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第10話 なんたって、魔王ですし!
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ジノスがマリーカに尋ねる。
「なんだ、これ城の奴だったのか」
「何よ? あんた知らずに食べてたわけ?」
会話から察するに、どうやら二人にとっても魔王城は当たり前の存在らしい。
「なんか、みんなのリアクションが想像以上に薄くて驚いてるんだけど……。もしかして、向こうの大陸の人って魔王城の売店をそんな平然と利用するものなの?」
「夜光大陸に住む一般の方がどうかは分かりませんけど、少なくともマリーカさんは頻繁に利用してると思いますよ! なんたって、魔王ですし!」
「ええ……」
なんとなく「病み」感のある見た目をしているなとは思っていたけど、まさか存在自体が「闇」属性だったとは。
マリーカが顔色一つ変えずお茶を啜る。
「そういえば言ってなかったわね。あたし、魔王なのよ」
「凄いね、テンセイシャのコミュニティ」
まさか、知らず知らずのうちに悪の親玉とティータイムを共にしていたとは……。
ジノスがクッキーをかじりながら、空いた方の手を挙げる。
「ちなみに、俺は勇者をやっている」
「あなたは、さっきから本当にさらっとぶっこんでくるね」
次から次に明かされる突飛な事実に、頭の中がゴチャゴチャしてきた。
勇者と魔王が同室でクッキーを食べてる今の状況って、実はかなり殺伐としているのでは?
「まあ、なんだっていいじゃない。どうせあんたも、わけの分からない役割を押し付けられてるんでしょ?」
「えっと、ナントカ令嬢……です」
なんだか、自分の役割を明かすのが変に気恥ずかしい。
ニーナの復讐者ってのはさておき、勇者だの魔王だのが目の前に現れたら令嬢ごときで意気がっていた自分が途端にちっぽけな存在に思えてくる。
そうした中、ニーナがそんなこと一切お構い無しといった様子でクッキーを口へと運ぶ。
「やっぱり、魔王クッキーは美味しいですね!」
「ニーナは本当に自由だね」
口一杯にクッキーを頬張り、なんとなくリスを彷彿とさせる姿のニーナ。
尋常ではない食べっぷりで、箱はみるみるうちに空っぽになった。
「……ちょっと勢い良すぎじゃない?」
「大丈夫です! わたし、最高で百二十個食べたことありますから!」
「さっきの話から増えてるし」
私との平穏な日々を過ごす中で、いつ更新するタイミングがあったんだ。
「せっかくなので、本日も記録更新を狙っていきます!」
「そう……」
勇者や魔王に気後れしないためには、これくらい逞しく生きなければならないのだろうか。
だとしたら、繊細な私には無理だな。
ニーナの咀嚼音が部屋に響く中、しばらく静かにしていたジノスが呟く。
「それじゃあ、ニーナが食べてる間に準備を済ませるとするか」
「準備って?」
「もちろん、反撃の準備に決まってるだろ?」
「さっきからオッサン軽いんだよ」
マリーカに釣られて、つい勇者をオッサン呼びしてしまった。
……まあいいか。オッサン、こんなだし。
怒涛の展開についていけない私をよそに、マリーカがテーブルの上に、謎の道具を並べる。
「えっと……コレとコレは必要ね。あと、アレは邪魔になるから置いてきましょうか」
「なんかマリーカまで淡々と準備を進めてるけど、反撃って殺人のことなんだよね? 抵抗感とかって――」
「ないわね」
「食い気味で来たね。テンセイシャの倫理観、一体どうなってるの?」
「そんなこと言われたって、あたしすでに何人も殺ってるし」
まあ、魔王だもんね。そりゃそうだ。
ただ、こうも見事に開き直られると、私が平和ボケし過ぎなのだろうかと不安になる。
ジノスだって「俺も負けてない」とでも言いたげに目配せしてくるし、みんな命を軽視しすぎなのでは?
