暴走♡アイドル3~オトヒメサマノユメ~

雪ノ瀬瞬

文字の大きさ
32 / 173
前編

しおりを挟む
 それから白桐は絵を描く時もそうでない時も美術室によく来るようになった。

 彼女は何回言っても教室でタバコを吸うので、ヤニの匂いや色が残ってしまわないようフタ付きの灰皿を用意したり消臭スプレーなどを配備し、タバコを吸う時は窓を開けるというルールを作るなど、私は彼女の為に教師でありながらあるまじきことをしていた。

 その内お菓子やポット、インスタントコーヒーまで用意して、彼女をもてなしてさえいた。

 だがそんなやり取りが何故か新鮮で、私は彼女と過ごす日々を楽しんでしまっていた。
 だから私もほとんど美術室にいた。

 だがそもそも彼女は何故描けもしない絵を1人美術室で描いていたのか。

『…なんかさ、1人になれる時間とか場所が欲しかったんだ。そんでここ入ってきて、そしたら紙とかあったから』

 彼女のように向かう所敵なしの番長であってもそんな風に思うことがあるのが不思議だった。
 その道で生き、強き者として君臨するのであれば逃げも隠れもする必要なんてないように思う。

『疲れるんだよ。あんたら大人には分からないかもしれないけど子供には子供の事情がある』

 そんなことを言っていた時があった。

 深くは聞かなかったがもしかしたらこの子は好きでこんな風に不良ぶったり恐れられたりしているのではないのかもしれないと私は思ってしまった。

 そんな白桐も美術室には私がいようと来たし、それこそいいのかな?と思ってしまう位ずっといてくれた。
 彼女にとってここが私のようなオジサンがいてもそういう空間であれているということが私はとても嬉しかった。

 私は白桐に絵を描くことについて色々なことを教えた。

 彼女は勉強なんてもちろん一切しないが絵のことに関してはとにかく熱心だった。
 描く時はいつも真剣だったし、分からないこと迷うことはなんでも聞いてアドバイスを求めた。

 最初のネコバスに始まり、人物や風景など様々な絵を描き色を塗り仕上げ、いつしか美術室の中は白桐の作品でいっぱいになった。
 今ではもう私の指導など全く必要ない程上達したし、その成長が日々1枚1枚見て取れて教える側としてはこの上ない楽しさだった。

『あたし、中学の時別れちゃった親友がいたんだけどさ、そいつめっちゃくちゃ絵が上手かったんだ。多分先生より上手いぜ?多分あいつは今も絵は描いてるんだろうな…』

『ん?引っ越してきたのは相模原なんだろ?近いじゃないか。なんでそんなもう会えないみたいな言い方なんだ?』

 それを聞くのに1年程かかってしまったが、彼女が何故描けもしない絵を1人で描いていたのか、その理由がやっと見えた。

『…子供には子供の事情があるんだよ』

『…そうか…』

 私には疑問だった。おそらくこの学校の中で1番強く、そんじょそこらの不良位には負けないのであろうこの白桐が何故かたまにこんな風に言ってみたり、そもそも美術室なんかにずっと居すわったりすることがだ。

 そして、全ての上級生をやっつけてしまい誰にも敬語なんて使わない彼女が、時々電話で妙に下手に出ているのを私は知っていた。

 白桐は私に知られまいとしていたが、さすがにここまで一緒にいると気付けてしまう。

『先生。1つだけ約束してほしいんだ』

『なんだ?』

『あたしがここにいる時以外は絶対あたしに話しかけないでくれ』

『なんだ。私のようなヒゲメガネと喋っていたら舐められてしまうか?』

『いや、そーゆーんじゃねぇんだけどさ…』

 まぁ、気持ちは分かるような気がした。番長が美術の先公と仲良くしていたら変に思われるかもしれない。それは私としても考えてあげたい。それはそう思った。

 だが今は、本当はそんな単純な話などではなかったのかもしれないと思えている。

 これは単に私の感じ方なのだが、彼女は何かとてつもなく大きなものを背負ってしまっているのではないだろうか。

 例えばそれはこんな不良学校などとは比べものにならない位の巨大な闇で、絶対に1人では立ち向かい解決することができない程の問題。

 しかし何らかの理由でそれを1人で背負わざるを得なくなり、ずっと苦しんでいるのではないだろうか。

 確信はないが私がこんなことを思ったのには理由がある。

 白桐が唯一頭を下げ敬語を使っている女。彼女の存在を知ったから。

 同時にその人物に嫌なものを感じたから。

 そしてもう1つ。

 この学校で今流行ってしまっている物。

 それが闇の匂いをいっそう強くしているからだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...