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世界列伝 黄金旅記編
王の降臨
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キマイラ――獅子の体をベースとした所謂四足歩行の合成魔獣と呼ばれる生物である。獅子の体には三つ首の如く、左側に山羊の頭、真ん中に獅子の頭、右側に龍の頭が並んでおり、その尻尾は蛇となっている。そして獅子の背中には何らかの鳥の翼を持ち、背骨辺りは龍の鱗のようになっている。
さらにその巨体は最低でも全長十メートルになるほどの巨獣である。
魔族にも獣魔族でキマイラ種は存在しているのだが、彼らは二足歩行である。そして何よりも全長もとい身長は高くて四メートルほどである。
今回発見された森に潜むキマイラは目撃情報等々を照合させると確実に魔物であると報告が上がっている。
既に被害報告も上がっているために早急な討伐が要請されている。
「つーわけで、明日には討伐隊が森へ直行するってわけよ」
「そうなのか。……もしかしてここにいる獣人の冒険者とかも行くのか?」
「ん? ああ確か行くみたいだな。それがどうしたんだ?」
その問いに彼女は少しばかり言って良いものなのかを迷う。少し口を濁すも聞いてみることにした。
「いやな。魔物とはいえ、見た目っつーか顔とかは獅子なんだろ? あまり良い言い方じゃないが、同族殺しみたいな感覚とか抱いてんのかなーって……」
彼女は思ったままをそのまま彼に言う。
これを聞いた彼は少々理解に苦しむような顔、というよりかは何を言っているのかがわからないといった顔をするも、彼が彼女にした魔族と魔物の認識における説明で少々誤解させたことに気づく。
「ああ、その話か。ふん……どうやら少し誤解させたようだが、あくまで魔物と魔族の区別がつきにくいのは俺たちみたいな人間種限定の話だ。あいつら魔族……正しくは魔間種か、それくらいの違いっつーか……ま、親近感みたいなのはねーよ」
「そうなのか?」
彼女はまだ腑に落ちていないという顔をする。それに無理もないと彼は心の中で共感する。彼も冒険者を始めたばかりの頃であっただろうか、同僚の獣人に同じような話をされた時はすぐには信じきれなかったものだ。
どうしてもこの種族間における外見による認識のズレというものは理解しづらいものだ。何故ならば物事の全て、世界の全てというものは肉体における五感でしか感じ取れないからだ。だからこそ、個々によって見る世界が違うというのも仕方のないことなのだ。
彼はなんとかして納得のいく説明はできないものかと模索する。その時、ある偉い学者が言っていた話を思い出し、それを使って説明してみることにした。
「そうだな……例えば俺たち人間と猿って一緒に見えるか?」
「いやそんなまさか」
「だろ? ま、そういうことだ」
「あぁ……」
つまり彼ら魔間種(魔族)にとって魔物という生物は進化論に基づいて考えるならば、人間の祖先は猿だったという話と同じようなものである。だからこそ同族として見えることはなく、全く別の生物として見えるのだ。
だが、人間種にはその差が四足歩行か二足歩行かどうかの程度でしか違いを感じとれないため、魔物と魔族における外見の問題はあくまで人間種に限った話なのだ。
「どうやら納得したようだな。ま、あとは慣れだ、慣れ」
「そうか……。何から何まで色々とありがとうな。んじゃまた明日。」
「ああ、ゆっくり休むといい」
そうして彼女は自分のテントへと戻り、眠りにつくのであった。
◆
そこは【迷界の大森林】――世界で一番広い森林――に隣接する南端の森であった。その森の名称は付近の地形から、狭間の森と呼ばれている。
そしてその狭間の森に偶然訪れた一匹の獣がいた。そう、キマイラである。彼はかの大森林に生息していたものの、新たな世界を求め、その巣から旅立ったのだ。
だが偶然遭遇した者たちは大森林に生息しているはずの魔物が森の外に出ている事実に驚嘆し、荷物を置き去りにして逃げる他なかった。そんな事を知る由もないキマイラは荷馬車に残った食物等を適当に食い散らかす。
そうして新たな世界を体験し、渇望する。本来、獲物がいなくなる等でもなければ自らの巣から出るなどという行いはしない。だが彼は珍しい思考を持った個体だったのだ。
『外』に憧れを抱く、そんな個体なのだ。
今宵、彼は適当な洞穴にて眠る。日が昇ればまた新たな地へと赴こう。次はこの森を出てみようかとそう思いながら目を瞑る……。
「……起きよ。……起き上がるのだ」
どこからか声が聞こえてくる。実に煩わしいが彼は構わず眠ろうとする。
「おい。……目を覚ますのだ」
「……ふん。……そうか。……ならば」
すると、自身の鼻がなにかムズムズし始める。あまりのしつこさに彼はくしゃみとともに起きてしまう。
巨獣による大きなくしゃみは静かな夜の森であったこともあり爆音であった。
「バックションッ! ……誰だ! 俺の眠気を妨げるのは!」
安らかな眠りを邪魔され、不機嫌になった彼は怒りの顔で辺りを見渡して犯人を探す。
「どこだ? どこにいる! 出てこい!」
そう吠えるが何も反応がない。……もしかしたら気の所為だったのかもしれない。そう思い、今一度眠りに入ろうとした瞬間、煩わしい先程の声が止めにかかる。
「……おい。……再び寝ようとするでない」
「誰だ! やはりどこかに居るのだな!」
「……余はここだ。下を見よ。下を」
そう声の言うままに彼は顔を下へ向ける。そしてそこにいたのは黒い光を纏《まと》った何かであった。
「誰だお前は! この俺に何の用だ!」
「……ふむ、そうだな。……まずは自己紹介といこうか」
「……余は妖魔族の闇妖精と呼ばれる魔族だ」
ゆったりとした重々しい口調に声。ソレは闇妖精と自身を呼ぶ。
しかし、彼にはその真偽は定かではなかった。なにせ初めて聞く言葉に、そして初めて会話が出来た相手だったからだ。
「妖魔族? 何だそれは?」
「……獣である貴様では知り得ぬことよ。……それよりもだ、キマイラよ。余の『軍門』に降らぬか?」
またも奇妙な事を喋る。その言葉の意味を彼は知らない。だが不思議と理解はできる。
「軍門? よく分からんがお前の下につけと言っていることだけは分かる。いきなりそんな提案を飲むわけがなかろう!」
彼がそう怒りをあらわにした物言いでその提案を拒否すると、ソレはやや下手に出ながら話し始める。
「……眠気を妨げるような真似をしたことは、余とて申し訳なく思う。……しかし、今すぐにでも伝えねばならぬことがあったのだ」
「どういう意味だ?」
「……それはな、明日の朝に人間種共等が貴様を殺しにくるためだ」
人間種。
言葉の意味はわからずともたまに森で見かける毛の少ない二足歩行の獣のことであると彼は理解する。
「それは俺を狩ろうということか?」
「……その通り。だが、戦うことは勧めぬ。……気分を悪くしないで欲しいのだが、奴らは今のお前を殺すに足る十分な力を持っているのだ」
彼はそれを聞いて不快に思う。森で生き、窮地に立ったことはなく、常に自由に生き続けた彼に障害が立ちはだかると言うのだから。
「それを信じろと? それにお前が言うその軍門に降ってどうだと言うのだ!」
彼はまたも怒りをあらわにする。自身よりも遥かに小さく、今にも飲み込んでしまえそうな矮小で儚きものに助けてやろうと言われいるのと同義だからだ。弱肉強食の世界で生きてきた彼には到底受け入れがたい話である。
しかし、その問いに対してソレは不敵な笑らい声とともに答え始める。
「……フフフ、何そう案ずるな。余の配下に成りし者は皆、『無窮の幸福』を得ることができる。そして余は貴様に『力』を与えることができる」
「ならば、軍門に降らずに前払いで俺に力を与えてみろ! そうすれば考えなくもない」
彼は未だ、にわかには信じきれていない。だが、ソレの言うことがすべて真実であるというのが頭で認めたくなくとも心で理解している。故に彼はソレの言葉に染まり始める。
「……すまないがそれは無理だ。それはどうしようもなく出来ないことなのだ」
「何故だ! それはお前が嘘をついているからではないのか!」
彼は分かっている。ソレが嘘をついていないことくらい。だがどうしても感情的な言葉が出てしまう。なぜならソレは未だ彼にとって不明でしかない存在だからだ。
そして彼のその言葉にソレは更に声の色を低くして答えた。
「……余はそのように狭量ではない。……これはひとえに世界の『規律』故なのだ。余達、生き物の全てはこの世界に存在する『規律』上ですべての事象は起きている。だからこそ、理外の存在でもない限り、その『規律』に従うほかない。……違うか?」
「……言っている意味はよく分からんが、直感で何を言いたいかは分かった。それで俺はどうしたらいい?」
その言葉を聞いたソレは怪しげに笑う。
「……フフフ、何簡単なことよ。……余の『手』を取るが良い。それだけで十分だ」
「手? お前に手があるようには見えないが……」
「……そうか、ならば余に触れてみよ。それが『手』だ」
そして彼はソレが言う通りに前足を伸ばして、黒い光に触れたのだった……。
◆
明朝。日当たりの良い朝と煌めく日光。目覚めたばかりの紅音達は背筋を伸ばしながら欠伸をかく。
彼女達はひとまずテントから出て朝日を拝む。
「ふぁああ……。もう朝か……おーい、起きれてるかー?」
「むにゃ、むにゃ……うん。起きてる……よ」
「未だ夢現ってところか……。ま、いいか。んじゃま今日は適当に時間を潰せれば先に進めるらしいからな。今日は休日といこうかねぇ」
討伐隊がキマイラを討伐するまでは暇であろうと思い、どう時間を潰すものかと考えようとしたその時だった、後方から大きな声が聞こえてくる。
