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【FGA:25】オレがやってやる!
しおりを挟むざわわっ。
先ほどの歓声とは打って変わり──困惑のどよめき声が会場を包む。
それもそのはず、ここにいる人間は試合を見に来たのであって、競りに来たワケではないからだ。
加えて──『STRAYDOGS』は強いチームで──少なくとも別ブロック優勝者であるチームをここまで痛めつけたチームに率先して「自分がやる」と言い出し、自ら矢面に立つ者は居るはずもな────
「オレがやってやる……!」
一つ、たった一つだけ、そんな会場に──困惑の感情とは程遠い強い声が響いた。
しん。
まるで鳩が豆鉄砲を喰らったのかの様な──コート出口横の席に"ふわりふわり"浮いている魂の様な浮遊体の発言に思わず目が◯になる周囲の観客ら──を差し押さえてMCは「きーっん」とマイクをハウリングさせた。
「ん~~~~っと、君、か? 挑戦者は? ……威勢はいいが、その魂でどうやって球を持つんだい?」
わははっ。
今度は大きな笑いが会場を包む。「お前がどうやってバスケをやるんだ?」と嘲笑する様な声もあちらこちらから聞こえ、思わず亜蓮の隣にいたテレサは赤面し、ジェラミーは渋い顔を変えず、そして爬虫類人の2人は当惑していた──が、亜蓮と雷人は、亜蓮と雷人だけは真っ直ぐ、ただひたすらに『チャンピオンズ』の3人を見据えていた。
さっきからころころ、ころころ態度変えてうざってぇな……何もできねぇクセに一丁前にヒトを笑ってんじゃねぇよ……!──亜蓮は「ぷっ」と一つ、周囲の観客へ向ける様にツバを地面に吐くと雷人に「やるぞ──アレ」と声をかけた。
2人は"すっ"とコートを仕切る柵を軽々と越え、"ずいっ"と『チャンピオンズ』のアンドロイド3人組の前へと出る。
ぐい。
まるでがんを飛ばすかの如く──怒りを密かに秘める猛々しい顔を近づけてくる亜蓮に『チャンピオンズ』のキャプテンでありリーダーの『荒くれ者』"デイ=V_13号改2型"がそんな彼をことさら煽る。
「おいおい……お前が代わりにバスケやるのかぁ? 冗談は顔だけにしてくれよ? ま、顔だけしかないお前に言っても無駄だと思うが──で、どうやってお前みたいな浮遊体がバスケやるんだ? えぇ? まさかそこに突っ立ってるヤツと身体を交換でもする────」
「「人魂交替…………!」」
瞬間、眩い光が2人を包んだかと思えば────すぐに不思議な光は消え、先ほどとなんら変わらない光景が現れる。
デイはその唐突な発光と発言に怪訝そうな顔を一瞬見せると──特段別に何かが変わった様子もない2人を見て「なんだ? つまらんマジックでも披露するのか?」と再び彼らを煽ろうとしたが──"すっ"と人間の方の顔つきが変わっているのに気付く。
──まさかそこに突っ立ってるヤツと身体を交換でもするのか?
先ほど言い終わらず2人の言に遮られてしまった自らの言葉を思い出す。
「おもしれェ────…………!」
デイは"くいくい"と右手のガチャガチャした機械の手を上にあげ、人差し指を二、三回振るとMCに「こいつ、やるみたいだぜ?」と目線で合図をMC席へ送った。
こちらからはMC席は遠く見えないが、MCはその合図が見えたらしく三度、マイクが「きーっん」とハウリングでその合図へ返した。
「どうやらこの挑戦者……身体を入れ替える魔法を使えるのか隣にいたデケぇ体格の少年と入れ替わったようだーっ! これで1人、挑戦者が出たぞーっ!」
わあああああっ。
相変わらずMCの一言で態度が変わる観衆が再び歓喜の声を上げる──が、それ以上の事はしなかった。それ以上の事とはつまり──挑戦者として名乗りあげる事だったり──。
止まぬ歓声に現れぬ挑戦者。進退の有無が滞り、会場はただの大型スピーカーと化した時──いよいよしびれを切らしたのか、爬虫類人のディーノが「やっぱ俺が出なきゃなんねぇだろうよ!」と思うように動かない身体をおして柵を越えようとした時──その肩を"ぐっ"と掴む者が居た。
見上げると──ディーノの肩を掴むジェラミーが居た。変わらぬ渋い、否、静かな怒りを孕ませた表情を変えないジェラミーが居た。肩を強く、強く掴む力に強い想いがこもっているジェラミーが、そこには立っていた。
「悪い……ここは俺にやらせてはもらえないか?」
静かにそう言ってくるジェラミーにディーノは「あ、あぁ……」と気圧された声を漏らすだけで──それ以上は特に無理して身体をおすような事はせず、静かにヴェロの隣に腰を下ろした。
反面。ジェラミーは"すっ"と立ち上がると「お父さん……その、大丈夫……なの?」と心配する娘に「あぁ」と視線を下げずディーノと全く変わらぬ言葉を一つ、発するとそのまま柵を超えて行ってしまった。
わあああああっ。
沸き立つ観衆の渦中、"ふわりふわり"と浮かぶ魂と雷人の隣にジェラミーは鷹揚にやって来た。
そして亜蓮と同じようにアンドロイドたちに強い強いがんを一つ飛ばすと「お前ら……あいつらをあそこまで痛めつけた事、後悔させてやるよ」と低い声で呟いた。
「ふん。弱い方が悪いんだ、違うか?」とデイはその向けられたがんに対して不敵な、それでいて嫌味な笑顔を見せる。
ジェラミーは強い怒りの視線を向けると、それ以上は何も反論などはせず──一歩下り再び2人の隣に静かに戻った。
雷人は「おっさんもバスケやんのか?」や「なんでさっき真っ先に名乗りあげなかったんだ?」などの諸々の疑問が心中に一閃、通ったが今はそれを聞くべき時ではないと判断すると──そのままジェラミーと同じ様に視線を前へ向けた。
──これで2人……あと1人、誰か出てくれないかな……?
目の前の仇と、自身の心を煽る相手に"めらめら"と戦いの炎を燻らせる2人とは違い──魂はあと1人出てこなければこのまま終わってしまう──という事を懸念する。
事実。周りの観衆は声を上げるだけで名乗りは上げず、ただただ目の前で繰り広げられるドラマにエールやチャントをひたすらに送るだけで──自らがそのドラマに参加してやろうと言う心意気を見せる者はおらず────。
ジェラミーと亜蓮が名乗りを上げてから10分は経っただろうか──「流石にこれ以上待っても誰も来ないだろう」と判断を下したMCによって、今季の『ザ・ストリート・オブ・アルファルファ』の優勝者を観衆に告げる為に三度、マイクをハウリングさせた時────
「私が……私が、競ります……」
と、今度は静かな声で名乗りを上げた者が居た。
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