初恋の人と結婚したけど夫は私を妹としかみていない~~喧嘩して家出したら敵国の捕虜になりました~~

藤花

文字の大きさ
24 / 45

24.ライブ(3)

しおりを挟む
 観客が順番に退場する間も、ぼうっと椅子に座ったままのシルヴィアにアッシュが声をかける。

 「アンジェ、そろそろ動ける?楽屋に行こうと思うんだけど」
 「あ、はいっ」

 隣のアッシュの存在を今思い出した、というようなシルヴィアに、アッシュが苦笑する。

 「気に入ってくれた?共和国うちのライブ」
 
 わざと、少し得意げな風に胸を張ってみせるアッシュに、シルヴィアが素で答える。

 「はい!ライブも、ミリィさんも、とても素晴らしかったです」

 手放しで絶賛されて、改めて敵対国の民とは思えない、とアッシュがシルヴィアを見つめる。そんなアッシュには気がつかず、シルヴィアが興奮のまま言葉を続ける。
 
 「ミリィさんの恋のお相手ってどなたなんでしょう。あんなに熱烈な恋心を歌われるなんて、どのような気持ちかしら」

 アッシュの口元が僅かに引き攣る。

 「いや、確かに彼女が作詞と作曲をしてるけど、恋の曲を作っているだけで、彼女自身の恋の歌と言うわけでは……」
 「あ、そう、そうですよね。ご自身で作っていらっしゃるって聞いていたのと、あまりにも想いがこもっている様子だったから勘違いしてしまって。感情を込めて歌うなんて、プロの方ですもの、当然ですよね」

 思い込みを恥じてシルヴィアが視線を落とす。

 「ちなみに、ミリィは共和国の若者の中で、結婚したい女性No.1なんだよ」
 「結婚したい?歌手と?」
 
 ぱっと顔を上げたシルヴィアの驚き方が思いのほか大きかったので、逆にアッシュがびっくりして立ち止まる。
 
 「え、そんなに意外だった?女の子にも人気の歌手なんだけど……」
 「あ、いえ、そういうことではなく……。帝国では、歌手や踊り子はどんなに技量や人気があっても地位が低くて、正妻という立場にはなれることはほとんどありません。特に共和国こちらは帝国のように一夫多妻制ではないと聞いておりましたので、結婚したい女性として歌手の名前が挙がるというのに驚いてしまいました」
 「あ~……なるほど」
 
 知識としては知っていても、実際に当事者から聞く帝国の社会制度はアッシュにとって興味深かったが、淡々と話しているシルヴィアの目が少し悲しげに見えて、知識欲よりも目の前の少女を慰めることを選ぶ。

 「アンジェは、歌は好き?」

 少しの逡巡の後、シルヴィアは頷く。

 「楽器を弾くことは嗜みとして許されているけど、子守唄や教会で歌うこと以外ははしたない、って怒られます。ミリィさんみたいに、自分の気持ちを歌にするのはとても気持ち良さそうで、羨ましい」
 「好きなだけ歌えばいいよ。ここでは誰もそれを咎めない。家にはピアノもあるし、恥ずかしかったら僕は一番遠い部屋にいるから」

 アッシュを見上げて数回瞬きをしたシルヴィアは、笑顔になりそうなのを堪えるように顔を引き締めると「本当に?」と問う。もちろん、とアッシュが応じると、ぱっと顔を輝かせた。
 
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

処理中です...