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第1章.嘘つき預言者の目覚め
2 状況把握が難しい ②
しおりを挟むわたしはレオス将軍の黒い仮面をぼうっと見つめるだけだった。
(…ちょっと待って。ゼピウス国の名が出てきたってことは…)
ここって――わたしが読んでいた小説『亡国の皇子』の中ってこと?
ニキアス=レオスは登場人物の中の仇役の将軍で、主人公の従兄弟にあたる男だ。
主人公はギデオン=マルス王子。
幼い頃、自分の父と母をニキアスの兄ガウディ=レオス現皇帝に弑逆され、王子の座を追われたのだ。
(でもマヤ王女なんて数行だけですぐ殺されてなかった…?)
わたしは首を捻って考えた。
ニキアスが話している内容を聞きながらこの場面が小説のどの部分にあたるんだろうと考えると、ゼピウス国陥落後のある節目に当たる事に気付く。
徐々に状況が飲み込めてきた。
(...これはいわゆる異世界ほにゃららだよね?)
アラサーだったわたしが、数多く読んだ異世界への転生もの。
(…まあ、現実世界が決して厭だったわけじゃないけれど)
多少の窮屈さは感じていたから、幸せな状況に飛び込めれば『ラッキーだわ』と言いたいところだったけれど。
よりにもよって。
数行で死んでしまう――仇役の男の婚約者で預言者なのに噓つきの傲慢女に転生するとは、ツイていないとしか言いようがないではないか。
「お前は…本当に聞いているのか!?マヤ姫」
そのままぼーっと立って考え事をしていると、とうとう傍らのニキアスが怒りはじめてしまった。
*****
ニキアスは目の前の女を見下ろして、思わず怒鳴りつけた。
塔で寝台下から身体を引きだした最初から、この女はどこかおかしかった。
――どこが?挙動全てがである。
なぜかむかしの傲慢さの欠片も見つからない。
あれから十四年経った今も、周辺国の噂で彼女の傲岸ぶりは消える事無く聞かれていた…はずだ。
しかし今の彼女は――部屋を歩きまわりながらぶつぶつと独り言を呟いたかと思うと、ぴたっと足を止め石のように固まって考え事をする。その繰り返しだった。
最初は『レダ神の神託』でも下りてきたのかと思った。彼女は預言者だったから。
『レダの預言者』
レダ神の声を聴く――貴重な存在だ。
通常であればレダ神の神殿に預けられそこで生活をして生涯を終えるはずなのだが、彼女は王女として生まれてしまった。
神託を利権の為に利用したい王と神殿に入り縛られた生活をしたくない娘。
親子の考えが合致したのだろう。
『神託』は王家に都合のいいように捻じ曲げられ、虚飾を塗りたくられた。
そのことが結局、神の怒りを買ったのだろう。
自然災害や天候不順に因る土地の荒廃。
王家の乱れた浪費と重税。
国力が落ち隙をみせれば、虎視眈々と狙う隣国はすぐ攻め入ってきた。
そうして結局、隣国であるわがアウロニア帝国に赤子の手を捻るより簡単に陥落してしまった。
長期に渡るゼピウス国の歴史はあっけなく終焉をむかえたのである。
流石に神の怒りの神託が下り出した時には、マヤ姫も父王に慌てて報告したが、時はすでに遅し。
王国のいたるところで起こり始めた綻びは、元に戻す事はできなかったらしい。
その上不吉な神の予言ばかり伝える娘をとうとうゼピウス王は塔の上に閉じ込めたのだ。
(それにしても…解せない)
ニキウスはマヤ王女を見下ろして、眉根を寄せた。
(何なのだろう?この挙動不審な動きは。まるきり迷子になった子供のようではないか)
ニキアスはそっと嘆息した。
(…仕方がない)
あまりに抵抗すれば拘束もやむなし自分に敵意を持ち攻撃してくれば、斬って捨てるぐらいの気持ちだったが。
(こんなに無抵抗の状態では、こちらの名が地に落ちるばかりか、レダ神の怒りを買うかもしれない)
なんといっても、彼女はまだレダ神の預言者――レダの娘なのだ。
「マヤ姫」
ニキアスは彼女に声をかけた。
「貴女は曲がりなりにも王族の娘だ。自害したいならふさわしい部屋や毒物を用意させよう。
大人しく投降するなら、俺の名にかけ無体な真似を兵士らにさせないと一時的には保証しよう。
アウロニア帝国に連れていかれた後はどうなるかは分からんが…」
自分としては王女に対しての丁寧な礼儀を尽くしたつもりだ。
たとえ彼女が、幼い頃のニキウスに忘れられない程の苦痛を与えた相手だったとしても。
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