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第四話 そもそも空気読めない同士はムカつき合う。

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「私はキヨウ。
 キヨウ・ビンボール。
 一人の冒険者として! 弱い者の味方として! 貴方を助太刀します! 」

 そう高らかに名乗った彼女は、 風の魔法で俺を助けてくれた。
 大きな眼鏡。
 赤いショートヘアー。
 随分と見た目が特徴的な子だ。
 軽装な鎧で身を包み、 腰にはショートソード。
 しかし先程の魔法から考えるに、 魔法剣士だろうか。

「皆さん! 酷いですよ! もう何も出来ない弱い人を虐めるなんて! 」

 ......また弱い人って言った。
 助けてくれたのだから悪い奴では無いのだろうけど......あんまりだ。

「貴方も無理に戦おうとせず逃げる事も......ってあれ?! さっきよりも元気がなくなってる!? 巻き添えにしちゃいました!? 」

「いや違う。 違くはないが違う。 だから安心してくれ......」

 へこんでる所を見られてしまった。
 気にしてるようだし、 なるべく元気に答えたつもりだが、 どうにも活力が湧かない。
 助けてくれたのに申し訳ないな。

「いったぁあい! キヨウさん! いきなり何するんだしぃ! 」

 カウンターの中からスリィが身体を乗り出して文句を言い出した。
 俺にした事を棚に上げて何を言ってるんだか。

「それはこっちのセリフです! この人への扱い! 明らかに理不尽ですよ! 」

 俺の代わりに怒ってくれるとは、 このキヨウという子。 いい人だ。

「いいんだしぃ! コイツどうせ何言ってもやっても気にしないしぃ! そもそもさっき諦めてたしぃ! まぁ弱いのは共感するけどねぇ! 」

 まぁ確かにそうだ。 スリィの言い分も通ってる。
 でもやっぱり弱いは余計だろ。 お前まで言うか。

「何でその部分はへこんでるんだしぃ! そういうズレてるところがムカつくんだよぉ! 」

 そして落ち込んでる俺の顔を見てそんな事を言う。
 仕方ないだろ。 ショックなものはショックなんだ。

「ああっ! ここまでやっておいてさらに追い討ちですか?! 酷い! 」

 いや弱いっていうのはアンタが言い出したんだろ。

「何だしぃ! 自分の言った事棚に上げてんじゃないしぃ! さてはキヨウさんも空気が読めない人種って感じぃ? 」
「は、 はぁ?! 誰が空気読めない美人ですって?! 流石の私も怒りますよ! 」
「そういうところだしぃ! どんな聞き間違いだっての! 絶対ボッチさんと同じ系統だ! 」
「というか自分の行いを棚に上げないでください! 大体......」

 この言い合いはスリィの方が分がある気がする。
 というか。 他人の事は全く言えないが、 余計場をかき乱しているなこの子。
 このままではさらに混乱を生む。
 正直このまま逃げられるような気もするが、 俺が発端で起こってしまった言い争いだ。 俺が止めなければ。

「お、 お前ひゃち......」

 い、 いかん。
 初対面の女性がいる事で緊張して噛んでしまった。
 我ながら情けない。
 俺はこれにめげずに二人に割って入ろうとしたが......その前に別の人物たちに割り込まれてしまった。

「あれあれぇ? 誰かと思えばキヨウじゃん! 何やってんのぉ? 」

「あ、 皆......」

 先程風に吹き飛ばされた冒険者の中から四人、 彼女に近づいていく。
 それに気づいたキヨウと言う少女は急に萎縮して大人しくなってしまった。
 何だ? 知り合いか?

「相変わらずダサいし空気読めないわねぇ」
「ここはもうお前の来るべき所じゃない」
「私たち言ったもん! 対して特技もないキヨウは冒険者やめた方がいいって! 」
「それなのにこんなとこで厄介者を助けるとか! ウケる! 相変わらず中途半端な事してんね! 」

 四人の言葉を聞いてキヨウの表情がムッと歪んだ。
 そして絞り出すような声で言い返す。

「ひ、 人助けのどこが中途半端なんですか! 」

 彼女は拳を握りしめ、 震えていた。
 その言葉と姿を見て、 出て来た四人はゲラゲラろ笑いだす。

「中途半端だろ! そいつ助けてどうするつもりだよ! どうせ何も考えてないんだろ?!
 しかもここの連中を吹き飛ばした『ビューム』も中途半端! 見ろ! 誰もまともにダメージ受けてないじゃん! これならさっきの小指攻撃された方が威力あったぜ? 」

 言われてみれば。 冒険者たちは何事もなかったかのように立ち上がってくるし、 スリィもピンピンしている。
 手を抜いたんだろうか。

「あ、 あれは加減をしたからで......」

「ハハッ! お前がそんな事出来ないの知ってるってのぉ! さっきの全力だろ? だったらまだ剣を使った方がよかったんじゃねぇの?
 あ、 無理か。 剣も別に得意な訳じゃねぇもんなぁ! アハハ! 」

 むぅ。 どうやら違うらしい。
 図星をつかれたようにキヨウは押し黙ってしまう。
 彼女の事をよく知ってるようだが、 この連中はパーティメンバーだろうか。

「それでぇ? どうするのぉ? 」

 調子を取り戻したスリィが割って入ってきた。
 見ればニヤニヤと笑っている。
 彼女の言葉に、 キヨウはビクッと身体を震わせた。

「どうするのぉって聞いてるんだけどぉ?
 ねぇ、 『器用貧乏のキヨウ』さん? 」

 反応が返ってこない彼女に向かって、 スリィはそんな事を言っていた。
 器用貧乏? それって......。

「ちゃ、 ちゃんと考えてますよ!! 」

 それを受け、 キヨウはいきなり大声を上げた。
 まだ震えている。虚勢なのがバレバレだ。
 しかし彼女は、 そんな身体を無理矢理動かしてカウンターのスリィに言い放った。

「仕事をください! 」

「はぁ? 」

 突然のセリフに怪訝な表情を見せるスリィ。
 こんな状況で何を言ってるんだ。
 空気を読め、 空気を

「いやでもぉ。 キヨウさん、 アンタってぇ......」
「いいんです! 元からこの人たちと行くつもりはありません! 」

 ん? パーティとしてじゃなくソロで受けるつもりか?
 そんな呑気な事を考えていると、 彼女はとんでもない事を言い出した。

「この人と行きます! 仕事を紹介してください! 」

 キヨウはそう言いながら指を差す。
 その先には、 俺がいた。

「は? え? 」

 何を言ってるんだコイツは。
 俺とは全くの無関係だろ。
 それに。

「何言ってんのだしぃ。 ハッ! 見ず知らずの、 しかもボッチに肩入れする訳ぇ? ちょー意味わかんない! それに話聞いてなかったのぉ? アタシはコイツにはぁ......」

 そうだ。
 スリィは俺に仕事を紹介する気がない。
 本当に人の話を聞かない奴だな。

「勿論聞いてましたよ! 」

 そこまで言われても食い下がるキヨウ。
 なんだろうな。 空気の読めない奴を見るとなんだかイライラするな。

「スリィさんはこの人に仕事を紹介したくないんでしょ?! それなら私に紹介するなら別に構いませんよね?!
 それに! ソロの仕事がないと言い張るならパーティ用の仕事を受ければいい! 流石にこれだけのパーティを目の前にしてそんなこと言えないですよね?! 」

 ......なるほど! その手があったか!
 散々馬鹿にしてごめんなさい。 アナタは頭がいいです。
 今の言葉に流石に言い逃れできなくなったのかスリィの表情が歪んでいる。
 しかし。

「はぁ?! そんな屁理屈なんて通用しないしぃ! 」

 やっぱり譲る気はないようだ。

 そうかならば仕方ない。
 キヨウとやら、 頭を捻ってくれてありがとう。
 言い返されて随分と悔しそうな表情をしてるけど、 君がそんな顔する事はないのだよ。
 そう思って諦めようとした。
 しかしその時、 思わぬ助け舟が入る。

「いいじゃんいいじゃん! やらせてあげなよぉ! 」

 それは、 さっきのパーティの一人の言葉だった。

「面白そうじゃん! コイツがどこまで出来るのか見てみたいしよぉ! 紹介してやんなよぉ! ま! どの仕事でもまともにこなせると思えないけどな? アハハハ! 」

「ちょ、 なに勝手に言ってるんだしぃ! 」

 当然のように否定的な態度を見せるスリィ。
 しかし、 どうやらその場の空気はこの男が掌握したようで。

「ギャハハ! いいぞいいぞ! やれやれ! 」
「どうせ役たたねぇなら任務で殺しちまえ! 」

 周りの冒険者たちが煽り始めたのだ。 しかも笑いながら。
 彼らが笑ってる理由は全くわからないが、 まぁどうでもいいか。

「今に見てなさい。 なんでも思い通りになると思ったら大間違いよ」

 キヨウが何か呟いたような気がした。
 でもそこに意識がいききる前に。

「でもいいわ! むしろ好都合! 」

 彼女は急に大声を出したのだった。
 何を考えているのかが全くわからないが、 とりあえず勝ったと思っている事はその気合の入ったような表情から明らかだ。

「ボッチさん! ですよね? 」

 キヨウが俺に向かって話しかけてくる。

「見ての通りスリィさんは言いくるめました! これで私となら任務を受けられますよ! 」
「ちょっとぉ! 誰もそんな事言ってないしぃ! 」
「断ってもいいですが、 今度は貴女が他の冒険者に反感を買いますよ? 」
「う、 うぅ! 卑怯だしぃ! 」

 凄いなこの子は。
 あのスリィをタジタジにしてる。

「さぁボッチさん! 私と一緒に仕事を受けましょう! 」

 キヨウはそう言いながら手を差し伸べてくる。
 その瞬間、 ドクンと心臓が跳ねるのを感じた。

 この子の言う通りにすれば仕事を受けられる。
 生活費も稼げるし、 何より......魔王討伐に一歩近づく。

 俺はそんな事を考えながら。
 彼女にこう言い返したのだった。

「断る!! 」

「......はい? 」

 何を言われたか分からないといった表情が目の前にある。
 だから俺はこうも言ってやった。

「俺みたいな無能とパーティを組んだら迷惑になってしまうだろう!!
 助けてくれてありがとうございます! さようなら!! 」

 そして、 颯爽と酒場を後にしたのだった。

『はぁぁぁああああっ!!?? 』

 少し歩いた所で、 今いた場所から悲鳴にも似た声たちが響いていた。
 きっと俺には関係のない事だらう。
 そう思いながら歩を進める。
 しかし。

「ちょ、 ちょっと待ってくださいよ!! 」

 さらに歩いた所で、 キヨウに呼び止められたのだった......。
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