11 / 20
飲みたくなる珈琲
しおりを挟む
その日の朝、静かな公園の一角で双子の幌馬車は「カフェ」になっていた。
開かれた荷台の後部は折り畳み式の調理台へと姿を変え、必要な道具が並ぶ。
ユニコーンの刺繍入りの揃いのエプロンを身に着け、クレナが店先、ラミスが調理台の前に立ったところで待望の開店を果たした。
一人の女性が近付いてきて、クレナに声をかける。
「注文、いいですか?」
「いらっしゃいませ。初めてのお客さんだから、目一杯サービスするわよ」
クレナが微笑むと、女性は幌馬車の隣に立ててあるメニュー黒板を眺めながら尋ねた。
「この『日替わり魔法ブレンド』って?」
「よくぞ聞いてくれたわ。魔法の珈琲豆から作るんだけど、飲めば面白い効果が現れるの。ウチのバリスタが特に気合を入れて作る珈琲だから、オススメよ」
そう説明して、両手の指を組むクレナに、女性が追加で質問した。
「へえ、不思議ですね。どんな効果が現れるんですか?」
「今日の魔法ブレンドの効果は『珈琲を飲みたくなる』ね」
「……すみません。意味が分からないです。珈琲を飲んだら、また珈琲が飲みたくなるんですか?」
女性が首をかしげると、クレナはうつむきがちに答えた。
「ごめんなさい。サプライズ感を味わえるように、あまり効果を詳しく話せないのよ。とりあえず、『あまりの美味しさに、思わずおかわりを注文してしまう』みたいな解釈しといてもらえるかしら」
「一応、尋ねておきますけど、怪しい物が入ってるんじゃないですよね?」
「たしかに、謎の移動販売が、こんな文言で魔法の珈琲を売ってたら警戒するわよね。うん、あたしでも薬物を疑うわ。けど、安心して? 身体に害は及ばないから」
「……すみません、信用できないです。お邪魔しました」
「ちょ、ちょっと待って! そうだ、実演するから! あたしが、目の前で同じ物を飲んでみせるから!」
そう伝えて、クレナは幌馬車の後部へと小走りで向かった。
諸々の調理器具を広げてスタンバイしているラミスに、二本指を突き立てる。
少しの間を置いて、クレナはラミスから珈琲の注がれた木製のカップを二つ受け取ると、女性の胸の前へ差し出した。
上品に立ち上る湯気と共に、優しい香りがふわりと漂う。
女性は、片手で口元を隠しながら尋ねた。
「良い香り……。好きな方、選んでいいんですか?」
「ええ、もう片方をあたしが先に飲んでみせるわ」
「じゃあ、こっちで」
女性は、自分から見て右側にあるカップをつまむように、そっと受け取った。
クレナは、残った方のカップを両手で包み込むようにして持ち直し、半歩後ろへ下がる。
わざとらしく香りを嗅いでから口をつけ……そして、呟いた。
「うん、美味しいわ。凄く……凄い美味しい。やっぱり、魔法ブレンドが一番ね。あー……美味しすぎて、二杯目が飲みたくなってきたわ」
「ずいぶん、わざとらしいですね。具体的に、どう美味しいんですか?」
「ぐ、具体的に? そうね、苦味とか深みとか……あと、喉越しがいいわ。一日の終わりに飲みたい感じね」
「なんか、ビールの感想みたいになってますけど……」
「ああもう、うるさいわね。いちいち、詰めてくるんじゃないわよ。ほら、身体に害がないことは確認できたでしょ? とりあえず、一口でも飲んでみなさいってば」
クレナは身を乗り出して告げた。
女性はカップを口へと運ぶと、次の瞬間、目を丸くして声を上げる。
「あっ、本当ですね。美味しい。二杯目が欲しくなる程か分からないけど、普通に美味しいです」
「でしょでしょ? ほら、約束通りサービスもしておくから。半額でいいわよ」
「いいんですか? ありがとうございます」
そう礼を述べて、女性は財布から少しの銀貨を支払った。
数分に渡って珈琲を堪能し、やがて中身のなくなったカップをクレナに返す。
双子が礼を述べると、女性は名残惜しそうに幌馬車から離れていった。
彼女の背中が見えなくなると同時、ラミスがクレナ元へ近付いてきて、ささやく。
「上手くいったね。一人でも飲んでもらえれば、後はこっちのものだよ。あの珈琲の正式な効果は『周りにいる人を無性に珈琲を飲みたい気分に誘導させる』だからね。さあ、クレナちゃん。これからは忙しくなるよ」
開かれた荷台の後部は折り畳み式の調理台へと姿を変え、必要な道具が並ぶ。
ユニコーンの刺繍入りの揃いのエプロンを身に着け、クレナが店先、ラミスが調理台の前に立ったところで待望の開店を果たした。
一人の女性が近付いてきて、クレナに声をかける。
「注文、いいですか?」
「いらっしゃいませ。初めてのお客さんだから、目一杯サービスするわよ」
クレナが微笑むと、女性は幌馬車の隣に立ててあるメニュー黒板を眺めながら尋ねた。
