手からは血が滴り落ちている。カッターの刃を手で握りしめているのだ。
「花奈、あの時は本当にごめん。冗談のつもりだった。すぐやめるつもりだった。でもまさか死ぬとは思わなかったの。本当にごめんなさい。あたしにできることがあるなら何でもする。だから真由子を返して」
「謝罪の言葉なんていらないよ。謝ったら許してもらえると思ったの? わざとカッターの刃を握って怪我して、あたしは友達の暴走を止める為にここまで体張れますって? 妹を返してって、悲劇のヒロイン気取り? 笑わせないでよ。あんたがあんなことしなければ、あたしだって死ぬことはなかったし、妹を傷付けることなんてなかった。全部あんたのせいだよ。あたしにだってこれから楽しい人生が待っていたかもしれないのに。それをあんたは奪ったの。できることがあるなら何でもするって言ったよね? あたしの人生を返して。あんたにそれができる?」
「そんなことできる訳ないでしょ? 死んだ人間を生き返らせるなんて、ファンタジーじゃないんだから。それにあれは全部冗談なの。それを真に受けちゃって。あたしの人生を返して? あんたが勝手に死んだんでしょ? 辛くて死ぬことでしか現実から逃げることができなかった弱い自分のせい。死んだことまであたしのせいにしないでよ」
真由華に心無い言葉を投げられた花奈は、
「そっか。あたしのこと弱い人間だと思ってたんだね」と呟くと、握りしめられたカッターを真由華の手から振り解き、刃を彼女の目の前に突き立て叫ぶ。
「あたしはもう人を殺すことさえ躊躇わない。そんなあたしをまだ弱い人間だと言える?」
花奈がカッターを振り上げ真由華の喉元を切ろうとした時だった。パチンと何者かが真由華の顔を叩く音がした。それはミアだった。真由華は叩かれた頬を抑え、ミアを睨みつける。花奈は突然の出来事に呆然としていた。
「人をいじめて何が冗談ですか。そんなことで許される訳ないでしょう? 貴女が花奈さんをいじめて笑っている時に、彼女は泣いていたんです。人を笑わせれない冗談は冗談とは言えません。それに、貴女はある重罪を犯しています」
興奮気味のミアは呼吸を整えると、一拍置きこう続けた。
「殺人です」
「はあ? あたしは人なんて殺してない!」
「花奈さんを殺したじゃないですか。直接は手にかけていないとしても、貴女が原因で自殺した。つまりは貴女が殺したようなものなんです」
すると、真由華は泣き出し当時の心境を吐露する。
「始まりは進級してカースト上位の女の子達に目を付けられた時だった。最初、その子達にいじめられていたの。辛くてやめてって言ったら、友達の花奈をいじめたらやめてくれるって言われて。そこから花奈をいじめ出した。あたし、両親から色々期待されてて好きなことさせてもらえなかったの。ずっと勉強勉強でストレスが溜まってた。でもいじめている時はストレスが発散されて。歯止めが利かなくなっちゃったの。本当最低な人間だよね。自分が助かる為に大事な友達を失う。これなら恨まれて当然。花奈、恨みがあるのはあたしでしょ? だから妹を解放して、代わりにあたしを閉じ込めて。それで好きにして。あたしはどんなことにも耐えるから」
「真由華……。あんたも大変な思いをしてきたんだね」
花奈は優しい表情で真由華に話しかける。だが、それも束の間。花奈の表情は険しいものに変わり、真由華を殴りつける。
「あんたの家庭環境がどうだって、あたしには関係ないでしょ? 自分のストレスを他人にぶつけないでよ! ねえ、今痛い? 痛いよね? どんなことにも耐えるって言ったけど、どこまで耐えれるかな?」
花奈は真由華を殴り続ける。真由華はその間、「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り続けていた。
数分続いた後、花奈の手が止まる。
「殴られ続けてどうだった?」
