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第1章.嘘つき預言者の目覚め
46 遭遇 ②
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「あ、マヤ様…また隊列が動き始めました」
ナラは身を乗り出して馬車の覗き窓から外を確認していた。
『ティグリス』軍の隊列がまたゆるゆると動きだしている。
「そう…。さっきいきなり止まったのは一体なんだったのかしら?犬の声もしたし…」
わたしは疑問に思いながらもほっとしていた。
(良かった…悪い予感が当たったんじゃないかとドキドキしちゃったわ)
「あら…?」
その時ナラが不思議そうに声を上げた。
「こんな所に子犬が歩いています。うわあ…真っ白で可愛い。珍しい~」
(真っ白な子犬って…この間ハルケ山であった子犬もそうだったな)
わたしはぼんやり考えながらナラに尋ねた。
「この辺りで白い犬って多いのかしら?」
「いいえ。この辺りではこの仔みたいに毛がふさふさしてる子は珍しいですね。それにこの色も…」
(珍しい?…)
ナラの言葉にわたしが覗き窓を覗いてみると、馬車の直ぐ横で歩いている子犬の姿を見てびっくりしてしまった。
(え?まさか…あの子犬…?)
わたしが後ろ足のケガを手当したあの野犬のリーダーの側にうずくまって、ずっと鳴いていた子犬に似ている。
思わず馬車の可動式の窓を引き下ろすと子犬はそれに気づいた様だ。
やっとわたしを見つけたと言う様に
「ワン!」
と大きな声で鳴いた。
「キミだったのね…どうしたの?お母さんは?まさか、はぐれちゃったの?」
と訊くと子犬はわたしの言葉をスルーして、わふわふと嬉しそうにダッシュで前の方に走って行ってしまった。
暫くするとまた走って戻って来て、わたしの顔を見ると嬉しそうに尻尾を振って、
「ワンワン!」
と鳴き、今度は馬車の隣にぴったりとついて元気良く歩き出した。
ナラは笑いながら言った。
「何なんでしょうね。何だかお供の子みたいですね…可愛い」
「本当ね」
わたしも思わず笑ってしまいながら、子犬を見つめた。
少し胸を張りながら馬車と並んで歩く姿は、一生懸命な感じがしてとても微笑ましかった。
********
「…何だ?誰かを捜しているのか?」
ニキアスは前を歩く白い毛を揺らして歩く大きな犬へ尋ねた。
ニキアス等を先導する様に歩きながら、時折周りでなく後方を確認するように歩いている。
暫く歩いていると、後ろから見た事のある子犬が転がる様に後ろから走ってきた。
その姿をみた犬は歩きながら安堵したように子犬の顔をひと舐めした。
子犬が元気よく吠えると、また後ろの方へ転がる様に走っていく。
それを見送る姿を見てニキアスは犬へと声をかけた。
「子供か?良かったな、見つかって」
しかし白い毛並みの犬はニキアスを無視して頸を前方へ巡らせ、今度は後ろを振り向く事無く歩き続けたのだった。
*******
『大蛇』の毒牙を抜いて頭を潰しとどめを刺す。
盗賊団は音も無く素早い動きで、ハルケ山の麓の雑木林を移動していた。
百人以上いる大規模な集団でありながら地の利を良く知っていて為か、アウロニア帝国の軍隊よりはるかに統率が取れた動きである。
犬の聴覚と嗅覚を考え必ず移動は風下にいるようにし、物音も最小限にとどめた。
必要以上に近づかず、なおかつ少しずつ距離を詰めるという難しい動きを難なくこなしている。
ただ近づけなければ、あの豆粒のように小さい個体は見つけられない。
『ボアレスの子犬を捜せ』
アナラビの指令では子犬を攫い、まずはあのボレアスをけん制するはずだったが、アドステラ盗賊団は子犬を簡単には見つけられなかったのだ。
******
――街道に陽が落ちていく。
ハルケ山近くの宿場町は軍隊が泊まるには小さすぎる為、野営組と宿泊組に分かれる事になった。
本来であれば皆固まって同一の所に泊まるのが当たり前だが、ダナス副将軍は街に入りたくて仕方がないらしい。
「儂は中に入りますぞ、いいですな?将軍」
と言うと、自分の子飼いの貴族と共の兵・奴隷を百名程連れてさっさと中に入ってしまった。
ユリウスはあんぐり口を開けて自分の父親を見たが、溜め息しか出てこなかった。
「僕、成人したら絶対にダナス家から独立しますから」
ニキアスはユリウスの言葉を聞いて、フッと笑った。
「まぁ、よい。問題ないなら放っておけ」
そのまま野営の準備をするように残った兵に声を掛けていく。
軍馬の食餌やテントの設置、警備まで細かい指示を出すと作戦部隊長らに告げるよう、伝令兵に指示した。
(ニキアス様のこういうところが好きなんだよな)
ユリウスは思った。
神経質ではないが、細やかな気の配り方は以前の『イェラキ隊』にいる時から変わらない。
もっと他人に任せれば楽なのに、と思う事もしばしばだ。
(僕が成人して正式な副官になったら、もっと手助けできるのに)
ユリウスの中で早く成人したいと思う理由の一つでもあった。
ナラは身を乗り出して馬車の覗き窓から外を確認していた。
『ティグリス』軍の隊列がまたゆるゆると動きだしている。
「そう…。さっきいきなり止まったのは一体なんだったのかしら?犬の声もしたし…」
わたしは疑問に思いながらもほっとしていた。
(良かった…悪い予感が当たったんじゃないかとドキドキしちゃったわ)
「あら…?」
その時ナラが不思議そうに声を上げた。
「こんな所に子犬が歩いています。うわあ…真っ白で可愛い。珍しい~」
(真っ白な子犬って…この間ハルケ山であった子犬もそうだったな)
わたしはぼんやり考えながらナラに尋ねた。
「この辺りで白い犬って多いのかしら?」
「いいえ。この辺りではこの仔みたいに毛がふさふさしてる子は珍しいですね。それにこの色も…」
(珍しい?…)
ナラの言葉にわたしが覗き窓を覗いてみると、馬車の直ぐ横で歩いている子犬の姿を見てびっくりしてしまった。
(え?まさか…あの子犬…?)