「この『日替わり魔法ブレンド』って?」
「よくぞ聞いてくれたわ。魔法の珈琲豆から作るんだけど、飲めば面白い効果が現れるの。ウチのバリスタが特に気合を入れて作る珈琲だから、オススメよ」
そう説明して、両手の指を組むクレナに、女性が追加で質問した。
「へえ、不思議ですね。どんな効果が現れるんですか?」
「今日の魔法ブレンドの効果は『珈琲を飲みたくなる』ね」
「……すみません。意味が分からないです。珈琲を飲んだら、また珈琲が飲みたくなるんですか?」
女性が首をかしげると、クレナはうつむきがちに答えた。
「ごめんなさい。サプライズ感を味わえるように、あまり効果を詳しく話せないのよ。とりあえず、『あまりの美味しさに、思わずおかわりを注文してしまう』みたいな解釈しといてもらえるかしら」
「一応、尋ねておきますけど、怪しい物が入ってるんじゃないですよね?」
「たしかに、謎の移動販売が、こんな文言で魔法の珈琲を売ってたら警戒するわよね。うん、あたしでも薬物を疑うわ。けど、安心して? 身体に害は及ばないから」
「……すみません、信用できないです。お邪魔しました」
「ちょ、ちょっと待って! そうだ、実演するから! あたしが、目の前で同じ物を飲んでみせるから!」
そう伝えて、クレナは幌馬車の後部へと小走りで向かった。
諸々の調理器具を広げてスタンバイしているラミスに、二本指を突き立てる。
少しの間を置いて、クレナはラミスから珈琲の注がれた木製のカップを二つ受け取ると、女性の胸の前へ差し出した。
上品に立ち上る湯気と共に、優しい香りがふわりと漂う。
女性は、片手で口元を隠しながら尋ねた。
「良い香り……。好きな方、選んでいいんですか?」
「ええ、もう片方をあたしが先に飲んでみせるわ」
「じゃあ、こっちで」
女性は、自分から見て右側にあるカップをつまむように、そっと受け取った。
クレナは、残った方のカップを両手で包み込むようにして持ち直し、半歩後ろへ下がる。
わざとらしく香りを嗅いでから口をつけ……そして、呟いた。
「うん、美味しいわ。凄く……凄い美味しい。やっぱり、魔法ブレンドが一番ね。あー……美味しすぎて、二杯目が飲みたくなってきたわ」
「ずいぶん、わざとらしいですね。具体的に、どう美味しいんですか?」
「ぐ、具体的に? そうね、苦味とか深みとか……あと、喉越しがいいわ。一日の終わりに飲みたい感じね」
「なんか、ビールの感想みたいになってますけど……」
「ああもう、うるさいわね。いちいち、詰めてくるんじゃないわよ。ほら、身体に害がないことは確認できたでしょ? とりあえず、一口でも飲んでみなさいってば」
クレナは身を乗り出して告げた。
女性はカップを口へと運ぶと、次の瞬間、目を丸くして声を上げる。
「あっ、本当ですね。美味しい。二杯目が欲しくなる程か分からないけど、普通に美味しいです」
「でしょでしょ? ほら、約束通りサービスもしておくから。半額でいいわよ」
「いいんですか? ありがとうございます」
そう礼を述べて、女性は財布から少しの銀貨を支払った。
数分に渡って珈琲を堪能し、やがて中身のなくなったカップをクレナに返す。
双子が礼を述べると、女性は名残惜しそうに幌馬車から離れていった。
彼女の背中が見えなくなると同時、ラミスがクレナ元へ近付いてきて、ささやく。
「上手くいったね。一人でも飲んでもらえれば、後はこっちのものだよ。あの珈琲の正式な効果は『周りにいる人を無性に珈琲を飲みたい気分に誘導させる』だからね。さあ、クレナちゃん。これからは忙しくなるよ」
10
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜
音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった!
スキルスキル〜何かな何かな〜
ネットスーパー……?
これチートでしょ!?
当たりだよね!?
なになに……
注文できるのは、食材と調味料だけ?
完成品は?
カップ麺は?
え、私料理できないんだけど。
──詰みじゃん。
と思ったら、追放された料理人に拾われました。
素材しか買えない転移JK
追放された料理人
完成品ゼロ
便利アイテムなし
あるのは、調味料。
焼くだけなのに泣く。
塩で革命。
ソースで敗北。
そしてなぜかペンギンもいる。
今日も異世界で、
調味料無双しちゃいます!
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
主人公はあまり戦ったりはしません。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる