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第16話 ただただ理由のない暴力だったよ
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その後、私たちは作戦通り男性を路地裏へと連れ去ることに成功。
完全に人目が無くなったのを確認してから、男性の手足を紐で縛り地面に転がした。
さて、ここからが本番……私たちをこんな目に遭わせた報い、しっかり受けてもらおうじゃないか。
マリーカが男性の頬をペチンと叩いて起こす。
「おはよう、早速だけどテンセイシャ狩りについて知ってることを洗いざらい吐いてもらおうかしら。大丈夫、素直に答えてくれさえすれば苦しまずに逝けるわよ」
「お、俺は何もやってない! 何も知らないんだ! 頼むから家に帰してくれ!」
突然の出来事にも関わらず状況に対する質問ではなく否定から入るあたり、彼は間違いなく何かを知っているはずだ。
男性の薄っぺらい弁明に、路地裏が殺気立った空気に包まれる……目を輝かせた私とニーナを除いて。
「お嬢様……!」
「うん……なんか悪役っぽいね! これ!」
「はい!」
私はニーナの手を握り、ブンブンと前後に振り回す。
「自分のこと散々『悪役令嬢なんかじゃない』って言い張ってきたけど、こうも胸が高鳴ると自分の認識が間違えてたんじゃないかと思えてくるよ!」
「わたしもこの時をずっと待ち望んでいました!」
「不謹慎かもだけど、なんか盛り上がってきたね!」
激しい戦いの中に身を置いてきたジノスやマリーカと違い、これまで静かな世界に生きてきた私とニーナにとって、こんな刺激的な体験そうそうできるものではない。
まるで自分たちが物語の重要な場面に立ち会っているかのように思えて、真剣であるべきにも関わらず無性に気持ちが浮ついてしまう……。
そう、今の私とニーナは「台風の日に意味もなくテンションが上がるアレ」に似た感覚に陥っているというわけだ。
「それにしても、マリーカ凄いね! 吹き矢名人じゃなくて本当に魔王だったんだ!」
「あれだけの威圧感、なかなか出せませんよね! よっ、魔王様!」
「魔王様!」
チラッと見えたマリーカの横顔から口角が少し上がっているのが分かった。
どうやら、満更でもないらしい。
男性が目を剝いて叫ぶ。
「くそっ! こんな真似をして、ただで済むと思うなよ! お前らみたいなクズ、仲間さえいりゃ一瞬で――」
その瞬間、ジノスの拳が男性の鼻に叩きこまれ言葉を遮る。
男性は顔面から血を噴き出しながら後ろに倒れた。
「お嬢様!」
「凄かったね今の!」
「はい!」
「何、あの迫力! まるで歴戦の武人だったよ!」
「ですね!」
まさか、オッサンが勇者って話まで本当だったとは。
隠れ家でクッキー片手にテキトー抜かしてた人物とは大違いだ。
「なんか、オッサンが格好良く見えてきたよ」
「はい?」
「あの南国のろくでなしみたいな見た目の人間を格好良いと思う時が来るとはね……」
「ええ? お嬢様、それは流石に趣味が悪いですよ?」
人のこと言えた義理じゃないけど、ニーナもオッサンに対して結構辛辣だね。
私は腕組みして、ニーナに目を向ける。
「さて、この流れで来たら次はニーナが行くしかないよね」
もはや情報を吐かせることなんてどうでもよくなってきた。
今はただ、私たちを追い込んだ人間が酷い目に遭う姿を見ていたい。
「勇者、魔王に続いて復讐者の凄さも見せつけてやってよ」
「むむっ、復讐者の凄さですか! そう言われては前に出るしかありませんね!」
「どうする? 手でいく? それとも足?」
「うーん……足! 足でいきます!」
ニーナは自身の膝をポンポンと叩いて、私にウインクした。
「わ、分かった! さっきの暴言は取り消す! だから、これ以上殴るのはやめてくれ! 俺が知ってることなら全部話す! お願いだから――」