わたしが後ろ足のケガを手当したあの野犬のリーダーの側にうずくまって、ずっと鳴いていた子犬に似ている。
思わず馬車の可動式の窓を引き下ろすと子犬はそれに気づいた様だ。
やっとわたしを見つけたと言う様に
「ワン!」
と大きな声で鳴いた。
「キミだったのね…どうしたの?お母さんは?まさか、はぐれちゃったの?」
と訊くと子犬はわたしの言葉をスルーして、わふわふと嬉しそうにダッシュで前の方に走って行ってしまった。
暫くするとまた走って戻って来て、わたしの顔を見ると嬉しそうに尻尾を振って、
「ワンワン!」
と鳴き、今度は馬車の隣にぴったりとついて元気良く歩き出した。
ナラは笑いながら言った。
「何なんでしょうね。何だかお供の子みたいですね…可愛い」
「本当ね」
わたしも思わず笑ってしまいながら、子犬を見つめた。
少し胸を張りながら馬車と並んで歩く姿は、一生懸命な感じがしてとても微笑ましかった。
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「…何だ?誰かを捜しているのか?」
ニキアスは前を歩く白い毛を揺らして歩く大きな犬へ尋ねた。
ニキアス等を先導する様に歩きながら、時折周りでなく後方を確認するように歩いている。
暫く歩いていると、後ろから見た事のある子犬が転がる様に後ろから走ってきた。
その姿をみた犬は歩きながら安堵したように子犬の顔をひと舐めした。
子犬が元気よく吠えると、また後ろの方へ転がる様に走っていく。
それを見送る姿を見てニキアスは犬へと声をかけた。
「子供か?良かったな、見つかって」
しかし白い毛並みの犬はニキアスを無視して頸を前方へ巡らせ、今度は後ろを振り向く事無く歩き続けたのだった。
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『大蛇』の毒牙を抜いて頭を潰しとどめを刺す。
盗賊団は音も無く素早い動きで、ハルケ山の麓の雑木林を移動していた。
百人以上いる大規模な集団でありながら地の利を良く知っていて為か、アウロニア帝国の軍隊よりはるかに統率が取れた動きである。
犬の聴覚と嗅覚を考え必ず移動は風下にいるようにし、物音も最小限にとどめた。
必要以上に近づかず、なおかつ少しずつ距離を詰めるという難しい動きを難なくこなしている。
ただ近づけなければ、あの豆粒のように小さい個体は見つけられない。
『ボアレスの子犬を捜せ』
アナラビの指令では子犬を攫い、まずはあのボレアスをけん制するはずだったが、アドステラ盗賊団は子犬を簡単には見つけられなかったのだ。
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――街道に陽が落ちていく。
ハルケ山近くの宿場町は軍隊が泊まるには小さすぎる為、野営組と宿泊組に分かれる事になった。
本来であれば皆固まって同一の所に泊まるのが当たり前だが、ダナス副将軍は街に入りたくて仕方がないらしい。
「儂は中に入りますぞ、いいですな?将軍」
と言うと、自分の子飼いの貴族と共の兵・奴隷を百名程連れてさっさと中に入ってしまった。
ユリウスはあんぐり口を開けて自分の父親を見たが、溜め息しか出てこなかった。
「僕、成人したら絶対にダナス家から独立しますから」
ニキアスはユリウスの言葉を聞いて、フッと笑った。
「まぁ、よい。問題ないなら放っておけ」
そのまま野営の準備をするように残った兵に声を掛けていく。
軍馬の食餌やテントの設置、警備まで細かい指示を出すと作戦部隊長らに告げるよう、伝令兵に指示した。
(ニキアス様のこういうところが好きなんだよな)
ユリウスは思った。
神経質ではないが、細やかな気の配り方は以前の『イェラキ隊』にいる時から変わらない。
もっと他人に任せれば楽なのに、と思う事もしばしばだ。
(僕が成人して正式な副官になったら、もっと手助けできるのに)
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