「おーい! あんちゃん達ぃぃい! 起きてるなー?!」
ペネトレイトが何やら慌てた様子で来た。一体何かあったのだろうか。そう彼女は感じる。
「あ? なんだおっさ……いや、ペネトレイト。何か用か?」
「今おっさんて言いかけなかったか? まぁいいそんなことよりもだ。起きて早々悪いがちぃとばかし手伝って欲しい事があるんだ。……どうせ暇だろ?」
「どうせは余計だよ。……で、なんだよ手伝って欲しい事ってのは」
「いやな? なーんか今日討伐に向かう予定だったはずの連中の内二人がどっか行っちまってよ……。その穴埋めをお願いしたいんだ」
彼は彼女にキマイラ討伐に参加して欲しいと頼み込んでくる。まさかそういうことで頼られるとは思ってもいなかった彼女は驚き、それを拒絶する。
「はぁ? 何でだよ! アタシ別に戦えねぇぞ! それにグリルにもそういう事は任せらんねぇよ」
「いやいや、そうじゃねぇさ。端からDランクのあんちゃんを戦力として数えちゃいねぇよ」
「まぁなんだ、逃げた二人ってのは荷物持ちでな、俺とあんちゃんの二人で荷物持ちをしようってことさ」
「はぁ? ……他の冒険者でもいいだろそんなこと」
わざわざ自分を頼るようなことではないと彼女はそれを一蹴しようとするも、彼はそれをキッパリと否定する。
「いーや、そいつは違うね。荷物持ちがビビって逃げたっつうんだ、それなりに信用のおける人物じゃなきゃ任せらんないってわけよ!」
「……嬉しいんだか嬉しくないんだかって感じだな。その信用ってやつはよ」
少しは信用してくれているという事自体は良いことなのだが、こういう厄介事を押し付けられるともなると彼女としてはあまり理想的な出来事ではなかった。
彼はそれに笑って応える。
「ハハッ! 今回ばかりはくじ運が悪かったと思うしか無いな! それに俺だって駆り出されてんだ、あんちゃんだけじゃねぇよ」
「はいはい。……ちょっと待ってくれ」
「あいよ! いい返事を待ってるぜ! あの門の前で待ってるからよ! あとなるべく早くな!」
彼が去っていく中で彼女は考える。自分は一体どうすべきなのかを……。
(どうする? 断るか? いやそもそもこれは断れるものなのか? ライセンスのためとはいえ冒険者という組織に所属しているわけだ。所謂上司にあたる人物からの頼みを断れば今後に響くかもしれない。それに暗黙の了解ってやつで断ることは出来ないのかもしれない。それに直接戦闘をするわけじゃ無いにしても下手したら死ぬかもしれない。……死ななくても大怪我を負う可能性だってありえる。もしそんなことがあったら……)
(アタシとしても今は最低限の社会的信用が必要だ。あいつは気さくな奴だがアタシを庇ってくれるとは限らない。恐らく何かあっても起きた真実しか話さないだろうな)
思い悩む彼女の顔を見たグリルは心配そうに声をかける。
「……紅音?」
「ん? ああいや、何でも無いさグリル。……しっかしどうしたもんかねぇ」
自分で選択するには色んな材料で溢れすぎている。だから彼女は試しに聞いてみることにした。
「……なぁグリル。もしアタシがあのおっさん達の手伝いに行くとしたらどうする?」
「ついて行く!」
即答による回答に彼女は少し驚きながらもこうなることは目に見えていたと思い直し決断する。
「……ま、そうだよな。……あの時の約束もあるし、一緒に行くか」
「うん!」
「ただしロブスターは連れてくな」
えぇ……というグリルの落胆を挟みつつ彼女たちはペネトレイトがいる場所まで向かっていく。
そして待っていたと言わんばかりに仁王立ちで待ち構えていた彼が景気よく声をかけてくる。
「お! 来たな。それで、腹ぁ決まったか?」
「まぁな。……それとこの子も一緒に行かせてもいいか?」
「ん? ……別に構わねぇとは思うが、いいのかい?」
「ああ」
そう彼女の言葉を聞いた彼は少し目線を空へ向けて数秒考え込みながら応える。
「そうか……なら良いんだけどよ」
「んじゃま、出発前に打ち合わせがあるからな。……そろそろだな」
そう言われ見えた先で待っていたのは今回の討伐隊の人だかりであった。その面々の前に堂々と立っている一人の男性がハキハキとした喋り口調で話し始める。
「諸君! よくぞ集った。我々討伐隊は森から抜け出したキマイラの進行状況から予測し、あの森にいることが分かった。ここに居るものは皆、手柄や冒険者としての模範となる者たちによる兵の集であると固く信じている。人民の味方である我々はキマイラという魔物の脅威を取り払うことこそ、人々の安寧に直結する。諸君! 存分に励み給え! 以上、解散!」
「……え」
彼女は思わずそう小声で言ってしまう。なぜなら先程の人物は今回の討伐におけることで、何も大事なことは言っていなかったからだ。
(打ち合わせっつーか激励会じゃねぇかよ。なんだ? 人手不足とかなのか?)