今度は、ニーナの蹴りが男性のお腹に正面から突き刺さる。
男性はゴロゴロと地面を転がった後、身体をくの字に曲げて嘔吐した。
「凄いねニーナ。ただただ理由のない暴力だったよ」
「えへへ、かましちゃいました!」
「こんな理不尽なことあるんだね。けしかけといてなんだけど、ドン引きだよ」
私は男性に近付くと、しゃがみ込んで顔色をうかがった。
彼はすでに戦意喪失しているのか、目を虚ろに開けたまま微動だにしない。
「うわあ……口開けたまま固まっちゃってるよ」
「そうですね!」
「これは相当、怖がってるね。許しを乞うて尚、無言で殴られるって狂気だもんね」
「……やりすぎちゃいましたかね?」
「いや、大勢の人を殺してるんだからこれくらいは自業自得だよ。私が逆の立場なら、きっと今頃は体中から色んな汁が漏れだしてると思うけど」
「へえ……?」
「なんで、ちょっと嬉しそうなの? なんで視線を落とすの?」
私が汁を出す話のどこに好意的に捉える要素があったのか。
もしかしたら、ニーナはすでに私が理解できない遠い存在になっているのかもしれない。
男性が肩で呼吸をしながら、私を睨みつける。
「くそっ! あんたたちも夢の中で聞いただろ! 俺だって、それ以上の情報は持ち合わせちゃいない!」
夢の中……?
発言の意味が分からず仲間に視線を向けるも、みんな首を傾げるばかり。
男性が身体を震わせながら続ける。
「こんなことになるなら最初から他の奴に任せとけば良かった……。神が言うことだからってホイホイ聞くんじゃなかった……!」
夢の次は神?
神って私たちを生まれ変わらせてくれた、あの神様のこと?
「今、神って言ったよね」
「はい、わたしにも聞こえました!」
「え? 何? テンセイシャ狩りって神様が関わってるの?」
「さ、さあ?」
なんだか嫌な予感がする。
私は男性に背を向けて、みんなに語りかける。
「みんな、一旦殴るのはやめて詳しく聞いてもらえる?」
「ええ、全て吐かせるから少し待ってなさい」
「俺も手を貸そう」
そこからしばらく、ジノスとマリーカを中心とした尋問が続いた。
そして得られた衝撃の事実――なんと、テンセイシャ狩りは神が主導して行われた迫害だというのだ。
完全に人目が無くなったのを確認してから、男性の手足を紐で縛り地面に転がした。
さて、ここからが本番……私たちをこんな目に遭わせた報い、しっかり受けてもらおうじゃないか。
マリーカが男性の頬をペチンと叩いて起こす。
「おはよう、早速だけどテンセイシャ狩りについて知ってることを洗いざらい吐いてもらおうかしら。大丈夫、素直に答えてくれさえすれば苦しまずに逝けるわよ」
「お、俺は何もやってない! 何も知らないんだ! 頼むから家に帰してくれ!」
突然の出来事にも関わらず状況に対する質問ではなく否定から入るあたり、彼は間違いなく何かを知っているはずだ。
男性の薄っぺらい弁明に、路地裏が殺気立った空気に包まれる……目を輝かせた私とニーナを除いて。
「お嬢様……!」
「うん……なんか悪役っぽいね! これ!」
「はい!」
私はニーナの手を握り、ブンブンと前後に振り回す。
「自分のこと散々『悪役令嬢なんかじゃない』って言い張ってきたけど、こうも胸が高鳴ると自分の認識が間違えてたんじゃないかと思えてくるよ!」
「わたしもこの時をずっと待ち望んでいました!」
「不謹慎かもだけど、なんか盛り上がってきたね!」
激しい戦いの中に身を置いてきたジノスやマリーカと違い、これまで静かな世界に生きてきた私とニーナにとって、こんな刺激的な体験そうそうできるものではない。
まるで自分たちが物語の重要な場面に立ち会っているかのように思えて、真剣であるべきにも関わらず無性に気持ちが浮ついてしまう……。
そう、今の私とニーナは「台風の日に意味もなくテンションが上がるアレ」に似た感覚に陥っているというわけだ。
「それにしても、マリーカ凄いね! 吹き矢名人じゃなくて本当に魔王だったんだ!」
