花月夜れん

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陽人 ― 1

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 いつになったら外に出られるの?
 白い壁。白い天井。ぼくのおうちじゃない場所。ベッドの横に座るお母さんに問いかける。

「もうすぐよ」

 お母さんはそう言うけれど、すぐなんて嘘だ。だって、すぐって明日には出られるはずってことだよね。
 だけど、ぼくの身体は自由がきかない。針やチューブがぼくの身体に刺さってるから。

「お父さんは? 来てくれないの?」
「お父さんはね、今陽人のためにお薬を探してくれてるの。だから、大丈夫。大丈夫よ」

 これも嘘だ。お母さんは嘘をつくときまっすぐ見てたはずの目が横に動く。

「一緒に外で遊びたい」
「うん、大丈夫よ。一緒に遊びに行こうね」
「約束だよ」

 お母さんの目は横に移動した。

「うん、ちゃんとお父さんに言っておくね」

 ◇

「どこだよ。ここ」

 激しい痛みのあと、ぼくは知らない場所にいた。まわりは夕焼けよりも赤くて、さらさらと真っ赤な水が流れる川があった。

「お母さん? お父さん?」

 たくさんの針とチューブは身体についていない。動いていいんだ。もしかして、今から家に帰れるのかな。
 ぼくはお母さんを探して身体を動かす。
 なんとか動いた。でも、全然歩いてなかったから、身体がすごく重かった。

「お母さん、どこ? お母さん」
「うわ、動いてる」

 女の子の声がした。

「こんにちは。お名前は? あ、わたしはかなみだよ」

 同じ位の女の子がいてくれて、少しホッとする。

「ぼくは――」
「かなみね、病気なの」
「え?」
「あ、名前は?」
「ぼく、陽人はると。ぼくも病気だったんだ。今日たぶん退院出来るんだけど、お母さんがいなくて」
「あはははは、残念。はるとくんは死んだんだよ?」
「え?」
「ここは、地獄って言う場所なんだって」
「……じごく?」

 かなみは笑いながら何かを持ち上げる。

「ほらっ」

 彼女が持っていたのは、図鑑で見たことがある人間の骨だった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「うわ、そんなにびっくりしなくても」

 身体が重くて思うように逃げられない。

「次はわたしが外に出る番なの。よろしくね? はるとくん」
「あ、あぁぁ、ぁぅ」

 外に出られる? はやく、はやく外に出てお母さんのところに行かなくちゃ。

「あのね、ここはごはんがこれだけなの」

 彼女の後ろには赤い大きな塊があった。あれって、骨の図鑑の隣にあった、もうひとつの絵に似てる。

「ひぁ? まって、それ、何?」
「これ? これが【食べ物】だよ」

 かなみはそれにがぶっと噛みついた。口の回りが赤く染まる。

「気になるなら、そこできれいにすればいいよ」

 彼女は真っ赤な口を真っ赤な水で洗う。赤い色は赤い色にとけた。

「ね?」

 ぼくの頭は理解が追い付かなくて、気がついたら変な笑い声をだしていた。
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