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ピュリラスカ編
不和
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ニコラがこの世界に落ちてきた時、ちょうどピュリラスカが通りがかったのは不幸中の幸いだった。第一印象が最悪だったとしてもだ。落ちてきた場所も都会で良かった。この世界の地理や生態系を知ってからは、心の底からそう思った。なにしろ都市部を出れば大自然が広がり、牙や毒をもつ生き物たちが跋扈しているのだから。ピュリラスカをはじめとしたクァラリブスたちは、その食物連鎖の頂点に君臨していた。
第一印象は本当に最悪だった。拾われた初日にレイプされた。いきなり知らない土地に飛ばされたかと思えば、頭と下半身に触手を生やした、言葉の通じない化け物に家に連れ込まれて、気づけば喘がされて手篭めにされていた。気持ちよかったのが始末に負えなかった。
保護二日目。
ニコラは裸で部屋の隅に縮こまっていた。化け物が何か言いながら触手を伸ばしてきたが、ニコラは叫んで必死に手で払いのけ、噛みつこうとした。触手は諦めて引っ込む。
化け物は頭からいくつも細い触手を生やし、まるで長い髪のように見える。赤紫色の皮膚。上半身は人間に近い。下半身からは太い触手が何本も生えていた。平たくなった触手の先端からはさらに細い触手が寄り集まるように生えて、ブラシのようになっている。それでやられたことを思い出し、ニコラの身体に震えが走った。単なる恐怖から来るものではなかったのが厄介だった。
化け物の体液が身体中にまとわりついていた。ニコラは堪えきれずに泣きながら、それを手で拭い落とそうとした。化け物が何か喋りながら、ニコラの前で右往左往している。また触れてこようとしたが、ニコラは許さなかった。化け物はまたうろうろし、ニコラに話しかけ、ニコラが啜り泣いているのを見てようやく部屋から出ていった。
ニコラは疲れてぐったりするまで、しばらく泣き続けた。自分を憐れむのにも疲れてきた頃、ようやく部屋を見回す。
ゴチャゴチャした部屋だった。よくわからない機械がたくさん並んでいる。工具のようなものと、分解された機械の部品が床に転がっていた。大きな寝台がひとつある以外は生活感がなかった。窓に近寄る。昨日は混乱していて周りを見る余裕がなかったから、外を見て息を呑んだ。
海が見えた。海まではずっと坂道だ。坂道を、不思議な材質の四角い家が段々になって建っている。美しい光景だった。あの化け物に似た生き物たちが動き回っている。皆、ほとんど何も身につけていない。上半身に装飾品をつけている程度だった。
じっと見つめていると、本当に別の世界に来てしまったのだとようやく実感が湧いた。未だに夢ではないかと疑わしくなるが、身体に残る性行為の違和感がこれは現実だと教えてくれる。泣きたくなったのに、もう涙は枯れていた。代わりに湧いてきたのは怒りだった。ニコラは寝台を殴りつけて叫んだ。目についたものを壁に投げつける。壁に叩きつけられていくつか壊れたものがあったが、気にしなかった。慌てた声が扉の外から聞こえる。知ったことか! そっと扉が開いたが、ニコラが扉に向かって物を投げつけるとまた閉じた。
ニコラは疲れ切って、部屋の隅に戻った。レイプされたベッドの上では眠りたくなかった。床に丸まって目を閉じた。
やらかした。完全にやらかした。ピュリラスカは寝室の扉の前で右往左往した。どうしよう、どうしようと触手をすり合わせて呟く。
昔から憧れていたニンゲンを偶然拾った。クァラリブスとニンゲンが致している創作物などを好んで読んでいたピュリラスカだったが、拾った当初はそんなつもりはなく、きちんと世話をしようと思っていた。ニンゲンのかわいさにここまでやられるとは思わなかった。あんまりにもかわいくて、ただ撫でるだけのつもりだったのに性交までしてしまった。後悔してももう遅い。
ニンゲンはされるがままで、拒否されているとも思わずに最後までしてしまったが、今思えばたぶん、あれはひ弱なニンゲンなりの精一杯の抵抗だった。ピュリラスカは頭を抱える。ニンゲンは傷つき、そして怒り狂っていた。寝室の中からとんでもない物音がして、何かが壊れる音がして、ピュリラスカは思わず様子を見ようとしたがものすごい剣幕で怒られた。ピュリラスカが諦めて大人しく待っていると急に静かになって、逆に心配が募る。怪我をしていないだろうか。
