12 / 38
【10時間目】魔王様、説得のお時間です‼︎
しおりを挟む「は、はぁ!?実は躑躅森は異世界の魔王で強力な魔法を持ってたけど何者かに奪われて、その力がなぜか私たちに四散しちゃって、それを取り戻す為に私たちと仲良くならなければならない!?そんなの信じられる訳ないでしょ!バカなの!?」
説明乙、と言いたいところだが水原さん、残念ながら事実なんだよね。正味僕もちょっと設定がテキトーすぎるとは思うけど完全ギャグラブコメディ(笑)だからしょうがないよね。
「ふっふっふ!水原 さくら子よ!心中お察しするぞ!私も神託を受けた勇者だと知るまでは自分の事はただの凡夫だと疑いもしなかったからな!」
「そういえばこの子には拉t…連れてきた時に私たちの目的を教えてなかったですよね」と聖良が耳打ちをしてくる。
確かに。そういえば種田さんには全くもって説明はしてなかった。そもそも麻袋に詰められたところで何かあると疑うものだが……とてもこの先は言えそうにない。
「種田 冬火は友達が居なかった訳ですから私の拉致誘拐も新手の友達の作り方だと思ったのでしょうね」
「言うなって!それ以上言うなって!また泣いちゃったら絵面完全にアウトになるんだから!てか今拉致って言っちゃったよね!?しかもご丁寧に誘拐まで補足されてますしね!?」
「ツッコミのキレが戻ってきたわね……それはさておき種田さん、あなた神託を受けた勇者やらなんやらなら魔法の一つぐらい見せてみなさいよ」
あんなにイキイキしていた種田さんが黙る。
そりゃ自分が勇者だのなんだと僭称する厨二病の子に、だったら「魔法かなんか見せてみろ」なんていう身も蓋もない提案されたら黙るしかないよね……。
ふん、と魔法を出す練習?をし始めた種田さんを尻目に僕と聖良は水原さんにより"魔法"、つまりは"固有魔法"について詳しい説明をし始めた。
「すみません。お見せするのは難しいかと。──なぜなら私たち魔族の持つ魔法は実は水原 さくら子が想像するような、いわゆる"魔術"とは違うのです」
「何が違うのよ?」と至極当たり前の疑問をぶつける水原さんに僕が続いて付け足す。
「"魔術"って言うのはその現象が起こる素となる───つまり"魔力"を持つ者が術式や呪文を用いてそれに対応した現象を起こさせる事を言うんだよね」
「簡単に言えば拙い魔力を持つ者、…まあだいたいは人間ですが、…その魔力の絶対量の乏しさをカバーする為に編み出された工夫、とどのつまりは"技"なんですよ」
理解したか否か分からない、さきほどから一片も変わらない表情で水原さんはお茶を口に運ぶ。
相変わらず隣では種田さんが荒ぶっているが特に気にせず僕は続けた。
「それに対し僕ら魔族が各々持っている魔法、固有魔法と呼ばれるものは生まれつき自然と扱える魔法で────まあ、人で言うところの形質遺伝みたいなものかな?…で、その魔族しか、その家系の魔族しか、扱えない固有のものなんだよ」
「つまりは我々のいう"魔法"は"才能"であり術式も呪文も必要ない代わりにその魔族自身しか扱えない訳ですから他者が使う事は出来n……」
「ちょちょちょ待って!今なんかプリって、なんか出そうだぞ!今、出るっ!」
僕らの説明をいささか雑にぶった切ると急に立ち上がり、そう種田さんが叫んだ。
「何が出るんですか種田 冬火?う◯ちですか?」
「それは我が盟友の方だぞ……」
おいホー◯スの武田 ◯太選手みたいなエゲツないドロップカーブで死球当ててくんのやめろや。
「今度は漏らさないように至急、トイレに向かってください」
「いやうるさいよ……もう漏らさないから、二度と……!」
ああ、やめて水原さん。
「え?あんたその年になって粗相したの?」と言いたげなその訝しげな表情やめて。
まるでチベットスナギツネのようなその乾いた目やめて……。
「ま、まあ漏らしたか漏らしてないからはともかく。聖良さんはその固有魔法ってのは奪われてないんでしょ?だったらあなたが見せてみなさいよ」
「あぁ水原さん、聖良の固有魔法はちょっと特殊で……」
すぼぼぼぼぼぼぼふっっっっっ!!!!!!
