シカノスケ

ZERO

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仇敵との同盟

山名の次期後継者

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小次郎達は今日中に山名祐豊に面会するため、馬を休ませること無く山道を駆けていく。



この山道は毛利の支配する出雲と山名領の境目だ。

敵国との境目ということは、ここが出雲方面の対毛利の最前線ということである。

その為、この辺りには山名の支城が沢山あり、兵も多い。



ちなみに毛利は未だに出雲を完全に平定できていない為、対山名の最前線の城に沢山の兵を置けていない。




しかし、普通の町よりは兵が多いのは確かだ。


毛利の兵に怪しまれないように山名領に行かないといけないのだ。



とはいえ小次郎達は端から見たら侍には見えない。


小次郎の顔は兵という感じがしない。どちらかと言うと商人の様な雰囲気の顔だ。


それに秀綱や宗信達も女の子だ。刀を隠しておけば怪しまれない。



ただ1つ怪しまれる点は馬の乗りこなしが商人や普通の女の子にしては上手すぎるところだけだ。



小次郎達は今、馬を全力で走らせている。

馬を全力で走らすのは相当馬術の腕に自信がないと出来ない。



馬を全力走らせるということは、その分手綱で馬を上手く操らないと振り落とされてしまう。


落馬は命に関わる事故である。


鎌倉幕府を作った源頼朝は落馬が原因で死亡したと言われている。


それほど落馬は重大な事故なのだ。




その落馬を恐れる事なく手綱で馬を上手く操っている女の子二人を見たら普通は怪しむ。



何とか、この姿を毛利の兵に見られないようにさっさと山名領に行きたいものだ。




しかし、どうやらそれは無理なようだ。



小次郎と宗信が乗っていた馬が急に走るのを止めて、ノロノロと歩き出した。


「お、おい!こいつ走るのを止めたぞ。」

小次郎は慌てて馬から降りて馬の容態を見てみた。

馬は酷く疲れている様子だ。


恐らく小次郎と宗信の二人を乗せて猛スピードで走ったから疲れたのである。



「無理もありません。私達二人を乗せて走ってくれたんですから。ここからは歩いて行きましょう。」

宗信は馬から降りて水を馬に飲ませる。


宗信と小次郎はさっきまで喧嘩をしていたがいつの間にか宗信の怒りは鎮まったようだ。



「おい。出来るだけ早く行くぞ。毛利の兵の中に私達の顔を知っている奴がいるかも知れないぞ。」


秀綱はずいぶん先へ行っていた筈なのにわざわざ戻って来て言う。




秀綱がそんなに急かす理由とは、秀綱と宗信の顔は毛利に知られているのである。






山中鹿之助、立原久綱、横道秀綱、秋上宗信の四人は毛利方からは有名人である。



山中鹿之助は品川大膳を一騎討ちで討ち取るなど、その圧倒的な武勇から山陰の麒麟児と言われている。

中国地方では知らない者はいないと言われているほどである。


品川大膳との一騎討ちは毛利方の兵も尼子方の兵も見届けていた為、顔は毛利方の兵に見られている。







知勇兼備の将と言われていた立原久綱は月山富田城で尼子家が滅亡した際に、毛利方から仕官の誘いがあったがこれを断った。

その為、立原久綱も毛利に顔が知られている。




秋上宗信は月山富田城落城の際に捕らわれていたが宗信は社家なのを理由に解放された。



また宗信は鹿之助が品川大膳と一騎討ちした際に、大膳が弓を持ち出したことに非難し弓弦を射切るという妙技を見せたという記録も有り、宗信もほぼ間違いなく毛利方の兵に顔を知られている。

「出来るだけ急げと言われてもなぁ…。馬が早く歩かねぇんだよ。」


小次郎は急かされて焦っているのか少しイライラしている。


こんな感じで山名領が目の前にあるのにタラタラと歩いて行っていると馬に乗っている若い男が供を率いてやって来た。



男は小次郎達に気付き話し掛けてくる。

「おや?あなた達はこの前、尼子勝久の外交使者で来た小次郎殿と宗信殿ではないか。」


小次郎達は男の顔を見る。

しかし、小次郎と宗信は誰だか覚えていないようだ。



若い男は自分の事を覚えていないと察した。

「僕は山名豊国です。この前、叔父上の隣に座ってましたよ。」


小次郎と宗信それを聞いてやっと思い出した。


確か山名家の次期後継者だ。



豊国は再び小次郎達3人を見て言う。

「ところであなた達は毛利領と山名領の境目で何をしているんです?こんなところにいたら毛利に怪しまれますよ。」


小次郎達はここに来た理由を言う。


外なので全部は言えれないが、山名祐豊に会いに来たと簡単に言った。


だが、豊国は申し訳ない顔でいう。


「すまないが今、叔父上は体調を崩していて面会が出来ないのだ。私で良かったら話を聞きますよ?」

豊国は優しい顔でニコニコと笑い言う。


これが山名の次期後継者である。

優しい顔で相手の緊張を緩め、ニコニコした顔で相手を落ち着かせる。


これは外交などでは重要なスキルである。



「じゃあ豊国殿に聞いてもらいたい話がある。だが、その前にどこかの寺に場所を移したい。」

初対面にも関わらず秀綱は堂々と言う。


しかも話す場所を寺に指定した。


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