初恋の人と結婚したけど夫は私を妹としかみていない~~喧嘩して家出したら敵国の捕虜になりました~~

藤花

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38.軍事機密(1)

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 ミリィがクロフォード邸を訪れた翌日から、シルヴィアは積極的に動くようになった。今まではフリッツやアッシュに言われるままの生活だったところから一転、行ってみたいところやしてみたいことの要望をよく言うようになった。
 警備や機密の関係で叶えられないことも多かったが、シルヴィアはそれを当然のこととして受け止めているし、要望を口にするようになった彼女をフリッツは良い傾向として微笑ましく見ている。

 二人で作った曲のヒット祝い、と称してクロフォード家で行われたささやかな祝宴では、アマリアの見立てで――ミリィでは過激すぎた――、シルヴィアは共和国スタイルのスカートを履いて見せたほど、変化は顕著だった。

 ここ数日のシルヴィアの様子を見て、フリッツは彼女がなにか吹っ切れたようだと察していた。行動を見るに、共和国での経験や知識を積極的に帝国に持ち帰ろうとしているようだ。今までよりも提督府での機密事項の扱いには気をつけたほうがいいな、と思いつつ、逆にこれを利用してみようか、とも考える。少なくとも、今のところ彼女と自分の利害は一致しているはずだ。多少彼女の身を危険にさらすことにはなるが、ある程度は自分がコントロールできるだろう。そして、そうでない部分のリスクは――今更だ。


 「フリッツ様、ここは」

 提督府で昼食を摂った後、ちょっと出かけようか、とフリッツに連れてこられた場所で、シルヴィアは慄いた。
 動揺したのか、呼び方が元に戻っているシルヴィアに、フリッツが苦笑する。

 「そんなに緊張しないで。大丈夫だよ」
 「いえ、大丈夫……ではないと。これ、これは」
 「大丈夫じゃないものは、見せないよ。それにほら、これの動力は魔力だし、ここに居る研究員の多くは元帝国民だ」

 目の前の機体を見つめて、色々な意味で顔色を悪くしているシルヴィアに優しく声をかけ続けるが、その内容は全くシルヴィアを安心させない。

 「それ、は、亡命者、ということですよね?それに、開発中のものは動力がどうあれ立派な軍事機密では」
 「アンジェ、君は帝国で軍事機密を知る立場になかっただろう?このくらいのものは、帝国も共和国も同じような知識と技術を持っているよ」

 後半は嘘だが、シルヴィアがそれを見抜けるはずもない。想定を超えた怯えっぷりに、なんとか落ち着かせようとひねり出した方便だ。

 見せられたものにうろたえてしまったが、フリッツが良いというなら、真偽はともかくそれを信じるしかない。あえて軍事機密を見せてシルヴィアを帰国できなくするような方法をとらずとも、フリッツはそれを達成できる立場にある。
 前面に現しっぱなしだった動揺をなんとか抑えて、シルヴィアは目の前の機体を観察する。それは、少なくともシルヴィアの知る範囲では帝国にはない――飛行機だった。
 
 航空機、という範囲であれば、飛行船などは帝国、共和国ともにある程度の実用化がなされているが、高度とコントロールの精度に問題があり、帝国と共和国間での軍事行動に使われることは滅多にない。山脈を越えられない以上、艦隊のレーダーと攻撃を避ける必要があるが、そこまでの機動性はないのだ。
 
 シルヴィアの目の前にある飛行機は、それらの航空機とは明らかに見た目が違う。気球や飛行船などとは似てもつかない、むしろ鳥に似たフォルムで、素材は艦船のそれに近い。知識を持たないシルヴィアにも、それが航空戦力であることが見て取れる。
 そして実際、帝国民が初めて見る戦闘機だった。

 これが量産・実用化されたら、戦局は大きく変わる。帝都を直接攻撃される可能性さえ――。

 冷静になればなるほど、不穏な未来が想像されて、シルヴィアの顔色はもっと青くなる。

 「実用化にはまだ遠い。動力を魔力に頼ることで軽量化しているが、それでもまだ足りない。魔力で成功できたら、今度は魔力を使わない形で量産化したいんだけど、そう上手くはいかなくてね。魔力を使う以上、やはり元帝国民の力を借りるのが手っ取り早い――というので、帝国の亡命貴族を集めてここで研究しているってわけ」

 フリッツが軽い口調でシルヴィアに説明する。

 「ヴォルフ、彼女に少し説明してくれるか」
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