「すごい痛かった。でも花奈があの時受けた傷に比べればまだまだだよね。ようやく分かった。花奈の気持ち。本当にごめん」
「だから謝罪の言葉はいらないって。謝られても許す気はないよ」
「そうだよね。そのぐらいのことをしたんだから、当然だよね。あたしはもう花奈の前には現れないよ。さようなら」
「どこに行くの? この空間からはあたしの力がないと出られないよ」
真由華の背中に向かって花奈が声をかける。
次いでため息を吐き、こう語りかけた。
「そういえば、さっき話を聞いてあんたにできること見つけたよ」
「何?」
「あたしの分まで、自分の人生好きに生きて」
その口調はとても優しいものだった。
「え? それでいいの?」
「いいよ。あたしと違って、あんたはまだこれからの人生楽しいことがたくさん待ってる。それを親の言うことだけを聞いてるのは楽しくないでしょ? 人生一度きりなんだから、楽しまなきゃ。それで、あんたは誰よりも幸せになるの。ちゃんとあたしとの約束を守ってるかどうか、空の上から見てるから。それができたら許してあげる」
二人は数秒見つめ合った後、笑い合う。
「分かった。花奈に幻滅されないような素敵な人生を歩んでみせる」
「楽しみにしてる。じゃあね、真由華」
「ありがとう、花奈。あたしをちゃんと見ていてね」
六人はトイレの前に立っていた。女学園に伝わる花子さんの噂の正体は悲しいもので、しばらくの間静寂が支配していた。
「今日はありがとう。真由子を助けれたし、花奈とも仲直りできた。いや、あれはできたのかな? まあ、これから仲直りする」
「仲直りできるといいですね。それより真由華さん、さっきは叩いてしまってごめんなさい。つい熱くなってしまって。反省しなきゃですね」
「確かに急に叩かれた時はびっくりしたけど、花奈に殴られた時ほど痛くなかった。でも、それのおかげで気付かされたって言うか……。ありがとう」
その後六人は保健室に立ち寄り、真由華と小林のそれぞれの手当てをした後別れた。
小林の車に乗り込む前、このはは花壇の方を見ていた。
「先生、あの花壇に植えられてる花って……」
「姫百合だよ。学校の名前になってるからね。シンボルにしたくて植えたんだろう。で、あれがどうかしたの?」
「ちょっと気になるの。何か気配が……」
「気配? まさかあの下に人でも埋まってるの? 馬鹿言うなよ。帰るぞ」
このはは車に乗り、学校を後にする。何かモヤモヤしたものを抱えながら。
「そういえば、さっき逢沢と十六夜は普通に泉の体に触れてたけど、何でなの? 泉の姿も普通に見えてたし」
「確か、あの時もゆづき君の姿が普通に見えてた」
「あたしと関係を持った人は霊能力がちょっとだけ引き継がれるのかも」
「関係を持ったとか言うなよ生々しい」
「そんなことありますか?」
後日、このは達のクラスに真由子が訪ねてきた。
「改めてお礼が言いたくて。あの時は本当にありがとう」
「いやいや。オカルト倶楽部としての活動をしただけだよ。それに、真由子さんも元気そうで良かった」
「あれから真由華さんはどうしてる?」
「お姉ちゃん、本当は声優になりたかったんだって。そういや勉強で疲れた時隠れてネットでアニメとか見てた。あの時のお姉ちゃんは本当に楽しそうで、アニメが好きなんだなって思ったよ。親は反対してたけど、お姉ちゃんが説得して大学を辞めて声優の専門学校に入ることになったの。それを泉さんのお墓参りに行った時に報告しててね。お姉ちゃん曰く泉さんは喜んでいたみたいだよ」
「確かに真由華さんいい声だったもんね。それに、その光景が目に浮かぶよ」
「真由華さんの声優デビュー楽しみにしてる」
「うん。じゃあ、わたしはそろそろ行くね。ほんとありがとう」
パタパタと友達の所へ駆けていく真由子の後ろ姿を三人は微笑ましく見守る。
ある日の休日。ミアは一人で留守番をしていた。
小学生の時、友達になった子がいたが、その子はある日を境にいじめられてしまう。当時言い返す勇気のなかったミアは話を聞いてあげることしかできなかった。いつしかその友達は学校を辞め、連絡を取ることはなくなった。そしてそのままミアも日本の学校に転校。二人が出会うことはなくなった。助けてあげられなくて嫌われたのだろうか。そんなことをミアは花奈の事件の時に思い出していた。
ぼうっとテレビを見ていると、チャイムが鳴る。ドアを開けると、見覚えのある顔だった。
「久しぶり、ミア。わたしのこと覚えてる?」
それは小学生の頃の友達のアリサだった。
「アリサ? どうして日本に? わたしのこと嫌いになったんじゃ」
「嫌う? どうして? ミアのことはずっと好きだよ」
「本当? だって、あの時から連絡全然なかったし。助けてあげられなかったから嫌われたのかと」
「それは違うよ。学校を辞めてから時間ができて。自分の好きなことに打ち込もうと思ったの。そしたらそれがパパの会社の上司の目に止まって。わたしを中心としたプロジェクトが始まったの。それが忙しくて、なかなか連絡できなかった。ごめん」
「そうだったんだ。なら安心したよ。でもアリサは凄いね。わたしとは全然違う」
「そんなことないよ。わたしはたまたまネットの知識があったってだけ。ミアにも気付いてないだけで光るものはあるよ。今は長期休暇をもらって日本に旅行に来てるの。一緒に食べ歩きとかしない?」
「いいね。学校の友達に教えてもらった美味しいお店があるの。そこに行こうよ」
ミアとアリサはそれぞれの現状を話しながら食べ歩きの旅に出かけて行った。
そして花子が死んだ年からある噂が囁かれるようになった。三階のトイレの三番目の個室に花子の幽霊が現れるというものだ。というのも、その個室は花子が弁当を食べる為に使っていた場所だった。花子はいじめっ子を強く恨んでおり、地縛霊となって現世に残り、その人物へ復讐をしようとしているのではないかと。その噂から三階のトイレを使う生徒はいなくなったが、彼女への供養として毎日のように交代制でトイレ掃除が行われている。彼女が成仏できるように。
というのが、数年前からアップデートされた聖姫百合女学園に伝わるトイレの花子さんの噂だった。トイレの扉をノックすると花子さんから返事が返ってくるらしいが、試してみた生徒はこれまで一人もいなかった。
「てかアップデートって……」
「時代は移ろいゆくからね。噂も時代によって変わっていくね」
「そういうもの?」
逢沢このはと十六夜楓は、花子さんの話をしていた。
「花子さんって、日本で一番有名な話ですよね? おかっぱの女の子の。一度会ってみたいです」
川島ミアも会話に入ってくる。
「オカルト倶楽部としては花子さんの噂も検証しないとね。早速今夜とかどう?」
「いいですね! 早速小林先生に話をしに行きましょう!」
このはとミアが意気揚々と部室から出て行く中、
「本物を見てまた尻餅をつかなきゃいいけど」とボソッと呟く楓だった。
今夜。
「まさかまた夜の学校に集まるなんてな」
昇降口。ふわぁ、と欠伸をしながら小林が言う。
「欠伸をしている場合ですか。早く花子さんに会いに行きますよ」
「でも大丈夫なの? 川島って本物苦手なんだよね? 花子さんが本当にいたとして、また驚いて尻餅つかない?」
歩き出すミアの背中に小林が声をかけると、その足をピタッと止めた。
「何でそんなこと言うんですか? でも今回は大丈夫だと思います。皆いますから」
「あの時も皆いたよ?」
「今は霊の気配は感じないよ。噂はただの噂だったって可能性もあるね」
「ですって小林先生。行きましょう」
「え、めちゃめちゃ無視するじゃん」
四人は噂のトイレに向かって歩き出す。
歩き出してから三階に着いた時だった。このはは背中にゾクッと悪寒が走るのを感じた。この階には人間ではない何者かが確かにいるのだ。
その者の気配は例のトイレに着いてから、更に強く感じるようになった。先程はよく分からなかったが、どうやら何者かは誰かに話しかけている。だが、話しかけられている方の気配は感じない。ということは、人間と霊が一緒の空間にいるのか? この密室空間に? そんなことがあり得る? 神経を霊に集中させていると、復讐という単語が聞こえてきた。断言はできないが、怨霊といった類だろうか。
「皆、トイレの中から強い気配を感じる。しかも、人が一緒にいるみたい。とにかくゆづき君の時のような優しい霊じゃないの。離れずに固まって動こう」
このはの言葉に、三人は小林の後ろに隠れノックをするよう促す。
小林が扉をノックすると、中から「はあい♪」と声が返ってきた。何やら楽しそうな声だ。扉を開けてみると、そこには誰もいなかった。
「所詮はただの噂だった。帰ろう」と楓が呟き、ミアがホッと胸を撫で下ろした時だった。トイレから二本の腕が伸び、四人はトイレに引きずり込まれてしまった。
トイレの底。
目を覚ますと、辺り一面真っ暗だった。
「お前ら大丈夫か? 無事なら俺の傍に集まって。離れないで」
「うん、ありがとう。あたし達は大丈夫だけど、まさかトイレの底はこうなっていたなんて」
「皆さん、あちらに明かりが見えます」
ミアが指を差す方を見ると、そこには確かに明るい空間が一箇所だけあった。その場所には二人の少女がいる。四人はそこに向かって歩き出した。近寄ると、二人共女学園の制服を着ていることが分かった。片方の生徒の制服には血が所々に付いていた。生徒がこんな所で何をしているのだろう。このは達がそう思っていると、小林が驚きながら声を上げた。
「都築じゃないか。どうしてこんな所にいるんだ?」
「都築って、真由華さんが探していた妹の真由子さん?」
「分かんないよ。いきなりこんな所に連れてこられて。早く助けて。家に帰りたい……」
「近付いて顔を見たら思い出したよ。お前、泉花奈だよね? でも数年前に自殺したはずじゃ……。もしかして、トイレの花子さんの噂は本当で、その正体はお前だったってことか」
「噂? その話は知らないけど、あたしは確かに屋上から飛び降りて自殺した。でも、あたしは死んだのにあいつはのうのうと生きているのが赦せなくて、気付いたらトイレにいたの。あいつはもう卒業してこの学校にはいなかったけど、代わりにこの子が入学してきた。顔が似てたからすぐに姉妹だって分かったよ。だからこの子をトイレに連れ込んであいつへの復讐として痛めつけていたの。あんたには本当に申し訳ないと思ってる。でもあいつがあたしにやったことに比べたら優しくしてあげてる方だよ」
花奈は真由子の頭を撫でながら優しく言う。だが、真由子の体は震えており、今にも泣き出しそうだった。
「だからって妹に危害を加えていい理由にはならない。早く解放してやれ」
普段は優しい小林だが、この時ばかりは厳しい口調になっていた。
「じゃあ真由華を呼んできてよ。そしたらこの子は解放してあげる。じゃ、また明日ね」
四人はトイレの扉の前に立っていた。いつからこの中に人が閉じ込められていたのかと考えると、とても恐ろしかった。
「真由華さんに真由子さんが見つかったことを教えてあげたいけど……」
「花奈さん、絶対真由華さんに危害を加える」
「まあ、都築に何かしそうになったら俺達で守ればいいんじゃないかな」
「いいじゃないですか、花奈さんに何かされても」
ミアから発せられた言葉は意外なものだった。
「仮に花奈さんが真由華さんに危害を加えたって、それは真由華さんの自業自得です。自分がしたことは自分に返ってくる。それが世の理なんです」
「それは確かにミアの言う通りなんだけど……」
「明日、早速真由華さんに連絡しますよ」
こんなに熱くなるミアは初めてだ。過去に何かあったのだろうか。気になったが、三人は人の過去は詮索しないようにした。
翌日。
真由華に連絡すると、彼女は嬉しそうに声を弾ませ喜んでいた。夜学校に集まることを伝えると、最初は戸惑っていたが妹に会えるとあって了承した。このはと楓は内心真由華に危害が及ぶことを危惧して真由華を呼ぶことに反対していたが、無関係の妹が巻き込まれ続けるのも嫌だったので、渋々彼女を花奈の元に連れて行くことにした。
夜。
四人が昇降口で待っていると、真由華が遅れてやってきた。
「遅れてごめんなさい。で、真由子はどこ?」
「こっちです」とミアが促す。真由華、そしてこのは、楓、小林とミアの後に続いた。
「ここです」
三階のトイレに着くと、ミアは三番目の扉を指差す。
「トイレ? 馬鹿にしてるの? こんな所に真由子がいるはずがない。貴女達のこと信じてたのに。もう帰る」
真由華が怒って帰ろうとした時、ミアが扉をノックし花奈が返事をする。そして扉を開けると、二本の腕が五人を引きずり込んだ。
トイレの底。
真由華は目を覚まし、一箇所だけ明るい空間を見つめる。目が慣れたのか二人いる少女のうち一人が妹の真由子であると気付くと、駆け出し真由子に抱きついた。
「真由子! 心配したんだから!」
「お姉ちゃん。怖かったよ……。お姉ちゃん! 後ろ!」
真由華が後ろを振り返ると同時に小林が「都築!」と声を上げ、真由華の体を覆うようにして庇う。すると、カッターを振り上げていた花奈は勢いのままに振り下ろし、そのまま小林を切り裂いた。
「……っ!」
小林は声にならない悲鳴をあげる。彼の腕からは血が流れていた。
「先生!」
このはと楓は花奈の手からカッターを奪い取り、そのまま花奈を抑える。
「ちょっと先生、それにあんた達も。何するの? 皆真由華の味方をするの? あの時もそうだった。誰もあたしの味方をしてくれる人なんていなかった」
花奈は今にも泣き出しそうな声で叫ぶ。
「それに、あの時はやり返す勇気がなかった。報復が怖かったから。でも今は違う。死んで色々どうでも良くなったからかな。勇気が湧いてくるの。だからどいてよ!」
花奈は今出せる最大の力でこのはと楓を引き剥がす。そしてカッターを再び手に取ると、真由華目掛けて走り出した。
「やめろ泉!」
小林が叫んだ瞬間だった。立ち上がった真由華の手からは血が滴り落ちている。カッターの刃を手で握りしめているのだ。
「花奈、あの時は本当にごめん。冗談のつもりだった。すぐやめるつもりだった。でもまさか死ぬとは思わなかったの。本当にごめんなさい。あたしにできることがあるなら何でもする。だから真由子を返して」
「謝罪の言葉なんていらないよ。謝ったら許してもらえると思ったの? わざとカッターの刃を握って怪我して、あたしは友達の暴走を止める為にここまで体張れますって? 妹を返してって、悲劇のヒロイン気取り? 笑わせないでよ。あんたがあんなことしなければ、あたしだって死ぬことはなかったし、妹を傷付けることなんてなかった。全部あんたのせいだよ。あたしにだってこれから楽しい人生が待っていたかもしれないのに。それをあんたは奪ったの。できることがあるなら何でもするって言ったよね? あたしの人生を返して。あんたにそれができる?」
「そんなことできる訳ないでしょ? 死んだ人間を生き返らせるなんて、ファンタジーじゃないんだから。それにあれは全部冗談なの。それを真に受けちゃって。あたしの人生を返して? あんたが勝手に死んだんでしょ? 辛くて死ぬことでしか現実から逃げることができなかった弱い自分のせい。死んだことまであたしのせいにしないでよ」
真由華に心無い言葉を投げられた花奈は、
「そっか。あたしのこと弱い人間だと思ってたんだね」と呟くと、握りしめられたカッターを真由華の手から振り解き、刃を彼女の目の前に突き立て叫ぶ。
「あたしはもう人を殺すことさえ躊躇わない。そんなあたしをまだ弱い人間だと言える?」
花奈がカッターを振り上げ真由華の喉元を切ろうとした時だった。パチンと何者かが真由華の顔を叩く音がした。それはミアだった。真由華は叩かれた頬を抑え、ミアを睨みつける。花奈は突然の出来事に呆然としていた。
「人をいじめて何が冗談ですか。そんなことで許される訳ないでしょう? 貴女が花奈さんをいじめて笑っている時に、彼女は泣いていたんです。人を笑わせれない冗談は冗談とは言えません。それに、貴女はある重罪を犯しています」
興奮気味のミアは呼吸を整えると、一拍置きこう続けた。
「殺人です」
「はあ? あたしは人なんて殺してない!」
「花奈さんを殺したじゃないですか。直接は手にかけていないとしても、貴女が原因で自殺した。つまりは貴女が殺したようなものなんです」
すると、真由華は泣き出し当時の心境を吐露する。
「始まりは進級してカースト上位の女の子達に目を付けられた時だった。最初、その子達にいじめられていたの。辛くてやめてって言ったら、友達の花奈をいじめたらやめてくれるって言われて。そこから花奈をいじめ出した。あたし、両親から色々期待されてて好きなことさせてもらえなかったの。ずっと勉強勉強でストレスが溜まってた。でもいじめている時はストレスが発散されて。歯止めが利かなくなっちゃったの。本当最低な人間だよね。自分が助かる為に大事な友達を失う。これなら恨まれて当然。花奈、恨みがあるのはあたしでしょ? だから妹を解放して、代わりにあたしを閉じ込めて。それで好きにして。あたしはどんなことにも耐えるから」
「真由華……。あんたも大変な思いをしてきたんだね」
花奈は優しい表情で真由華に話しかける。だが、それも束の間。花奈の表情は険しいものに変わり、真由華を殴りつける。
「あんたの家庭環境がどうだって、あたしには関係ないでしょ? 自分のストレスを他人にぶつけないでよ! ねえ、今痛い? 痛いよね? どんなことにも耐えるって言ったけど、どこまで耐えれるかな?」
花奈は真由華を殴り続ける。真由華はその間、「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り続けていた。
数分続いた後、花奈の手が止まる。
「殴られ続けてどうだった?」
「すごい痛かった。でも花奈があの時受けた傷に比べればまだまだだよね。ようやく分かった。花奈の気持ち。本当にごめん」
「だから謝罪の言葉はいらないって。謝られても許す気はないよ」
「そうだよね。そのぐらいのことをしたんだから、当然だよね。あたしはもう花奈の前には現れないよ。さようなら」
「どこに行くの? この空間からはあたしの力がないと出られないよ」
真由華の背中に向かって花奈が声をかける。
次いでため息を吐き、こう語りかけた。
「そういえば、さっき話を聞いてあんたにできること見つけたよ」
「何?」
「あたしの分まで、自分の人生好きに生きて」
その口調はとても優しいものだった。
「え? それでいいの?」
「いいよ。あたしと違って、あんたはまだこれからの人生楽しいことがたくさん待ってる。それを親の言うことだけを聞いてるのは楽しくないでしょ? 人生一度きりなんだから、楽しまなきゃ。それで、あんたは誰よりも幸せになるの。ちゃんとあたしとの約束を守ってるかどうか、空の上から見てるから。それができたら許してあげる」
二人は数秒見つめ合った後、笑い合う。
「分かった。花奈に幻滅されないような素敵な人生を歩んでみせる」
「楽しみにしてる。じゃあね、真由華」
「ありがとう、花奈。あたしをちゃんと見ていてね」
六人はトイレの前に立っていた。女学園に伝わる花子さんの噂の正体は悲しいもので、しばらくの間静寂が支配していた。
「今日はありがとう。真由子を助けれたし、花奈とも仲直りできた。いや、あれはできたのかな? まあ、これから仲直りする」
「仲直りできるといいですね。それより真由華さん、さっきは叩いてしまってごめんなさい。つい熱くなってしまって。反省しなきゃですね」
「確かに急に叩かれた時はびっくりしたけど、花奈に殴られた時ほど痛くなかった。でも、それのおかげで気付かされたって言うか……。ありがとう」
その後六人は保健室に立ち寄り、真由華と小林のそれぞれの手当てをした後別れた。
小林の車に乗り込む前、このはは花壇の方を見ていた。
「先生、あの花壇に植えられてる花って……」
「姫百合だよ。学校の名前になってるからね。シンボルにしたくて植えたんだろう。で、あれがどうかしたの?」
「ちょっと気になるの。何か気配が……」
「気配? まさかあの下に人でも埋まってるの? 馬鹿言うなよ。帰るぞ」
このはは車に乗り、学校を後にする。何かモヤモヤしたものを抱えながら。
「そういえば、さっき逢沢と十六夜は普通に泉の体に触れてたけど、何でなの? 泉の姿も普通に見えてたし」
「確か、あの時もゆづき君の姿が普通に見えてた」
「あたしと関係を持った人は霊能力がちょっとだけ引き継がれるのかも」
「関係を持ったとか言うなよ生々しい」
「そんなことありますか?」
後日、このは達のクラスに真由子が訪ねてきた。
「改めてお礼が言いたくて。あの時は本当にありがとう」
「いやいや。オカルト倶楽部としての活動をしただけだよ。それに、真由子さんも元気そうで良かった」
「あれから真由華さんはどうしてる?」
「お姉ちゃん、本当は声優になりたかったんだって。そういや勉強で疲れた時隠れてネットでアニメとか見てた。あの時のお姉ちゃんは本当に楽しそうで、アニメが好きなんだなって思ったよ。親は反対してたけど、お姉ちゃんが説得して大学を辞めて声優の専門学校に入ることになったの。それを泉さんのお墓参りに行った時に報告しててね。お姉ちゃん曰く泉さんは喜んでいたみたいだよ」
「確かに真由華さんいい声だったもんね。それに、その光景が目に浮かぶよ」
「真由華さんの声優デビュー楽しみにしてる」
「うん。じゃあ、わたしはそろそろ行くね。ほんとありがとう」
パタパタと友達の所へ駆けていく真由子の後ろ姿を三人は微笑ましく見守る。
ある日の休日。ミアは一人で留守番をしていた。
小学生の時、友達になった子がいたが、その子はある日を境にいじめられてしまう。当時言い返す勇気のなかったミアは話を聞いてあげることしかできなかった。いつしかその友達は学校を辞め、連絡を取ることはなくなった。そしてそのままミアも日本の学校に転校。二人が出会うことはなくなった。助けてあげられなくて嫌われたのだろうか。そんなことをミアは花奈の事件の時に思い出していた。
ぼうっとテレビを見ていると、チャイムが鳴る。ドアを開けると、見覚えのある顔だった。
「久しぶり、ミア。わたしのこと覚えてる?」
それは小学生の頃の友達のアリサだった。
「アリサ? どうして日本に? わたしのこと嫌いになったんじゃ」
「嫌う? どうして? ミアのことはずっと好きだよ」
「本当? だって、あの時から連絡全然なかったし。助けてあげられなかったから嫌われたのかと」
「それは違うよ。学校を辞めてから時間ができて。自分の好きなことに打ち込もうと思ったの。そしたらそれがパパの会社の上司の目に止まって。わたしを中心としたプロジェクトが始まったの。それが忙しくて、なかなか連絡できなかった。ごめん」
「そうだったんだ。なら安心したよ。でもアリサは凄いね。わたしとは全然違う」
「そんなことないよ。わたしはたまたまネットの知識があったってだけ。ミアにも気付いてないだけで光るものはあるよ。今は長期休暇をもらって日本に旅行に来てるの。一緒に食べ歩きとかしない?」
「いいね。学校の友達に教えてもらった美味しいお店があるの。そこに行こうよ」
ミアとアリサはそれぞれの現状を話しながら食べ歩きの旅に出かけて行った。
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