わたしの理想の王子さま~婚約破棄騒動から始まる災難の日々~

増田みりん(旧みりんこ)

文字の大きさ
41 / 41
第3話 婚約者ができました?

ep.40

しおりを挟む

 事件現場に入ると、あのときの光景が頭に浮かんだ。
 助けてと言って倒れた彼女の意識は回復したのだろうか。早く目が覚めますようにと心の中で祈る。

 会場内は三日も経っているからか、すっかり片付けられて、あのときの賑わいが嘘のように静かだった。
 あんな事件が起こったのが夢のよう。だけど、僅かに残っている絨毯のしみが、あの事件が夢ではないことを告げている。

 エリクはわたしの傍を離れて辺りをウロウロとしている。まるでわたしの存在を忘れてしまったかのようだ。
 あんな事件が起こった場所に可憐な乙女を一人残すなんて、本当にどうかしている。エリクは紳士失格だわ、と心の中で文句を言いながら、心細いのでエリクのあとをついて歩く。

「ねえ、エリク。なにかわかった?」
「……」
「ねえ、エリク。……エリク、聞いている?」
「……うるさいから少し黙っていてくれる?」

 すごく冷めた目で見られて、鬱陶しくしている自覚のあったわたしは大人しく黙った。
 エリクのあとを大人しく歩きながらゆっくりと広い会場を歩き、一周したところでエリクの足が止まった。

「なるほど」

 そう呟いたエリクの顔はなにかを確信しているようだった。
 きっと犯人に繋がるなにかがわかったのだろう。
 期待に胸を膨らませて、わたしはもう一度エリクに尋ねた。

「なにかわかったの?」

 ああ、犯人が誰かわかったよリディ──そう答えが返ってくることを確信していたのに、エリクはこう言った。

「──いや? なにも」
「…………は?」

 なにも? なにもってことは……わからなかったってこと!?

「う、うそでしょ……あんなに確信に満ちて『そうか、あの人が犯人だったんだ……!』って閃いた顔をしていたのに……?」
「どんな顔なの、それ」

 呆れた顔をして言うエリクだけれど、わたしの方が呆れたい。
 あんなしたり顔で『なるほど』と呟いておいてなにもわからなかったなんて思えないもの。

「なにもわからなかったけど、
「わかったこと?」
「そう。たとえば……この会場の出入口は一つだけだとか、侵入できそうな場所がどこかとか、そういうこと」
「えっと……? そんなの、王太子様たちから教えてもらえるでしょ?」
「さっきも言ったでしょ。ただ聞くのと、実際に見るのでは違うって」

 確かに、そんなことを言っていた気がする……。

「とりあえず、満足したから戻ろう。あんまりぼくたちが城の中をうろうろしているのもよくないだろうし」

 エリクはそう言って、わたしたちから少し離れたところにいる騎士を見た。
 そういえば、見張りがいたのだった。きっと気配を消すのが上手なのだろう。決して、わたしがおバカなわけではない。

 彼はわたしたちの視線に気づくと会釈をする。
 エリクはそれを冷めた目で見たあと、なにごともなかったかのように歩き出す。

「ま、待って、エリク!」

 そう言って慌ててエリクの横に並ぶと、ほんの僅かにエリクの歩調が緩む。
 わたしの歩く速度に合わせてくれているのだろう。
 本当はエスコートしてくれるのがいいのだけれど、エリクなりの優しさだとわかるから、なにも言わないでいてあげる。

「……どこか行きたいところはある?」

 聞き逃しそうなくらいの声音で問いかけたエリクに、わたしはびっくりしてまじまじとエリクの顔を見る。
 少し気まずそうな顔をしたエリクに、わたしはにんまりと笑みを浮かべる。

「なぁに? いつもよりも優しいじゃない? 優しくしたってなにも出ないわよ?」
「そんなの期待してないから安心していいよ」

 即座に答えられてムッとする。
 だけど、きっと部屋から出られないわたしの気晴らしに付き合ってあげる気はあるのだろう。「それで、行きたいところは?」と再び問いかけてくる。

 行きたいところ、と急に言われても浮かばない。
 ここはわたしのよく知る場所でもないし、ましてや外国だ。初めて来た国の王城内のことなんて、よくわからない。

 でも、このまま部屋に戻るのは勿体ない気もして、なんとか行きたいところを絞り出す。

「ええっと……そうねぇ……うーん……」
「……特に行きたいところがないなら、無理に言わなくてもいいんだけど」
「むっ、無理じゃないもん!」
「なら、早く言いなよ」

 冷めた目で見られて、余計に焦る。
 なにか……なにかなかったかな……見て歩いて楽しめそうなところ……。

 ……あ。そうだ。そういえば……。

「……確か温室があるのよね?」
「ああ、そうみたいだね。ぼくも入ったことはないけれど」
「そこってわたしでも入れる?」
「大丈夫なんじゃないかな」

 エリクはちらりとわたしたちの後ろに控えている騎士を見た。
 それに騎士は頷く。

「はい、特に許可等は必要ありません」
「……だってさ。そこに行く?」
「うん!」
「では、ご案内いたします」

 騎士のあとに続いて温室へ向かう。
 温室の中ってなにがあるのかな? 見たことのないお花とかがあるのかしら。楽しみだな~!

