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第二章
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先ほどの部屋よりも薄暗い室内。光源といえるものは、茸のような形状のものが薄黄緑に光っているものがあちこちに散在しているのと、天面を削がれて平らになった中央の大石の上にある球体の中が僅かな明滅を繰り返しながら光っているものだけだ。その光源だけでは部屋の隅まで明かりは届かず、様子は伺えない。それでも、露珠はその部屋の中に複数の妖の気配を感じた。
「待たせてごめんねー?先に角の処理をしちゃいたくてさ。朱華、ありがとう。疲れたでしょ、休んでていいよ」
棠棣の言葉に小さく頷いて、朱華は踵を返す。出て行く直前にちらっと露珠を見るが、結局何も言わずに部屋を出た。残された露珠は正面から棠棣を見つめる。
「棠棣。私に一体なんの用なの」
それに、角の処理とは。聞きたいことが多すぎるが、まずは相手が会話する気があるのかを確認する。
「銀露への用事なんて、そんなに多様性ないと思うけど?」
鼻で笑うように答える棠棣に、対等に話をする気がなさそうなのを感じた露珠は変化を解く。本来の姿をとった露珠は、目を青色に染めて妖気を放出させた。棠棣と同じくらいの大きさになった露珠は、そのまま棠棣に飛び掛る。変化を解かないままの棠棣を大きく上回る妖気は、白狐の牙が棠棣に喰らいつくよりも先に、棠棣の身体に損傷を与える。
不快気に眉をひそめた棠棣が一歩下がり、露珠の背後に向けて呼びかける。
「こいつを捕らえろ!」
露珠が反応する先に、背後から伸びてきた黒い触手に白狐の身体が拘束される。本体と思しき黒い靄に胴体と四足を縫いとめられるように拘束される。
「そういうところだよ、妖狐。鬼には抗わないくせに、僕には勝てると、そう思ったってわけ」
露珠の妖気で傷を負った腕をさすりながら、棠棣が拘束した露珠に近づく。
拘束を解こうと身体を動かそうとする露珠に、黒い靄はしっかりと絡みついてそれを許さない。黒い靄はふわふわとしているようなのに、触れたところがじっとりと湿っていくようで気持ちが悪い。大きさの違いで隙間ができるか、ともう一度人型を取ってみるが、拘束は緩まる様子もない。
「実際そうかもしれないけど。でもね、ここにいる妖は僕が作ったもので、もとは――鬼だよ」
はっと、露珠が周りいる何体もの妖を見回す。目が慣れてきたことで入ってきた時よりも広範囲が見える。自分を拘束している黒い靄、棠棣の背後にいる肌の赤い獣の妖、ほかにも、様々な形の見知らぬ妖が部屋中にいる。
見た目は異なるこれらの妖、これらが全て、もとは鬼だというのか。
「君を拘束しているそれは、鬼の髪。赤いこれは鬼の角。強さは込められた妖気に準ずるから、髪だと弱いけど……それでも、妖狐程度の動きを止めるのには十分だよね」
にやり、と笑う棠棣は後ろの赤い妖を示す。
「さすがに、角から作った妖は強いよ。鬼の角なんて滅多に手に入らないから数は作れないけれど。そうそう、君がその懐に持っていた角。それを使って作った妖に君の血を与えたら、凍牙ともいい勝負になるんじゃないかな?」
もう一度露珠に向き直った棠棣が、露珠の着物の胸元を押す。
「場合によっては、凍牙を倒せると踏んでるんだよね、僕は」
胸元を指したまま、棠棣が、露珠を睨み上げる。
瞳の青色を深めた露珠が、妖術をかけようとするが、触手が露珠の首を絞める。
「――っう」
「意外と好戦的だね、君。朱華の話だと、おとなしく捕らわれの姫君をしてくれそうだと思ったんだけど」
露珠の首を絞める触手をとんとん、と棠棣が叩くと、その意を汲んだように拘束が緩まる。
「凍牙を倒す、っていう発言が、気に入らなかった?」
露珠の殺気を何とも思っていないことを示すように、棠棣は背を向けてゆっくりと周りを歩く。
「凍牙が大事すぎて怒っちゃったのかな?でも、そんな大事な凍牙サマに角を折らせるっていうのは……ねえ、知ってる?鬼はね、角を折ると寿命が縮むんだよ。放出した妖気は回復しても、その力全てが元通り、ってわけじゃない」
「どういうこと」
ずっと反抗的だった露珠が、抵抗を止めて会話をしてきたことに、棠棣は満足そうに笑みを深める。
「晃牙の死は、一般的な鬼の寿命から考えてあまりに早かった。他の鬼との戦いで命を落とすならともかく、あの死に方は寿命が来た鬼そのものだった。子どもを二人成しているからある程度短いだろうとは思っていたけど、それにしても短かった。それで、他に何の要因が、と思ったら」
「待って、子どもを二人って、それと寿命に関係があるの」
「あるよ。子を成した鬼は寿命が早まりがちなのは、一部ではなんとなく知られていることだ。晃牙は二人も子を成していて、それだけでもかなり寿命を短くしていたはずだ。その上角を折ったことで、更に寿命を短くしたんだよ。角を折ることと子を成すことは、鬼にとって同程度に危険なことみたいだね」
鬼に関する思わぬ情報に、露珠が青ざめる。
「あれ?結構動揺しちゃってる?」その様子を見て、更に楽しそうに棠棣が続ける。「でもほら、愛しの旦那サマに子どもを強請って、寿命を縮めることにならなくてよかったでしょ?角一つで気がつけてよかったじゃない」
「待たせてごめんねー?先に角の処理をしちゃいたくてさ。朱華、ありがとう。疲れたでしょ、休んでていいよ」
棠棣の言葉に小さく頷いて、朱華は踵を返す。出て行く直前にちらっと露珠を見るが、結局何も言わずに部屋を出た。残された露珠は正面から棠棣を見つめる。
「棠棣。私に一体なんの用なの」
それに、角の処理とは。聞きたいことが多すぎるが、まずは相手が会話する気があるのかを確認する。
「銀露への用事なんて、そんなに多様性ないと思うけど?」
鼻で笑うように答える棠棣に、対等に話をする気がなさそうなのを感じた露珠は変化を解く。本来の姿をとった露珠は、目を青色に染めて妖気を放出させた。棠棣と同じくらいの大きさになった露珠は、そのまま棠棣に飛び掛る。変化を解かないままの棠棣を大きく上回る妖気は、白狐の牙が棠棣に喰らいつくよりも先に、棠棣の身体に損傷を与える。
不快気に眉をひそめた棠棣が一歩下がり、露珠の背後に向けて呼びかける。
「こいつを捕らえろ!」
露珠が反応する先に、背後から伸びてきた黒い触手に白狐の身体が拘束される。本体と思しき黒い靄に胴体と四足を縫いとめられるように拘束される。
「そういうところだよ、妖狐。鬼には抗わないくせに、僕には勝てると、そう思ったってわけ」
露珠の妖気で傷を負った腕をさすりながら、棠棣が拘束した露珠に近づく。
拘束を解こうと身体を動かそうとする露珠に、黒い靄はしっかりと絡みついてそれを許さない。黒い靄はふわふわとしているようなのに、触れたところがじっとりと湿っていくようで気持ちが悪い。大きさの違いで隙間ができるか、ともう一度人型を取ってみるが、拘束は緩まる様子もない。
「実際そうかもしれないけど。でもね、ここにいる妖は僕が作ったもので、もとは――鬼だよ」
はっと、露珠が周りいる何体もの妖を見回す。目が慣れてきたことで入ってきた時よりも広範囲が見える。自分を拘束している黒い靄、棠棣の背後にいる肌の赤い獣の妖、ほかにも、様々な形の見知らぬ妖が部屋中にいる。
見た目は異なるこれらの妖、これらが全て、もとは鬼だというのか。
「君を拘束しているそれは、鬼の髪。赤いこれは鬼の角。強さは込められた妖気に準ずるから、髪だと弱いけど……それでも、妖狐程度の動きを止めるのには十分だよね」
にやり、と笑う棠棣は後ろの赤い妖を示す。
「さすがに、角から作った妖は強いよ。鬼の角なんて滅多に手に入らないから数は作れないけれど。そうそう、君がその懐に持っていた角。それを使って作った妖に君の血を与えたら、凍牙ともいい勝負になるんじゃないかな?」
もう一度露珠に向き直った棠棣が、露珠の着物の胸元を押す。
「場合によっては、凍牙を倒せると踏んでるんだよね、僕は」
胸元を指したまま、棠棣が、露珠を睨み上げる。
瞳の青色を深めた露珠が、妖術をかけようとするが、触手が露珠の首を絞める。
「――っう」
「意外と好戦的だね、君。朱華の話だと、おとなしく捕らわれの姫君をしてくれそうだと思ったんだけど」
露珠の首を絞める触手をとんとん、と棠棣が叩くと、その意を汲んだように拘束が緩まる。
「凍牙を倒す、っていう発言が、気に入らなかった?」
露珠の殺気を何とも思っていないことを示すように、棠棣は背を向けてゆっくりと周りを歩く。
「凍牙が大事すぎて怒っちゃったのかな?でも、そんな大事な凍牙サマに角を折らせるっていうのは……ねえ、知ってる?鬼はね、角を折ると寿命が縮むんだよ。放出した妖気は回復しても、その力全てが元通り、ってわけじゃない」
「どういうこと」
ずっと反抗的だった露珠が、抵抗を止めて会話をしてきたことに、棠棣は満足そうに笑みを深める。
「晃牙の死は、一般的な鬼の寿命から考えてあまりに早かった。他の鬼との戦いで命を落とすならともかく、あの死に方は寿命が来た鬼そのものだった。子どもを二人成しているからある程度短いだろうとは思っていたけど、それにしても短かった。それで、他に何の要因が、と思ったら」
「待って、子どもを二人って、それと寿命に関係があるの」
「あるよ。子を成した鬼は寿命が早まりがちなのは、一部ではなんとなく知られていることだ。晃牙は二人も子を成していて、それだけでもかなり寿命を短くしていたはずだ。その上角を折ったことで、更に寿命を短くしたんだよ。角を折ることと子を成すことは、鬼にとって同程度に危険なことみたいだね」
鬼に関する思わぬ情報に、露珠が青ざめる。
「あれ?結構動揺しちゃってる?」その様子を見て、更に楽しそうに棠棣が続ける。「でもほら、愛しの旦那サマに子どもを強請って、寿命を縮めることにならなくてよかったでしょ?角一つで気がつけてよかったじゃない」
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