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第1章.嘘つき預言者の目覚め
54 レダの預言者 ④
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ざらりとした何かの感触でわたしは目が醒めた。
真っ白い毛並みが視界に広がっている。
わたしは思わず、がばっと起き上がった。
ざらりとしたモノの正体は子犬の舌だった。
どうやら子犬がわたしの顔を舐めたらしい。
後ろ足で伸びあがって、わふわふと尻尾を振っている。
(いたた…)
何だか身体中が筋肉痛の様に痛い。
記憶が定かでないけど、
(途中で本物の『マヤ王女』が出てきたような気が...する)
色々と混乱してるけど、わたしが横になっているのはニキアスの寝台のようだった。
寝台の上に飛び乗った子犬の身体を撫でていると、ナラがたらいと手ぬぐいを持ってテントの中に入って来た。
「...マ、マヤ様!だ、大丈夫ですか?」
「...え?あ…大丈夫よ。ごめんなさい。心配かけて…」
あまり良く覚えて無いため、わたしが曖昧に笑うとナラは笑いごとではありませんと珍しく厳しい顔をした。
「大変な騒ぎになりました。ニキアス様が今直接お医者さまを呼びに行かれています」
「え?…ニキアスが?直接呼びに行ったの?」
「はい。ユリウス様が呼んでくると言ったのに、話も聞かずに飛び出して行ってしまわれました。仕方なくユリウス様はわたしを呼びに来られて、マヤ様の側にいてくれと」
(ニキアスったらテンパってしまったのかしら…)
「そ、そうだったのね...」
(それはへらへら笑っていたら怒られるわね…)
と考えていると、なにやらテントの外が少し騒がしい。
(何かしら?)
わたしが少し顔をだすと、白い大きな犬がテントのちょうど入口に静かに立っていた。
「…ごめんね、びっくりさせたわね」
わたしは静かに見上げる犬の前にしゃがんで笑いかけた。
驚いたのだが、今度は親犬までもわたしの頬をペロリと舐めたのだった。
********
するとちょうどテントの外のある方向から兵等の声がする。
「ニキアス様っ!引っ張るのはお止めください!」
「それでは遅いんだ!いっそお前を抱えるぞ?」
二キアスの大きな声がして、大分ご年配の…明らかに兵士の格好とは違う、トーガを着た小柄な男性と言い合いをしているようだ。
男性の腕を引っ張るのを止めて背中におんぶする事にしたらしい。
その状態でテントの方向へ走ってくるのが見えた。
背負っている男の人は、迎えに言った医者なのか、しきりにニキアスに大声で文句を言っている。
ニキアスが後ろを振り向きながら、彼に対して何か言っていた。
わちゃわちゃの二人をテントの前で親犬と共に立って待っていると、ニキアスがこちらを振り向いた。
わたしの姿を見ると、立ち尽くす。
二キアスの手の力が緩んだ為か彼の背中に背負われた医者が、ずるっと地面に滑り落ちた。
わたしは思わず声をあげた。
「ニキアス様、危ないですわ。お医者様が落ち…」
「マヤ!!」
ニキアスが走ってきて、驚いたままのわたしを思いきり抱きしめたのだった。
******
「マヤ…マヤ…!...」
ニキアスは何度も繰り返しわたしの名前を呼んでわたしを腕の中に抱いた。
わたしはしばらくされるがままになっていたが、ニキアスの結構な腕の力で抱きしめられると
「二…ニキアス様…苦しいです」
と、思わず腕を叩いて言ってしまった。
(プロレスの技にこんなのがあった気がする...)
