私は聖女じゃない?じゃあいったい、何ですか?

花月夜れん

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第五章・木の精霊の国

111話・森の中、ルードと話す

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「アリスト様、お借りします」

 猫アリスに一礼し、スラッと、ルードがアリスの剣を抜いた。
 あれ、普通にさまになってませんか?

「期待はしないで下さい。兄に遠く及ばない程度のものなので……」

 なんだか、自分の言葉で自分を縛っているみたい。ルミナがアミスの言葉に縛られていた時のように……。

 あ、忘れちゃいけない!

「ウォータ」

 水の結界をはる。あれ、でも今さらながら空気ってどうなってるんだろ?

「それは、必要なものだろう? 通している。心配するな」

 ウォータの声がする。なんだか久しぶりな気がする。

「ちゃんと、アタシも近くにいるから安心して」
「「僕達もー!」」

 サラとミニライト達も。良かった、居てくれたんだ。ずっと反応なくて心配してたんだよ。ククククと笑い声だけなのは、シルフィかな――。

「リサ様、行きますよ」
「はい」

 精霊の声を聞くことができて、少し安心した。
 私は猫アリスを胸に抱きながら、森を進む。

「一本道と言っていたのですね?」
「うん」

 さきほどアリスが変身した場所まで戻ってくると、葉っぱがずっと遠くまで地面に固まって並んでいた。

「まさか、スペードが使ったさきほどの風の魔法で?」
「……なのかな?」
「念のため、別の目印を付けながら進みましょう」

 ルードは、慎重にことを進めたいようだ。

「お願いします」
「木の精霊よ!」

 小さな芽が、葉っぱの道にそってポンポンポンと出てきた。

「行きましょう」

 葉っぱの上をカサッカサッと音をたてながら、私達は先へと進んだ。

 ーーー

「すごいですね……」
「え?」
「いえ、ずっと結界をはり続けているので」
「すごいですか?」
「最初は、あれだったじゃないですか」
「う、痛いことを」

 くすくすとルードが笑う。二人だと、ルードはよく話してくれるみたい。アリスが猫になっちゃってお話しできないから、気を使ってくれているのかな。
 猫アリスが少し不機嫌そうな顔をしている気がするけど。

「リサ様は、予言の魔物の一部を倒した時、何故皆の前で私がやったと言わなかったのですか? もし、言っていれば陛下や国民から認められ聖女と言われていたのは貴女だったのに――」
「う゛……、それはですね――」

 帰りたかったから、なんだよね。それに、私の事をちゃんと認めてくれるアリスがいたから。別に他の人から認めてもらう必要なんて……。

「まあ、過ぎてしまったことですね。帰ったらきちんと報告して魔物を退治し、二人の守護者として盛大にお披露目しましょう」
「あ、それは――」
「リサ様の魔法のことも色々調べさせて下さいね!」
「あの――」

 アリスちゃーん、かむばーーーっく。いるけど! 猫アリスは!

 ーーー

 あとどれくらいだろう。
 三十分位歩いたかな。途中、ゲル状の生物がふってきた。子供の頃、理科の実験で作ったスライムみたいな。

「べとべと……」
「木の精霊よ」

 ルードが木の精霊を呼ぶと、枝が伸びてきてゲル状の生物を包み込む。それを数匹繰り返すと、見える範囲には居なくなった。

「弱い水の魔物のようですね」
「スペードが言ってた水の魔物かな」
「恐らくは。これならば私一人でも大丈夫ですね」

 ルードがほっとした表情を浮かべている。けれど、さっきからずっと猫アリスが耳をしきりに動かして警戒している気がする。

「にゃぁ……」

 喋れないけれど。
 これがスペードの言ってた魔物なら、彼は何故あのように伝えてきたのだろう。

『リサちゃんならできるっすよ』

 まるで、私だけでやり遂げるような言い方……。
 猫アリスが突然、シャーと毛を逆立てた。

「アリスちゃん?」

 腕から離れ、地面におり立つ。何が?
 ルードも、アリスの変化を見て、まわりへと警戒する。
 何かが茂みをかき分けこちらに走ってくるような音が聞こえてきた気がした。

「ルードさん!」
「何か来ます!!」

 アォーーーーーーーーーン

 沢山の息を吐く音と遠吠えが響く。この鳴き声って――。

「狼!?」
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