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第33話 採用面接再び⑤
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伊集院は面接室を退出した後、エントランスホールまで降りてきた時、皇女像の前で後ろ手に組んで立っている西園寺を見つけた。
「なんだ…てめえ…まだいたのかよ」
「かっての切磋琢磨した学友に冷たい言葉ですね」
「ふん、ほざきやがる。何か俺に用でもあるのか?」
「いや。ちょっと久しぶりのものですから…桜並木が綺麗ですよ。 歩きながら少し語り合いませんか」
「花なんてとっくに散ってるだろ。まったく…」
伊集院は渋い顔をしながらも、笑みを絶やさない西園寺と二人で夜の桜並木が並ぶエントランスロードを歩き出した。
花の無い桜はピンク色の光でライトアップされ、少し侘しげな風情がある。
「で、何だ?俺に話とは…」
「貴方が今回応募した理由を聞かせて下さい」
「そんなことを聞いてどうする?」
「ふふ…いえ…別に…ちょっと興味があるものですから」
「ふん!相変わらずの 詮索癖か…」
そう言って伊集院 は暫し黙したが、前に顔を向けたまま静かに語り出した。
「俺が大蔵省に入った時、戦前の礼和の財務状況を調べていて、皇女の資産状況についての未公開の資料を見つけたんだ」
「未公開?」
「ああ。皇女が亡くなった直後の記録だ。皇族の資産なんていうのは基本秘密だからな。」
「なるほど。それでどんな内容だったのですか?」
「――0――だった…」
「!…」
「皇女名義の預金残高はゼロだったんだよ…」
「そ、そんな…バカな…」
西園寺は息を飲んだ。
「俺は自分の目を疑ったよ。戦後はアメリアナの政策で皇族に対する資産の制限が厳しくなったが、それ迄は莫大な手当が皇家の家族一人一人に支給されていた筈なんだ。」
「その…皇女様の資産はどこに行ったのですか?」
「ああ…資産の使用状況も調べてみた。窮乏する国民の食費の調達、枯渇する軍の武器補充、先細りする臣下の給与に対する補填。それらに全て消費されていた」
「な…なんという…」
「俺はそれを知った時ちょっとグッと来ちまってな…その後記念館の募集情報を知った時…なぜか…体が勝手に動いちまったんだ…自分でも理由はわからねえ」
しばしの沈黙が二人を支配した。
そしておもむろに西園寺は切り出した。
「貴方もですか…」
「何だと!?」
「ええ…」
「一体…何があったんだ?」
「私は白鳳堂家の書類整理を行っていた時に一通の古い手紙を見つけましてね」
「手紙?」
「はい。高級な和紙に桜の御紋が押されてありました。私にはこれがただの手紙でないことはすぐに分かりました」
「…誰からの手紙だ?」
「それは皇女様から先代の白鳳堂家当主に宛てた物でした。日付からして皇女が進駐軍ビルに行く直前に発送されたものと思います」
「何が書かれてあった?」
「それは驚くべき内容でした。」
「もったいぶらずに早く!教えろ!」
「はい。まずアメリアナの戦後政策により礼和の財閥が解体される事が予見されていました」
「何!」
「しかしそれに対抗する具体策が書かれてあったのです。概ねそれはこんな内容でした」
伊集院は唾をごくりと飲み込んだ。
「《一つ目》は進駐軍に逆らわず持株会社を“素直に”解体する事でした。
白鳳堂本社(持株会社)を解散し傘下企業を独立会社として分離し、表向きはアメリアナの方針に完全協力せよと。
下手に対抗する事で、全面国有化や廃業の可能性がありうると記されています。
《二つ目》は「人」と「文化」を絶対に切らない事ようにと。
会社は分けても、人脈と価値観を守り、頭と心は同じにするべきと書かれていました。
《三つ目》は株式の分散を逆手に取る事。
創業家の株を、一旦従業員・取引先・系列企業に渡し、株をアメリアナ企業などによる敵対的買収が起きない構造にし、戦後支配が終結した時に再び統合すれば良いと」
言葉を失う伊集院。
「そして最後は、白鳳堂家の力は大きく、その企業体を何としても守り抜き 、戦後日本の復興に尽くして欲しいとの皇女様の願いで締めくくられていました」
人前でめったに泣くことがない伊集院の瞳に涙が光った。
「戦後の白鳳堂家の歩みは手紙に記された方策そのままです。おそらく先代は助言を忠実に実践されたのでしょう。そして…ふふ…私はこれを読んだ後はあなたと同じですよ。ただ一つ 困ったことが起きまして」
「なんだそれは?」
「瑠璃様がこの手紙を読んでしまわれた様なのです。この私としたことが…手紙を見て我を忘れ…保管をうっかりしていました。瑠璃様は感受性の強いお方ですから…これからが思いやられます」
「なる程…それで金髪王子が『和子様~!』な訳だな。しかし残念ながら今回の採用は俺が頂だくぜ」
「それはどうかと。算用はあなたが上かもしれませんが、わたくし諸事全般こなせますので…」
「け!」
「ふふ、」
笑い合う2人。