 温室の前に着くと、騎士はどうぞと中へ促す。
 それに従って中に入ると、なぜか騎士は着いてこない。

「……ぼくたちのことを見ていなくていいの?」
「ここは入り口しか出入りできませんので」
「……なるほどね」

 そう言ってエリクが歩き出したので、わたしもそれに続く。

「ねえ、エリク。今のどういう意味?」
「つまり、入り口さえ見張っていればぼくたちが逃げ出す心配はないから、この中は別に見張る必要はないってことだよ」
「ふぅん、そうなの」

 別にどうでもいいけれど。
 だってわたしたち、疾しいことはなにもしていないもの。どこまでだって見張ってくれても全然構わない。

 温室の中は緑でいっぱいだった。
 見たことのない木もあったけれど、残念ながら花は少ない。あったとしても、わたしの思い描いていた派手な花ではなく、小さな可憐な花ばかりだ。

「今はお花の時期ではないのかしら」
「そうみたいだね」
「なんだ、つまらない……」
「そう? この辺りには生息していないものばかりでぼくは興味深いけど」
「ふぅん……」

 エリクってば、植物に興味があったのね。なんだか意外だ。

『あれぇ? 王子サマたちじゃん』

 そんな声がしたと思った瞬間、音もなくユーグが現れた。
 いつか見た黒い衣装に身を包み、わたしたちを見るとニコリと笑う。

「王子サマたちもココに目をつけたんだね。ボクでも調べるのに時間かかったのに」
「……なんの話?」

 首を傾げるわたしに、ユーグも首を傾げる。

「え? 王子サマたちもここで毒の受け渡しがあったんじゃないかって目星をつけてきたんじゃないの?」
「毒? そんなの知……ふぐっ」

 エリクに突然口を塞がれ、抗議の目を向ける。
 しかしそれをエリクは知らん顔し、ユーグとなにかアイコンタクトを取る。

 するとユーグがまた音もなく消え、エリクはなぜかわたしを連れて木陰に隠れた。

「エリク、どうしたの……?」
「しっ! 静かに。物音たてないで」

 いつになく真剣なエリクの声に、わたしはコクコクと頷く。
 身を潜めるために、エリクがぎゅっとわたしを抱きしめて、わたしはすっぽりとエリクの腕の中に収まっている。

 なにかあって、こんなことしているのだとわかっている。
 けれど、なぜか異様にドキドキと心臓が音を立てて、それが耳について余計にドキドキしてきた。

 これはこの状況に緊張してドキドキしているのだろうか?
 それとも……。

「……いようだな……」

 突然、知らない男の人の声がしてびくりと体が震えた。
 それに気づいたエリクが大丈夫だと言うように、腕の力を込める。

「……はい、今のところは」
「ふん、ならばよい。これで娘が公爵夫人だ。ところで、あれはまだあるのか?」
「あちらに」
「木を隠すには森の中と言うが……確かにここなら気づかれないな」

 なんの話をしているのだろう?
 なんとなく、悪巧みをしているような感じではあるけれど。

 会話をしていた人物たちは少しして立ち去り、わたしたちも木陰から出ると同時にユーグが現れる。

「……思いがけない情報をてにいれちゃったねぇ」

 楽しそうに言うユーグにエリクも笑う。
 すごく、悪そうな顔で。

「ああ、そうだね。これは想定よりも早く帰れそうだ」

 
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

lemon
2019.10.22 lemon

初めまして。
漫画のヒロインに転生した作品からのファンです。こちらでも新作が読めるようになって嬉しいです。
またまた国宝級に鈍感なヒロインですね(笑)
ヒーローが苦労しそう…。
続きも楽しみにしております。
頑張ってください。

2019.10.24 増田みりん(旧みりんこ)

lemonさま

初めまして!WEBに投稿し始めた頃から読んでいただいて嬉しいです(^o^)
ヒーローは性格が悪いので、これくらいの鈍感さでちょうどいいんじゃないかな、と私的には思っております(笑)
ありがとうございます!続きも頑張って更新していきます!

解除

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。