要らぬ邪推を挟みつつも彼女は彼に聞いてみることにした。
「なぁペネトレイト。アタシらはどうしたらいいんだよ」
「んーとな、まぁ詳しく言ってなかったけどよ。この討伐隊ってのは主に二手に別れていてな、正規の奴等と俺たち冒険者っつー寄せ集めに別れていてな。正規はBランク冒険者が四人。俺たちはBランク冒険者一人とCランク冒険者が五人の構成だ。……討伐する奴らがな」
「なるほどな。んで、なんで別れんだ? 一緒に行動すんじゃねーのかよ」
彼女は疑問をぶつける。凶悪な巨獣を討伐するのに戦力を分散させるのは悪手ではないのかと。
その問いに対し、彼はバツが悪そうに答える。
「まぁ森の何処とは言ってなかったし、そこら辺の具体的な位置まではわからないんじゃねーの?」
「そうなのか? ……それってどーなんだ?」
そのように微妙に詰めの甘い位置情報や作戦に彼女は訝しむ。だがそもそもその程度の下準備で倒せれるほど雑作もない相手だというのならば何も問題は無いが、本当にそうなのだろうか……。
彼はもはや諦めたような口調で話す。
「ま、こんなもんよ。さて、今回のチームメンバーとの挨拶の時間だ」
その言葉を聞いて彼女はあることを思い出す。それはグリルに関する問題であった。
(……大丈夫かなぁ。グリルと初めて会った時、あいつ他人から外見でどうこう言われたって言ってたしな。……連れてくるべきじゃなかったかもな。いやでもこのおっさんは別にそこまで気にしてなかったよな? ……人によるだけか?)
そう彼女が心配していると今回討伐のために集まった冒険者たちが次々と最低限の自己紹介をしていく。
「皆集まりましたね。今回、チームのリーダーを担当する事になったBランク冒険者のワルグレイドです。分類は二級魔法剣士で、所属編成名は『光矢の救い』です」
人間種高人族であるワルグレイドはここにいる他の者と比べて装備している防具や剣の見た目がまるで違った。
勿論単に見た目が違うという意味ではない。雰囲気とも言うべきものであろうか、根本的にその性質が異なるのである。
「私はCランク冒険者のピニシアです。分類は三級神官で、所属編成名は同じく『光矢の救い』です」
人間種高人族であるピニシアという女性は白を基調とした肌の露出を極限にまで抑えたかのような服を着込んでいた。
彼女の服は恐らく教会で統一されている服装なのであろう。紅音はどこかで見た覚えがあったため、そう感じる。
「同じくCランクのデラルだ。分類は五級弓兵だ。所属は『火炎剛符』だ」
人間種森人族のデラルという女性は褐森人であるからか褐色肌でかなり筋肉質な肉体を保有していた。
「同じく、俺はドラケー・ダラル。分類は四級戦士だ。所属は彼女に同じく」
魔間種獣魔族であるドラケーは虎の獣人で黄色い毛が良くしなやかだ。獣人故の巨躯とその筋肉は戦士としてこの上ない活躍をしてきたに違いない。
「同じく、僕はテリフ。分類は四級探索者。所属は先の二人と同じです」
人間種小人族であるテリフは種族による性質故に他種族基準で子供のような外見だが、中身は歴とした大人である。
「同じく、儂はポートン・マコシム。分類は準二級風属性魔法行使者じゃ。無論儂も所属は彼らと同じじゃ」
人間種高人族であるポートンは齢六十三にもなる老齢だ。老齢と呼ぶには少々早いかもしれないが、この世界の高人族の平均寿命から考えれば十分老齢なのだ。
「荷物持ち代行で参加するペネトレイトだ」
「同じく手伝いに来た神閤紅音だ。それとこいつはアタシの妹のグリルだ」
「よ、よろしくお願いします」
グリルは緊張しながらも勇気を振り絞り挨拶する。
うねうねと動く口や飛び出た舌。その異様な肉体は人間種ではないことを明らかに指し示している。彼らは見たこともない種族である彼女を見て若干驚くも魔人族がこの世に存在するため、彼女もその類なのだろうと各々勝手に納得する。
さて、皆の挨拶が一通り終わったところでワルグレイドは話を切り出す。
「元々私はピニシアとのニ人編成しか経験が無いのですが……確かダラルさんとこは四人編成でしたっけ?」
「ああそうだ。俺達四人による編成だがそれがどうかしたのか?」
「ああいえ、ただ単純に私で本当に良いのかと思いまして」
「そう謙遜することはない。あなたはキマイラ討伐の経験があるのだろう? なれば経験者をリーダーに据えた方が良いと皆で相談した結果だ」
「そうですか……わかりました! それでは各個人の挨拶も終わったところですし、そろそろ出発しましょうか!」
彼らの会話を聞いていた紅音は不安を覚える。本当に大丈夫なのかと。
(完全にバラバラの寄せ集めじゃなさそうだが、どうにも不安が残るな……。土壇場で変なトラブルとかやめてくれよ? 本当によ……)
◆
キマイラ……いや、もはやキマイラですら無い何かが独り言を呟く。
「……溢れるぞ。力に溢れる」
「素晴らしい力だ。……やはり外の世界へ赴いてみるものだったな」
彼は感謝する。己の『選択』に、『出会い』に、『運命』に、『王』に……。
「これが俺の王による恩寵。寵愛というやつなのか……」
「ならば俺に向かってくる敵は皆、俺の王の敵でもある。俺の王のために俺は奴らを狩るッ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*ここに記載されている情報は読者向けであり、本作品に登場するキャラクター達は一切見れません。
よろしければ、感想や応援等々よろしくお願いします。
ステータス
名前:???
