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第1章.嘘つき預言者の目覚め
8 嘘をつくな ②
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ザリア大陸には古来より七兄弟神教が存在していた。
長兄『メサダ神』は全てを管理する者、始まりの者。
一番上だが少年の姿である。
次兄『コダ神』と長姉『レダ神』は、一般的に双子神と呼ばれ、役割は似ているが、『レダ神』の方が国内外でも圧倒的に有名であった。
彼らは、豊作、繁栄、出産、医療を司り国の繁栄に欠かせない神である。
そして、三男『ドゥーガ神』は戦いの神。
予期せぬ事故と災いの神でもあり、ニキアスが信奉するのもこの神である。
四男『エイダ神』と次姉『ルチアダ神』も双子神で芸術、創造の神だ。
酒の製造や音楽や鍛治も含まれる。
そして最後が――『ヴェガ神』。
死と災害や事故を司る、終りの者。
兄弟で一番下のはずなのだが何故か老人の姿をした神である。
*************
『ただし…条件がある』とニキアスから出された条件とは。
『ニキアスの側を離れないこと』
――つまりわたしが、常にニキアスと行動する事だった。
(それは聞いていたし分かっているけれど…)
わたしは自分の右手首を見てため息をついた。
馬の手綱をニキアスが握る中わたしはニキアスの前に座っていた。
そこには固い皮のしっかりとした手錠のような拘束具が付けられていていた。
しっかり縒り合された縄を経て簡易的な鎧を身に付けた黒仮面のニキアスの左手に同じように繋がっている。
馬に乗り慣れていないわたしが、お尻が痛んでくるのを必死に我慢しながら馬の鬣にしがみついていると
「マヤ王女…それは可哀想だ」
突然ニキアスが言うので『少しはわたしのお尻の苦労を労わってくれるのかしら?』と思っていたら、
「そんなに鬣を引っ張ったら馬が可哀想だろう」
とまさかの馬への同情だった。
「…あの、でも鬣にしがみつきでもしないと、わたくし馬から落ちてしまいます」
とわたしが言うとまたもニキアスは仮面越しでもハッキリ分かるほどのため息をついた。
「…分かった。けれど文句は言うなよ」
そう言うなりニキアスはわたしの腰をぐいと自分の方に引っ張り寄せた。
わたしの背中がぴたりとニキアスのお腹に密着するのを感じた。
(え?ええっ?…これ、何!?)
びっくりして思わずニキアスを見上げると
「…これで少しは身体が安定するだろう」
黒仮面のニキアスがわたしへとかけた声には何の感情も感じられなかった。
*************
ニキアスは共に馬に乗るマヤ王女の頭を見ていた。
彼女は外出用のマントを着て、あの蜂蜜色の艶やかな金髪はしっかりと編み込まれている。
(…甘い香りがする)
何か香水の類をつけている訳でも無いだろうに、彼女からは良い香りがした。
彼女の身体はニキアスが腕をまわせばすっぽりと包み込めそうな程小柄だった。
(小さい頃から年齢よりずっと小さく見えていたが)
馬上で身体が揺れる為に『お尻が痛い』と呟いていたので安定させる為に抱き寄せたが、小柄なのにしっかりと女の柔らかさを持つ身体に一瞬ニキアスは戸惑った。
そのままニキアスは、自分が幼い頃滞在していた当時のレダの神殿の記憶を思い起こしていた。
**************
ニキアスは前アウロニア国陛下であるギデオン=マルスの父親の実の弟――つまり王弟侯である男の落し胤の一人だった。
母は宮殿の宴に盛んに呼ばれていた、大人気の踊り子であった。
好色だった前王の弟は、派手で私生活の乱れた享楽的な男だった。
そしてその嫡男であるガウディ=レオスは全く違う性格だった。
冷酷かつ残忍な性質であったのだ。
王弟侯の嫡男だったガウディは自分の父母が死ぬと同時に、年若い当主としてレオス家を支配しそのまま元老院へ入ると爆速で執政官の地位を得た。そして自分を支持する貴族の後ろ盾を武器に一気に王位へと駒を進めた。
隙を見て前陛下を弑逆し王位を奪うと、王宮内で殺し損なった正当な王位継承者であるギデオン王子を追い詰めたが殺せず、アウロニア帝国領から追い出した。
以前から私生児で後ろ盾のなかったニキアスは、義兄の冷酷・残酷さを目の当たりにすると早々に王宮から出奔し、国内外の神殿内を転々とした。
それは義兄へ完全に俗世と手を切り、権力と関わらないとアピールする為でもあった。
そこでレダ神の神殿内の中で、件のマヤ姫を見つけたのだ。
最初は川の近くで出会った。
ニキアスが神殿の下働きの女性とある目的の為に会っていた頃の事だ。
「お前…とても綺麗な顔をしているわね」
マヤ姫は当時神殿で下働きや神官の手伝いをするニキアスに話しかけてきた。
神殿にいる同世代の子供が、ニキアスだけだったからかもしれないが。
(神殿で働いている者は、奴隷の子供以外は皆大人である)
「…どうしてそんな布で、顔の半分を隠しているの?」
その時ニキアスは、マヤ王女に返事をしなかった。
上手く返事が出来なかったと云う方が正しかったのだが。
ニキアスは普段は左半分の顔を布で隠している。
それは――生まれ付き青黒いっぽい痣が左の顔の目の回りから額にかけてあったからだ。
踊り子の母は生まれたばかりのニキアスの顔を見た瞬間
「こんな醜い子ではもう旦那様に顔向け出来ない。いっそ殺してちょうだい」
としばらく泣いて皇宮から黙って姿を消したらしい。
ニキアスは母親に捨てられたのである。
それが今も消息不明の母について聞いた話だ。
ニキアスはその時に『この痣はそんなに忌むべきものなのか』と幼子心にも多大なショックを受けたのだった。
長兄『メサダ神』は全てを管理する者、始まりの者。
一番上だが少年の姿である。
次兄『コダ神』と長姉『レダ神』は、一般的に双子神と呼ばれ、役割は似ているが、『レダ神』の方が国内外でも圧倒的に有名であった。
彼らは、豊作、繁栄、出産、医療を司り国の繁栄に欠かせない神である。
そして、三男『ドゥーガ神』は戦いの神。
予期せぬ事故と災いの神でもあり、ニキアスが信奉するのもこの神である。
四男『エイダ神』と次姉『ルチアダ神』も双子神で芸術、創造の神だ。
酒の製造や音楽や鍛治も含まれる。
そして最後が――『ヴェガ神』。
死と災害や事故を司る、終りの者。
兄弟で一番下のはずなのだが何故か老人の姿をした神である。
*************
『ただし…条件がある』とニキアスから出された条件とは。
『ニキアスの側を離れないこと』
――つまりわたしが、常にニキアスと行動する事だった。
(それは聞いていたし分かっているけれど…)
わたしは自分の右手首を見てため息をついた。
馬の手綱をニキアスが握る中わたしはニキアスの前に座っていた。
そこには固い皮のしっかりとした手錠のような拘束具が付けられていていた。
しっかり縒り合された縄を経て簡易的な鎧を身に付けた黒仮面のニキアスの左手に同じように繋がっている。
馬に乗り慣れていないわたしが、お尻が痛んでくるのを必死に我慢しながら馬の鬣にしがみついていると
「マヤ王女…それは可哀想だ」
突然ニキアスが言うので『少しはわたしのお尻の苦労を労わってくれるのかしら?』と思っていたら、
「そんなに鬣を引っ張ったら馬が可哀想だろう」
とまさかの馬への同情だった。
「…あの、でも鬣にしがみつきでもしないと、わたくし馬から落ちてしまいます」
とわたしが言うとまたもニキアスは仮面越しでもハッキリ分かるほどのため息をついた。
「…分かった。けれど文句は言うなよ」
そう言うなりニキアスはわたしの腰をぐいと自分の方に引っ張り寄せた。
わたしの背中がぴたりとニキアスのお腹に密着するのを感じた。
(え?ええっ?…これ、何!?)
びっくりして思わずニキアスを見上げると
「…これで少しは身体が安定するだろう」
黒仮面のニキアスがわたしへとかけた声には何の感情も感じられなかった。
*************
ニキアスは共に馬に乗るマヤ王女の頭を見ていた。
彼女は外出用のマントを着て、あの蜂蜜色の艶やかな金髪はしっかりと編み込まれている。
(…甘い香りがする)
何か香水の類をつけている訳でも無いだろうに、彼女からは良い香りがした。
彼女の身体はニキアスが腕をまわせばすっぽりと包み込めそうな程小柄だった。
(小さい頃から年齢よりずっと小さく見えていたが)
馬上で身体が揺れる為に『お尻が痛い』と呟いていたので安定させる為に抱き寄せたが、小柄なのにしっかりと女の柔らかさを持つ身体に一瞬ニキアスは戸惑った。
そのままニキアスは、自分が幼い頃滞在していた当時のレダの神殿の記憶を思い起こしていた。
**************
ニキアスは前アウロニア国陛下であるギデオン=マルスの父親の実の弟――つまり王弟侯である男の落し胤の一人だった。
母は宮殿の宴に盛んに呼ばれていた、大人気の踊り子であった。
好色だった前王の弟は、派手で私生活の乱れた享楽的な男だった。
そしてその嫡男であるガウディ=レオスは全く違う性格だった。
冷酷かつ残忍な性質であったのだ。
王弟侯の嫡男だったガウディは自分の父母が死ぬと同時に、年若い当主としてレオス家を支配しそのまま元老院へ入ると爆速で執政官の地位を得た。そして自分を支持する貴族の後ろ盾を武器に一気に王位へと駒を進めた。
隙を見て前陛下を弑逆し王位を奪うと、王宮内で殺し損なった正当な王位継承者であるギデオン王子を追い詰めたが殺せず、アウロニア帝国領から追い出した。
以前から私生児で後ろ盾のなかったニキアスは、義兄の冷酷・残酷さを目の当たりにすると早々に王宮から出奔し、国内外の神殿内を転々とした。
それは義兄へ完全に俗世と手を切り、権力と関わらないとアピールする為でもあった。
そこでレダ神の神殿内の中で、件のマヤ姫を見つけたのだ。
最初は川の近くで出会った。
ニキアスが神殿の下働きの女性とある目的の為に会っていた頃の事だ。
「お前…とても綺麗な顔をしているわね」
マヤ姫は当時神殿で下働きや神官の手伝いをするニキアスに話しかけてきた。
神殿にいる同世代の子供が、ニキアスだけだったからかもしれないが。
(神殿で働いている者は、奴隷の子供以外は皆大人である)
「…どうしてそんな布で、顔の半分を隠しているの?」
その時ニキアスは、マヤ王女に返事をしなかった。
上手く返事が出来なかったと云う方が正しかったのだが。
ニキアスは普段は左半分の顔を布で隠している。
それは――生まれ付き青黒いっぽい痣が左の顔の目の回りから額にかけてあったからだ。
踊り子の母は生まれたばかりのニキアスの顔を見た瞬間
「こんな醜い子ではもう旦那様に顔向け出来ない。いっそ殺してちょうだい」
としばらく泣いて皇宮から黙って姿を消したらしい。
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