「あれだけの威圧感、なかなか出せませんよね! よっ、魔王様!」
「魔王様!」
チラッと見えたマリーカの横顔から口角が少し上がっているのが分かった。
どうやら、満更でもないらしい。
男性が目を剝いて叫ぶ。
「くそっ! こんな真似をして、ただで済むと思うなよ! お前らみたいなクズ、仲間さえいりゃ一瞬で――」
その瞬間、ジノスの拳が男性の鼻に叩きこまれ言葉を遮る。
男性は顔面から血を噴き出しながら後ろに倒れた。
「お嬢様!」
「凄かったね今の!」
「はい!」
「何、あの迫力! まるで歴戦の武人だったよ!」
「ですね!」
まさか、オッサンが勇者って話まで本当だったとは。
隠れ家でクッキー片手にテキトー抜かしてた人物とは大違いだ。
「なんか、オッサンが格好良く見えてきたよ」
「はい?」
「あの南国のろくでなしみたいな見た目の人間を格好良いと思う時が来るとはね……」
「ええ? お嬢様、それは流石に趣味が悪いですよ?」
人のこと言えた義理じゃないけど、ニーナもオッサンに対して結構辛辣だね。
私は腕組みして、ニーナに目を向ける。
「さて、この流れで来たら次はニーナが行くしかないよね」
もはや情報を吐かせることなんてどうでもよくなってきた。
今はただ、私たちを追い込んだ人間が酷い目に遭う姿を見ていたい。
「勇者、魔王に続いて復讐者の凄さも見せつけてやってよ」
「むむっ、復讐者の凄さですか! そう言われては前に出るしかありませんね!」
「どうする? 手でいく? それとも足?」
「うーん……足! 足でいきます!」
ニーナは自身の膝をポンポンと叩いて、私にウインクした。
「わ、分かった! さっきの暴言は取り消す! だから、これ以上殴るのはやめてくれ! 俺が知ってることなら全部話す! お願いだから――」
今度は、ニーナの蹴りが男性のお腹に正面から突き刺さる。
男性はゴロゴロと地面を転がった後、身体をくの字に曲げて嘔吐した。
「凄いねニーナ。ただただ理由のない暴力だったよ」
「えへへ、かましちゃいました!」
「こんな理不尽なことあるんだね。けしかけといてなんだけど、ドン引きだよ」
私は男性に近付くと、しゃがみ込んで顔色をうかがった。
彼はすでに戦意喪失しているのか、目を虚ろに開けたまま微動だにしない。
「うわあ……口開けたまま固まっちゃってるよ」
「そうですね!」
「これは相当、怖がってるね。許しを乞うて尚、無言で殴られるって狂気だもんね」
「……やりすぎちゃいましたかね?」
「いや、大勢の人を殺してるんだからこれくらいは自業自得だよ。私が逆の立場なら、きっと今頃は体中から色んな汁が漏れだしてると思うけど」
「へえ……?」
「なんで、ちょっと嬉しそうなの? なんで視線を落とすの?」
私が汁を出す話のどこに好意的に捉える要素があったのか。
もしかしたら、ニーナはすでに私が理解できない遠い存在になっているのかもしれない。
男性が肩で呼吸をしながら、私を睨みつける。
「くそっ! あんたたちも夢の中で聞いただろ! 俺だって、それ以上の情報は持ち合わせちゃいない!」
夢の中……?
発言の意味が分からず仲間に視線を向けるも、みんな首を傾げるばかり。
男性が身体を震わせながら続ける。
「こんなことになるなら最初から他の奴に任せとけば良かった……。神が言うことだからってホイホイ聞くんじゃなかった……!」
夢の次は神?
神って私たちを生まれ変わらせてくれた、あの神様のこと?
「今、神って言ったよね」
「はい、わたしにも聞こえました!」
「え? 何? テンセイシャ狩りって神様が関わってるの?」
「さ、さあ?」
なんだか嫌な予感がする。
私は男性に背を向けて、みんなに語りかける。
「みんな、一旦殴るのはやめて詳しく聞いてもらえる?」
「ええ、全て吐かせるから少し待ってなさい」
「俺も手を貸そう」
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