ユニコーンの旅カフェ〜双子姉妹の日替わり魔法珈琲〜

森羅 唯

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キレイになる珈琲

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 ある日の昼食前、料理が出来上がっても、一向に幌馬車から降りてくる気配のないラミスに、クレナが外から声をかけた。

「おーい、ご飯できてるわよ?」

 すると、ラミスはわざとらしく片方の手で頭を押さえながら、幌馬車から降りてきた。

「むう……あと少しだったのに」

「何よ? あたし、なんか邪魔しちゃった?」

「クレナちゃんが仕上げのタイミングで声かけたせいで、変な効果の珈琲豆が出来上がっちゃったんだよ。まったくもう」

 そう訴えて、頬を膨らませるラミスに、クレナが首の後ろを掻きながら言った。

「そういえば、前に焙煎のタイミングで魔法の珈琲豆に変化させるとか言ってたわね」

「そうだよ。まったく、クレナちゃんのせいで、せっかくの珈琲豆が台無しだよ」

「けど、変な効果っていっても、大したことないんでしょ? 売り物にならなくても食後の珈琲として片付けていけばいいじゃない」

「じゃあ、クレナちゃんだけで飲んでね。効果は『口に入れた瞬間、誰かに呼ばれた気がして身体がビクッとなる』だよ。むせても知らないから」

「それ、あたしが急に声をかけたから、そうなったわけ? 魔法の焙煎、その時の精神状況に左右されすぎでしょ」

 クレナは肩をすくめながら呟いた。

「あーあ、本当なら『飲めば、綺麗になれる珈琲』が出来上がるはずだったのに。まあいいや。とりあえず、ご飯ご飯」

 そう口にして、昼食を元へ向かおうとするラミス。
 クレナは、そんな彼女の肩を掴み無表情で告げた。

「待ちなさい。ご飯なんて、食べなくていいわ。一刻も早く、その珈琲を完成させなさい」

「けど、ご飯……」

「ダメよ。気分屋のあんたのことだから、ここで打ち切ったら、どうせ昼からは別のモノを考えるんでしょ。だったら今、作らせるしかないじゃない。イメージが固まってるうちに」

 クレナは、何か言おうとしているラミスに耳を貸すことなく担ぎあげると、そのまま幌馬車の二階へ放り込んだ。



 ――そして、一時間後。

 ラミスは粉砕済みのコーヒーを袋に詰めて、外へ出てきた。

「……できたよ、クレナちゃん」

「よくやったわ。流石、あたしの姉ね。本当、よくやったわ。後でチュウしたげる」

「いらないいらない。今日のクレナちゃん、なんか怖いよ。怖い上に、気持ち悪い」

 ラミスは挙動不審に目を泳がせながら、震える手で珈琲を淹れた。
 いつも通り、見た目に何の違和感もない珈琲が出来上がる。

 クレナはラミスからカップを受け取ると、すぐさま口へ運び、一息で飲み干した。
 彼女は、しばらく無言で身体を擦った後、ふと口を開く。

「……肘のかさぶたが、綺麗になくなってるわ」

「ごめん。美容のこととか、よく分からなかったから、漠然と身体の悪い所を綺麗にするイメージで出来上がっちゃった」

「あんた、舐めてんの?」

 クレナが鋭い視線を向けると、ラミスは両手を突き出して答えた。

「待って待って。大丈夫だから。たくさん飲めば、ニキビとか全部なくなるから。内臓機能が良くなって、結果的にツヤツヤの髪とか、モチモチの肌とか手に入るから」

「なるほど、つまり狂ったように飲めばいいってわけね」

 こうして、クレナの長い戦いが始まった。

 一杯、二杯……と、飲むに従って目に見える傷が減っていく。
 十杯目を過ぎた頃、目に見える範囲の傷が綺麗サッパリ消え去った。

 それでも、クレナは「ここからが正念場」と言わんばかりに、必死に飲み続ける。
 ラミスは、そんな妹に顔を青ざめさせながら声をかけた。

「流石に飲み過ぎだよ……」

「いいえ、まだよ。表面的な傷は綺麗になったけど、肝心の肌艶に変化が現れないもの」

 その後も、黙々と珈琲を飲み進めるクレナに、ラミスは胸の辺りを擦りながら尋ねた。

「クレナちゃん、美容のためとはいえ、よくそんなに珈琲ばっかり飲めるね。私、見てるだけで気持ち悪くなってきちゃったよ」

「言われてみれば、これだけ飲んでるのに不思議な話ね。……それにしても、途中からどこが綺麗になっていってるか分からなくなったのは何故かしら?」

 その頃、クレナの体内では暴飲によるダメージと魔法による修復とが延々と繰り返され、さながら戦場と化していた。
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