世界異能:【式使怪】
降伏した魔物を使役可能。魔物と話すことができる。
配下の魔物同士で融合合体による強化が可能。
配下を一番に思い、配下でないものは無感情に近くなる。
配下の魔物は際限なく召喚できる。
魔物に襲われなくなる。配下の魔物は無窮の幸福を得られる。
種族:闇妖精
称号:王
魔法:闇属性
耐性:闇属性魔法耐性(小) 聖属性による脆弱性(大)
さらにその巨体は最低でも全長十メートルになるほどの巨獣である。
魔族にも獣魔族でキマイラ種は存在しているのだが、彼らは二足歩行である。そして何よりも全長もとい身長は高くて四メートルほどである。
今回発見された森に潜むキマイラは目撃情報等々を照合させると確実に魔物であると報告が上がっている。
既に被害報告も上がっているために早急な討伐が要請されている。
「つーわけで、明日には討伐隊が森へ直行するってわけよ」
「そうなのか。……もしかしてここにいる獣人の冒険者とかも行くのか?」
「ん? ああ確か行くみたいだな。それがどうしたんだ?」
その問いに彼女は少しばかり言って良いものなのかを迷う。少し口を濁すも聞いてみることにした。
「いやな。魔物とはいえ、見た目っつーか顔とかは獅子なんだろ? あまり良い言い方じゃないが、同族殺しみたいな感覚とか抱いてんのかなーって……」
彼女は思ったままをそのまま彼に言う。
これを聞いた彼は少々理解に苦しむような顔、というよりかは何を言っているのかがわからないといった顔をするも、彼が彼女にした魔族と魔物の認識における説明で少々誤解させたことに気づく。
「ああ、その話か。ふん……どうやら少し誤解させたようだが、あくまで魔物と魔族の区別がつきにくいのは俺たちみたいな人間種限定の話だ。あいつら魔族……正しくは魔間種か、それくらいの違いっつーか……ま、親近感みたいなのはねーよ」
「そうなのか?」
彼女はまだ腑に落ちていないという顔をする。それに無理もないと彼は心の中で共感する。彼も冒険者を始めたばかりの頃であっただろうか、同僚の獣人に同じような話をされた時はすぐには信じきれなかったものだ。
どうしてもこの種族間における外見による認識のズレというものは理解しづらいものだ。何故ならば物事の全て、世界の全てというものは肉体における五感でしか感じ取れないからだ。だからこそ、個々によって見る世界が違うというのも仕方のないことなのだ。
彼はなんとかして納得のいく説明はできないものかと模索する。その時、ある偉い学者が言っていた話を思い出し、それを使って説明してみることにした。
「そうだな……例えば俺たち人間と猿って一緒に見えるか?」
「いやそんなまさか」
「だろ? ま、そういうことだ」
「あぁ……」
つまり彼ら魔間種(魔族)にとって魔物という生物は進化論に基づいて考えるならば、人間の祖先は猿だったという話と同じようなものである。だからこそ同族として見えることはなく、全く別の生物として見えるのだ。
だが、人間種にはその差が四足歩行か二足歩行かどうかの程度でしか違いを感じとれないため、魔物と魔族における外見の問題はあくまで人間種に限った話なのだ。
「どうやら納得したようだな。ま、あとは慣れだ、慣れ」
「そうか……。何から何まで色々とありがとうな。んじゃまた明日。」
「ああ、ゆっくり休むといい」
そうして彼女は自分のテントへと戻り、眠りにつくのであった。
◆
そこは【迷界の大森林】――世界で一番広い森林――に隣接する南端の森であった。その森の名称は付近の地形から、狭間の森と呼ばれている。
そしてその狭間の森に偶然訪れた一匹の獣がいた。そう、キマイラである。彼はかの大森林に生息していたものの、新たな世界を求め、その巣から旅立ったのだ。
だが偶然遭遇した者たちは大森林に生息しているはずの魔物が森の外に出ている事実に驚嘆し、荷物を置き去りにして逃げる他なかった。そんな事を知る由もないキマイラは荷馬車に残った食物等を適当に食い散らかす。
そうして新たな世界を体験し、渇望する。本来、獲物がいなくなる等でもなければ自らの巣から出るなどという行いはしない。だが彼は珍しい思考を持った個体だったのだ。
『外』に憧れを抱く、そんな個体なのだ。
今宵、彼は適当な洞穴にて眠る。日が昇ればまた新たな地へと赴こう。次はこの森を出てみようかとそう思いながら目を瞑る……。
「……起きよ。……起き上がるのだ」
どこからか声が聞こえてくる。実に煩わしいが彼は構わず眠ろうとする。
「おい。……目を覚ますのだ」
「……ふん。……そうか。……ならば」
すると、自身の鼻がなにかムズムズし始める。あまりのしつこさに彼はくしゃみとともに起きてしまう。
巨獣による大きなくしゃみは静かな夜の森であったこともあり爆音であった。
「バックションッ! ……誰だ! 俺の眠気を妨げるのは!」
安らかな眠りを邪魔され、不機嫌になった彼は怒りの顔で辺りを見渡して犯人を探す。
「どこだ? どこにいる! 出てこい!」
そう吠えるが何も反応がない。……もしかしたら気の所為だったのかもしれない。そう思い、今一度眠りに入ろうとした瞬間、煩わしい先程の声が止めにかかる。
「……おい。……再び寝ようとするでない」
「誰だ! やはりどこかに居るのだな!」
「……余はここだ。下を見よ。下を」
そう声の言うままに彼は顔を下へ向ける。そしてそこにいたのは黒い光を纏《まと》った何かであった。
「誰だお前は! この俺に何の用だ!」
「……ふむ、そうだな。……まずは自己紹介といこうか」
「……余は妖魔族の闇妖精と呼ばれる魔族だ」
ゆったりとした重々しい口調に声。ソレは闇妖精と自身を呼ぶ。
しかし、彼にはその真偽は定かではなかった。なにせ初めて聞く言葉に、そして初めて会話が出来た相手だったからだ。
「妖魔族? 何だそれは?」
「……獣である貴様では知り得ぬことよ。……それよりもだ、キマイラよ。余の『軍門』に降らぬか?」
またも奇妙な事を喋る。その言葉の意味を彼は知らない。だが不思議と理解はできる。
「軍門? よく分からんがお前の下につけと言っていることだけは分かる。いきなりそんな提案を飲むわけがなかろう!」
彼がそう怒りをあらわにした物言いでその提案を拒否すると、ソレはやや下手に出ながら話し始める。
「……眠気を妨げるような真似をしたことは、余とて申し訳なく思う。……しかし、今すぐにでも伝えねばならぬことがあったのだ」
「どういう意味だ?」
「……それはな、明日の朝に人間種共等が貴様を殺しにくるためだ」
人間種。
言葉の意味はわからずともたまに森で見かける毛の少ない二足歩行の獣のことであると彼は理解する。
「それは俺を狩ろうということか?」
「……その通り。だが、戦うことは勧めぬ。……気分を悪くしないで欲しいのだが、奴らは今のお前を殺すに足る十分な力を持っているのだ」
彼はそれを聞いて不快に思う。森で生き、窮地に立ったことはなく、常に自由に生き続けた彼に障害が立ちはだかると言うのだから。
「それを信じろと? それにお前が言うその軍門に降ってどうだと言うのだ!」
彼はまたも怒りをあらわにする。自身よりも遥かに小さく、今にも飲み込んでしまえそうな矮小で儚きものに助けてやろうと言われいるのと同義だからだ。弱肉強食の世界で生きてきた彼には到底受け入れがたい話である。
しかし、その問いに対してソレは不敵な笑らい声とともに答え始める。
「……フフフ、何そう案ずるな。余の配下に成りし者は皆、『無窮の幸福』を得ることができる。そして余は貴様に『力』を与えることができる」
「ならば、軍門に降らずに前払いで俺に力を与えてみろ! そうすれば考えなくもない」
彼は未だ、にわかには信じきれていない。だが、ソレの言うことがすべて真実であるというのが頭で認めたくなくとも心で理解している。故に彼はソレの言葉に染まり始める。
「……すまないがそれは無理だ。それはどうしようもなく出来ないことなのだ」
「何故だ! それはお前が嘘をついているからではないのか!」
彼は分かっている。ソレが嘘をついていないことくらい。だがどうしても感情的な言葉が出てしまう。なぜならソレは未だ彼にとって不明でしかない存在だからだ。
そして彼のその言葉にソレは更に声の色を低くして答えた。
「……余はそのように狭量ではない。……これはひとえに世界の『規律』故なのだ。余達、生き物の全てはこの世界に存在する『規律』上ですべての事象は起きている。だからこそ、理外の存在でもない限り、その『規律』に従うほかない。……違うか?」
「……言っている意味はよく分からんが、直感で何を言いたいかは分かった。それで俺はどうしたらいい?」
その言葉を聞いたソレは怪しげに笑う。
「……フフフ、何簡単なことよ。……余の『手』を取るが良い。それだけで十分だ」
「手? お前に手があるようには見えないが……」
「……そうか、ならば余に触れてみよ。それが『手』だ」
そして彼はソレが言う通りに前足を伸ばして、黒い光に触れたのだった……。
◆
明朝。日当たりの良い朝と煌めく日光。目覚めたばかりの紅音達は背筋を伸ばしながら欠伸をかく。
彼女達はひとまずテントから出て朝日を拝む。
「ふぁああ……。もう朝か……おーい、起きれてるかー?」
「むにゃ、むにゃ……うん。起きてる……よ」
「未だ夢現ってところか……。ま、いいか。んじゃま今日は適当に時間を潰せれば先に進めるらしいからな。今日は休日といこうかねぇ」
討伐隊がキマイラを討伐するまでは暇であろうと思い、どう時間を潰すものかと考えようとしたその時だった、後方から大きな声が聞こえてくる。
「おーい! あんちゃん達ぃぃい! 起きてるなー?!」
ペネトレイトが何やら慌てた様子で来た。一体何かあったのだろうか。そう彼女は感じる。
「あ? なんだおっさ……いや、ペネトレイト。何か用か?」
「今おっさんて言いかけなかったか? まぁいいそんなことよりもだ。起きて早々悪いがちぃとばかし手伝って欲しい事があるんだ。……どうせ暇だろ?」
「どうせは余計だよ。……で、なんだよ手伝って欲しい事ってのは」
「いやな? なーんか今日討伐に向かう予定だったはずの連中の内二人がどっか行っちまってよ……。その穴埋めをお願いしたいんだ」
彼は彼女にキマイラ討伐に参加して欲しいと頼み込んでくる。まさかそういうことで頼られるとは思ってもいなかった彼女は驚き、それを拒絶する。
「はぁ? 何でだよ! アタシ別に戦えねぇぞ! それにグリルにもそういう事は任せらんねぇよ」
「いやいや、そうじゃねぇさ。端からDランクのあんちゃんを戦力として数えちゃいねぇよ」
「まぁなんだ、逃げた二人ってのは荷物持ちでな、俺とあんちゃんの二人で荷物持ちをしようってことさ」
「はぁ? ……他の冒険者でもいいだろそんなこと」
わざわざ自分を頼るようなことではないと彼女はそれを一蹴しようとするも、彼はそれをキッパリと否定する。
「いーや、そいつは違うね。荷物持ちがビビって逃げたっつうんだ、それなりに信用のおける人物じゃなきゃ任せらんないってわけよ!」
「……嬉しいんだか嬉しくないんだかって感じだな。その信用ってやつはよ」
少しは信用してくれているという事自体は良いことなのだが、こういう厄介事を押し付けられるともなると彼女としてはあまり理想的な出来事ではなかった。
彼はそれに笑って応える。
「ハハッ! 今回ばかりはくじ運が悪かったと思うしか無いな! それに俺だって駆り出されてんだ、あんちゃんだけじゃねぇよ」
「はいはい。……ちょっと待ってくれ」
「あいよ! いい返事を待ってるぜ! あの門の前で待ってるからよ! あとなるべく早くな!」
彼が去っていく中で彼女は考える。自分は一体どうすべきなのかを……。
(どうする? 断るか? いやそもそもこれは断れるものなのか? ライセンスのためとはいえ冒険者という組織に所属しているわけだ。所謂上司にあたる人物からの頼みを断れば今後に響くかもしれない。それに暗黙の了解ってやつで断ることは出来ないのかもしれない。それに直接戦闘をするわけじゃ無いにしても下手したら死ぬかもしれない。……死ななくても大怪我を負う可能性だってありえる。もしそんなことがあったら……)
(アタシとしても今は最低限の社会的信用が必要だ。あいつは気さくな奴だがアタシを庇ってくれるとは限らない。恐らく何かあっても起きた真実しか話さないだろうな)
思い悩む彼女の顔を見たグリルは心配そうに声をかける。
「……紅音?」
「ん? ああいや、何でも無いさグリル。……しっかしどうしたもんかねぇ」
自分で選択するには色んな材料で溢れすぎている。だから彼女は試しに聞いてみることにした。
「……なぁグリル。もしアタシがあのおっさん達の手伝いに行くとしたらどうする?」
「ついて行く!」
即答による回答に彼女は少し驚きながらもこうなることは目に見えていたと思い直し決断する。
「……ま、そうだよな。……あの時の約束もあるし、一緒に行くか」
「うん!」
「ただしロブスターは連れてくな」
えぇ……というグリルの落胆を挟みつつ彼女たちはペネトレイトがいる場所まで向かっていく。
そして待っていたと言わんばかりに仁王立ちで待ち構えていた彼が景気よく声をかけてくる。
「お! 来たな。それで、腹ぁ決まったか?」
「まぁな。……それとこの子も一緒に行かせてもいいか?」
「ん? ……別に構わねぇとは思うが、いいのかい?」
「ああ」
そう彼女の言葉を聞いた彼は少し目線を空へ向けて数秒考え込みながら応える。
「そうか……なら良いんだけどよ」
「んじゃま、出発前に打ち合わせがあるからな。……そろそろだな」
そう言われ見えた先で待っていたのは今回の討伐隊の人だかりであった。その面々の前に堂々と立っている一人の男性がハキハキとした喋り口調で話し始める。
「諸君! よくぞ集った。我々討伐隊は森から抜け出したキマイラの進行状況から予測し、あの森にいることが分かった。ここに居るものは皆、手柄や冒険者としての模範となる者たちによる兵の集であると固く信じている。人民の味方である我々はキマイラという魔物の脅威を取り払うことこそ、人々の安寧に直結する。諸君! 存分に励み給え! 以上、解散!」
「……え」
彼女は思わずそう小声で言ってしまう。なぜなら先程の人物は今回の討伐におけることで、何も大事なことは言っていなかったからだ。
(打ち合わせっつーか激励会じゃねぇかよ。なんだ? 人手不足とかなのか?)
要らぬ邪推を挟みつつも彼女は彼に聞いてみることにした。
「なぁペネトレイト。アタシらはどうしたらいいんだよ」
「んーとな、まぁ詳しく言ってなかったけどよ。この討伐隊ってのは主に二手に別れていてな、正規の奴等と俺たち冒険者っつー寄せ集めに別れていてな。正規はBランク冒険者が四人。俺たちはBランク冒険者一人とCランク冒険者が五人の構成だ。……討伐する奴らがな」
「なるほどな。んで、なんで別れんだ? 一緒に行動すんじゃねーのかよ」
彼女は疑問をぶつける。凶悪な巨獣を討伐するのに戦力を分散させるのは悪手ではないのかと。
その問いに対し、彼はバツが悪そうに答える。
「まぁ森の何処とは言ってなかったし、そこら辺の具体的な位置まではわからないんじゃねーの?」
「そうなのか? ……それってどーなんだ?」
そのように微妙に詰めの甘い位置情報や作戦に彼女は訝しむ。だがそもそもその程度の下準備で倒せれるほど雑作もない相手だというのならば何も問題は無いが、本当にそうなのだろうか……。
彼はもはや諦めたような口調で話す。
「ま、こんなもんよ。さて、今回のチームメンバーとの挨拶の時間だ」
その言葉を聞いて彼女はあることを思い出す。それはグリルに関する問題であった。
(……大丈夫かなぁ。グリルと初めて会った時、あいつ他人から外見でどうこう言われたって言ってたしな。……連れてくるべきじゃなかったかもな。いやでもこのおっさんは別にそこまで気にしてなかったよな? ……人によるだけか?)
そう彼女が心配していると今回討伐のために集まった冒険者たちが次々と最低限の自己紹介をしていく。
「皆集まりましたね。今回、チームのリーダーを担当する事になったBランク冒険者のワルグレイドです。分類は二級魔法剣士で、所属編成名は『光矢の救い』です」
人間種高人族であるワルグレイドはここにいる他の者と比べて装備している防具や剣の見た目がまるで違った。
勿論単に見た目が違うという意味ではない。雰囲気とも言うべきものであろうか、根本的にその性質が異なるのである。
「私はCランク冒険者のピニシアです。分類は三級神官で、所属編成名は同じく『光矢の救い』です」
人間種高人族であるピニシアという女性は白を基調とした肌の露出を極限にまで抑えたかのような服を着込んでいた。
彼女の服は恐らく教会で統一されている服装なのであろう。紅音はどこかで見た覚えがあったため、そう感じる。
「同じくCランクのデラルだ。分類は五級弓兵だ。所属は『火炎剛符』だ」
人間種森人族のデラルという女性は褐森人であるからか褐色肌でかなり筋肉質な肉体を保有していた。
「同じく、俺はドラケー・ダラル。分類は四級戦士だ。所属は彼女に同じく」
魔間種獣魔族であるドラケーは虎の獣人で黄色い毛が良くしなやかだ。獣人故の巨躯とその筋肉は戦士としてこの上ない活躍をしてきたに違いない。
「同じく、僕はテリフ。分類は四級探索者。所属は先の二人と同じです」
人間種小人族であるテリフは種族による性質故に他種族基準で子供のような外見だが、中身は歴とした大人である。
「同じく、儂はポートン・マコシム。分類は準二級風属性魔法行使者じゃ。無論儂も所属は彼らと同じじゃ」
人間種高人族であるポートンは齢六十三にもなる老齢だ。老齢と呼ぶには少々早いかもしれないが、この世界の高人族の平均寿命から考えれば十分老齢なのだ。
「荷物持ち代行で参加するペネトレイトだ」
「同じく手伝いに来た神閤紅音だ。それとこいつはアタシの妹のグリルだ」
「よ、よろしくお願いします」
グリルは緊張しながらも勇気を振り絞り挨拶する。
うねうねと動く口や飛び出た舌。その異様な肉体は人間種ではないことを明らかに指し示している。彼らは見たこともない種族である彼女を見て若干驚くも魔人族がこの世に存在するため、彼女もその類なのだろうと各々勝手に納得する。
さて、皆の挨拶が一通り終わったところでワルグレイドは話を切り出す。
「元々私はピニシアとのニ人編成しか経験が無いのですが……確かダラルさんとこは四人編成でしたっけ?」
「ああそうだ。俺達四人による編成だがそれがどうかしたのか?」
「ああいえ、ただ単純に私で本当に良いのかと思いまして」
「そう謙遜することはない。あなたはキマイラ討伐の経験があるのだろう? なれば経験者をリーダーに据えた方が良いと皆で相談した結果だ」
「そうですか……わかりました! それでは各個人の挨拶も終わったところですし、そろそろ出発しましょうか!」
彼らの会話を聞いていた紅音は不安を覚える。本当に大丈夫なのかと。
(完全にバラバラの寄せ集めじゃなさそうだが、どうにも不安が残るな……。土壇場で変なトラブルとかやめてくれよ? 本当によ……)
◆
キマイラ……いや、もはやキマイラですら無い何かが独り言を呟く。
「……溢れるぞ。力に溢れる」
「素晴らしい力だ。……やはり外の世界へ赴いてみるものだったな」
彼は感謝する。己の『選択』に、『出会い』に、『運命』に、『王』に……。
「これが俺の王による恩寵。寵愛というやつなのか……」
「ならば俺に向かってくる敵は皆、俺の王の敵でもある。俺の王のために俺は奴らを狩るッ!」
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*ここに記載されている情報は読者向けであり、本作品に登場するキャラクター達は一切見れません。
よろしければ、感想や応援等々よろしくお願いします。
ステータス
名前:???
世界異能:【式使怪】
降伏した魔物を使役可能。魔物と話すことができる。
配下の魔物同士で融合合体による強化が可能。
配下を一番に思い、配下でないものは無感情に近くなる。
配下の魔物は際限なく召喚できる。
魔物に襲われなくなる。配下の魔物は無窮の幸福を得られる。
種族:闇妖精
称号:王
魔法:闇属性
耐性:闇属性魔法耐性(小) 聖属性による脆弱性(大)
応援ありがとうございます!
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