しかし桜の陰でその様子を伺っていた1人の王子様がつぶやいた。
「僕が…必ず…」
次回 採用結果が決まる。パイ・フ―大暴れ。
「なんだ…てめえ…まだいたのかよ」
「かっての切磋琢磨した学友に冷たい言葉ですね」
「ふん、ほざきやがる。何か俺に用でもあるのか?」
「いや。ちょっと久しぶりのものですから…桜並木が綺麗ですよ。 歩きながら少し語り合いませんか」
「花なんてとっくに散ってるだろ。まったく…」
伊集院は渋い顔をしながらも、笑みを絶やさない西園寺と二人で夜の桜並木が並ぶエントランスロードを歩き出した。
花の無い桜はピンク色の光でライトアップされ、少し侘しげな風情がある。
「で、何だ?俺に話とは…」
「貴方が今回応募した理由を聞かせて下さい」
「そんなことを聞いてどうする?」
「ふふ…いえ…別に…ちょっと興味があるものですから」
「ふん!相変わらずの 詮索癖か…」
そう言って伊集院 は暫し黙したが、前に顔を向けたまま静かに語り出した。
「俺が大蔵省に入った時、戦前の礼和の財務状況を調べていて、皇女の資産状況についての未公開の資料を見つけたんだ」
「未公開?」
「ああ。皇女が亡くなった直後の記録だ。皇族の資産なんていうのは基本秘密だからな。」
「なるほど。それでどんな内容だったのですか?」
「――0――だった…」
「!…」
「皇女名義の預金残高はゼロだったんだよ…」
「そ、そんな…バカな…」
西園寺は息を飲んだ。
「俺は自分の目を疑ったよ。戦後はアメリアナの政策で皇族に対する資産の制限が厳しくなったが、それ迄は莫大な手当が皇家の家族一人一人に支給されていた筈なんだ。」
「その…皇女様の資産はどこに行ったのですか?」
「ああ…資産の使用状況も調べてみた。窮乏する国民の食費の調達、枯渇する軍の武器補充、先細りする臣下の給与に対する補填。それらに全て消費されていた」
「な…なんという…」
「俺はそれを知った時ちょっとグッと来ちまってな…その後記念館の募集情報を知った時…なぜか…体が勝手に動いちまったんだ…自分でも理由はわからねえ」
しばしの沈黙が二人を支配した。
そしておもむろに西園寺は切り出した。
「貴方もですか…」
「何だと!?」
「ええ…」
「一体…何があったんだ?」
「私は白鳳堂家の書類整理を行っていた時に一通の古い手紙を見つけましてね」
「手紙?」
「はい。高級な和紙に桜の御紋が押されてありました。私にはこれがただの手紙でないことはすぐに分かりました」
「…誰からの手紙だ?」
「それは皇女様から先代の白鳳堂家当主に宛てた物でした。日付からして皇女が進駐軍ビルに行く直前に発送されたものと思います」
「何が書かれてあった?」
「それは驚くべき内容でした。」
「もったいぶらずに早く!教えろ!」
「はい。まずアメリアナの戦後政策により礼和の財閥が解体される事が予見されていました」
「何!」
「しかしそれに対抗する具体策が書かれてあったのです。概ねそれはこんな内容でした」
伊集院は唾をごくりと飲み込んだ。
「《一つ目》は進駐軍に逆らわず持株会社を“素直に”解体する事でした。
白鳳堂本社(持株会社)を解散し傘下企業を独立会社として分離し、表向きはアメリアナの方針に完全協力せよと。
下手に対抗する事で、全面国有化や廃業の可能性がありうると記されています。
《二つ目》は「人」と「文化」を絶対に切らない事ようにと。
会社は分けても、人脈と価値観を守り、頭と心は同じにするべきと書かれていました。
《三つ目》は株式の分散を逆手に取る事。
創業家の株を、一旦従業員・取引先・系列企業に渡し、株をアメリアナ企業などによる敵対的買収が起きない構造にし、戦後支配が終結した時に再び統合すれば良いと」
言葉を失う伊集院。
「そして最後は、白鳳堂家の力は大きく、その企業体を何としても守り抜き 、戦後日本の復興に尽くして欲しいとの皇女様の願いで締めくくられていました」
人前でめったに泣くことがない伊集院の瞳に涙が光った。
「戦後の白鳳堂家の歩みは手紙に記された方策そのままです。おそらく先代は助言を忠実に実践されたのでしょう。そして…ふふ…私はこれを読んだ後はあなたと同じですよ。ただ一つ 困ったことが起きまして」
「なんだそれは?」
「瑠璃様がこの手紙を読んでしまわれた様なのです。この私としたことが…手紙を見て我を忘れ…保管をうっかりしていました。瑠璃様は感受性の強いお方ですから…これからが思いやられます」
「なる程…それで金髪王子が『和子様~!』な訳だな。しかし残念ながら今回の採用は俺が頂だくぜ」
「それはどうかと。算用はあなたが上かもしれませんが、わたくし諸事全般こなせますので…」
「け!」
「ふふ、」
笑い合う2人。
しかし桜の陰でその様子を伺っていた1人の王子様がつぶやいた。
「僕が…必ず…」
次回 採用結果が決まる。パイ・フ―大暴れ。
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