嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される

花月

文字の大きさ
44 / 138
第1章.嘘つき預言者の目覚め

43 街道の盗賊団 ③

しおりを挟む
「なぁ…やたら長い行軍だと思わね?」

くせのある鳶色の髪と更に赤味がかった瞳の少年は、双眼鏡を使い小高い丘の上からアウロニア帝国の軍列を見下ろした。

腕をぐねぐねと生物のように動かし
大蛇サーペントみてえだ」
自分の言葉を気に入ったように笑った。

口調とはかけ離れたいるが、とても端正なつくりの顔立ちと口元に印象的な黒子がある少年だ。

ニキアス程では無いけれど、背も高く戦士のような細身の筋肉の付き方をした肢体である。

「なぁ、そう思わないか?タウロス」
黒子の少年は隣のしっかりと鎧を装着し、巨岩のように佇む大男に向かって訊いた。

「…そうですね、ただ隊列の編成が分かりやす過ぎますな」
『捜して見れば宝物の護衛団がどこなのか直ぐ分かる』と、見かけのわりには高い声で少年へ返答した。

「ふ…そうだな、でもやり易いのはかえってありがてえぜ。目的は金品と玉璽だしな。狙いがピンポイントでいける」

少年は黒子のある端正な口元をニヤリと歪めて笑った。
それは歳のわりに大人びた表情だった。

「将軍殿は誰だ?どうだ?あのエロ親父さんか?」

少年は双眼鏡を動かし行軍の最初の方を確認すると小さく呟いた。
「あん…嘘だろ?あの黒仮面…見覚えがあるぜ」

少年のおどけた口調から一気に冷たい刃の様なそれに変わる。
「面白れえ展開になったな…よーし、準備しろタウロス」

「方針変更だ――るぞ」
黒子の少年はタウロスの方を向き、ニヤリとしてニキアスとは対照的な白い仮面を被ると手の平を組んでぽきぽきと指を鳴らした。

 *********

思っていたよりも行軍は順調に進んでいる。

ニキアスは思った。
(順調すぎるくらいだ)

街道の行軍はスムーズで、兵らは皆緊張を解きながら進んでいる。
このままいけばハルケ山の真横を通り順調にアウロニアへ入れるだろう。

(マヤはどうしているだろうか?)
気になってユリウスへ様子を見に行かせたが特に不便はなさそうだ。

「ただ何故かしきりに街道の様子を気にしています」
ユリウスが言うには、マヤがこの街道を通る際にを気にしていて、少し落ち着かなそうだったとの事だ。

(盗賊団の事だろうか) 
の内容は言っていたか?」
「いえ…ハッキリとは分からないと」

しかしマヤはとても不安そうに言ったという。
『とても嫌な感じがするんです。何かの視線に…少しずつからめ捕られていくような』

「そんな事を…」
(預言者として何か感じるところがあるのか)
一瞬マヤの処に行って確認したかったが、マヤには『分からない』と言われるだけだろう。

ニキアスはその代わりにユリウスへ
「各隊に、気を緩めるなと周りに気を配れと伝達しろ」
と命令をしたのだった。

 *********

(何だろう…この感じ)
わたしは妙な胸騒ぎと、気持ちの悪い感覚がつき纏うのを感じていた。

まるでずっと誰かに見られているようだ。
『監視されている』というか――。

実際今は馬車の中で傍にいるのはナラだけなのだが、常に見られている様な感覚が気になって仕方がない。
(感覚的な物だから誰にも説明出来ないのがつらいな…)

「ナラ…誰か外から見てる?」
とわたしは何度か彼女に訊いたが、彼女はキョトンとするだけで

「いえ…どなたもいらっしゃらないですよ」
と馬車の覗き窓から外を確認しながら言った。

「きゃっ…!」
ガタンッと一際大きく馬車が揺れて、わたしは車体に伝わる振動で座席から飛ばされそうになった。

馬車の椅子に捕まりながらナラが言った。
「大丈夫ですか?マヤ様…そろそろハルケ山の近くを通るそうですから余計に揺れますよ」

「わ…わかったわ」
(そうか…だからなのね)
ニキアスと馬で来た時にもハルケ山近くの道路の舗装が粗くなっていたのを思い出した。
しばらくはこの馬車酔いしそうな振動に耐えなければいけないのだろう。

その時微かに聞き覚えのある――犬の遠吠えが聞こえたような気がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...