わたしの理想の王子さま~婚約破棄騒動から始まる災難の日々~

増田みりん(旧みりんこ)

文字の大きさ
38 / 41
第3話 婚約者ができました?

ep.37 エリク

しおりを挟む

 予想通りに王太子はぼくたちを疑っているようだ。
 疑うのは当然だ。この国にもぼくの国にもない毒の解毒ができる侍女がいるなんて、まるで怪しめと言わんばかりだからね。

 疑われることなど承知の上だ。
 そのうえで、助けられるならあの倒れたご令嬢を助けるようにユーグに言ったのだし、むしろこの状況はぼくの望むところである。

 ……まあ、彼女を助けるように言ったのは、彼女が死んでしまったらリディが責任を感じてしまうのを危惧したからというのもあるけれど。
 リディはああ見えて責任感が強いのだ。目の前で「たすけて」と言った人を救えなかったら自分を責めるだろう。

「その毒の知識はいったいどこで?」

 にっこりと笑いながらユーグに問いかける王太子に対し、ユーグは困った顔をしてぼくを見る。
 
 ──王子サマ、なんとかしてよ。

 そう目で訴えかけるユーグに、仕方ないなと思う。
 ユーグならぼくなんかの力を借りなくてもなんとかなりそうだけど、彼の今の立場やこの状況、そして相手のことを考えればぼくが答えるのか一番いいだろう。

 隣にいるリディがうずうずとし出していることだし、彼らには早めにお帰りいただこう。

「ユゲットの師匠にあたる方は様々な国を訪ね歩き、薬学について学んだことがあるそうですよ。その方から教わった中に今回と似たような解毒剤があったということです」

 そうだろう、とユーグに問いかけると、ユーグは控えめに「はい、その通りでございます」と言う。

「へえ? それはぜひともその者に会い、薬の知識を深めたいものだ。そなたの師はどこに?」
「我が師はわたくしが幼い頃に亡くなりました。今回の解毒剤は、師が残した秘伝の書物の中に記されていたものです」
「……なるほど。では、いつかその書物を見せていただきたい」
「王太子殿下がお望みになるのであれば喜んで」

 涼しい顔をしてそう言ったユーグに、王太子は面白そうな顔をしてみる。

 ……やっぱりぼくの助けなんていらなかったんじゃないか。
 ぼくとしてもその秘伝の書物とやらが気になるところだけど、まあそれはいい。本当にあるものなのかどうかもわからないしね。

「これでぼくたちの疑いは晴れたでしょうか」

 そう問うたぼくに王太子は冷静な目をして「いや」と答えた。

「殿下」
「いいんだ、ヴィリー。エリク相手に取り繕っても時間の無駄だ」

 咎めるように呼んだ伯爵に王太子は首を振る。
 どうやら王太子はぼくのことをそれなりに評価してくれているようだ。

「君の想像通り、君たち──いや、リディアーヌ嬢に毒殺の疑いが向けられているのは事実だ」
「なっ……!」

 思わずと言うように声を出したリディを見ると、慌てて口を塞いだ。
 ……言ってからそれやってもまったく無意味だと、いつになったらリディは学ぶのだろう。

「君たちはかの令嬢が倒れたとき、一番近くにいた。彼女に毒を盛るタイミングがあったのも事実だろう」
「なるほど。では、ぼくたちは毒を盛った相手をわざわざ解毒した、ということになりますね。会場に危険を侵して毒を持ち込んで仕込み、毒が回ったのを確認して解毒する。なるほど、手の込んだ犯行だ」

 フッとバカにしたように笑ってみせたが、王太子の表情は変わらない。
 これくらいで心を乱すような人ではないとわかっていたけれど、面白くない。少しくらいリディのように動揺してくれたら可愛げがあるのに。

「解毒をすることで君たちの犯行ではないと思い込ませるのが策かもしれない」
「ぼくなら毒など使いませんね。それもあのような人目のある場所で、しかも自分の目の前で倒れるように使うことなどありえない。それに、王太子殿下の言うような策があっとして、あっさりと見破られているのだから、ずさんだとしか言いようがありませんし、それをすることになんの意味があるのでしょうか」

 キッパリとそう言うと、王太子はニヤリと笑った。

「奇遇だな、エリク。私も君とまったく同意見だ。だが、そういう考えの者が一定数いることは確かなのだ。だから君たちを国へ帰すわけにはいかない」

「……ずいぶんとはっきりおっしゃるのですね」

「言っただろう。君相手に取り繕っても時間の無駄だと。今は一分一秒たりとも時間を無駄にしたくない。……ああ、そうだ。ちなみに、君たち以外のゲストの方々には『我が国の令嬢がエリク殿下方の前で倒れたため、騒動になった』と説明してある」

 やはりそういう説明をしたか。
 まあ、自国で起きた不祥事を他国の者に知られるのは避けたいと考えるのが一般的だ。
 ぼくたち以外の他国から来た人たちはあの場にはいなかったし、きっとその説明で納得はするだろう。

「君たちには大人しくしてもらいたい。私は君たちが犯人ではないと信じているが、それを証明する材料を今は持ち合わせていない。質問することもあるかもしれないが、そのあたりは容赦願う」

「……エリク……」

 王太子の言葉にリディが小さくぼくの名を呼ぶ。
 本当に不安そうなリディに、大丈夫だと言う代わりにぼくは王太子に対して口を開く。

「嫌です」

 はっきりと言ったぼくに、王太子と伯爵、リディが目を見開く。
 そしてすぐにリディが慌てたように小声で「ちょっとエリク、なに言っているのよ」と窘めてきた。

「疑われたままただ待っているだけなど、性にあわない。ぼくたちが疑われているのなら、その疑いを晴らすために努力するのが当然でしょう。部屋に閉じこもって大人しくしているなんて、冗談じゃない」

 そう言い放ったぼくに、王太子は面白そうな顔をする。
 よく見るとユーグも似たような顔をしていた。きっと彼は本当に面白がっているのだろう。そういう性格だからね。

「……ほう。どうするつもりだ?」
「もちろん、ぼくたちで犯人を見つけるのです。ぐうの音も出ないほど、完璧な証拠を揃えてみせます」
「君たちを自由にさせるとでも?」
「もちろん、見張りの者は付けていただいて構いません。その方がそちらも安心でしょうし、なによりもぼくたちが潔白であることを証明することにも繋がるでしょう」

 そう言ったぼくに、王太子はニヤリと笑う。

「面白い。言いだろう、犯人探しなりなんなり好きにすればいい」

 ──おまえたちだけで見つけられるものなら見つけてみろ。

 そう言われている気がして嫌な気持ちなった。
 もちろん、そんなこと態度には微塵も出さないけれど。

「エリク殿下のお手並み拝見といこうか」

 不敵に笑う王太子に、本当に厄介な人物だと心から思う。敵に回すと面倒くさそうだ。
 もっとも、そうなる予定は今のところないけれど。

「受けて立ちましょう」

 そうはっきり宣言し、横にいるリディを見ると、顔を青くして口をパクパクしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...