【R18】翼神のイタズラ PLAYER No.037 大橋道哉の場合

まめた

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DAY 28.

小さな大人

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 青木が潜伏場所に選んだこのアパート・・
 地下にあるせいか、1階建てで一見すると
 商店街の連なった小さな店みたいだけど・・
 アパートらしい。

 入る前は潜伏場所なんていうと、
 薄暗い汚い狭い場所を覚悟していた。

 覚悟していて良かったと思う。
 異常なほどに古いけど、
 想像よりも遥かにマシな場所で、
 俺としては安堵感さえある。

 ・・女の子はどうか分からないが。

 かなり狭く、古いが、
 清潔ではあるアパートの1室。

 古い・・というのはちょっとやそっとの古さじゃない。
 数百年って感じだ。
 俺達が住むときにもちょっと驚いたものだけど、
 この国では古いっていうのが
 ちょっとしたステータスになっているところがある。
 ・・『歴史を感じさせる』とも・・言うらしい。

 とはいえ、一般的には中の施設は新しくする。
 水洗トイレが各建物内にない時代の建物を
 そのまま使うのは不便だからだ。

 それなのに、
 このアパートは設備ごと数百年前の仕様になっている。
 さすがに不便なこのアパート・・全12室なのに
 3室しか住人が住んでいないとのことで・・人目にが
 あまり無いのは、今の俺達には嬉しいことではある。

 ・・一番の問題はトイレとシャワーだ。

 因みに・・シャワーは存在しない。
 青木が事前の下調べのときに置いた大きなタライが、
 狭いキッチンに置かれている。

 トイレは存在するものの・・かなり恐ろしい造りだ。
 こちらの世界でも便器はある程度元の世界と同じような形に
 進化している。
 水洗トイレも世界各地で・・よほど貧しい地域でなければ
 普及してきている。

