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魔法の学園

ナグカルカ・テトと結愛

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 テトは戸惑っていた。

「ユアをファイスヴェードに連れてこいと?」
「はい。ですが、あちらの聖女がハズレであったという噂も流れているそうです。危険では?」
「…………表向きはアミが寂しがっている……だったか。どうするか」

 断ると、むこうとの軋轢あつれきを生むことになってしまう。鈴芽を無断で連れて来ている事も探られたくない。結愛がそう望んだから、テトは全力で二人を守るつもりだった。愛する人の為に。
 ただ、結愛は自分の事を愛していないという事をテトは気がついていた。そして――。

「ユアに聞こう。私はユアの判断に従う。ユアがファイスヴェードに行くならば、ともに行けばいい。そのつもりで予定を調整してくれ」
「わかりました」

 結愛はまたあの男に近付いていないか毎日様子を確かめに行っている。引き寄せられるように、出会わせてしまった。もう少し慎重に動くべきだった。
 まさか、結愛のもとになった人間があの場所にいた人物だったとは。

「運命とでもいうのだろうか。代わりになった人物の――」

 テトは拳を握りしめた。
 一人、もとになった人物が判明した。ただ、二人とも同時に接触があったので様子を見ていた。
 そして、確信する。結愛がその入れ代わりだと。

「距離を置くのにちょうどいいかもしれないな」

 そう口にして、テトは驚いてしまう。どちらの意味で口から出たのだろうと。

「人の心というのは思うようにいかなくて困るな」

 テトは自分に言い聞かせるように一人呟いた。

 ◇

 今日も話しかけてきた。結愛は部屋で思い返す。
 試合をした後、クランはずっと結愛に話しかけるようになった。
 そして、今日はお前の下についてやると上から言われてしまった。

「何だろう。あの人…………」

 ただ、結愛はクランの行動に対して嫌な気分ではなかった。むしろ、心のどこかで嬉しいと思っている自分がいる事に驚いていた。

「私、あの人の事が気になってる?」

 頭を膝に埋めて考える。この世界で頼れる人はテトだ。それはわかっている。
 ただ、私はあの目に答えるつもりがなかった。
 それと、鈴芽のテトに向ける視線。

「どうすればいいのかなぁ……」

 明日も、彼は話しに来てくれるだろうか。二人きりで話してみたい。
 クラン――。どこかで、呼んだ覚えのある名前。
 どこだっけ?
 結愛は思い出すことが出来ない不思議な感覚とともにゆっくりと眠りについた。
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