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前編
返せ!と、返してよ!
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◆
初めての彼と、初めてのデートの日だった。
「なんだよ、エリナはぜってぇヤれるって噂があったから付き合ってやったのに今さら――」
「は、誰よ? そんなこというヤツ……」
口喧嘩とお別れをしたあとすぐ家に帰り、自分の部屋に戻って、私は枕に全力のパンチをおみまいした。
最悪、最悪、最悪!! 人を見た目で判断するなんて……。
自分の姿が映る鏡が目にはいった。金色に近い茶髪をパーマでくるくるにして……、友達からハブられないようにそれらしくふるまう。言葉遣いや、化粧、持ち物、服装。仲間として一緒にいるための変装。私だって、好きでこんな格好なんて――――。
あれ、人を見た目で判断してるのは、――――私じゃないか?
◆
「エリナちゃん、これ……」
違う高校に行ってしまった幼なじみの菜穂が画面を見せてくれる。
「一緒にやろう?」
「ふーん、何これ? ゲーム?」
「うん、最近エリナちゃんと一緒に遊べないから。夜とかに、チャットしながら一緒に出来ないかなって……」
「いいね!」
小学校、中学校時代の私を知ってる彼女は、私の見た目が変わっても前みたいに普通に話してくれて、本当に大切な友達。
「ちょ、ヤバいってナホ!! これまぢ神だよ!」
「どこが面白かった? 私はね――」
「ここ、ここ! このトレジャーハントってとこ」
「え? ――それって」
◇
「夢の中なのに、なんでまた夢を……?」
私はアナスタシアに出発の挨拶とお願いしていた物を受け取り馬車に乗って隣街へとやってきた。
「まあ、いっか。気にしてもしょうがない! よっし、冒険はじめますか!」
昨日泊まった宿の部屋で私は勢いよくワンピースドレスを脱ぎ捨てて冒険者の服装へと着替える。長い髪は上で束ねてポニーテールに、腰には短剣と背中に弓矢。冒険者リリーナの誕生だ!
私、これでも弓道部だったからね! しかもゲームの身体だから、ゲーム補正でもあるのかな? すんなりと使える。ありがとう、神様。
そして、宿を出て意気揚々と街の外へと向かうところだった。
「返せ! この泥棒!」
「は!?」
知らない男に突然、私は腕を掴まれたのだ。っていうか、痛いんだけど!
「俺の腕輪だ!」
は?! 何言ってるのこの人。神様からいただいたマイラッキーリングが誰のだって?
「あのね、これは私の――」
そう言い返そうとした時、突然腕輪が光りがっちりと彼の腕へと移動した。え、待って、どういうこと?
「あんたこそ泥棒じゃない! 返してよ! 私の腕輪」
キツイ眼で睨んでやると、向こうも驚いた顔をしていた。
「あ、そういえば宝石の色がちが……」
「それは私の腕輪よ!」
わたわたと男は焦っている。
「返してよ! 私の幸運!」
「いや、返せと言われても――」
彼の手にガッチリとはまったリングはどうやっても取れそうにない。
「何で、こんなことにぃーーーー!!」
◇
「すまなかった」
しゅんとしゃがみこんで反省している先ほどの男は、大型犬のような印象のもさっとしたヤツだ。髪はモスグリーン。もさっとした前髪からちらっと見える瞳は金色だ。
「いや、すまなかったじゃなくてですね。返してくれる?」
彼は手を差し出すが、取れない。ぴったりもピッタリのサイズよ。これはもう腕ごと――。なんて、出来るかぁ!
「はぁ、それであなた名前は?」
「アルテだ」
「そう、アルテさんというのですね。私はリリーナ。アルテさんは腕輪をどうしたの?」
「それが、誰かに盗られたみたいなんだ。この様な意匠の腕輪なんだが。それで――」
「それで私のを見て盗んだ犯人と?」
ぎろりと睨んだせいか、大きな身体の彼は小さく縮こまっている。やめてよ、私の方が泣きたいのに。
幸運の腕輪がなくなったら、私いよいよ冒険出来なくなる。
「ねえ、何で腕輪を探していたの?」
「それは、……腕輪には力があって、俺はもうすぐレースがあるんだ。その時に腕輪の力が必要で!」
レースというのは、「空と大地を駆ける」の空の方のサブコンテンツだ。魔法の力で空を駆ける乗り物「ハイエアート」で行われるレース。
あぁ、そういえばちょうどアルベルトの妹姫メイラ様のお相手をレースで選ぶイベントがもうすぐあるんだっけ。
でも、あれは出来レースでもう相手は決まってるんじゃなかったかな。うーん、思い出せない。
「そこで、俺は優勝したいんだ!」
あぁ、なるほど。なるほど。この人、妹姫様に惚れてるのね。わかるわー。だって、メインヒーローの妹だもの。輝く金色の髪、ばっちり完璧な美貌とスタイル。今の私やアナスタシアすら霞むような可憐な美少女だからなぁ。父親と母親から愛されすぎてあまり表にだしてもらえないらしいけど……。
うーん、しょうがない、じゃあレースまでは貸しておいてあげようかしら。なんてったって神様の幸運だものね。人の恋路は邪魔より応援してあげたいし!
「わかったわ、レースが終わるまで貸してあげる。そのあとは何としても返してよ」
そう言えば、喜ぶかと思いきや、彼は困った顔をしていた。返さないつもり? やっぱり今すぐ返してもらおうかな。そう思っていると彼は立ち上がり、がしりと両腕を掴んできた。
あの、痛いんですけど(二回目)。
「それじゃあ、お前が!」
「お前が? 何?」
「この腕輪、もし同じ物だったら……」
「だったら?」
「お前が怪我をするぞ」
「は?」
何言ってるの、この人?
初めての彼と、初めてのデートの日だった。
「なんだよ、エリナはぜってぇヤれるって噂があったから付き合ってやったのに今さら――」
「は、誰よ? そんなこというヤツ……」
口喧嘩とお別れをしたあとすぐ家に帰り、自分の部屋に戻って、私は枕に全力のパンチをおみまいした。
最悪、最悪、最悪!! 人を見た目で判断するなんて……。
自分の姿が映る鏡が目にはいった。金色に近い茶髪をパーマでくるくるにして……、友達からハブられないようにそれらしくふるまう。言葉遣いや、化粧、持ち物、服装。仲間として一緒にいるための変装。私だって、好きでこんな格好なんて――――。
あれ、人を見た目で判断してるのは、――――私じゃないか?
◆
「エリナちゃん、これ……」
違う高校に行ってしまった幼なじみの菜穂が画面を見せてくれる。
「一緒にやろう?」
「ふーん、何これ? ゲーム?」
「うん、最近エリナちゃんと一緒に遊べないから。夜とかに、チャットしながら一緒に出来ないかなって……」
「いいね!」
小学校、中学校時代の私を知ってる彼女は、私の見た目が変わっても前みたいに普通に話してくれて、本当に大切な友達。
「ちょ、ヤバいってナホ!! これまぢ神だよ!」
「どこが面白かった? 私はね――」
「ここ、ここ! このトレジャーハントってとこ」
「え? ――それって」
◇
「夢の中なのに、なんでまた夢を……?」
私はアナスタシアに出発の挨拶とお願いしていた物を受け取り馬車に乗って隣街へとやってきた。
「まあ、いっか。気にしてもしょうがない! よっし、冒険はじめますか!」
昨日泊まった宿の部屋で私は勢いよくワンピースドレスを脱ぎ捨てて冒険者の服装へと着替える。長い髪は上で束ねてポニーテールに、腰には短剣と背中に弓矢。冒険者リリーナの誕生だ!
私、これでも弓道部だったからね! しかもゲームの身体だから、ゲーム補正でもあるのかな? すんなりと使える。ありがとう、神様。
そして、宿を出て意気揚々と街の外へと向かうところだった。
「返せ! この泥棒!」
「は!?」
知らない男に突然、私は腕を掴まれたのだ。っていうか、痛いんだけど!
「俺の腕輪だ!」
は?! 何言ってるのこの人。神様からいただいたマイラッキーリングが誰のだって?
「あのね、これは私の――」
そう言い返そうとした時、突然腕輪が光りがっちりと彼の腕へと移動した。え、待って、どういうこと?
「あんたこそ泥棒じゃない! 返してよ! 私の腕輪」
キツイ眼で睨んでやると、向こうも驚いた顔をしていた。
「あ、そういえば宝石の色がちが……」
「それは私の腕輪よ!」
わたわたと男は焦っている。
「返してよ! 私の幸運!」
「いや、返せと言われても――」
彼の手にガッチリとはまったリングはどうやっても取れそうにない。
「何で、こんなことにぃーーーー!!」
◇
「すまなかった」
しゅんとしゃがみこんで反省している先ほどの男は、大型犬のような印象のもさっとしたヤツだ。髪はモスグリーン。もさっとした前髪からちらっと見える瞳は金色だ。
「いや、すまなかったじゃなくてですね。返してくれる?」
彼は手を差し出すが、取れない。ぴったりもピッタリのサイズよ。これはもう腕ごと――。なんて、出来るかぁ!
「はぁ、それであなた名前は?」
「アルテだ」
「そう、アルテさんというのですね。私はリリーナ。アルテさんは腕輪をどうしたの?」
「それが、誰かに盗られたみたいなんだ。この様な意匠の腕輪なんだが。それで――」
「それで私のを見て盗んだ犯人と?」
ぎろりと睨んだせいか、大きな身体の彼は小さく縮こまっている。やめてよ、私の方が泣きたいのに。
幸運の腕輪がなくなったら、私いよいよ冒険出来なくなる。
「ねえ、何で腕輪を探していたの?」
「それは、……腕輪には力があって、俺はもうすぐレースがあるんだ。その時に腕輪の力が必要で!」
レースというのは、「空と大地を駆ける」の空の方のサブコンテンツだ。魔法の力で空を駆ける乗り物「ハイエアート」で行われるレース。
あぁ、そういえばちょうどアルベルトの妹姫メイラ様のお相手をレースで選ぶイベントがもうすぐあるんだっけ。
でも、あれは出来レースでもう相手は決まってるんじゃなかったかな。うーん、思い出せない。
「そこで、俺は優勝したいんだ!」
あぁ、なるほど。なるほど。この人、妹姫様に惚れてるのね。わかるわー。だって、メインヒーローの妹だもの。輝く金色の髪、ばっちり完璧な美貌とスタイル。今の私やアナスタシアすら霞むような可憐な美少女だからなぁ。父親と母親から愛されすぎてあまり表にだしてもらえないらしいけど……。
うーん、しょうがない、じゃあレースまでは貸しておいてあげようかしら。なんてったって神様の幸運だものね。人の恋路は邪魔より応援してあげたいし!
「わかったわ、レースが終わるまで貸してあげる。そのあとは何としても返してよ」
そう言えば、喜ぶかと思いきや、彼は困った顔をしていた。返さないつもり? やっぱり今すぐ返してもらおうかな。そう思っていると彼は立ち上がり、がしりと両腕を掴んできた。
あの、痛いんですけど(二回目)。
「それじゃあ、お前が!」
「お前が? 何?」
「この腕輪、もし同じ物だったら……」
「だったら?」
「お前が怪我をするぞ」
「は?」
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