 ・・が・・・

 寝室から出た俺は・・
 俺を見て「こっちに来て」と駆け寄ってきた真名ちゃんに
 「ごめん、ちょっと待っててな~・・」と謝って、
 問題のトイレへ・・

 トイレの蓋を開ける。
 便座のナカはとんでもなく深い縦穴に直結してる。
 そしてそのとんでもなく暗くて深い奥からは
 微かに水音が聞こえてくる。

 青木によると、
 地下にあるはずのこの小さな区画は、
 地下であるにも関わらず更にその下に下水路を持っているらしい。

 この地下区画はずっと人が居住してきた。
 そして、このトイレの竪穴の下は下水道だ・・。

『万が一の場合は、この部屋なら
 トイレから下水路に逃げ込める』

 ・・とか、青木が真顔で言っていた。
 それを聞いた全員の顔が蒼白になったのはつい昨夜の事・・・
 マジで万が一の事態にならないことを祈る・・ホントに・・

 俺は用を足し終わって、小さなリビングに戻った。
 真名ちゃんは既に俺に興味を無くしたらしく、お食事中だ。

「道哉君もホットケーキ食べませんか?」

 あかりが、困った様に俺に皿を差し出した。

 皿の上には、料理上手のあかりが作ったにしては
 残念な感じのぺったんこのホットケーキが乗っている。

「ベーキングパウダーがなくて・・」

 あかりはあるモノで作れそうなモノを
 いつもは作ってくれるけど・・
 子供が喜んでくれそうなものをちょっと無理して作ったんだろう。

 ありがたく食べることにした。

 この部屋には小さなリビングと申し訳程度だけど、
 キッチンがあって、水道が通ってるし、
 後付けされた1口コンロもある。

 キッチンには前もって
 青木が準備してくれたらしく、
 最低限の調理用品として
 厚底のフライパンみたいなもんと、ポット

 それに、2週間分の食材・・こっちでいうパンとか
 小麦粉・・それに、
 ソーセージとトマト、卵と牛乳なんかが用意してあった。

 ホットケーキはぺったんこではあるけど、
 ほんのりした甘さが口に広がる。

「美味い・・」

 俺が言うと、
 あかりが小さく笑ってコーヒーを用意してくれた。

 俺は寝室の扉を見やる。

 1つしかない寝室は狭いけど、
 3段ベッドが何故か2つも備え付けられてて、、
 大人6人寝られる。

 尚、ベッドは下の段に男が寝て、
 女の子は2段目に寝る事にした。

「青木達も起こす?
 朝飯まだだろ?」

 俺が言うとあかりがふるふると首を横に振った。

「青木君も和泉さんも昨日まで大活躍で疲れてますよ・・きっと。
 寝かせておいてあげましょうよ。

 ご飯はお2人分も作って別に取ってありますから・・」

 実際、ここに来るまで大忙しだったのは青木と和泉だ。
 青木に至っては、睡眠時間も短かったらしい。

 俺は、あかりの言葉に素直に「分かった」と言って、
 コーヒーを口に含んで・・話を変えることにした。

 真名ちゃんは年の割に上手に食べる。

 とはいえ多少汚れた手を見て、
 あかりは濡れタオルをそっと真名ちゃんの手元に置いた。

「ありがとう。あかりちゃん」

「どういたしまして。真名ちゃん」

 汚れた手を自分で拭く真名ちゃんをチラチラ見ながら
 あかりもホットケーキを口に運ぶ。

「あかり、ちっちゃい子の世話慣れてるな?」

 俺が言うと、あかりは世間話のノリで答えた。

「年が近いけど妹がいますし・・
 年の離れた従兄弟と一緒に暮らしてた時期もあるんです。」

 俺にも年の離れた弟がいるから、
 俺も同世代の男と比べたら子供の相手はしている方だとは思う。
 弟が家に連れてくるチビ達の世話を焼いた事もある。
 ・・といっても、子供の面倒を見るのは基本的に親だから、
 俺は手伝い程度だけど・・

 そんな俺から見て、
 あかりの子守りは兄弟のお手伝いというには、
 随分慣れている。

「それに・・」

 ちょっと関心していると、
 あかりがほんの少しだけ、困った様に続けた。

「真名ちゃんは、ビックリするくらいイイ子ですから・・
 あんまり大変じゃないですよ。」

 大して嬉しそうではなくて、寧ろ心配そうなあかりの口調。
 俺にも何となく察しがついた。

「あーーーー・・そだな」

 "イイ子”という言葉に反応したようで・・
 真名ちゃんが、ワザとらしいくらいの
 満面の笑みでにこーーーっとあかりに笑いかけて、
 俺にも同じような笑顔を向けた。
 あかりの口調にやや暗さがあるのには流石に気が付いていないらしい。

 まだ小学校にも行っていないくらいの子には
 全然似合わない、媚びるような笑顔。

 昨日は特に気にも留めなかったけど、
 アーモンド形の黒い目は鈴木孝太郎パパとそっくりだ。

 一見、ほんの少し聞き分けの良い・・
 不細工でも特別な美少女でもない、年相応の可愛い女の子。

 話してみると多少ワガママを言いはしても、
 それが通らなければ、駄々を捏ねることなくすっぱりと諦める。

 まるで本当はワガママなんてどうでも良いかのような。
 ・・コドモを演出しているような不気味さがある。

 昨日、ダマリさんに抱き着いて離れなかった時に
 十分に子供に見えていた真名ちゃんが今日は全然違っていて・・
 正直、不気味だ。

 ・・・いやいや・・今は潜伏生活だ。
 子供らしくはしゃぎ回られても困るというのもある。

 後で真名ちゃんが寝てる時にでも、
 真名ちゃんについてはあかりと話をした方がいいかもしれない。

「・・・あかり、飯食い終わったら、
 俺、皿洗いするし、皿洗い終わったら
 真名ちゃんの相手するから、
 ゆっくり食べててな?」

 俺が言うと、真名ちゃんが少し考えたように黙って、
 口を開いた。

「お皿あらうの、てつだってあげるーー」

 なるほど。
 すごく・・ものすごい、ワザとらしい。

 ・・俺とあかりは目を見合わた。
 引きつったような笑顔を浮かべるあかりを多少とも安心させたくて・・
 笑いかけたあと、俺は真名ちゃんを見た。

「・・おぅ!
 じゃぁ、さっさと食べ終わってな?」
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