しばらくたってから、恐る恐る扉を開けて中を見た。ベッドに姿がなく、慌てて部屋を見渡す。ニンゲンは部屋の隅に丸まって眠っていた。
ピュリラスカは逡巡してから、何か身体にかけてやれる布類がないか探すために寝室を出ていった。
第一印象は本当に最悪だった。拾われた初日にレイプされた。いきなり知らない土地に飛ばされたかと思えば、頭と下半身に触手を生やした、言葉の通じない化け物に家に連れ込まれて、気づけば喘がされて手篭めにされていた。気持ちよかったのが始末に負えなかった。
保護二日目。
ニコラは裸で部屋の隅に縮こまっていた。化け物が何か言いながら触手を伸ばしてきたが、ニコラは叫んで必死に手で払いのけ、噛みつこうとした。触手は諦めて引っ込む。
化け物は頭からいくつも細い触手を生やし、まるで長い髪のように見える。赤紫色の皮膚。上半身は人間に近い。下半身からは太い触手が何本も生えていた。平たくなった触手の先端からはさらに細い触手が寄り集まるように生えて、ブラシのようになっている。それでやられたことを思い出し、ニコラの身体に震えが走った。単なる恐怖から来るものではなかったのが厄介だった。
化け物の体液が身体中にまとわりついていた。ニコラは堪えきれずに泣きながら、それを手で拭い落とそうとした。化け物が何か喋りながら、ニコラの前で右往左往している。また触れてこようとしたが、ニコラは許さなかった。化け物はまたうろうろし、ニコラに話しかけ、ニコラが啜り泣いているのを見てようやく部屋から出ていった。
ニコラは疲れてぐったりするまで、しばらく泣き続けた。自分を憐れむのにも疲れてきた頃、ようやく部屋を見回す。
ゴチャゴチャした部屋だった。よくわからない機械がたくさん並んでいる。工具のようなものと、分解された機械の部品が床に転がっていた。大きな寝台がひとつある以外は生活感がなかった。窓に近寄る。昨日は混乱していて周りを見る余裕がなかったから、外を見て息を呑んだ。
海が見えた。海まではずっと坂道だ。坂道を、不思議な材質の四角い家が段々になって建っている。美しい光景だった。あの化け物に似た生き物たちが動き回っている。皆、ほとんど何も身につけていない。上半身に装飾品をつけている程度だった。
じっと見つめていると、本当に別の世界に来てしまったのだとようやく実感が湧いた。未だに夢ではないかと疑わしくなるが、身体に残る性行為の違和感がこれは現実だと教えてくれる。泣きたくなったのに、もう涙は枯れていた。代わりに湧いてきたのは怒りだった。ニコラは寝台を殴りつけて叫んだ。目についたものを壁に投げつける。壁に叩きつけられていくつか壊れたものがあったが、気にしなかった。慌てた声が扉の外から聞こえる。知ったことか! そっと扉が開いたが、ニコラが扉に向かって物を投げつけるとまた閉じた。
ニコラは疲れ切って、部屋の隅に戻った。レイプされたベッドの上では眠りたくなかった。床に丸まって目を閉じた。
やらかした。完全にやらかした。ピュリラスカは寝室の扉の前で右往左往した。どうしよう、どうしようと触手をすり合わせて呟く。
昔から憧れていたニンゲンを偶然拾った。クァラリブスとニンゲンが致している創作物などを好んで読んでいたピュリラスカだったが、拾った当初はそんなつもりはなく、きちんと世話をしようと思っていた。ニンゲンのかわいさにここまでやられるとは思わなかった。あんまりにもかわいくて、ただ撫でるだけのつもりだったのに性交までしてしまった。後悔してももう遅い。
ニンゲンはされるがままで、拒否されているとも思わずに最後までしてしまったが、今思えばたぶん、あれはひ弱なニンゲンなりの精一杯の抵抗だった。ピュリラスカは頭を抱える。ニンゲンは傷つき、そして怒り狂っていた。寝室の中からとんでもない物音がして、何かが壊れる音がして、ピュリラスカは思わず様子を見ようとしたがものすごい剣幕で怒られた。ピュリラスカが諦めて大人しく待っていると急に静かになって、逆に心配が募る。怪我をしていないだろうか。
しばらくたってから、恐る恐る扉を開けて中を見た。ベッドに姿がなく、慌てて部屋を見渡す。ニンゲンは部屋の隅に丸まって眠っていた。
ピュリラスカは逡巡してから、何か身体にかけてやれる布類がないか探すために寝室を出ていった。
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