49 / 138
第1章.嘘つき預言者の目覚め
48 遭遇 ④
しおりを挟む「オイ…あれ見ろよ。ボアレスが大人しく人間に身体を撫でさせている…いや自ら触らせにいってるぜ?」
あり得ないと言わんばかりのアナラビの口調だった。
「嘘だろ?あいつオレには側にも寄らせないんだぜ?女なら許されるのか?…あの女好きめ…」
首を振りながら眼を細めて、大人しく女に撫でられるボアレスを見つめて言った。
夜目の利く状態になっているアナラビは、ボアレスとその子犬を交互に抱いたり撫でたりするマヤを見つめた。
焚火に照らされて蜂蜜色の髪が輝いている。
見た感じ育ちは良さそうで、衣服は小綺麗で、奴隷や下働きの女では無さそうだ。
(どういう立場の女なのだろう?)
「あの女…面白いな。子犬と一緒に攫って来い」
アナラビは盗賊の部下等に新たに指令を出したのだった。
*******
『ニキアス様お疲れなんでしょうか。お顔がお熱があるみたいに赤くなっていましたけれど…』
(ニキアスは大丈夫かしら…)
わたしはニキアスの体調が心配だった。
――昨日の夜何処で休んでいたか分からないし…。
(いや、そもそもハルケ山から戻って来てからずっと彼は休んで無い気がする)
色々と考えながら、焼いて塩だけで味付けした肉と野菜スープとトウモロコシのパンといった決して豪華では無い夕食を黙々と食べていると、第三部隊の兵らがわたしの顔をじっと見ている。
「あ…あの、何か…?」
(なんで皆見るんだろう?)
視線が集まる中、わたしは一番近くにいた部隊長へ尋ねた。
「いや、お姫さんがやたら我儘娘って聞いていたんだけども、全然違うなって話をしてたんですよ」
と訛りを交えながらわたしに言った。
「はあ…」
そうですかと曖昧に笑って食後の片付けを手伝おうとすると、ナラが慌てて「わたしがしますから」と言った。
真っ白い子犬がさっきからわたしの側を離れないため、親犬も共に第三部隊の野営地の近くにいる状態になっていた。
親犬は子犬の毛づくろいを丁寧にしている。
わたしは近づいて夕食用に取り分けて貰った肉の余りを目の前に出すと、
「ね…お腹空かない?」
と訊いた。
親犬はフイっと顔を背けたのに対し、子犬はいきなりがふがふと食いついた。
「怒らないで上げて。お腹が空いていたのよね」
子犬の行動を憮然として見つめる親犬の表情が可笑しくて、わたしは子犬の背中をゆっくり撫でた。
ナラが皿に余計に取り分けた肉を持ってきてくれた。
「マヤ様。もう少し貰ってきましたよ」
「ありがとう」
わたしは皿を受け取った。
子犬がまた飛びついてその肉を食べるのを見ると、親犬は諦めたようにため息をついて(何故かそんな風に見えた)ナラが持ってきた肉の匂いを嗅いでから少しずつ食べ始めたのだった。
その時、ユリウスが第三部隊の様子を見に来たのに気がついた。
わたしは気になっていたニキアスの様子を彼に尋ねてみた。
「ユリウス様、ニキアス様の様子はどうですか?なんだかあまり体調が良くないんじゃ…」
わたしがユリウスへ訊くと、彼は暫くわたしを見つめて、
「あのですね…、僕が言うのも何かと思いますけど気になるんだったらご自分で直接ニキアス様に訊きに行かれたらどうでしょうか?」
自分よりも七歳以上年下の彼に最もなことを言われ、わたしは言葉に詰まってしまった。
「そ、そうね…許されるなら。はい、そうします」
先頭部隊に戻るユリウスと、わたしを警護する様にあの白い犬が親子で付いてくることになった。
兵達でざわつく先頭部隊の野営地をニキアスの姿を探したが、どうも見つからない。
ニキアスが仮設のテントの中で仮眠を取っているという情報を部隊長に聞くと、わたしはそっとニキアスが休んでいるテントに近付いた。
「ここで待っていてね...」
犬達に告げると、休んでいるニキアスを起こさないようにと静かに中に進んだ。
ニキアスは寝台で横になっているようだ。
鎧は脱いで、もっとリラックスできる上衣に変えているようだ。
面布付きだが、整った美しい顔が静かに寝息を立てている。
(…熱はないのかしら?)
わたしはそっと寝台に近づき、額に手を伸ばした。
その瞬間、ニキアスが目を開けて伸ばしたわたしの手首をぐっと掴んだ。
「――また俺の面布でも取りにきたのか?マヤ王女」
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる