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後編
勝者と影
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いつの間にか私はアルテではなく、アルベルトを応援しだす。
だって、エリーナの人生がかかってるから!!
もし、アルベルトのことが嫌いでも、彼も言っていたんだ。エリーナから直接気持ちを聞きたいと。
「どうしよう、誰か、伝えることが……! シルフ!」
シルフを呼んで、アルテに伝えてもらおう!
そう考えたら、シルフは「任せとけっ!」と言わんばかりの顔をしてから、アルテのハイエアートに向かって飛んでいった。まだ、何も言ってないのに。というか、精霊って喋れるっけ……? 彼の声を聞いた覚えがないぞ。
まあ、何もしないよりいいよね。たぶん。
護衛の人達が「何を?」と聞いてきたので、精霊にお散歩させているだけです。手助けは絶対にしませんと答えておいた。
レースの行方を見守りながら、私はふとルミナスのいる席を見た。彼の席に黒い人影が近付いている。
何? あの人。
じっと目を凝らして見ると、あの日、アナスタシアが名前を呼んでいた魔術師らしき人物にそっくりだった。
まさかアナスタシアが?
ぐるりと彼の回りを見回すがそれらしい人物は見当たらない。けれど、ルミナスによくない事が起きそうなことははっきりとしている。
もう一度、精霊を?
動こうとした時、後ろから声がかかった。
「あの人達を死なせたくなかったら何もしないこと」
どこまでも冷たいナホの声。
「私の魔法が効いてる人が取り囲んでいるの。もちろん、この騎士たちも」
ケラケラと彼女はひとしきり笑うと、声がしなくなった。
「ナホ……」
気がつけば、彼女はルミナスの近くにいる魔術師と同じ場所に立っていた。
腕をルミナスに向けて、呟く。
駄目……。彼はもう、――もとのルミナスなのに!
でも動いたら、誰かが死ぬ? どうしたらいいの?
魔法が効いてしまったのか、ルミナスとメイラがアナスタシアにお辞儀をしている。
お願い、間違いであって!!
ルミナスだけがアナスタシアに近付き、手の甲に口付けして、彼女は、つまらなそうな顔でそれを眺めていた。
「この人も違う?」
アナスタシアの口がそう言ったように見えた。
くるりと踵を返すと、ルミナス、メイラ、アナスタシアと魔術師が黒い穴に吸い込まれていく。
移動の魔法? いったいどこに?
私はウィンディーネを呼び、水のように透明になって彼らを追って! とお願いした。出来ることなら守ってとも。
ウィンディーネはこくりと頷き、黒い穴に飛び込んでいった。
『ラストコーナーです!!』
こっちはこっちで終盤だった。アルテ達のレースに目をやると、アルベルトが見事にリードしていた。
はやく、レース、終わって!!
私は心の中で精一杯叫んだ。
『ゴーーーーール!! 勝者は文句なくアルベルト様です!!』
わーーーー!! と歓声があがる。いつかのように、今度はアルベルトの乗る機体がゆっくりと大空を飛ぶ。
アルテのハイエアートはすぐに地上に降りてきた。
伝えなきゃ、アルテに!
彼の場所に走って行こうとしたら、肩を掴まれた。
「王がお待ちです」
低い声がした後、黒い穴の中に私も引きずりこまれた。
だって、エリーナの人生がかかってるから!!
もし、アルベルトのことが嫌いでも、彼も言っていたんだ。エリーナから直接気持ちを聞きたいと。
「どうしよう、誰か、伝えることが……! シルフ!」
シルフを呼んで、アルテに伝えてもらおう!
そう考えたら、シルフは「任せとけっ!」と言わんばかりの顔をしてから、アルテのハイエアートに向かって飛んでいった。まだ、何も言ってないのに。というか、精霊って喋れるっけ……? 彼の声を聞いた覚えがないぞ。
まあ、何もしないよりいいよね。たぶん。
護衛の人達が「何を?」と聞いてきたので、精霊にお散歩させているだけです。手助けは絶対にしませんと答えておいた。
レースの行方を見守りながら、私はふとルミナスのいる席を見た。彼の席に黒い人影が近付いている。
何? あの人。
じっと目を凝らして見ると、あの日、アナスタシアが名前を呼んでいた魔術師らしき人物にそっくりだった。
まさかアナスタシアが?
ぐるりと彼の回りを見回すがそれらしい人物は見当たらない。けれど、ルミナスによくない事が起きそうなことははっきりとしている。
もう一度、精霊を?
動こうとした時、後ろから声がかかった。
「あの人達を死なせたくなかったら何もしないこと」
どこまでも冷たいナホの声。
「私の魔法が効いてる人が取り囲んでいるの。もちろん、この騎士たちも」
ケラケラと彼女はひとしきり笑うと、声がしなくなった。
「ナホ……」
気がつけば、彼女はルミナスの近くにいる魔術師と同じ場所に立っていた。
腕をルミナスに向けて、呟く。
駄目……。彼はもう、――もとのルミナスなのに!
でも動いたら、誰かが死ぬ? どうしたらいいの?
魔法が効いてしまったのか、ルミナスとメイラがアナスタシアにお辞儀をしている。
お願い、間違いであって!!
ルミナスだけがアナスタシアに近付き、手の甲に口付けして、彼女は、つまらなそうな顔でそれを眺めていた。
「この人も違う?」
アナスタシアの口がそう言ったように見えた。
くるりと踵を返すと、ルミナス、メイラ、アナスタシアと魔術師が黒い穴に吸い込まれていく。
移動の魔法? いったいどこに?
私はウィンディーネを呼び、水のように透明になって彼らを追って! とお願いした。出来ることなら守ってとも。
ウィンディーネはこくりと頷き、黒い穴に飛び込んでいった。
『ラストコーナーです!!』
こっちはこっちで終盤だった。アルテ達のレースに目をやると、アルベルトが見事にリードしていた。
はやく、レース、終わって!!
私は心の中で精一杯叫んだ。
『ゴーーーーール!! 勝者は文句なくアルベルト様です!!』
わーーーー!! と歓声があがる。いつかのように、今度はアルベルトの乗る機体がゆっくりと大空を飛ぶ。
アルテのハイエアートはすぐに地上に降りてきた。
伝えなきゃ、アルテに!
彼の場所に走って行こうとしたら、肩を掴まれた。
「王がお待ちです」
低い声がした後、黒い穴の中に私も引きずりこまれた。
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