これは一話目の僕が脱糞した時の音ではない。
これは種田さんの手のあたり、丁度魔法を出す練習をしていた、とどのつまり手のひらから出た炎と共に出た音である。
いや10話目だからって1話目のリバイバルしなくていいから──────じゃなくて。
「あっっっつつつ!!ちょっと何よこれあっつ!!炎!炎よこれ炎!!大火事になっちゃうわよねこれ!!大惨事じゃない!!!サ◯ジの足みたいになってるわよこれ!!!!」
「これは逢魔様の持つ7つの固有魔法の一つ……紛うことなき火炎魔法の炎……!!なぜ魔族ですらない種田さんが魔王の力を……!?」
「確かにびっくりだけどまずは水原さん助けようよねぇ!!水原さん焦げちゃうよ!!水って付いてるけど焦げちゃうよ!」
─────数十分後。僕らは一丸となって水原家(と水原さん本人)の消化活動に勤しみ、ある程度落ち着いたところで一息おいた。
幸い、今日は水原さんの両親とお姉さんは遅くまで家に帰ってこないらしく、すんでのところで大規模な火災になってしまいそうだったことが露見する事はないとの事。まあある程度コゲはバレると思うけど。
「………なるほど。事情は分かったわ。あなたたちの言ってたことは真実だと言うことも、ね」
水原さんはそれはもう漫画のような見事のアフロ姿(と若干焦げ目がついた)でそう言うと僕らに協力してくれるとの意を示してくれた。
ここまで前途多難ではあったけど、今実際こうしてみればこれまでの行為(ストーカー、覗き、嫌がらせ、放火)は無駄じゃなかったのかと思えてくる。
「わっはっは!やっぱり私はこの世界に選ばれた勇者だったのだ!さあ我が聖なる炎の前にひれ伏せ愚民どもよっ!わっはっはっ!」
「悦に入ってるとこ悪いけど種田さん。あんたの家に後日請求書送っとくから払い込みしなさいよ。あ、ちなみに無視したら警察に通報して差し押さえしてもらうから覚悟してちょうだい」
「…………………………」
まあ、なにはともあれこの件は水原さんの協力を得たし一件落着かな。
なぜ種田さんが僕の固有魔法を使えるかは不明だけど(もしかしたら水原さんも、否、他の能力持ちの人も使えるかもしれない?)今はともかく家に帰ることが先決だろう。
水原さん家を後にする頃にはもう七時を回っており、外はすでに漆黒が我が物顔で自分達の時間だと嘯いていた。
そんな彼らを優しく包み込むように差し込む月光に僕は少し、得体の知れない不気味さを感じこれから迫りくるであろう困難のその予兆を感じ取っていた。
「躑躅森 逢魔。彼が……"魔王"か……」
☆あれれ?これギャグ・ラブ・コメディじゃなかったの!?──────────
───────────────────────
【登場人物紹介】
●躑躅森 逢魔
魔王の息子で主人公。
10話記念という名目で再び脱糞した記憶を呼び起こされる不憫な魔王様。
明日は明日の風が吹く。
●躑躅森 聖良
逢魔の幼馴染でお付きのメイドさん。
今回は説明回でもあったのでボケは少なめ。
次回はボケマシマシのアブラマシマシのギトギト回にすると意気込んでいるらしい。
●種田 冬火
世界に選ばれた神託の勇者(妄想)。
水原さんに煽られたために魔法を出そうと頑張っていたところプリッと出た。……出た(大事なことだかr)。
ちなみに後日、家に来た請求額はうん十万だったらしい。
●水原 さくら子
スポットライトがついに逢魔たちから周囲のヒロインに移ったため実質ツッコミ役もさくら子にコンバートされた。
そのせいか前々回からの不幸続きで不満が溜まっている。
実はその不満を冬火への請求額に色をつけて(大嘘)発散したらしい。
●ホー◯ス 武田 ◯太選手
宮崎出身のプロ野球選手。
エゲツないドロップカーブを武器に球場を席巻する人。
そのエゲツなさに"武田 ◯太選手のカーブは二度曲がる"と称されるほどに。
最近バットが当たってニュースになってたから心配。
●チベットスナギツネ
「おい!だれか俺の書いた小説に"いいね"しろよ~~いいね0件て…読んでる人多いのに…」
「読者の目がチベットスナギツネのように乾いてる~~乾いてる~~~乾いてる~~」
「……すみません」
●サ◯ジ
「水原 さくら子……一つ覚えとけ。"私のいたずら"は許すのが友達だ」
「いや友達であっても許さないわよ。燃えた家具弁償しなさいよ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる