上 下
2 / 2

水道場の距離の秘密 前編

しおりを挟む

第2話 水道場の距離の秘密 前編

ー私は、ある秘密を知っている。



正直、私はかわいい方だと思う。

モテるし。別に、勉強とか、運動とかが飛び抜けてできるわけでも、この学校一の美女とかってわけでもないけど、誰にでも同じ態度で、いつも明るくてかわいい。そりゃあモテないわけないとか、常々思っている。

私が好きになった人は、大体私のことを好きになってくれるし。

そう、こいつ以外は。

「あっ。はよ。」

「ん~?何ですか?その挨拶は。おはようございます琴音様でしょう?」

「はいはい。おはようございます琴音~(棒)」

「様!」

「琴音様~(棒)w」

こいつはいつもこんな感じ。

私が好きになったって、こいつは気づくはずもなく、なんていうか、鈍感?いや、バカ?まあ、それはないか。こいつが、頭がいいってことはみんな知ってるし。

すんごいイケメンってわけでも、一軍ってわけでもないけど、(まあうちは一軍だけど)勉強も運動も普通にできるし、ブスでもないから、まあまあモテる方だと思う。こいつは。(まあ、私ほどじゃないけど。)

「ああ。なんだ琴音かよ。」

私はもう一度、席替えのくじの、2という番号を見る。すると、こいつは1のくじを見せながら、

「よろしくな、琴音。」

そうつぶやく。

…よーっしゃー!!!

私は、喜びがバレないように、机の下で、こっそりガッツポーズする。

「なんだー。竹田かよ。まあ、よろしく。」



「琴音、竹田と隣なんだ。いーな。」

水道場で、友達の明美に話しかけられる。

「えー、別に全然よくないでしょ。」

そう、私は秘密を知っている。

水道場の、秘密を。

この、7つ並んだ水道。この7つある中で、例えば1人、人がいたとする。

そんな時、その人が仲の良い人だったら隣に

行き、あまり話したことのない人だったら、離れたところに行く。そう、水道場の距離は、人との距離なのだ。

ただ、私は気づいてしまった。竹田は、こいつはいつも、誰の隣にも行かないことを。

「何見てんだよ。w」

こいつは、友達がいないってわけではないし、むしろ友達は多い方だと思う。でも、こいつにとっては、そいつらとも、心のどこかで、距離を感じてるのかもしれない。

「…あんた、友達いる?」

「はぁ?何だよ急に。バカかよ。」

むっ。何だよ。せっかく私が心配してやったのに。

「ふんっ。もう心配なんてしてあげないからな。」

「は?なんだよそれwお前今日大丈夫か?」

「さいってー!」

そうやって、私はいつものようにこいつと、話す。何も変わらず。

でも、こいつにとっては、この時間も私も、どうでもいいのかもしれない。私にも、心のどこかで、距離を感じてるのかもしれない。だとしたら、私はこいつにつらい思いをさせているのかもしれない。

「…あんたさ、つらいと思ったら、つらいって言ってもいんだかんね。」

「はぁ?何それ。今日ほんと、お前w…」

ちょっとむかついた。でも、こいつの、ちょっと困ったような顔を見たら、やっぱり、こいつを助けたいって思ってしまったんだ。

「…だからさ、別に無理なんてしなくたってさ、だから、…私もいるんだし、話くらい…聞くし。」

「バーカ。別に無理なんてしてねぇよ。」

ほんっと!こいつは…

「…でも、ありがとな。」



「っ…あんたこそ。バーカっ!」

照れ隠しに、私は意地悪っぽく言ってみた。

「お。じゃあ、テストで勝負するか?俺バカだし。」

「…あんた、分かって言ってんでしょ。」

私はあきれたようにそう言う。

「ふっ。やっぱお前、いい性格してんな。」

あははっ。と笑う君の笑顔は、まぶしかった。

「そ。私は性格いいからね。」

「や、性格がいいんじゃなくて、いい性格なんだよ。」

「何それ。」

この時私はまだ、知らなかった。

水道場の距離の秘密を知っている私も、知らなかった彼の秘密をー

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...