「す…済まない、苦しかったか」
慌てたニキウスは、身体を離した。
ニキアスの顔を見上げたわたしは、そこにいつも必ず彼がいつも付けている筈のあるものが無くて驚いてしまった。
「...二、ニキアス様…め、面布はどうされたんですか?」
ニキアスははっと気が付いたように左目を掌で隠し、わたしが明らかに分かるほど青ざめてしまった。
「…君が触った後燃えるように熱くなって思わず取ってしまってから...その後すっかりつけるのを忘れていた」
その後はわたしがいきなり意識が無くなり倒れて、度肝を抜かれたニキアスは一瞬それどころでは無くなってしまった...という事らしい。
(ニキアスにしては考えられない事なのだが、今まで面布を外していたのを忘れていたらしい)
「…もう一度見せてください」
「嫌だ…また呪い云々の言葉を俺は聞きたくない」
駄々っ子の様な口調で目線を反らすニキアスにわたしはお願いをした。
「ニキアス様...そんな事決して言いません…お願いします」
「...嫌だ」
「お願い。いいこだから...見せてください」
僅かに抵抗するニキアスの左手をゆっくり開かせていき髪をかきあげると、いつも隠している左目とその周囲の皮膚が少しずつ露わになった。
「…嫌なのに…」
「…大丈夫ですから...ね...?」
――なんとそこには。
確かに――痣はあった。
けれど、何故か青の色素が大分抜けて褐色の色に変化している。
とても以前マヤが言っていた様な青黒い『ヴェガ神の呪い』と呼んでいるような代物では無くなっていたのだった。
真っ白い毛並みが視界に広がっている。
わたしは思わず、がばっと起き上がった。
ざらりとしたモノの正体は子犬の舌だった。
どうやら子犬がわたしの顔を舐めたらしい。
後ろ足で伸びあがって、わふわふと尻尾を振っている。
(いたた…)
何だか身体中が筋肉痛の様に痛い。
記憶が定かでないけど、
(途中で本物の『マヤ王女』が出てきたような気が...する)
色々と混乱してるけど、わたしが横になっているのはニキアスの寝台のようだった。
寝台の上に飛び乗った子犬の身体を撫でていると、ナラがたらいと手ぬぐいを持ってテントの中に入って来た。
「...マ、マヤ様!だ、大丈夫ですか?」
「...え?あ…大丈夫よ。ごめんなさい。心配かけて…」
あまり良く覚えて無いため、わたしが曖昧に笑うとナラは笑いごとではありませんと珍しく厳しい顔をした。
「大変な騒ぎになりました。ニキアス様が今直接お医者さまを呼びに行かれています」
「え?…ニキアスが?直接呼びに行ったの?」
「はい。ユリウス様が呼んでくると言ったのに、話も聞かずに飛び出して行ってしまわれました。仕方なくユリウス様はわたしを呼びに来られて、マヤ様の側にいてくれと」
(ニキアスったらテンパってしまったのかしら…)
「そ、そうだったのね...」
(それはへらへら笑っていたら怒られるわね…)
と考えていると、なにやらテントの外が少し騒がしい。
(何かしら?)
わたしが少し顔をだすと、白い大きな犬がテントのちょうど入口に静かに立っていた。
「…ごめんね、びっくりさせたわね」
わたしは静かに見上げる犬の前にしゃがんで笑いかけた。
驚いたのだが、今度は親犬までもわたしの頬をペロリと舐めたのだった。
********
するとちょうどテントの外のある方向から兵等の声がする。
「ニキアス様っ!引っ張るのはお止めください!」
「それでは遅いんだ!いっそお前を抱えるぞ?」
二キアスの大きな声がして、大分ご年配の…明らかに兵士の格好とは違う、トーガを着た小柄な男性と言い合いをしているようだ。
男性の腕を引っ張るのを止めて背中におんぶする事にしたらしい。
その状態でテントの方向へ走ってくるのが見えた。
背負っている男の人は、迎えに言った医者なのか、しきりにニキアスに大声で文句を言っている。
ニキアスが後ろを振り向きながら、彼に対して何か言っていた。
わちゃわちゃの二人をテントの前で親犬と共に立って待っていると、ニキアスがこちらを振り向いた。
わたしの姿を見ると、立ち尽くす。
二キアスの手の力が緩んだ為か彼の背中に背負われた医者が、ずるっと地面に滑り落ちた。
わたしは思わず声をあげた。
「ニキアス様、危ないですわ。お医者様が落ち…」
「マヤ!!」
ニキアスが走ってきて、驚いたままのわたしを思いきり抱きしめたのだった。
******
「マヤ…マヤ…!...」
ニキアスは何度も繰り返しわたしの名前を呼んでわたしを腕の中に抱いた。
わたしはしばらくされるがままになっていたが、ニキアスの結構な腕の力で抱きしめられると
「二…ニキアス様…苦しいです」
と、思わず腕を叩いて言ってしまった。
(プロレスの技にこんなのがあった気がする...)
「す…済まない、苦しかったか」
慌てたニキウスは、身体を離した。
ニキアスの顔を見上げたわたしは、そこにいつも必ず彼がいつも付けている筈のあるものが無くて驚いてしまった。
「...二、ニキアス様…め、面布はどうされたんですか?」
ニキアスははっと気が付いたように左目を掌で隠し、わたしが明らかに分かるほど青ざめてしまった。
「…君が触った後燃えるように熱くなって思わず取ってしまってから...その後すっかりつけるのを忘れていた」
その後はわたしがいきなり意識が無くなり倒れて、度肝を抜かれたニキアスは一瞬それどころでは無くなってしまった...という事らしい。
(ニキアスにしては考えられない事なのだが、今まで面布を外していたのを忘れていたらしい)
「…もう一度見せてください」
「嫌だ…また呪い云々の言葉を俺は聞きたくない」
駄々っ子の様な口調で目線を反らすニキアスにわたしはお願いをした。
「ニキアス様...そんな事決して言いません…お願いします」
「...嫌だ」
「お願い。いいこだから...見せてください」
僅かに抵抗するニキアスの左手をゆっくり開かせていき髪をかきあげると、いつも隠している左目とその周囲の皮膚が少しずつ露わになった。
「…嫌なのに…」
「…大丈夫ですから...ね...?」
――なんとそこには。
確かに――痣はあった。
けれど、何故か青の色素が大分抜けて褐色の色に変化している。
とても以前マヤが言っていた様な青黒い『ヴェガ神の呪い』と呼んでいるような代物では無くなっていたのだった。
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