慌ただしい雰囲気の中、ニーナが口の中に残っているクッキーをお茶でゆっくり流し込む。
「……けぷっ! もっと、クッキーください!」
いや、あなたはもう少しやる気出しなよ。
「なんだ、これ城の奴だったのか」
「何よ? あんた知らずに食べてたわけ?」
会話から察するに、どうやら二人にとっても魔王城は当たり前の存在らしい。
「なんか、みんなのリアクションが想像以上に薄くて驚いてるんだけど……。もしかして、向こうの大陸の人って魔王城の売店をそんな平然と利用するものなの?」
「夜光大陸に住む一般の方がどうかは分かりませんけど、少なくともマリーカさんは頻繁に利用してると思いますよ! なんたって、魔王ですし!」
「ええ……」
なんとなく「病み」感のある見た目をしているなとは思っていたけど、まさか存在自体が「闇」属性だったとは。
マリーカが顔色一つ変えずお茶を啜る。
「そういえば言ってなかったわね。あたし、魔王なのよ」
「凄いね、テンセイシャのコミュニティ」
まさか、知らず知らずのうちに悪の親玉とティータイムを共にしていたとは……。
ジノスがクッキーをかじりながら、空いた方の手を挙げる。
「ちなみに、俺は勇者をやっている」
「あなたは、さっきから本当にさらっとぶっこんでくるね」
次から次に明かされる突飛な事実に、頭の中がゴチャゴチャしてきた。
勇者と魔王が同室でクッキーを食べてる今の状況って、実はかなり殺伐としているのでは?
「まあ、なんだっていいじゃない。どうせあんたも、わけの分からない役割を押し付けられてるんでしょ?」
「えっと、ナントカ令嬢……です」
なんだか、自分の役割を明かすのが変に気恥ずかしい。
ニーナの復讐者ってのはさておき、勇者だの魔王だのが目の前に現れたら令嬢ごときで意気がっていた自分が途端にちっぽけな存在に思えてくる。
そうした中、ニーナがそんなこと一切お構い無しといった様子でクッキーを口へと運ぶ。
「やっぱり、魔王クッキーは美味しいですね!」
「ニーナは本当に自由だね」
口一杯にクッキーを頬張り、なんとなくリスを彷彿とさせる姿のニーナ。
尋常ではない食べっぷりで、箱はみるみるうちに空っぽになった。
「……ちょっと勢い良すぎじゃない?」
「大丈夫です! わたし、最高で百二十個食べたことありますから!」
「さっきの話から増えてるし」
私との平穏な日々を過ごす中で、いつ更新するタイミングがあったんだ。
「せっかくなので、本日も記録更新を狙っていきます!」
「そう……」
勇者や魔王に気後れしないためには、これくらい逞しく生きなければならないのだろうか。
だとしたら、繊細な私には無理だな。
ニーナの咀嚼音が部屋に響く中、しばらく静かにしていたジノスが呟く。
「それじゃあ、ニーナが食べてる間に準備を済ませるとするか」
「準備って?」
「もちろん、反撃の準備に決まってるだろ?」
「さっきからオッサン軽いんだよ」
マリーカに釣られて、つい勇者をオッサン呼びしてしまった。
……まあいいか。オッサン、こんなだし。
怒涛の展開についていけない私をよそに、マリーカがテーブルの上に、謎の道具を並べる。
「えっと……コレとコレは必要ね。あと、アレは邪魔になるから置いてきましょうか」
「なんかマリーカまで淡々と準備を進めてるけど、反撃って殺人のことなんだよね? 抵抗感とかって――」
「ないわね」
「食い気味で来たね。テンセイシャの倫理観、一体どうなってるの?」
「そんなこと言われたって、あたしすでに何人も殺ってるし」
まあ、魔王だもんね。そりゃそうだ。
ただ、こうも見事に開き直られると、私が平和ボケし過ぎなのだろうかと不安になる。
ジノスだって「俺も負けてない」とでも言いたげに目配せしてくるし、みんな命を軽視しすぎなのでは?
慌ただしい雰囲気の中、ニーナが口の中に残っているクッキーをお茶でゆっくり流し込む。
「……けぷっ! もっと、クッキーください!」
いや、あなたはもう少しやる気出しなよ。
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